翔るは緋、“硬”るも銅 ~散弾銃で殴るんじゃない~ 作:阿久間嬉嬉
Q.前話で蘭豹先生がとっても喜んでた理由って何?
色々候補があるんだけど……。
A.ご想像にお任せします。
前話の反動で今話はそこそこ長いです。
――ボディーガードを付けろと言う綴教員の言葉に白雪が頷き。
――何故かアリアが白雪のボディーガードを
――渡りに船ではあったのか綴教員がそれを彼女へ促してみれば。
――当然ながらアリア嫌いな白雪は「一緒なんて汚らわしいと」申し出を拒絶。
――しかしアリアは「キンジを爆破する」とありもしない脅しを実行。
――蘭豹と話途中でキンジが返答できなかった事から信憑性が数ナノg増して。
――綴教員は何が面白いのかそれをにやにや笑って止めもせず。
――キンジがらみだと純粋すぎる白雪はそれを普通に信じ込み、大慌て。
――しかしどうしても譲れなかったのか「キンちゃんも付けて!」と条件提示。
――様々な事情と白雪の強い要望を考慮した結果、キンジ宅に三人住まう事と相成る。
―――これが『星伽白雪のボディーガード』依頼に至った顛末である。
「…………」
そして、現在。
大柄なタンスを米俵か何かのごとく担いで運ぶキンジの顔は、これ以上ないぐらい苦そうなものとなっていた。
彼を知るものならば見抜ける程度の変化だが心の内を隠しもしていない。
とは言え普通の男子生徒ならば思わぬラッキーから歓喜に打ち震えたかもしれないし、そうでなくともこの状況自体が役得に値すると言うもの。
片や桃色のツインテールが愛らしく、八重歯がチャームポイントなちっこかわいいアグレッシブ少女。
片や艶やかな黒髪が美しくスタイルも良し、慎ましやかで奥ゆかしい大和撫子な優等生。
この状況にワクワクを憶えなければ嘘と言う物だ。
「…………」
嘘ではない奴がここに一人居はするのだが。
されどキンジは元々感性が大いに
ブルーな事をほとんど隠しもしていない。
まあ彼女らの本性、もとい凶暴性を知っていれば確かにこのようなリアクションになっても、決して不思議では無かろうが……。
「オーライ! オーライ!」
そしてそれを知らない彼の友人・武藤剛気が上機嫌で操るトラックに載せられ、次から次へと荷物がやって来る。
依頼受諾の翌日に引っ越すというハイスピードなスケジュール、それにより必然アポ無しとなった無茶な頼み……にも拘らず「星伽さんの頼みとあれば!」と快く、また惚れた弱みからか武藤はその頼みを秒でOK。
ガソリン代ぐらいは出すからという白雪の申し出も朝飯前と断って、今はキンジに続き機敏な動作で荷物を下ろし、戻って来たキンジと共に運びに掛かっている。
この一場面だけ切り取れば、とても勤労意欲のある男に見えるかもしれない。
恋は時に人を勤勉にするようだ。
……されども武藤とて武偵は武偵、そして若者。女子が男子寮にここまで大袈裟な準備をして来ると言う不自然さには、当然疑問を抱くようで。
「な、なあキンジ。なんで星伽さんが第三男子寮に来てんだよ? しかも、荷物をあんなに積んでよぉ」
「仕事で星伽白雪の護衛をする事になってな。で、本人の希望で不本意ながら場所は俺の部屋になった」
「…………」
キンジに聞き、即座に返ってきたまさかのカミングアウトに、口をあんぐりと開けて絶句する武藤。
ミニマリストで物は入れず、人付き合いはあっても人を招かない、そんなキンジの部屋でのボディーガードなのだから、まあまさか過ぎて予想もつかなかったのだろう。
「――キンジっ! お前いつか轢いてやるからな! この野郎!!」
「慰謝料の準備は大丈夫か?」
「一応の抵抗はしてくんねえかなぁ!?」
そんなやり取りをしながら荷物を運び終えた後、オレからなら受け取ってくれるか? と確認しつつガソリン代や駄賃をしっかり武藤に支払ったのち、一先ず部屋の確認にとキンジは己の部屋へ戻る。
何時もと変わらず、物らしい物などなく閑散としている玄関を通り抜け、その足で居間に出る―――するとそこではアリアが今まさに、窓に細工を施したり簡易トラップを広げてみたりと、キンジの部屋内尽くを要塞化してる真っ最中だった。
「要塞化してどうする気だ」
「何言ってるのよキンジ、こんなのボディーガード依頼の基礎中の基礎でしょ? アラームだらけにしちゃえば、
