翔るは緋、“硬”るも銅 ~散弾銃で殴るんじゃない~   作:阿久間嬉嬉

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一難去ってもいやしない

 キンジ&謎の女子対UZIの戦いからわずか数分後。

 

 あれだけの銃撃戦や大爆発があったにもかかわらず、本年度も校長の挨拶含めた始業式はつつがなく終わり、皆ぞろぞろと自分の教室へ向かっていた。

 

 基本、武偵高校は物騒で異質な学校ではあるものの、それでも始業式や終業式などは通常高の如くきちんと行われており、ここだけ見れば普通の学校と変わらない。

 ……そこに先の事件すら受け流してしまうほど爆音や銃声に耐性が出来てしまっている、という事を除けば。

 

 キンジか少女の手で事件の詳細は教師たち―――教務科(マスターズ)にメールで届けられている為、ひとまず収束はしているのだが、ここまで気にしないのはやはり異様でもあった。

 

 

 

 さて……そんな集団の中へ柱の陰からしれっと加わろうとする、大柄な生徒の影が一つある。どうも始業式をフケてしまったらしく、それでも察せられるのは御免だと、最初からいたかのように装いつつある紛れ込もうとしている様子。

 

「間に合ったな」

 

 前言撤回。

 しれっとどころか堂々と遅刻宣言をし、装う気もなくずいずい割り込もうとしている。そしてその人こそ先程UZI集団に襲われた張本人・遠山キンジであった。

 

 そもそもの話、彼は身長が低く見積もって210㎝代ある彼がそっと動いても絶対にバレるだろう。それに気が付いているのかいないのはかは不明であるが……。

 

 周りの生徒たちはと言うと、少なくとも関わり合いになりたくはないのかそっと道を開けて……否逃げている。

 不憫である。

 されどもそんな中、190㎝近くはあるだろうツンツン頭の男子生徒は、やベえやベえと顔に出るほど慌てながらも苦笑いで話しかけ始めた。

 

「遅かったじゃねえかよキンジ? 何やってた」

「ああ巻き込まれた」

「いやその内容を言えよ、内容をよ…」

 

 ツンツン頭の彼・武藤剛気のお陰で初っ端の空気は打ち消されたのか、それとなくキンジも集団に溶け込め始めている。

 

 ―――ちなみにこの武藤こそ白雪のことを大和撫子と称し、白雪のことで大喧嘩した、彼の親友に他ならない。今も恋心を抱いているらしく、告白のチャンスを狙っているとかなんとか。

 

 

 閑話休題。

 

 

 とは言え、いくら武藤が受け入れようとも引率の教師はどうだろう? 咎めやしないだろうか?

 そう思われたが、引率の教師は見当たらない。生徒のみで自主的に列を作って歩いていたらしい。ここでもキンジは命拾いをしていたようだ。

 

 

 かくして始まるホームルーム。

 

 入ってきた担任はおっとりした雰囲気の女性・高天原ゆとり。

 武偵高校などという、物騒且つ血の気が多い野蛮な雰囲気には似合わない、ニコニコ笑顔が印象的な女性教師だった。

 

 そんな高天原教員の口から飛び出したのはあいさつ、ではなく。

 

「最初に一つお知らせします。なんと、今日このクラスに転入生がやって来きますよー」

 

 ゆとり教諭の口から放たれたビッグニュースで、ざわつきは一気に教室中へ広がっていく。曰く「カワイイ子」で去年三学期から転入してきたとの事。

 

 カワイイ事は誰か、どんな奴がやって来るのか、そんな興味から来る喧騒が室内全てを満たしたのと、奇しくも同時に高天原教員は件の転入生を教室へと招いた。

 

 その転入生にクラスのざわつきがよりいっそう大きくなり、頬杖をついてぼーっとしていたキンジの目も僅かに見開かれる。

 

 なぜならば。

 

「彼女が今日からこのクラスに転入する神崎・H・アリアさんよ」

 

 それは今朝同じ事件に巻き込まれた……もとい自ら首を突っ込んで来て、キンジと夫婦まんざいを繰り広げたツインテールの少女であったからだ。

 

