翔るは緋、“硬”るも銅 ~散弾銃で殴るんじゃない~   作:阿久間嬉嬉

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二巻目、開始です。

前章の初めや前話小話の方でも書きましたが、キンジ(硬)は白雪のことが苦手です。
一体どういう意味なのかは……本編をどうぞ。


謀略の銀氷
襲撃の武装巫女


 春の暖かな息吹が感じられる今日この頃。

 

 小鳥たちのさえずりが精神を和やかにしてくれる、この良き日。

 

 あくびをしてしまいそうな平穏が流れる、そんな日。

 

 

 

 

 

キンちゃんどいて! アリア殺せない!!

 

 武偵高校男子寮、探偵学科探偵科(インケスタ)所属、タッパが売りな遠山キンジ宅の前で。

 そんな物騒な台詞が“一見”大和撫子な黒髪少女・星伽(ほとぎ)白雪の口から飛び出して。

 

「あんた、いきなり何なのよぉ!?」

「…………」

 

 そんな彼女にシャーロック・ホームズ四世こと神崎・H・アリアと、ここの家主である遠山キンジは、正反対な温度差の反応を返していた―――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――さて。

 何故こうなったのか順を追って説明しよう。

 

 事の切っ掛けはその日の昼頃、キンジ宅に偽装カードキーで乗り込んできたアリアを彼がチョップで沈め、叩きだし、されど彼女も負けじと再突入してきたころまでさかのぼる。

 

 この時点でもう色々とおかしいが、それは置いておいていただきたい。

 

 まあ、要するにやいのやいの騒いで(一方的に)こそいたが、《武偵殺し》以前もそんな有様だったので、ここまでは云わば“ただの日常”でしかなかったのだ。

 

 

 問題はこの後。

 

 

 まずキンジの住んでいる部屋は微妙に電波の通りが悪く、時折メールが送れたりまとめてきたりする事があるのだが、キンジはそれを全く問題視しておらず……故に発端となる異常事態が起こった。

 

 それは計50件の“メール”と20件の“録音メッセージ”。

 

 無論、事件の真っただ中に居たので武藤達から心配して贈られた可能性も、この時点まではあっただろう。が、されども現実は小説より奇なり。

 なんとそれ全てが白雪1人からの連絡であったのだ。

 

 とは言えここまでなら、まだ百歩譲って心配症という程度で済んだ話。

 

 ……つまるところその内容が問題であり。

 

―――キンちゃん、同棲してるってホント!?

――ー神崎・H・アリアにたぶらかされたって聞いたけど事実なの!?

―――恐山からすぐ戻るから! 心配しなくていいから!

―――どうして返事をくれないの!? 何かあったの!!?

―――待っててキンちゃん今すぐ行く!

 

 ……こんな感じで、いったいどう経由したらそんな話になるんだと言う、突飛な文章と音声が合計70件にもなる連絡事項中に、全て別の文面で(・・・・・・・)ぎっしり詰まっていたのである。

 

 最早心配性という域をはるかに飛び越えたその所業にしかし、キンジは片目開きの片目め細めで驚いてこそいたが、それだけに留まってしまう。

 本来なら是が非でもとある人物を逃がすべき、或いは逃げるべきだったのだが、ここに来てそんな彼の普段の反応の薄さが裏目に出た。

 

『どうしたのよそんな変な顔して』

『武装巫女が来る』

『ぶ、武装……巫女?』

 

 要はそんな感じで、アリアの折角の疑問にも素に近い状態で返してしまい、逃げる事も逃がす事も出来なかったのだ。

 

 結果、彼等はそのまま部屋で待機してしまい―――数分と経たぬ内に猛牛の如き足音を立ててその人物、星伽白雪はキンジ宅の扉を文字通り斬り開いて(・・・・・)お邪魔。

 

 そして彼らの前に巫女装束、鉢金(はちがね)、刀、たすきという、正しく戦装束な格好で現れ。

 

『よ、よ、よくもキンちゃんを汚したなぁ!! このどっ……泥棒猫ぉおぉぉお!!』

 

