翔るは緋、“硬”るも銅 ~散弾銃で殴るんじゃない~ 作:阿久間嬉嬉
――男女あべこべなハプニングと、空前絶後なキャットファイトの勃発から、二日後。
キンジはドラムをノリノリで叩く武藤やボーカル兼ギターを担当する不知火と共に、エレキギターを提げてアドシアード閉会式で弾く軽音の練習をしていた。
元々不知火がとても上手かったのと、意外にも演奏が出来る方だったキンジはすんなり課題曲をマスターして、今は武藤に合わせながら下稽古を進めている。
ただ武藤も調整の段階には入っており、楽曲自体も二分程度の短い物である為、練習で躓く事は無さそうだ。
そんな彼らより少し離れた、斜め前の位置で踊っているのはアリアたちチア担当組。
揃って行う軽快な踊りに個々のズレなどは見当たらず、こちらもかなり仕上がっているのが見て取れる。
そして、彼女達が一通り踊り切るのを待ってからぱんぱん! と、監督役の白雪が手を叩く。
「では今日はこの辺りにしておきますね! 皆、お疲れさまでした!」
あたかも教師の様な台詞は中々堂に入っており、生徒会長として積み上げた経験がここでも見て取れた。
解散を促された女性生徒たちは思い思いに返事をし、三々五々散らばっていく。
同時に練習を終えた男子三人も……武藤は女子狙いなのか出た後で少し遠回りし、不知火は用事があるのか館内に残り、キンジはそのまま施設の屋上へと脚を進める。
どうやら、キンジは一人になりたかった様子。
証拠に暖かな日差しと心地よい春風のなか座り込むと、猫背になってあぐらをかいて何も言わずに眼を閉じていた。
ここの所アリアと白雪に振り回されっぱなし……だったかどうかは議論の余地があるものの、穏やかとはとても言えない毎日だったのは確実だ。
ならば偶にはこうして息抜きをしたくなっても、決しておかしくあるまい。
だがしかし、忘れてはないのだろうか?
彼がどう思い、内心でどう扱っていれど、今はれっきとした
更に神経をピリピリ尖らせた依頼受注の発端も、同じ施設にいる。
そうなれば必然―――。
「みぎゃ!?」
「何をやっているんだ、神崎」
アリアに見つかり蹴られるのは当たり前であった。
ダメージを受ける側が逆になっているのは、まあ置いておこう。
「ほんと無駄に頑丈な……何をやってるんだはこっちの台詞よ!
「オレはメカだったのか?」
「あたしに聴くな!? 誤魔化すんじゃないわよ!」
言いながらアリアは片足を高く掲げ、座って背まで向けているキンジの頭へ、情け容赦なく振り落とす。
その強襲踵落としにキンジは片手をあげ、なんてことなさげに受け止める。
……とまあ、真剣白刃取りの訓練そのものは順調なのだが、当然アリアは納得いかない様で。
「そこまで出来るんだから、尚更離れちゃ駄目でしょうが! 何であんたはそう緊張感が無いのよ!」
「出来てはいる、なら良いだろう」
「ダメよ! 《
「いざ、か…」
何処か含みのある声でそう言うと、キンジはのっそり身体ごと振り向く。
「ここ数日であった事と言えば、お前らの喧嘩ぐらい…なあ、本当にいるのかその敵は? 《魔剣》なんて、居ないんじゃあないのか?」
そして静かにぶちまけられた盛大なカミングアウトに、アリアはその赤い瞳を見開いた。
存在を疑ってる節など特になかったキンジが、そんな事を言うとは夢にも思わなかったのだろう。
「お袋さんを助けたいあまり、居て欲しい想いが自己暗示化して、居るにすり替わっているんじゃないか?」
片手をポケットに突っ込むと言う、萎えが見え見えな所作を取りつつキンジはそう突きつける。
無論、それを聞いて黙っていられるアリアではない。
「違うっ! 《魔剣》は、いる!! あたしのカンでは、もう近くまで迫っているわ!!」
「カン、と言われてもな。論拠や信頼が無い、妄想のそれに等しいぞ。ならばオレ一人でガードしていても、充分ってものだ」
