翔るは緋、“硬”るも銅 ~散弾銃で殴るんじゃない~   作:阿久間嬉嬉

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・小話・

Q.5歳で土蔵壊すとかキンジの謎の方が増えてません?

A.まあ、はい……。


惑わされゆく籠の鳥

 

 星伽白雪の護衛依頼受注から幾許か経った、ある日。

 キンジは白雪のボディーガードとして、アドシアード順位委員会の末席に座し、生徒会長としてブレインストーミングを指揮し、案をまとめている彼女を傍目ぼんやりと眺めていた。

 

 あれからアリアは《魔剣(デュランダル)》関係の情報収集にいそしみあちこち駆けまわっているので、こういった直接の護衛はもっぱらキンジの役目となっている。

 

 無論護衛対象(しらゆき)たっての希望というのもあるのだが、キンジの苦言を受けて尚やはり相性はどうにもならず。

 昼ドラの嫁姑を連想させるアリアと白雪の関係は改善せずにおり。

 それ以外にも、深夜でも少しの物音ではね起きて二丁拳銃を構え、影も形も見えない相手に緊張し続けているような生活を送っているアリアが、少しイラついているから……というのもあるのだ。

 

 尤も朝練自体(白刃取り)は普通に行われるどころか奇襲からの不意打ち気味になったので、別に安心できるわけでもない。

 

 とまあ、キンジの安寧が脅かされている事はさておき……下手に双方を刺激して内輪もめを起こすより、無難な人を選んだ方が良いのは自明の理である。

 何よりやたらと頑丈で守るには最適なキンジが選ばれるのはある種、必然とも言えた。

 

「星伽先輩、やっぱり閉会式のアル=カタには出ていただけないんですか?」

「枠も一つちゃんと開けてありますわ、何時でも登録できます」

「何より星伽先輩は美人ですから、報道陣や来客の印象もアップするでしょうし…」

「アル=カタのイメージアップって目的にも沿うと思うんだけどなー」

「振付を考えたのも会長ですよね? ならいけますよ、絶対!」

「……いいえ、私は前述の通り、裏方で貢献させて欲しいんです」

 

 もう既に議題も準備の説明もあらかた終わってしまい、会話の内容も雑談のそれとなってきてている準備委員会の面々は、どういう訳か全員女子。

 

 というのも彼女達の殆どは生徒会役員であり、また校則で役員には女子以外付けないこととなっているので、結果このような光景が作り出されているのである。

 何故女子以外ダメなのか態々校則で決まっているのかと言えば、男子役員達が部費の取り合いで凄まじい大喧嘩(銃の撃ち合い)をしたから、という武偵高校らしくもバカバカしい顛末の所為であったりする……まあ余談だろう。

 

 だが女子だらけな空間だからこそ、210㎝後半で強面なキンジが目立つこと目立つこと。

 それでも議会はつつがなく終わったあたりは流石武偵高というべきか。

 

「―――今日はもう時間ですし、これで今回の議会は終わりたいと思います。お疲れさまでした」

 

 アドシアードのアル=カタ(チア)を頑なに拒否しつつ、白雪は良く通る綺麗な声でそう宣言。ついでキンジも立ち上がり、のっそりと彼女の近くへ歩み寄る。

 

 他の委員の女子たちはと言うと、お開きとなってから少し経つ間に、台場に行こうと言う話、ある店が改装したから見に行きたいし夏物も欲しいと言う話、限定スイーツが出たから食べたいけど色気より食い気はモテない武偵娘(ブッキー)の典型だと言う話など、放課後どうしようかという雑談を始めていた。

 

 彼女らを見るキンジの目には『モテないのは拳銃を持ってるからじゃあねえか?』と言いたげな色が浮かんでいたが、退屈さと帰宅欲が勝ったのか珍しく口に出さないでいる。

 あるいは互いを知らない仲だからこそ口にしなかった可能性もある。が、その真実は彼のみぞ知る……。

 

 と。

 

「そうだ、星伽先輩もどうですか? 私服とか見に行きません?」

「えっ……」

 

 まさか自分に振られるとは思っていなかったらしい白雪は、一年生の誘いを受けて眉をハの字にしながら呆然と停止。

 だが手元にあった救いの一手を持ち上げて、困ったように笑んだ。

 

「私はこれから、S研の課題とアドシアードのしおり作成があるから……ごめんなさい」

 