 ―――そんな一声からアリアが呆然とし、傍にいたキンジが片手で頭を抱えて……冒頭に至るという訳だ。

 

 

「あ、アリアを殺して、私も死ぬ! 死んで詫びますー!!」

「だからなんでアタシなのよ! 人違いじゃないの!?」

 

 白雪にしてみれば一応正当でなくとも理由はあるのかもしれないが、当然アリアにはそんなことをされる心当たりなど無い。

 ……あったとしてもその当人であるキンジが気にしていないため、ぶっちゃけて言うとお門違いもいいところである。

 

 更に言えば彼女の幼馴染であるキンジもとんと心当たりがない。

 何せ恐山合宿より帰って来たと思っていたら、アリア関連の事実無根な情報と噂を頼りに難十通もメールを送られた挙句、直に突撃されているのだから。

 しかも逆上の勢いで自宅の扉を壊される始末。

 アリアですらピンポン連打が関の山だったのにこれだ……恐らく、ここで彼が白雪を訴えても普通に勝てるのではなかろうか。

 

「さっきから言いたかったんだがな星伽白雪、オレの話――」

「みぎゃぁっ!」

「――を何やってんだお前

 

 とりあえず落ち着いて貰わねば何も言えないとキンジが声を掛けようとした瞬間、どうやら背中を蹴って白雪の方へ押し出したかったらしいアリアが、彼の重さと硬さに負けて自らの脚力によりひっくり返った。

 

 無論、そんな事では気炎など消えない。

 

「何やってんだはあんたよ!? これあんたの所為でしょ、あんたが何とかしないさいよ!?」

「悪いのはアリアでしょ!? キンちゃんは悪くない、何もやってないに決まってる! アリア居なくなれぇーっ!!」

「…………」

 

 割と正当性がありそうなアリアの発言に、怒りによる暴走からか正当性をかなぐり捨てて返す白雪を、何とも言え無い瞳で見るキンジ。

 

 ……実はこのような事はキンジの周りで幾度となくあり、彼自身何がスイッチとなっているのか理解してはいないのだが、白雪は子供の頃からこんな発作を起こすのだ。

 標的になるのは大抵の場合女子であり、その子がボコボコになるまで止めそうもないぐらい―――狂ったように暴れようとするのである。

 

 当然ながら被害者は自分が襲われる理由など分からないので為されるがまま。

 あらゆる意味でどうしようもない。

 

 

 そしてアリアがコケてしまった隙をバーサーカーとなった白雪が見逃すわけもなく。

 

天誅ぅぅーーーーーッ!!!

 

 金切り声を挙げながら下駄を警戒に鳴らし、恐るべき速度で肉薄。そのままぶぅん! とアリアの脳天目掛けて、容赦なく日本刀を振り降ろして来た。

 

 手心容赦一切無し。本気で()る気のその一撃は、アリア自慢のおでこへ鋭く迫り……!

 

「とったるぅぃっ!? ……あ、あれ?」

 

 しかし横から手を伸ばして来たキンジに右手でつままれて止められ。

 

はぎゅ!!!

 

 間髪入れずに左手刀が白雪の脳天へ命中し、良い所に入ったのかそのままばたりと倒れ伏す。

 

天誅

「正しくね…」

 

 こうして訳こそ分からなくともなんとか白雪の暴走を止める事が出来たのであった。

 

 ……ちなみに先程ボコボコになる、ではなく“ボコボコになるまで止めそうもないぐらい”と言ったのは、こうやってキンジが止めているからというカラクリがあるのだが……余談であろう。

 

 

 

 ―――それから数分後。

 

 あれからアリアに武装巫女の詳細――どこでどう曲がったのかご神体を武装してお守りする神社が星伽神社であり、そんな女傑極まる一族の一人が白雪だと言う事―――を話しながら待つこと暫し。

 

「で、詳しく説明して欲しいんだが」

 

 落ち着いたのか違うのか、目が覚め一先ずバーサーカー状態“は”解けた白雪をソファに座らせ、キンジはそんな言葉を投げかけた。

 

「……キンちゃんさまっ!」

 