トラップ自体有用であるからか、棚上の窓に引っ付けようとして背の低さから届かずひっくり返ったアリアをしり目に、キンジはさっさとそこを通り過ぎる。
鬼である。
「おじゃっ、まし、ましまーす」
「増すな」
そしてキッチンで水を飲み、引き返したタイミングと重なる形で、玄関方面からかみかみになるほど緊張した白雪が部屋までやって来た。
白雪はキンジを見つけると深々ときっかり90度のお辞儀。
「こ、これからお世話になります、星伽白雪ですっ」
「知っているんだわ」
流れで行われた自己紹介へ安定のツッコミを返すキンジ。そんなあからさまに緊張してテンパっている彼女へ細く息を吐きだしつつ問う。
「幾度も見ているだろ、今さら何を硬くなることがあるんだ」
「キ、キンちゃんのお部屋に住むって思ったら、その、きっ、緊張しちゃって……」
「ポン刀片手に扉を斬ってお邪魔した奴がか」
「…………えーっと……ふ、ふひゅ~」
図太く、ある意味怖いもの知らずな彼に直球で言われて、下手な口笛を吹きながら視線を逸らす白雪。取り敢えずあの時の自分が何をやったのか、対外的にどう見えるか、それはしっかり分かっているらしい。
「そ、そうだキンちゃん! お世話になるんだから、お引越しついでにお掃除もするね。玄関、この間散らかしちゃったし」
結局良い返しが浮かばなかったようで、白雪は思い出したかのようにポンと手を叩き、先のことを言外に認めつつそう提案しながらに……台所へ監視カメラを仕掛けているアリアをじろり、鋭い視線で睨みつけた。
かと思いきや、キンジに振り向くときは何時も通りの、普通の笑顔に戻っており。
「ふふっ、
「実行した場合オレは依頼失敗を覚悟してでも締め出してお前と金輪際口を利かない」
「冗談なのでそれだけは止めてくださいませなのですキンちゃんさま」
依頼だからこそ投げ出すのは言語道断。
さりとて逃げる事は出来ず、元より彼に逃げる気など無い。
最早約束された自縄自縛。
それを自ら破ると宣言する程に粗大ごみ発言はよろしく無かった様子。
少し真剣みを見せたキンジへ向け、見事な五体投地を決めた彼女を見る彼の目は、どこか冷たい。
だがそれも仕方なかろう。
なにせこの白雪、証言が正しければアリアのロッカーにピアノ線のキルトラップを仕掛けたのだ、見る目も厳しくなる。
「ピアノ線を仕掛けた時点でオレは心底物申したいんだわ、それだけは憶えておいてくれ」
だからこそキンジは件のトラップを絡めてストレートに告げた。
すると―――。
「ピアノ線? それって、なんのこと?」
「…………」
意外や意外、キンジの真剣な発言を受けた白雪の態度は、まるで惚けたかのよう。
目を丸くして長いまつげをぱちくりさせている。
「すまねえ、人違いだ。依頼失敗云々も冗談で片付けでおいて欲しい、悪かった……取りあえず掃除をしよう」
「え? ……う、うん…?」
―――あの日オレと不知火が同時に見た白雪はつまり……――。
本格的にキョトンとしてしまった白雪の姿にキンジは一つの仮説を立てながら、一度軽くでも白雪に頭を下げ、促した通りに掃除を始めた。
・
・
・
・
・
約二時間後。
元々そこまでものが無かったとはいえ、ごみを出したりカーペットを布いたりを無駄なく行う白雪の腕は、予想以上の時短を齎していた。
貴族の出であまり縁がないアリアや、ミニマリストすぎて相対的に用が無いキンジと違い、白雪の家事スキルは最早MAXと言っても過言ではないレベル。
仕上げに行けば生で飾り部屋を彩る余裕すら見せる。
またキンジも、何の術理も絡まない荷物運びや物品チェックはお手の物なのか、その約二時間の間にテキパキこなして既に済ませていた。
……そして実は衣類の入ったタンスの中なども確り調べているのだが、これはキンジが几帳面だったり用心深いのではなくアリアが言った「危険物が無いかをチェックしなさい! 武偵憲章7条! 悲観論で備え楽観論で行動せよ、よ!」という言葉に渋々従っただけであったりする。
微妙に気紛れな男が渋々でも従ったのは、何もしないまま突っ立っているのが嫌だったのだろうか……。