 半分は本心、半分は何処か『阻まれている』ような空気を漂わせ、白雪は頭を下げて誘いをやんわり断った。

 

「ほんとに勉強熱心……!」

「疲れを知らないんですね……超人だわ……!」

 

 それを見る他の女子生徒の目線は尊敬に満ちており、イヤミなど何もない。

 だが同時にどこか一歩下がっている様にも見え、かつての夜に白雪が語った『全力を受けると相手が引いてしまう』事をこの時点で裏付けており……またキンジが語った『誰にも区別なく従順で居続ける』様がそれとなく、両者の心に線を引いてしまっている事をこの上なく現わしていた。

 

 

 

 

 ――委員会をやっているクラブハウスと男子寮は近く、故に夕焼けの道を並んで歩くキンジと白雪。

 沈黙が支配するオレンジの中、先に話を切り出したのは意外にも白雪の方からだった。

 

「キンちゃんが見てたから、今日、き、緊張したんだけど……どうだった?」

「真面目に委員長をやれていたと思う。皆の頼れるリーダーだった」

「え、えへへ……キンちゃんに、褒められちゃった、ほめられ―――あうっ!?

 

 キンジの素直な言葉に顔を夕焼けよりも赤くした白雪は顔を伏せ、前を見ずに歩いてしまった所為で電柱に激突。

 思い切りひっくり返ってしまう。

 そんな彼女が立ち上がるまでじーっと待ってから、キンジは再び歩き出した。

 

 ……せめて起こせと言うものである。

 

 そしてそこで会話が止まったからか今度はキンジから話を切り出す。

 

「アル=カタに出ないのは裏方仕事の為と言っていたな。だがそれはオレが受けられるし他にもやれる奴はいる、それに枠も開いているなら出れば良いと思うんだが」

「チアは、もっと明るくて……かわいい子じゃないと、ダメだよ。私みたいな地味な子が出たら、武偵高校のイメージも」

「武偵高のイメージの悪さに地味か派手かは関係無い。それともお前はオレの部屋の扉を切り開いたあの時を出せばイメージアップすると思うのか? 星伽白雪」

「…………うん、しないね。間違いなく悪化すると思う、流石に私も断言しちゃうかな……」

 

 割とがっつり突きつけられて何とも言えない表情を浮かべる白雪。

 けれどもそれとこれとは別なようで。

 

「でも、出れないよ。どっちみち」

「《魔剣》なら実在しないと言われている。それに居たとしても神崎の弁を信じるなら剣士、そこまで精密な狙撃が出来るかも疑問だ」

「それは、分かってる、《魔剣》なんかいない……でも怒られちゃうの」

「星伽にか」

「………うん」

 

 先日、『籠の中の鳥』と揶揄される境遇を星伽神社で強いられていた旨を白雪は語っている。それはキンジが少し連れ出しただけでも土蔵に閉じ込められかねない程、重い物だと言う事も分かっている。

 

 もっと言えばキンジ自身彼女の愚痴に近い形で聞いているのだが、なんでも星伽神社は格式を非常に重んじる為なのか白雪が東京に出る際、かなりの量の制約を付けているのだ。

 

 それでも武偵高内ならば大丈夫じゃないか? と言いたげなキンジの視線を感じ取り、白雪は少し頑なな色を含んだ声で返した。

 

「私は、余り大勢の人の前に出ちゃダメなの」

 

 理由すらない事からしてつまり『何が何でもダメ』なのだろう。また言外に『台場に行かなかった理由』も告げている。

 彼女自身が勤勉であるのは事実であれど、星伽の制約もその件に関わっていたのだ。

 

 その事へまだ何か言いたげなキンジを制すかのように、白雪は星伽の話を続ける。

 

「義務教育や、頼神社に御用がある時は別だけど、私は神社と学校からは出ちゃいけない……ううん、本来はこうやって東京に来ることすら凄く、すっごく反対されたんだよ。―――星伽の巫女は守護り巫女。生まれてから逝くまで身も心も、星伽を放るるべからず……だから」

「だが今は出てきている、チクる奴もオレ以外いないし彼女達だって守ってくれる側の筈だ。晩は適当に済ませるから見に行ってくれば良い」

 

 彼からしてみれば本当に分からないから、そしてやっぱり苦手だからアリアもいない今一人で静かにしたいと言う、自分本位な主観に準じたものでしかない。

 ただ同時にかつての花火大会の様な、『籠の鳥のままでいいのか』という考えも少しはあるらしく、彼の声音はどこか真剣。

 

