翔るは緋、“硬”るも銅 ~散弾銃で殴るんじゃない~   作:阿久間嬉嬉

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束の間の日常

 “白雪の乱”から少し経ち。

 

 

 今まで決して頻繁ではなくとも、何かと甲斐甲斐しく――キンジ視点で言うなら鬱陶しく――世話を焼きたがっていた白雪は、原因不明(アリア・キンジ視点)な襲撃の日から殆ど男子寮へ寄らなくなっていた。

 

 アリアと何かあったのかもしれない可能性が彼女に後ろ暗い影響を与えているのか、それともキンジが真剣モードになったのが大なり小なりショックだったのか、それは分からない。

 だがどういう変化があったかともかくとして、顔見せは格段に少なくなっていると周囲の者も敏感に感じるぐらい、彼の部屋へ近寄らなくなったようだ。

 

 それどころか普段から小動物もかくやな臆病っぷりを見せ、キンジはおろか刀を向けたアリア相手でも周りをうろうろしては隠れる始末。

 視界の中心でちゃんと捉える事すらもう難しい。

 一部の者からは急激に変化し過ぎている彼女を心配する声も上がっている。

 

 一方、当事者足るキンジはというと気兼ねせず警戒も無く自由に動けるからなのか、どうもあまり気にしていない様子。

 ……不憫である。

 

 

 ―――そんな風景も当たり前になってきた、とある日の午後。

 

 

「となり、良いかな?」

 

 学食の中へももまんを持ち込み一心不乱にかじりついているアリアを前に、大小合わせて十数種類はあるミルクティーのボトルを飲みもせず並べているキンジ。

 

 そんな彼・彼女へと、優し気な笑顔を浮かべた二枚目の少年がクラブサンドをトレイに乗せたまま爽やかに声をかけた。

 

「おう良いぞ、あとミルクティーは要るか?」

「それじゃ一つ貰おうか」

「あっアタシもちょーだい、喉乾いたわ」

「よし。構えろ二人とも」

「投げる事前提なのおかしいでしょ! 持ってこっちに渡しなさい」

 

 キンジのマイペースな返事と申し出に頷きながら、ついでで加わるアリアとの漫才をにこにこ眺めつつゆっくり腰かけた、キンジの友人らしき彼の名前は不知火 亮(しらぬいりょう)。

 アリアと同じ強襲科(アサルト)の生徒でありランクはA。信頼性抜群のSOCOMを愛銃に持つ銃もナイフも格闘もいける万能イケメンだ。

 

 また武偵高では珍しく人格者でもある為、その顔面偏差値の高さも合わせてかなりモテるものの、しかしながら現在彼女はいないとのこと。

 

「おう投げていいから、俺にも寄越してくれ。そして事情聴取させろ、逃げたら轢いてやる」

「よっしゃ来い、凌いでやろう」

「せめて葛藤はしやがれ!? あとミルクティーは普通にくれるのな、ありがとう!」

 

 そんな不知火とは対照的にドカッ! とした豪快さと、ムッツリとした顔でキンジの隣に座ったのは、《武偵殺し》のバスジャック事件の際に裏から支えた車輌科(ロジ)の少年、武藤剛気(むとうごうき)。

 強襲科に影響されたような物騒な口癖を持つ彼は、なんと乗り物ならば誇張無く“何でも操縦できる”とんでもない特技を持つ。

 

 何だかんだ人情があり悪い男でもないのだが、ガサツなためか不知火と違いあまりモテない……らしい。銃も「メンテが楽」という理由で選んでいるためそのガサツさは筋金入りかもしれない。

 

「それで事情聴取とは何事でだ。星伽白雪のことか」

「おうよそれだ、まさに星伽さんのことだよ」

「と言うか遠山君、今でも彼女をフルネームで呼ぶんだね」

「苦手なんだわ」

「相変わらずストレート過ぎるぜお前は……」

 

 されども流石は武偵校というべきか。

 キンジの言っていたことがズバリな上に、もう色んな所まで噂場回っていると言う事を、武藤と不知火は彼へ教える。

 情報の共有速度が並大抵では無かった。

 

「まあだからこそ気になるんだ。 これまでそんな感じだったのになんもなかったはずだろ? でも星伽さん、最近に限って妙に沈んでっつうか真剣な様子だったんだぞ? 何があったんだ」

「…星伽白雪を見たのか、武藤」

「見たっつうか、正確に言うと俺じゃなくて不知火が温室で見てる。花で占なってたんだと」

「うん。オーラまで見えるぐらいの集中っぷりで、言葉通りの花占いをしていたよ」

 

 ちなみに花占いとは花びらを一枚一枚千切り、スキ・キライ・スキ・キライ…と繰り返す占いの事。なので実はとある法則があるのだが、占いは占いだし必要もないので誰も言及などしない。

 

「ああ花びらの枚数の偶数奇数でイエスかノーが決まるアレか」

 

 背丈が自慢なド級のおバカを除いては。

 