 次いで強襲科Sランクだから知っている人もそこそこ居るんじゃないかしら? と口にした通り、キンジ以外のものは皆大なり小なり少女・アリアを知っているらしく、空気も少々浮足立った雰囲気に変わってすらいる。

 

 だがアリア本人はそんな空気など知らぬとばかりに真っすぐとある地点を指さし、全クラスメイトの前でおくびも出さずこう言ってみせた。

 

「先生、あたしはアイツの隣に座りたい」

 

 広がる、刹那の静寂。上書きする、より大きな騒めき。そっと席譲る(超いい笑顔の)、ツンツン頭。……それら尽くを完全無視して、アリアはキンジの隣へ当たり前の如く座ろうと歩む。

 

(今朝のことでなんかあったのか? 変な事はしちゃあいなかったはずだ。…ン…恐らく)

 

 変な事しかしていない男が、しかも自身ですら自信が持てないのに、内心で何を宣おうと勿論届くはずはない。

 アリアの歩みもまた止まらない。

 

 これで横に片や210㎝以上は余裕である男子生徒キンジ、片や140㎝少ししか背がない女子生徒アリア―――もはやその差は巨人と小人。

 そんな二人が一堂に会する、珍妙奇妙な光景が教室の一角に爆誕するだろう。

 

 これだけでもうこれからの話題には事欠かないが、なんという無謀か、そこへ更なる爆弾を投下する者が現れる。

 

「理子わかった、わかっちゃった……! これフラグだよ! フラグがバッキバキに立っちゃってるよぉっ!!」

 

 ふわふわとした金髪と、原型が見えないほど改造したフリルたっぷりの制服を揺らしている彼女の名は、峰理子。

 現在のキンジと同じ探偵学科の探偵科(インケスタ)に所属している生徒であり、ゲーム大好きなハイテンションガールだ。

 

 そんな彼女は見掛けに寄らず情報収集力に長けており、多数の生徒から頼られる頼もしい存在である反面、こうやって悪ノリからのバカ騒ぎをする事も割と頻繁にあり、今回はそちらで彼女の目を引いてしまった様子。

 

「今朝キーくんは始業式に居なかった! さらに最初も最初で強襲科を止めさせられたキーくんが、そこでの繋がりを持っている筈がない! なのに転入生はキーくんの隣に座りたがった…つまり!!」

『つ、つまり……?』

「始業式のわずかな間に! キーくんと転入生は濃密で強固な恋愛フラグを! 互いにたてちゃっていたのだよ!!」

『な、なんだってぇーーーっ!!?』

「なんだって…」

「なんでお前が驚いてんだよ!? お前だよ!!」

 

 そして披露されるは何ともおバカで気の抜ける推理。

 クラスのみんなもハチャメチャにノリが良く、また恋愛話とあってか男女ともに大盛り上がりし始める。

 この大騒ぎの発生源たる理子に至っては頭の横に両手を添えて、なにやらぴょんぴょんダンスを踊り、騒ぎを加速させていく始末。

 

 肝心の“キーくん”ことキンジは大して声を荒げる事ですらないとでも思っているのか、広まり行く奇天烈なこの誤解を止めようとしない。

 武藤は騒ぎへ喜んで加わっているし、高天原教員に至ってはただ困ったように笑むだけだ。

 

 上昇し続ける止めようのないお祭り騒ぎ。

 このまま隣の教室から誰かが怒鳴り込んで来るまで盛り上がり続けるか……と思われた、まさにその時。

 

 

バァン!!

 

 

 ―――と高らかな銃声が突如として鳴り響き、お祭りを強制的に停止させ、黙った皆が一斉に発生源へ目線を向ける。

 

 そこに居たのは真っ赤になってプルプルと震え、二丁のコルト・ガバメントから硝煙をあげさせる……転入生のアリア。

 そう言えば彼女はこの祭りが始まって以降全く気配がなかったのだが、どうやら呆れて静観していたわけではなく、予想外の事態に呆然としていたらしい。

 

 突然すぎる発砲に皆は次の言葉を紡げずにおり、理子もダンスをピタッとやめたかと思えばぴょこぴょこした足取りでストンと椅子に座る。

 