 が、三度白雪は首を横に振った。

 

「いいの……したい事は、したいよ? 買い食いとかオシャレとか……でも外はやっぱり怖いよ…女巫(めかんなぎ)校から出たこともなかったし……」

「そこいらの誘拐犯なんぞ目でもないぐらいお前のが強い」

「え? あ……ははは、ううん違うの、戦闘力の話じゃないの」

 

 キンジなりに励まそうとしたか、もしくは誤魔化して有耶無耶にしようとしたのだろう言葉はされど、白雪を一瞬ばかり慌てさせたのみ。

 切り替えさせることも叶わない。

 

「一言で言うと、こう……自信が無いの、それに流行も何も分からないし、理解し合えない……」

「…………」

「けどいいの、私にはキンちゃんがいる。昔の通り接してくれて、理解してくれる人が居るから、良いの」

 

―――社を離れた都に居ても、依然雪鳥は籠の中――。

―――手を伸ばした、最初の一人を見つめるだけ――。

 アリアの現状とはまるで対照的な、緩やかな日常の中キンジが知ったのは、たったそれだけで。

 

 今日もまた代わり映えの無い、物騒な学校での一日が過ぎていくのであった。

 

 

 

 

 ……否。この日に限っては、それで終わらなかった。

 

 

 

 

 その転換となった時刻は、夜10時。場所はキンジ宅のバスルーム。

 男一人と女二人で暮らしている都合上どうしてもキンジの利用は遅くなりがちであり、されど逆に言うと誰にも急かされない、貴重な自由時間でもある。

 

 ただし今日はアリアが諜報科(レザド)に向かっていったっきり帰って来てないので、おいそれと油断する事も出来ないのだが……しかし。

 

「………」

 

 キンジはバスタオルで拭き終わるのを待たずに服に手を付けようとしていた。まるでいつになるかも分からないアリアの帰宅を恐れているかのように。

 続けてあたかもその謎行動を予期したかの如く、ぱたぱたと慌てた足音まで聞こえてくる。

 

 並みならぬ足取りだと察したキンジは――何故か少しだけ、眼を鋭くしたかと思うとタオルを再び掴む。

 

キンちゃんどうしたの!?

 

 同時にカーテンがシャーッといきなり全開になった。

 

 そこに居るのは……巫女装束に身を包み、刀を手にして血相を変えた、戦闘モードの白雪。そんな彼女が、アリア襲撃の時とも違う剣呑な瞳で飛び込んできたのだ。

 

 「どうしたの!?」とは言っているもの当然ながらキンジは彼女のことなど呼んでいない。それ所か無言で湿ったまま服を着ようとする奇行までしていた。

 

 完全に予想外だろうそんな突撃に、キンジは若干慌てたような手つきでタオルを左肩にかけ、努めて冷静に声をかける。

 

「どうもしてねえんだわ」

だ、だってキンちゃんが電話で呼んで……!!

「シャワーを浴びながら通話する趣味は持っていない」

でっでも非通知だったけど、『バスルームにいる!』ってキンちゃんの声で、声で!!!

「幻聴だろ」

 

 テンションの温度差が凄まじいそんな会話を交わす内、ふと気づいた白雪の目線がキンジの顔から下の方へと吸い寄せられていく。

 

 更に下がっていく視線の向きとは逆に、蒼白から赤面へと下から上へかぁーっと変わる。

 

 そしてひゅうっと大きく息を吸い込むと。

 

ごめんなさいっ!!!

 

 一切の溜めなく高々跳びあがる珍妙なジャンプから空中で正座の体勢になると言う、摩訶不思議な隠し芸を披露しながら着地。そのまま土下座と謝罪へ以降した。

 

「ごごごめごめごごめごめんなさいなさい! キンちゃお風呂だから! 期待してたのほんとです嘘じゃないです想像してました! 鬼道術も手につきませんでした!! 全く!!」

「知らんがな」

「でも想像のお陰であっぷあっぷのぷいで、ふいふいでお許し……どうかお許しいおぉ!! 白雪は良くない子です、悪い子なんです、ななな何重にも猫をかぶってるいけない悪いこでぇ!」

「知っているんだわ」

「ああみのふし、ふしぎ、みのぉふすぃぎが……!」

 

―――何と言うかもう構いたくないんだわ――。

 そう判断したのかキンジは白雪をスルーして服を掴むと、リビングで着替える気なのかさっさと横を通り過ぎようとした。

 

 が、しかし、少しでも近づいてしまうことじたいが今の白雪にはダメだったらしく、バシィ! と顔面を指で覆い――指と指の間から見ているが――その場で硬直してしまう。

 

 そして。

 

おあいこ!