ただ「移動中に何かを仕込まれたかもしれない、だから調べなさい」と言われたところで、移動中一緒に居たのは護衛対象の白雪と親友の武藤のみ。キンジを入れてもその三人しかいない。
ならば渋々となっても仕方なかろう。
元より武藤は白雪のことを本気で異性として空いているだけでなくどこか神聖視しているため、余程の悪戯好きでもない限り何かを仕込んだりはするまい。
キンジは論外。そもそも語る必要が無い。
となれば探る事に不本意であったのもうなずける。
ちなみに。
衣類の検品中、キンジは『普通』『勝負』と書かれた純白と透けた黒の
ともあれ掃除を終えあと休む間もなく料理をしにキッチンへ立った白雪と、まだ何か仕掛けているアリアにことわり、キンジは買い物へと出かけた。
その途中。
「なんでお前までここに居る」
「買い物ついでよ、というか居ちゃ悪いの?」
何故だか此方も外に出ていたアリアとはち合い、彼が当然と言えば当然の疑問を口にすると、アリアは
やたらと高額で特殊な用具すら買い足さねばならないとは、彼女の想定する《
されどキンジはそこではなく、ある意味底より大事なことを口にする。
「ボディーガードが両方外れるのは悪手だろ」
「それはレキに任せてるわ。アタシが頼んだの、遠隔から見張って貰ってる。とはいえアドシアードで
レキ。
一年の頃から
いつもヘッドホンを付けて何かを聞いていたり、学校の屋上でずーーーっと座り込んでいたり、何かと不思議な彼女だが腕はとても信用できる。
故に本来護衛向きじゃない狙撃手と言う事を含めて考え、アリアはレキを有用だからと依頼に招いた、もとい巻き込んだのだ。
ただ、なればこそと言うべきか。
キンジは先の手錠と言いレキと言い、何よりこの依頼そのものと言い、不可思議な所が多い一連の流れに多大な疑惑を持ったようで。
「神崎。お前が想定している犯人は取りあえず察しがついた、だが何故いきなり無料で依頼を受けようとしたんだ?」
「……」
そんなキンジの言葉に対するアリアの返答は、“ぱち、ぱちぱちち、ぱち”という、左右の目を何度かウィンクさせる奇怪なもの。
無論、これは別に遊んでいる訳ではなく、『マバタキ信号』という聞かれたら不味い内容の話を、武偵が秘密裏に行うための信号なのだ。
その内容は……。
武偵高の常識や知識を頭から逃し気味なキンジでもそれ自体はちゃんと読み取れたらしく、次いでした彼女の手招きに合わせて顔を寄せる。
「《魔剣》はね、アタシのママに冤罪を賭けている犯人の一人なの、この間の朝に話した剣の名手の可能性があるのが、まさにそいつ。十中八九イ・ウーとも関係があるわ。今回もし迎撃出来たら、上手く行けば減刑だけじゃなく高裁への差し戻し審も勝ち取れるかもしれない」
だから教務科で《魔剣》の名前が出た瞬間にダクトから豪快に降りてでもボディーガードをすると宣言したのだろう。
キンジもそれで納得が行ったらしく、少し長く目を閉じ黙考した後、アリアから離れた。
「ん?」
そんな間の悪いタイミングでキンジの携帯が鳴り、恐る恐る彼が取ってみれば、それは何てことない白雪からの電話。
彼女ならまあいいかとばかりに、彼はそのやけに小さく見えるケータイを開いて、爪を使い通話ボタンを押す。
「もしもし」
『キンちゃん、ご飯もうすぐできるから。今夜は中華だよ』
「あー……おう、分かった」
『うん、待ってるね。あ、でもお友達がいるなら、遅れても大丈夫だよ?』
「問題ない、すぐ帰る。居るのははちあった神崎だけだからな、もう用事はない」
隠す事でもないだろうと思ったか、キンジは普通にそれを打ち明けた。
が。
『……キンちゃん、アリアと一緒に居るの……?』
ある意味予想的中とばかりに白雪の機嫌が悪くなる。
「なんだ、すぐ帰るのがダメなのか?」
『そ、そっちじゃなくて、アリアと一緒に……』
「白雪。耳鼻科行くか」
『なんでそうなるの!? しかも断言!?』
けれど慣れたものなのか、キンジは何時も通りにフリーダム。
「オレの話が聞こえていないだろ、はちあったと言ったのに」
『あ、う、うん。あ……で、でもキンちゃんと一緒に行けるなら……』
「心配するな、星伽に連絡する。姉妹に会えるぞ」
『キンちゃんの意地悪……』
とにかく、何とか険悪になることは回避しアリアと一緒に帰路に就くキンジ。
―――そして夜。