 隣のキンジは……どういう感情なのか片目が半分細められており、跳ね返って転がって来た銃弾を一つ、つまんでぶらぶらさせている。

 

 唯一ゆとり教諭だけが先と変わらない困った笑顔を浮かべていた。

 

「れ、れっ、恋愛だなんて…くだらない!! くっだらないわ!!!」

 

 ここでやっと衝動が多少治まったらしい元凶のアリアが、肩で息をしつつまた激昂。

 

 肩で息をしながらに、怒鳴り声と共に彼女の口から飛び出したのは、二度繰り返される否定の言葉。相当頭にキているのか眉は限界までつり上がっており、掲げたままのガバメントの銃口を降ろす気配も感じられない。

 

「クラスの全員憶えておきなさい! そういうバカなことを言うヤツには……っ」

 

 まだまだ収まらぬとばかりに飛び出した怒りのまま、アリアは銃口を誰にともなく突きつけて。

 

「――風穴開けるわよ!!」

 

 いかにも武偵らしく強襲科らしい、脅しの文句を吐き出すのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――同日夕刻、男子寮―――。

 

 

 始業式終わり早々銃声が鳴り響くという非日常が嘘のような静寂の中。

 

(あの女子一体何だったのか。いやそも今朝もいたがインターンじゃなかったんだな)

 

 授業もそこそこに終わりアリアからの追跡をなんとか交わしたキンジは、いやに私物の少ない自室で何をするでもなく、そんな事を考えていた。

 

 己の隣に座りたがった理由は十中八九“今朝の事件”絡みだと、流石のキンジも察してはいる。だがしかしそれなら態々クラスに越してくる必要など無い。

 学園内ならば何時でも話す事は出来るのだし、Sランクという破格の実力を持つアリア程の生徒ならば自由時間の融通だって多少利く筈だろう。

 

 またキンジが彼女の前で見せたのはペットボトルのミルクティーを逆さにして、びちゃびちゃにした手を振り抜き、セグウェイごとUZIを破壊せしめたこと。

 ペットボトルをぶん投げて爆散させたことのみ。

 

 無論それだけでも多大な興味を持って尚お釣りがくるほどの所業だろうが、キンジ自身の今までの成績に鑑みた場合、どう足掻いてもここまで執着などしない。

 ……と、少なくともキンジはそう思っている様子。

 

“ピンポーン”

(不確定要素に頼るほど、地に足付いてねえ奴じゃあなかろうし)

 

 そもそもである。

 事件の最中にも彼自身が口にしていたが、キンジは今年で武偵高校を自主退学してしまうのだ。

 

 何があって辞めるのか定かではないものの、アリアが興味を持った所でもう意味が無いという事は確実と言える。

 なればこそ実質無駄骨に終わることを、事件の渦中に居て直接聞いている彼女が勘付かない等ありえない。……頭に血が上り易いタチではあるようだが、それとこれとは話が別であろう。

 

“ピンポッポーンピンポーン”

 

(調べれば探偵科Dランク止まりなのは分かる、武偵を止めるには充分な理由だと誰も思うだろ。偽ってもいねえのだしな)

 

 加えて言うなら……否、これは当然と言うべきか。過去をどれだけ洗ったところで低ランク武偵という評価は覆り様が無いと言うことを、他ならぬキンジ自身がよーく知っている。

 

 刃を振れば柄だけ砕けたりすっぽ抜け、銃を撃てば反動に負けぬのに全弾反れて、体術はまだマシなものの少しでも型にハメた瞬間ぶん投げられてTHE・END。

 

 強襲科でなかろうと専門的な学科などとても受けられたものではなく、比較的無難な探偵科に流れたのも彼自身が選んだと言うより、収まる先がもうそこしか無かったから。

 

 もう隠しようがないぐらい、そしてお前はどうして東京武偵高校なんて選んだのだとそう言われても仕方がないほどに、通常教科と座学以外はビリッケツなのだ。

 

“ピピピンポンピンポンピンポピンピンポーン”

 

(それにオレは何も継いじゃあいないんだわ)