「身も蓋もねえこと言いいやがるなぁオイ…」

「あんたはちょくちょく剛速球が過ぎるのよ。もう少し夢持たせなさいよね、アホキンジ」

「ははは、表現の仕方も相変わらずなんだね。うんそれさ。まあ僕に気が付いたのと一時限目開始が迫っていたからで、慌てて出て行っちゃったんだけど」

 

 なんとも昭和的な占いだが、不知火の意見が信用に足るものと知っている事、加えて幼馴染だからこそ白雪ならやりかねない事をキンジも知ってはいる様で、特に驚きはせずうなずいている。

 

 と――そんな彼の顔に何故だか少し疑問が浮かんだのと同時、不知火が件の“ウワサ”についての詳細な説明を追加して来る。

 

「それでどうして別れちゃったの? 愛が冷めちゃった?」

 

 どう聞いても恋人か何かだと思われていること確定だろう、その内容を。

 

「うきゅっ……!!」

 

 不知火の言葉で恋愛事に不慣れな女子高生(アリア)が過剰反応し流れ弾をくらった(ももまんを詰まらせかけた)。

 

 約一名が大騒ぎしかけているのはさておき、これで武藤がムッツリとしていた理由も想像がつくだろう。白雪の事が気になる彼なら、この噂は色んな意味で面白く思えないと言える。

 正確に言うならキンジと白雪のうわさが流れている事そのものより、白雪を悲しませている方に重点が置かれていたりするため、キンジへのアタリもそう強くないのかもしれない。

 

「愛?」

「うん、愛。その愛から神崎さんとの関係継続か、星伽さんとの復縁か、そんな噂で持ち切りなんだよ」

 

 さてそんな噂の渦中にいるキンジはというと何やら無言で黙り込み、時間をたっぷりとってから……ゆっくりと重い口を開いた。

 

「不知火、如何なジョークでも流石に善し悪しと言うものがある」

 

 そして超が付くぐらい斜め上の答えを返してきた。

 アリアと武藤はずっこけかけ、不知火も笑顔こそ崩れないがこれには苦笑いとなってしまう。

 

 勿論、ジョークでは済まないのがアリアと違って詳細も知らない武藤である。

 

「ジョークって何だジョークって!? 星伽さんとの愛が何だが悪いジョークだって言うのかよ!?」

「誰が悪いと言った。元よりオレは善し悪しがあると言っただけだ」

 

 さらりと言われたその言葉に不知火の表情は少し明るくなり―――。

 

「確かにね、それじゃ良いジョークなんだ?」

「いいや」

「じゃあ何なんだよ、お前にとっては! もったいぶらずに言いやがれ!」

「恐ろしいジョークだ」

 

 ―――今度こそ全員ズッコケた。

 

「だからお前らだけでも止めてくれねえか? もう別れるだのなんだのと事実無根が広まるだけでオレの精神は右往左往…」

「どんだけだてめぇ!?」

「ある意味、あたしの事言えないわねあんた」

「それでも“嫌い”ではないのが遠山君らしいと言うか」

 

 あくまで苦手、嫌いではない。いや、なればこそ直に否定はするし、恐怖を感じると言いたげな表現をするのだろう。

 ただそれでも苦手どまり。

 そもそも嫌いならば間違いなく嫌悪感たっぷりに言うと思われる為、色々な意味で頭が痛そうに言っているキンジがそうでないのは明白であった。

 

「まあ嫌いになれる人じゃねえってのは同意だがよ、マジでどんだけ苦手なんだよ」

「多分、相性の問題でな。言葉で尽くそうにも良いと悪いが入り乱れて言語化しにくいんだわ」

 

 あっぴろ気なキンジの回答の所為なのか、彼に聞きたい事があったらしい武藤はすっかりムッツリとしたヘンな顔を元に戻し、それでも悩み事はあるのか腕を組んで唸り始める。

 

 そんな彼へは構わず今度はキンジから不知火へ、先程表情が”少し疑問に歪んだ”その理由と共に、言葉をぶつける。

 

「花占いとジョークはさておき、一応確認したいんだが。不知火、お前は温室で星伽白雪を見かけたんだよな?」

「うん。……それがどうかしたの?」

「端的に言うと時間が合わねえんだわ。なにせ今朝の予鈴の時、オレも星伽白雪にあっている。近頃のお決まりよろしく、出会った瞬間慌てて化粧室に駆け込むあいつをな」

「見間違いかよく似た別人じゃないのかな」

「オレもそう思う、あいつならまず間違いなく花占いやるからな。予鈴も優先するだろうがどっちやるかと言ったら前者だ」

「……そういうのが別れた別れてないの話のきっかけになるんだぜ、キンジ」

 

 武藤の的を射たツッコミは、二人の疑問と窓から拭いたそよ風に流されて。

 

 

 ……ここで話が止まってしまったが故か、その湧いた疑いも同時に攫って行くかのように、話題は次なるものへとシフトした。

 

「星伽さんも気になるけどアドシアードも重要だろ、お前らは何やるんだよキンジ、不知火」

 

