翔るは緋、“硬”るも銅 ~散弾銃で殴るんじゃない~   作:阿久間嬉嬉

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・小話・

今回は少し短いです。


教務科と噂と魔剣(デュランダル)

教務科への潜入(危険地帯への挑戦)】というある種無謀なチャレンジ。

 

 それを白雪一人の為に実行へこぎつけたアリアは今、匍匐前進でダクト内を進んでいる。

 一方のキンジは彼女のお手製――もとい通信科(コネクト)装備科(アムド)の連携で作らせた通信機越しに、周辺状況を“聞いて”いた。

 

 普通ならこんな状況で傍受など出来ず、出来ても中空知美咲と言う、通信科期待のエースぐらいしか聞き取る事など出来ないのだが……どうやらキンジも彼女ほどではなくとも、ギリギリ会話内容を知ることはできるらしい。

 

 ではなぜ通信科には居れなかったかと言えば、頭が悪く専門用語や伝達の簡潔化が出来なかったから、そもそも語彙がそこまで無いから内容がダメな意味で抽象的となる事、そして感性が独特で鈍すぎるからとの事。

 強襲科(アサルト)でもそうなのだが……呆れるほど、己のスペックの高さを活かせていなかった。

 

 

 閑話休題。

 

「どうだ」

『今の所は順調ね』

 

 機械を介しているとは言えまだ誰の会話も聞こえず、ファンの回る音だけがかなり遠めに聞こえるのみで、見つかっているかどうかは分からないが、アリアの言う通り特に障害は無い様子。

 

 そうして進む事、暫し。

 

……キンジ

 

 今までより小さな、聞き逃しそうなほどの声で来た、アリアからの通信。それに最初いぶかし気だったキンジも、数秒でその理由を理由を悟り、口元に手をやり同じく小声で返答する。

 

「黙っておく」

ん…ありがと

 

 そう。白雪のいる部屋に辿り着いたのだ。

 

 ここからは白雪と教員の会話内容を盗聴してから、撤退しながら或いは撤退後にキンジに伝え、対・白雪作戦(キンジは不本意)を開始するのだろう。

 

 

 ――そう思われた。

 ――そうなれば平和だった。

 

 しかし現実は小説より奇なり

 

 

『そのボディーガード役、あたしがするわ!!!』

 

 なんとまあ無謀なことか。

 ―――とある会話の直後、アリアは何と自ら通気口のカバーを打撃でぶち開け、そのまま教師と白雪が談話中の個室へ飛び降りてしまったのである。

 

 

 

 

 

 ……ではここに至るまでの流れを簡潔に説明しよう。

 

 最初は別になんてことない、普通の会話の盗聴だった。

 白雪の成績不振を尋問科(ダギュラ)教師・綴梅子(つづりうめこ)が指摘したり、それはどうでもいいと言う教師にあるまじき発言をする等と、紆余曲折あったがまだその程度であった。

 

 しかし綴教員がある一つの“変化”を持ち出してから始まった話で、微妙に流れが変わったのだ。

 

 

曰く――《魔剣(デュランダル)》にコンタクトされたのか? と――

 

 この《魔剣》とは曰く白雪の様な超能力を持つ武偵・超偵(ステルス)を狙う『誘拐魔』のことで、それについてはキンジも周知メールで認知している。

 

 無論、彼は自分に関係無いから、そしてパンピーになるからと今までは流してきていたし―――何よりその《魔剣》自体、この武偵高校やその界隈ですら云わば都市伝説的な、実在しない誘拐魔扱いされるのが殆ど。

 別件での失踪を誰かが大袈裟に繋げただけ、事件の犯人も複数居る、そんな存在自体がデマに等しい(・・・・・・・・・・)犯罪者とさえ言われているのである。

 

 無論、白雪もその切り口で反論した。仮に居たとしても、自分ではなくもっと大者の武偵を狙う筈だろうと。

 対する綴は「卑屈な自己判断で決められても説得力がないし、そもそもうちの秘蔵っ子だからこうも言ってるんだぞー?」と、こちらも断固として退かない。

 