満漢全席もかくやの中華料理フルコースを前にキンジが、「オレは美味しい以外言えないんだが……」と妙な切り口で唖然としていたり。
「キンちゃんの好物が分からなくてごめんね…」と高校入学前からミルクティーばかり飲んでる事が露見したり。
肝心のアリアの食事は『丼に盛ったご飯』だけで、当然ながら抗議したアリアへ文句があるなら解任すると白雪が言った瞬間、「そも発端は神崎だから解任したらオレもお前を追い出さざるを得ない」と告げて白雪がショックを受けている間に急いで食べさせたり。
……とまあ色々と悶着あったものの、どうにか夕食後の平和な時間がやって来た。
「そんなネズミが居るのね……!!」
「…………」
多少は穏やかな空気をまとう、リビングのテーブル。
TVの前でアリアが動物番組二時間スペシャルに目をキラキラさせてくぎ付けになっている、その背後でキンジがお決まりのようにミルクティーを飲む。
そんな風に思い思いの休息を取っている最中、白雪が何やらカードゲームのようなものを持ってきた事で、二人の視線がそっちへ傾く。
「ちょっといいかな、キンちゃん。これ巫女占札って言うんだけどね……これでキンちゃんを占ってあげようと思うの。将来のこと、気にしてたみたいだし」
「へえ……それじゃあ、お願いする」
占いなど眉唾物だろう、と侮ってはいけない。超能力関係の学科で優等生なだけあって、白雪が行う占いの制度はかなりのもの。
反応を見るに、武偵校に来る前のキンジも占ってもらっていたようだ。
アリアも占いには興味あるのか、見ている番組を録画するようレコーダーにセットし、ともにテーブルへ着いた。
「それでどんな将来を占いたい? 具体――」
「オレの数年後の将来を」
「――的にはうん、分かってたけどキンちゃん即決だよね、そういう時」
非常に残念そうな色を隠しもしない白雪はきっと恋愛占いでもしたかったのであろう。だが、この男の目指す所は
幼馴染故にそれを分っている彼女はすぐに表情を戻すと、カードを星型に並べて伏せ、何枚かをめくっていく。
真剣そのものな彼女の雰囲気は……どういう訳か、多少ながら険しい。しかもそれだけでなく、驚きそうになるのを堪えているかのような、曰く言い表し難い表情すら浮かべていた。
「なにこれ……阻まれてる、だけじゃなくて…」
「白雪、結果はどうなのよ?」
「どうかしたか」
「え、あ、うん……総運、幸運です。よかったねキンちゃん」
「他は? 具体的なことを」
「…黒髪の女の子と結婚します……なんちゃって」
本来ならばここでキンジのツッコミでも一つ飛ぶのだろうが、無理して作られた笑顔に違和感を覚えたか、彼は目を少し伏せて沈黙したまま。
「はい! 次、次はあたし、占って!」
結局、白雪が何を見たのかキンジが追及する前に待ちきれなくなったアリアが挙手してしまい。
「生年月日は言った方がいい? あたしはおとめ座よ」
「へー、似合わないね」
「…………………占いは」
「総運、ろくでもないです」
「ちゃんと占いなさいよ!! あんた巫女でしょ!?」
「許さないよ、わたしの占いに文句を言うだなんて……!」
「なによ、闘ろうっての!?」
おまけに白雪がてきとーにも程がある占いをしたため喧嘩が勃発。
「星伽に禁じられてるだけで私はまだ切り札を隠してるからね、アリアなんか相手にならない」
「あたしだって隠してたもん! 二枚!」
「三枚」
「四枚!!」
「十枚」
「いっぱい!!!」
「両成敗」
「あたっ!」
「はぶっ!!? 待ってキンちゃん、態となのは悪かったけどちょっと酷い……!!」
それをアリアを小突き、白雪にゲンコツし、なんとかキンジが収めた?ものの、怒りは収まらなかったのかアリアはそのまま自室に飛び込んだ。
ただ不貞腐れて閉じこもるのだけが目的ではなく、不審な電波を探知する
白雪はむくれながらもカードを片付けつつ、向き直っているキンジへ愚痴るように呟いた。
「ほんとは、悪口だから言いたくないんだけど……アリアってかわいい子だけど煩いよね。それにキンちゃんのこと、何もわかってない。男子は皆アリアのこと可愛いとか言ってるけど、私は、嫌い」
一息にそこまで言ってのけ、上目遣いで見てくる白雪に、キンジは軽く息を吐いてから話し出す。