 今武藤が口にした《アドシアード》とは、いわば武偵高におけるインターハイやオリンピックの様な国際競技会に相当する催しのこと。

 

 言うまでもないが行われる競技は勿論スポーツの類などではなく、主に銃火器を使った火薬臭い物騒なものばかりだ。

 

「僕は補欠だからね、たぶん協議には出ないかな。遠山君は?」

「イベントの手伝い(ヘルプ)。デカいんやから力仕事手伝えやって蘭豹に言われてな」

「半分ほど空白って事か。じゃあ僕も手伝いに回ろうかな……武藤君はどう?」

「あー…わ、悪い、振っておいてなんだが俺も決めてねぇ」

 

 男子三人の会話が終わり、自然、視線は残り一人のアリアへと向く。

 

「あたしも出ないわよ。拳銃射撃競技(ガンシューティング)代表は辞退したし、やるとしても閉会式のチアだけになるわね」

 

 ちなみにチアとは皆様ご想像通りのポンポンやバトンを持って連携を取り踊るあれ―――などではなく、イタリア語の《武器(アルマ)》と日本語の《型》を合せたアル=カタと呼ばれる演武を、チアリーディング風に寄せたもの。

 

 なのでバックには演奏役として男子が回るが大体地味で、メインが可愛い女の子達という以外は本家チアリーディングとはかなり異なる。

 ……のだが、武偵高の大概の者達はこれをチアと言って憚らないのだ。その大概に当て嵌まらないのが誰かは言うまでも無かろう。

 

「キンジ、あんたも手伝いなさいよ。力仕事って言っても事前準備と本戦はそこまで重ならないし、バックに回るぐらい出来るでしょ?」

「そうだな……何もやらないよりはずっとマシか。うし、OKだ」

「サボるよりはねぇ。じゃ、手伝いついでに僕も遠山君とやるよ、音楽(バック)。武藤君もどう?」

「バンドかぁ……かっこいいかもな……なら……よっしゃやったるぜ!!」

 

 ほとんど行き当たりばったりな会話の流れで決まったバンドチームはしかし、入学の時からつるんでいる三人組とあって中々に連携が取れそうな雰囲気がある。

 

 やると決めたらがっつりやる(キンジ)、ノリと勢いで得る推進力が高い(武藤)、何でもそつなくこなせてしまう(不知火)と、中々にバランスが取れているからだろうか。

 

「……しかし勿体ないなぁ神崎さん。折角代表に推薦されたのに断っちゃうなんて」

「アドシアードのメダル持ってるだけでも引く手あまたで進路はバラ色って話だしなぁ」

「なにかと有利だからね。武偵局は勿論一般武装企業だってそうさ」

「そんなこと、どうでもいいわ。あたしには今すぐやらなきゃいけないことがあるの、先のことなんて考えてられない」

「へぇ…」

「うおっ、すげえ熱意…!!」

「…………」

 

 不知火と武藤は声に込められた決意と熱におののくばかりであったが、その理由を知っているキンジは少しだけ眉をひそめていた。

 

 ―――神崎かなえの冤罪を晴らし、イ・ウーと呼ばれる犯罪者集団の面々を捕まえなければならないのだから、確かに協議に出ている暇など無いのかもしれない。

 それにキンジ本人としてもイ・ウーは当然として、理子や兄・金一のことなど逮捕し損ねたり知りそこねた事も山ほどあるのだから、決して他人事ではない。

 

 するとそんな彼の顔を見るなり、アリアは何故だかニヤリと笑った。

 

 そのままグイッと胸を反らし……てすぐ元に戻り、笑顔と入れ替わりで出た不本意そうな表情でキンジを指さす。

 

「アドシアード何かよりもキンジ、あんたの特訓が先よ」

「物理的な上から目線は諦めたか」

「次言ったら風穴。…明日から朝練するから覚悟しときなさい」

「へい」

「返事は確りしなさい!」

「へい」

「――明日の朝風穴」

 

 そんな物騒な宣言を何時も通りの薄味な表情で受け流すキンジ。

 何のために特訓するのだろうと興味津々な武藤と不知火。

 良い事を思い付いたとご満悦なアリアという、異色なメンツが集ったテーブルでの昼食は、穏やかに? 過ぎていく。

 

―――しかし自分が見た星伽白雪はいったいなんだったんだろうか――。

 

 キンジのそんな小さな疑問をそっと奥に押し込めたまま。




・小話・

Q.(前回の話から)好感度が低いのってそういう事?

A.そういう事です。
 理子と似たパターンですがまた別種と言いますか、
 「人としては好感が持てる」に該当する部分の広さや数が違うって感じですね。
 ただ慎ましやかだから躊躇っているという訳ではありません、やるときゃやります。
 また当人の気質に由来する黒雪モードこそそのままですが、
 日頃のお世話含めた頻度や深度は異なっています。

 ちなみに、
 キンジ宅に仕掛けられた盗聴器や盗撮カメラは端からぶっ壊されてたりします。
 ただし一応犯人が分からないので言及はしてない様です。
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