「なにが」

キンちゃんも私のお着替えを見るの! そうすれば公平!!

 

 白雪のトンデモ解釈によるストリップショーが始まる……!

 

「キンちゃんさまになら見られても平気! だからここで脱ぐほっぐほぁ!?

 

 ……ことなくキンジの手刀一発で沈められた。

 

「バカか? お前…いやバカか、お前」

 

 評価を疑いから断言へ滑らかに移行させつつ白雪を抱きかかえ、左肩にはタオルを、右肩には上の服をかけたままリビングへ向かうキンジ。

 

 

「ただいまー」

 

 天か彼を見放したのか。

 何と間の悪い事に今このタイミングでアリアが帰宅。ももまんの袋以外持っていない彼女は、当然ながら半裸で白雪を抱えるキンジを目撃する事になる。

 

 故に、ばさっとももまんの袋が落ちて。

 

「こ、の、アホ、キン、ジ……が……!!」

 

 そこから、ジャキッと二丁拳銃を構え。

 

風穴!!!

 

 防弾服すら来ていない対象へ問答無用の.45ACP弾祭りを開始。

 狙いこそ足元が主ではあるが、普通より丈夫な武偵高寮室では簡単に弾が跳弾してしまい、安全安心などとは言っていられない。

 

この強猥魔! ウジ虫!! ケダモノオォォーー!!!

「不本意にも程があるんだわ」

 

 ……筈なのだがこの男はやっぱりマイペースであった。逃げ回りこそしているが何時も通り掴んでは投げ、横から掌で殴って弾き、窓際まで一気に後退していく。

 

 左肩のタオルを執拗に抑え、上着は口に咥えて走り、弾丸を捌くその様は最早喜劇だ。

 

アリアおかくごぉー!!!

「うみゅっ!? あ、あぶな……!」

 

 ここで目覚めた白雪がアリアへ斬りかかった事により、一先ず狙いは収まった……されど戦いは次のステージへ発展。

 

「負け惜しみが過ぎるよアリア! あれは合意の上での行為だったの、既成事実の為の!! だからキンちゃんは悪くないっ!!」

「あああああああんたらなになににににになにっしようとしていたのよ!? と、というかそれは護衛の際の禁止事項(タブー)よ!! 深い仲になってはいけないって言われてるでしょうが!!」

「キンちゃんと私は元から深い仲だから誤差なんだもん!! 醜い難癖付けて邪魔しないで、この泥棒獅子!!」

「猫から不本意なランクアップさせてんじゃないわよ!? この白とは名ばかりの桃雪女!!!」

 

 確かに武偵のボディーガード依頼はその内容故、イザという時の判断力や普段から気を引き締めるために、依頼人と深い仲になってはいけないと言う絶対の禁止事項が設けられている。

 

 なので対外的に見ればキンジはすぐさま罰せられ、任務より外されてもおかしくはない。

 もっとも原因はどちらかというと白雪な上、それをすると依頼そのものがガタガタになるので、色んな意味で彼はとばっちりなのだが……。

 

「風穴祭りぃ!!」

「ずんばらり!!」

「よし、服着れた」

 

 ガバメントの銃弾を刀で全部弾く白雪に小刀で応戦するアリアという、異次元のキャットファイトをバックに着替え終えたキンジはしばし考えた後、ベランダから脱出するとヤモリ式ボルダリング術で昇っていく。

 

「オレの声か……」

 

 そのまま上階にある無人のベランダに足を引っかけ逆さま状態で腕組みをすると、二人が疲れ果ててぶっ倒れるまで、白雪が飛び込んできた原因についてしばし黙考するのであった。

 

「はぁ、はぁ……」

「ふぅ、ふぅ……キンちゃんの裸ぁ」

「なんの、執着心…あれ? そう言えばあいつ――」

「きいぇええええぇっ!! その裸は私のものぉ!!」

「にょわあ!? こ、このまっピンクぅ!!」

 

 そして平坦に進んで、アリアの気のせいで終わる可能性もあったこの護衛は。

 過ぎていくはずだった今日この日の夜に、様々な意味を含んだ大きな折り返し(・・・・)を迎える事となる。

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