 また話を聞く限りどうやら白雪は教務科から何度も何度もボディーガードを付けるよう催促されていたらしい事も分かる。

 続いた話の内容からして、教務課だけでなく諜報科(レザド)から齎された情報や、同じ超能力を専門とする超能力捜査研究科(S S R)からも似たような情報が来たようだ。

 

 

 一見すると教務科の過保護にも見えるその推薦は、されど今のキンジにはその内容含めて半々ぐらい「あながち考えすぎでもない」と思わせる、確かな説得力を持っていた。

 ただ諜報科はガセも多くSSRの超能力由来の進言も眉唾物で、またこの手の警告で生徒に被害が出たこともほとんどないのが現実。《魔剣》も存在そのものを危ぶまれてる様な誘拐魔なのだから、これは教務科の過保護という面もあるのだろう。

 だからこそキンジも “半々” なのかもしれない。

 

 ……ちなみにその後、白雪が声で分かるぐらいもじもじとした、且つ控えめな声音で「ボディーガードが居たら幼馴染の人の身の回りのお世話がしづらくなるから」と言い放った時、キンジは珍し傍から見ても分かるほど凄い顔をしていたとか、なんとか。

 

 もしキンジがその場にいたならまず間違いなく頭を下げてでも頼みたいんだが是非ボディーガードを雇って身を固めてくれないかと、その容赦ない言葉の為だけにアリアより先に通気口をぶち破っていただろうことが伺えよう。

 もしかするとアリアのやらかしも人が違うだけで時間の問題だったかもしれない。

 白雪もショックで気絶しかねないため、彼が入れなかったことはある種の幸運だ。

 

 

 まあそれは兎も角として。

 そこから綴教員がかなり念押しして説得、もとい脅迫した事でどうにかこうにか白雪の首を縦に振らせ、これでなんとか護衛を雇う手筈となった……直後。

 

 ここでアリアが通気口を思い切り打撃でぶち明け、ストッと降り立ち―――先の発言に至る、という訳である。

 

 そんな唐突な登場にもかかわらず綴教員の声は嫌に冷静だった。

 

『なんだぁ。この間のハイジャックカップルの片割れじゃん』

「カップルとは失礼でしょう。東京武偵高ではオレをロリコンにするのが流行っているんですか」

『あ? ……ああ通信機から声届いてんのなぁ、音拾うの方は分るけど、出す方がいやにクリアじゃん。見た感じぃそこまで行き過ぎて無さそうなのにさぁ? 改造も常識的なのになんで……』

『キンジあんた後で風穴開けるから』

 

 思わずツッコんだキンジの言葉でそんな波乱一歩手前な状況が出来るものの、続いた綴の言葉で一旦それは収束を見せる。

 

『で、こっちが神崎・H・アリア。ガバ二丁の刀二本で付いた二つ名がカドラだったっけ。欧州で大活躍したそうだが、あんたの手柄全部ロンドン武偵局がもってってんだったなぁ……協調性が無いからだぞまぬけぇ』

『間抜けじゃないわ、貴族は手柄を自慢しない! 他人が自分のものだと吹聴しようがね!!』

『へぇー損な性分だね、アタシは庶民で良かったよぉ。あ……そういや致命的な欠点があってあんたおよ』

『わーっわーっわあー!? まって違うの、浮き輪さえあればいいんだから!!』

神崎、強がる前にスイミングスクールだ

風穴祭り!!!