「安心しろ。お前も充分、オレの事を分かっていない。だから無問題なんだわ」
「えぇ!? た、たしかにキンちゃんの好みとかあまり多くは知らないけど、な、何か根本的におかしい様な……」
「おかしいならそれでいいだろ」
彼はそこで一拍置き。
「それに星伽白雪、お前は神崎の事だと随分熱くなるんだな。オレの前だとキョドるし他の人の前でもかなり奥手なのに、あいつの時だけ前に出る。珍しいもんだ」
「……それは……」
「だからか誰にも区別なく従順で居続ける大半よりも、自分の意思でぶつかっていく今の方が本音にみえてな。それが原因かは分からないが、ある意味噛み合ってる様に思えたんだわ」
好き・嫌いは兎も角としてな、とそんな言葉で占めたキンジに、白雪は何処か『降参』と言った顔をした。
「キンちゃんは私の事、よく分かってるんだね……」
「そうでもねえさ。ガキの頃から一緒に居たからピンとくることがあるってだけだ」
「でも、私以上に分かってると思う」
言いながら少し柔らかな声音になった白雪は、キンジへそっとさりげなく近寄……ろうとしたがキンジが立ち上がりミルクティーを取りに言った所為で、距離と同時に一瞬間が開いてしまう。
それでも何とか話題を戻し。
「アリアは、私とキンちゃんの世界に……弾丸みたいに真っすぐ踏みこんで来た」
「…………」
「直接相対したのは一瞬だけど、私の全力を受けても困惑するだけで、退きはしなかった。だからキンちゃんの言う通り一面では凄い子だって、そう思ってるよ。全面的に嫌いなのは、そうなんだけど」
――どうも白雪は見かけ以上に思いの他複雑な心境でいた様子。
「でも、だからこそ盗られたくないの。あの子だけには……」
「あった事もない世界を主軸に、誰のものでもない奴を取る盗らないと言われてもな。そもオレは武偵高を去る、幼馴染のお前と違って接点は事件以降無くなるだろ」
「……! ……うん」
特別なモノなど何もなく、単に思ったままを言っただけだろうキンジの言葉はしかし、今の白雪にとってこれ以上なく心を震わせる魔法の呪文に等しい。
言葉をかみしめるようにうっとりとしながら過去の思い出を語り出した。
「キンちゃんは、私が星伽神社を出たことが無かったころから、ずっと知ってくれてるもん。それが幸せなの、だから全部憶えてるよ……」
「5歳ぐらいの時か」
実はキンジは兄・金一の仕事の都合で、昔星伽神社のある青森に住んでいたことがあるのだ。
当時からデカかったキンジは人見知りな白雪から当然の如く怯えられ、漸く仲良くなった頃には他の大半の子と打ち解けていたほど、間を詰めるのに時間がかかったと言う。
「一緒に花火を見に行ったの、憶えてる? 嬉しかったなぁ……あの時のキンちゃん、何時もと全く変わらない調子のまま、町の花火大会を見に行こうって神社から連れ出してくれたの。あれが、初めての外出だった」
「よく記憶している、なにより土蔵をぶっ壊したからな」
「……ははは…そんな事もあったね。でもあれからもキンちゃんは遊びに来てくれた」
「暇だったからな」
“初めて”と言っている事からも分かる様に、その頃の白雪は『神社から出てはいけない』と言われていて、それを忠実に守っていた。
されどそれはキンジが想像していたのだろう約束以上にかなり重いものであり、花火大会後キンジはこっぴどく怒られ、白雪は暫く土蔵から出して貰えない
それをキンジが遊ぼうぜとぶっ壊したため、逆にキンジが閉じ込められてしまい……それも普通に脱出してきたのだが、故に記憶には残っているのかもしれない。
「かごめかごめ、キンちゃん一番弱かったよねぇ。おっきすぎるから影もできるし、声も同年代の子より低かったし」
「ああ……」
そしてキンジの記憶にはもう一つ、鮮明に刻まれているものがある。
それは『かごのなかのとり』――その言葉を、金一が何処か白雪と姉妹たち憐れむように口にしていた事。
神社から出れないと言う境遇に鑑みればその言葉はよく似あうが、裏を返すと『かごのとり』でいなければいけない、理由があると言う事だろう。
もしや綴教員の言っていた『秘蔵っ子』とは言葉以上の意味があるのだろうか?
また一つ謎を残しながら、奇妙な共同生活最初の一日が過ぎていくのであった。