 だが彼女はキンジの言葉を聞くや否や正座し、次いでべたあーっと上半身を伏せてしまう。

 

「死んでお詫びします! き、キンちゃんさまが私を捨てるのなら、アリアを殺して、わたしも死んで、深くお詫びいたします!」

「…………」

 

 そんな何重にも重ねた摩訶不思議を直で連ねられ困惑するキンジは、それでも慣れてはいたからか何とか言葉を口に出した。

 

「お前は何の話をしているんだ」

「だって、だって、ハムスターもオスとメスを同じかごに入れると、自然と増えちゃうんだよぉー!!」

「オレは齧歯類じゃあない」

「…ツッコむところはそこで良いの?」

 

 凄まじく飛躍している上に意味の分からない例えを出す白雪だがキンジもキンジでズレている。頼みのアリアもここで突っ込んだら状況が悪くなる予感がしているからか、それ以上口にしない。

 

 幸いにもアリアのツッコミは聞かれなかった……のだが白雪は唐突に顔を上げ、キンジの胸倉を掴んでぶんぶんゆすり始める。

 

「アリアは絶対に遊びのつもりだよ、絶対にそう!」

「遊びではないだろ。事件解決を遊びでやる奴はいない、それが譲れない物なら尚更だ」

「あ、遊びじゃない……!? 譲れないもの……!?」

 

 割としっかりキンジ説明するのだが、どう受け取ったか驚愕したように愕然と大口を開ける白雪。

 

 そんな彼女をアリアはよく分からないと言った顔で見つめている。……それが気に障ったようで。

 

「キンちゃんと恋仲になったからって余裕のつもり!? この毒婦!!」

 

 袖に仕込んでいたらしい鎖鎌を投げ(キンジに叩き落とされ)つつ、自身が日頃見せている良妻賢母の卵と言っても過言ではないつつましやかさを、彼方へ置いて来たかのような鋭い視線ですごんだ。

 

「こ、こっ、恋仲ぁ!? 違う、断じて違う!! 恋愛なんか時間の無駄! どうでもいい! するつもりもない! 憧れたことだって、憧れなんて、憧れとかそんなものないからっ!!」

 

 大層テンパっているのか同じ事を三回も繰り返してしまい、同じ様な視線向けると互いの間でバチバチ火花を散らし始めた。

 

「じゃあアリアはキンちゃんの何なの!! 恋人じゃ無かったら何なの!?」

「仕事仲間が一番近いな」

「し、仕事、会社……オフィスらぶぅーーー!?」

「どっからそんな発想が出てくんのよ!? キンジが…言った通りよ! 今は、それ以上は無いんだから!!」

「い、今はぁ?!」

 

―――おい神崎――

 そう言いたげな攻めるような視線をちらっとだけキンジは向けた。まあこれに関しては仕方なかろう。

 

「キン、キンちゃんとこれから、これから何をっ、やるってっ……」

「だから仕事だ」

「それは言い訳! 仕事なんて事実を隠す為の、言い訳! 私だってそういう想像したことあるもん! オフィスラブだもん!! だから、だからぁ!!」

 

 どんどん熱狂していく白雪にアリアもとうとううんざりしたのか、キンジの方を向いてあんたが何とかしなさいと言うべき、息を吸い込み。

 

 

 

 

 

白雪、頼むから少しだけ黙っていて欲しい

 

 ―――そこから響くような重苦しく、どこか硬い声音がキンジの口から飛び出た事で、ふひゅ~…という言いようのない呼吸音へ変わってしまう。

 

 これだけでかなり真剣なのが伺え、本腰を入れて説得しに掛かっているのが伺えた。

 

 そしてさしもの白雪も、キンジがもしかすると怒りかけている、或いは不機嫌になりかけているかもしれないことを察したらしく、びしりと姿勢を正す。

 暴走しがちな彼女とて……理解さえしていればという前提ありきだが、彼を本気で害する事はしたくないらしい。

 

「オレの話を飛躍させてしまうほど情緒不安定でいるのなら……後日きちんと説明するから、今日は帰ってくれ。どこまで説明していいのか悪いのか、そのラインが今のオレには分からない。そしてそれは本当に仕事の話だ、男女の仲のことじゃあない」