 

 つまり水泳が苦手らしい。なんとも綺麗な自爆である。

 あれだけ教務科を怖がっていたキンジも吹っ切れたのかアリアと何時も通りな漫才をやらかす中、続いて綴は通信機越しにキンジの情報を、思い返しながらぽつぽつ呟く。

 

『そんでそっちが遠山キンジ。性格は独特だがそれゆえに他人との距離感はそこそこ、社交性も一応ながら及第点。身体能力そのものはSランク級、視覚聴覚と言ったものも抜群に鋭い……がそれ以外の要素で打ち消されぇ、ついた仇名が《見掛け倒し》。探偵科に流れ着いてD取れるだけはあったんだろうけどなぁ』

「頑張って取りました」

『頑張って取るなよ、余裕でやれぇ。そんで武器はトカレフの模造品……クロボシでないギリギリ合法のやつ。お前の友人に武藤ってのが居るが、そいつよりも武器選びが馬鹿中の馬鹿だな』

「いいえアホです」

『どっちでもいいわまぬけぇ……』

 

 こればかりは先生相手でも譲れないのかやけに確り返すキンジ。

 間延びした口調でもはっきり分かるぐらい呆れる綴教員。

 

 ――と。

 

「……あ」

「あん? なにしとるんや遠山、こんな所でぼーっと突っ立って」

「…………」

 

 無駄話で長引いてしまった所為か、キンジはここに来て武偵高の教師に―――それも、よりにもよって強襲科の蘭豹に見つかってしまった。

 正しくはキンジが先に気付いたのだが通信機を優先して逃げ遅れた、と言うべきか。

 

 教務科と同じく三大危険区域に数えられる強襲科の教師であり、それだけでも恐ろしさを現わすには事足りる蘭豹だが……なんと彼女、かつて活躍していた香港そのものを出禁になっているという逸話を持つ。

 他にも他の武偵高を転々としたり、バスを素手で横転させたりと話題には事欠かず、先生たちの中でもひときわ恐れられている存在なのだ。

 またこの場だとキンジのデカさ(210㎝後半代)で分かり辛いのだが、《デカ女》が仇名になる程の高身長女性でもあり、見下ろされることが多くなる事も恐怖を強める一端であろう。

 

 とても、まだ二十歳に届かない未成年の教員だとは思えない。

 

 そんな彼女に発見されたとくれば、下手な言い訳をしたが最後、キンジでもただではすむまい。

 じゃあどうするか考えた折―――。

 

「戦闘が得意な先生を待っていました」

 

 普通の生徒ならいざ知らず、様々なものを試した結果投げられたキンジでは突っぱねられて終わりでしかない、そんな言葉を口にした。

 ……いっそのこと自分で自分の丈夫さを信用して投げる事にしたのだろう。悪い意味で潔過ぎである。

 

 結果は勿論。

 

「なんやなんや! そのでかい図体を活かす気になったんかいな! ええで、今はスケジュールあわんけどな、アドシアード終わったら、みっちりやったるわ! オマエ、予定開いとるよな?」

「はい。……うん?

「よっしゃ! やー、遠回りってのもしてみるもんやな! ああ、手伝い(ヘルプ)の件も忘れんなよ、じゃなー!」

「…………」

 

 まさかまさかの予想外。

 何故かものすごく嬉しそうな顔になった蘭豹は、その表情にたがわぬ上機嫌さでスキップしながら向こうへ去り、詳細すらも聴かれずに終わる。

 

 良かったのか、悪かったのか、もうそんなレベルにない。

 

 あれよと言う間に勝手に話が進んでやり過ごせた代わりにとんでもない約束をこぎつけてしまったキンジは、現実逃避するかのように今更通信機を耳に押し当てた。

 

 そして。

 

私もキンちゃんと一緒に住むー!!!

「…………」

 

 突きつけられたくない現実と共にそんな大声を聞く。

 

 かくして始まる次なる依頼、その内容は……おっかなびっくり【星伽白雪のボディーガード】。

 護衛対象は白雪、襲撃想定対象は《魔剣》。

 

 そんな何もかもが雪のようにふわふわしていて、尚且つ後に待ち受ける豹の唸りを聞きながら、 最早理解が追い付かなキンジはただただ静かに上を見上げ、感情の薄い表情を浮かべるばかりであった。

 

「パンピーロードにこぎつければいい、その為にぶん殴ればいいんだ……よし待っていろイ・ウー」

 

 ―――その矛先を彼にとっての全ての元凶へ情けない動機で向けながら。

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