“ピピピピポピポピンピピポピポピンポピンポーン”

(いやこれは先走り過ぎか? 持って無い使えないで終わっているのにそれを知っている訳が無いしな)

“ピンポピンポーンピピピンポーンピンポーン”

(それに…)

“ピピピピピピピピピピンポピピピピンポピンポーピピピンポーン”

(…さっきからダレだよ、連打しているのは)

 

 ――ここで誰しも気付くだろうが、先程から何者かがひっきりなしにチャイムが鳴らし続けている。

 

 それに対し心底どうでもよさげな顔で振り向くキンジも大概だが、まだ陽が出ていようと近所迷惑にはなろうこの行為(連打)を続けるなど、心臓に毛が生えている豪傑でも中々やるまい。

 

 そんな、双方おかしな者同士ゆえに成立するやかましいBGMの中、キンジはしばし考えて

 

(別室の皆が苛立っても困るな、一般は周囲に気を使うべしだ)

 

 最終的にそう結論を出すと立ち上がって玄関へ向かった。……地味に『自分一人ならどうでもいい』と言外に告げているこいつの精神は、一体どこまで太いのだろうか。

 

 とは言え来客は来客だからと、キンジは静かに扉を開けつつ出迎えの言葉を口にする。

 

「どちら様で」

遅いっ!!!

 

 彼なりに丁寧を心がけようとしたのだろう言葉はしかし、唐突なカウンターの怒鳴り声が飛んできたことで、虚しくもはたき落とされてしまう。

 

 そんな声の主は、なんと先までキンジの思考の中心にいた人物……強襲科Sランクの神崎・H・アリアだ。

 

「チャイムを鳴らしたらこれからは三秒で出ること! いいわね!?」

「良くないな」

 

 彼女はキンジが招くか止めるかする前に、トランクを引きつつずけずけ上がるなり、そんな理不尽を当然かの様に突きつける。

 

 そしてキンジの抗議? を聞かぬまま大股歩きの勢いそのままにソファーをボフンと座り込み、びしりとキンジを指さした。

 

「エスプレッソ・ルンゴ・ドッピオ! 砂糖はカンナ! 一分以内!!」

「せめて60秒は待ってくれ」

「一分以内と言っ……それ同じじゃない!?」

 

 辛うじてコーヒーをオーダーしている事だけはキンジも理解できたようだが、生憎とここはしがない武偵の男子寮。

 加えてミニマリストよろしくほとんど私物を置いていないキンジ宅でそんなオーダーをこなせるはずもない。

 

 結果出て来たのは常備していたインスタントコーヒー、砂糖も市販の上白糖。無難を重ねた庶民的一品。

 飲んだアリアの感想は果たして。

 

「ん……なんか変な味。ギリシャコーヒーに似てる…?」

「案外ギリシャコーヒーかもしれないぞ」

「んなわけないでしょ、出したあんた自身がよく分かってなさげな癖に」

 

 どうやらお気には召さなかったらしいが、それでもややこしい事態になるのは回避できた様子。地味に要らない知識を得てついでにおかしなことを口走るキンジは……ほっとしているのか違うのか、表情が少しも和らがない。

 

 そして今一番気になっていることを、ド直球にアリアへぶつける。

 

「で…お前はここへ何をしに来た神崎」

「何? あんた武偵なのにまだ分かって無かったの?」

 

―――むしろ分かっている前提でここまで来ていた事に驚きなんだわ――

 

 内心響く、虚しいツッコミ。

 キンジの顔へ分かり難くく小さなしわが刻まれるぐらい、アリアの言葉は期待が過ぎていた。それと同時にまだ自分の事を調べ終えていない事に気付いたか、何を穿って見ているとばかりに辟易し始める。

 

 態度にはほんの少しも出ていないのだが、それで解決するならこんな事になっていなかろう。

 

 そして……事態はより一層悪化する。

 

「まあいいわ、直接言ったげる」

 

 アリアが放った次の一言。

 

「あんた、あたしのドレイになりなさい!!」

 

 その破天荒すぎる命令によって。

 

(本当に何を言っている…ヒステリアモード(H S S)を持たないオレなんぞに)

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