「そ、そうなの……? で、でもどこまでって事は……」

「飛躍と自己解釈に任せるなら、今は引き返してくれ―――とオレは言ったぞ」

「…じゃ、じゃあそういうことはやってないんだね? き、キスとか……」

「ああやっていない」

 

 断言したキンジと、当たり前じゃないというアリアの表情にどうやら心底ほっとしたのか、白雪はそこで落ち着きを取り戻してくれた。

 

 その後、ちゃっかり扉の請求費を押し付けようとしてアリアに見咎められたり、白雪が払おうとして軽い悶着こそあったものの、どうにかこうにか武装巫女(猛牛)は女子寮へと帰っていく。

 

 ……と。

 

「はぁ~……」

 

 どうやら先の冷たい雰囲気は大分無理をして出していたようで、珍しくどっと疲れたような顔でキンジはソファへ座り込んだ。

 

「あんた、ああいう声出せるのね」

「おう。だが……こちらがどうあれ、あいつは幼馴染だ…威すような真似をする事が、出来れば金輪際ないといいんだが」

「まあ苦手そうよね、ああいうタイプ」

「……生中な態度で説明するとハムスターの例の如くになる。叩き伏せた間に離れてしまうか、本腰入れて説得するしかねえんだわ」

 

 以前キンジは“確り突きつけないとどうしようもない”おバカモードの理子が少し苦手だとアリアのことを調べていた際に少し明かしている。

 そうなると白雪の様な“確り突きつけても誤解しかねない”タイプを、こうも苦手に思うのは当然かもしれない。

 

 さもありなん、と言ったところだ。

 

 同時に、自分(キンジ)のことを大切に想っていると言うのが本当らしいことは、キンジ自身も理解してはいるようで……故にか邪険にする訳にもいかず。

 また罵詈雑言を飛ばしまくるなどそれこそ以ての外過ぎる上、毎回チョップで済む件ばかりでも無い事もあり、キンジもちょこっと参っている様子。

 

「恋人、恋人か……」

「ちょっ……あ、あああんたあれをほん、本気にしたんじゃないでしょうね!?」

「おいおい面白くない冗談だな」

「…………ハッキリ言われるのもムカつくわね、何か

 

 そんな事を言いながらアリアはキンジを睨む。じゃあ何故そんなことを口にしたのかと。

 

 対しキンジは斜め上を見ながらいつものような表情でつぶやいた。

 

「あいつが、星伽白雪がオレを恋人として狙っているから、周りの女を排除しに掛かっている……可能性がな」

「あんたをぉ? そりゃ戦力としては喉から手が出るほど欲しいから、そうするのも分かるわよ? でも恋人はまた違うでしょ? そもそもそうまでするのは行き過ぎじゃない?」

「オレもそう思う。だから考え過ぎだと思うんだわ―――それに第一」

 

 そこでキンジは自分には理解出来ない、し難い……そして自分でも信じられないと言いたげに額を押さえ、これまた珍しく言いよどんだ後、だが自分から言い出したのだしと確り口に出す。

 

「周り全部の女を追い立てたところで、それじゃあ消去法と同義だろう。そんなものでオレは選びたくない」

「まあ自分でつかみ取ろうとするタチのあんたじゃねぇ…」

 

 そんなわけで、現状と憶測の両方を含め、どうにも白雪が苦手らしい事をキンジはアリアに打ち明け終える。

 アリアも何処となくキンジのことが分かって来たからか、さして否定せず苦笑いで彼の意見に同意した。

 

 ともあれ。

 

 これで漸く“白雪の乱”は一応終わりを迎えたのであった。

 

 

 

 

 ―――これがいわゆる始まりなのだと、二人共に予感する事すらもなく。




・小話・

Q.ここのキンジって219.8㎝はあるんですよね? しかも割と大柄(つまり横もある)。
 そうなるとクロメーテルさんには……。

A.なれないですね、無理があります。というか女装自体不可能かなーと……。
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