そこで片手を表に出すキンジの弁は、静かだからこそとても冷たく見えるもの。
故にアリアはどんどんヒートアップしていく。
「なによ……なによそれ!? あったまきた!! ええそうよね、あたしは白雪とあんたにとっては、割り込みをかけた妄想女なんだもんね! 爛れた関係の邪魔だものね!!」
「オレは星伽白雪が苦手だ。一個人としての好悪はさておき、そういう関係になれはしない。天才の突飛な妄想を、凡骨に押し付けないでくれ」
あくまで冷静に告げられた言葉に―――アリアは本気でショックを受け、傷付いたような表情を浮かべた。
更に、反論するどころか弱弱しく2、3歩よろよろと離れてしまう。
「あんたまで、そんなこと、言うのね…」
されども怒ってはいるのか。小さな声で呟きながら、わなわなと震え出す。
「みんなわかってくれない。みんながあたしのことを、ホームズ家の欠陥品、独り決めの、先走りたがりの、弾丸娘って―――あんたも、あんたもそう!!」
「…………」
表情を一ミリも変えず、黙ったままなキンジとは対照的に、アリアは怒りを込めて誰にともなく叫んだ。
「あたしには、白雪に敵が迫ってるって、分かるのよ!! でも、それを曾お爺様みたいに、シャーロック・ホームズみたいに論理的には、説明できない! だから誰もわかってくれない……でもっ、それでも分かるのよ!! “直感”で分かるの!! こんなにいってるのに―――何であんたは、信じてくれないのよ!!?」
それは泣き叫ぶように放たれた、不器用な信頼。
キンジだからこそ分かってくれると、そういう希望を抱いて紡がれた、藁にも縋る言の葉。
最早体面すら取り繕えず、ポンポンを床に叩きつけて涙目になるアリア。
外見通りな子供よろしく、ただただ悲しそうに、そして怒りのままに喚き散らす。
だが哀しいかな。
頭から疑っているキンジにその言葉が届くはずもなく……。
「直感であろうと何であろうと、他人が信をなせないのならそれは妄想だ」
……先程ポケットから取り出した、一枚のメモ用紙をもてあそびながら。
全く声色変わらぬままに、冷徹に叩き落とされた。
ここで全く思い通りにならないキンジにとうとうアリアはブチギれ―――!
「バ、カ……バカ! バカバカッ!! バカバカバカバカドバカァーーーッ!!!」
最早訳が分からなくなったのか、満面の笑みで烈火のごとく怒りだすと言う、器用な真似を見せながら二丁拳銃を抜き。
ばきゅばきゅばきゅばきゅ!!
とキンジが平気で対処できるのをよい事に、狙いも付けず屋上中に銃弾をばら撒いていく。
「いいやアホだ」
「うっさいうっさいうっさいうっさあああぁぁい!!!」
こんな時ですら何時も通りというデリカシーの無さを見せたキンジへ、アリアは収まらぬ怒りをぶつけるような、乱暴な所作でガバメントへ再装填。
そして怒りの赤面とにやけ面を組み合わせた、凄まじく奇妙な表情であらぬ方向へ乱射したかと思うと、キンジ目掛けて跳躍する。
しかし難なく防がれてしまい、結局何を揺るがす事も出来ないまま、アリアは階段へと走り去ってしまった。
「いいや、アホだ」
そんなことをまだ抜かしている、そんなキンジの目線の先にある貯水タンクには、先程の謎の銃撃で空いたのだろう『 バ カ キ ン ジ 』という弾痕が刻まれている。
そんな一見すればおかしい絵面も彼等にとっては決裂の証。
こうしてあの夜の延長戦のように襲い来た衝動で、アリアとキンジは喧嘩別れをしてしまうのであった。
「えへへ……やっぱり、あいつしかいないよ……パートナーは、あいつしか……!」
・
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・
・
「そんなわけでな、オレ一人でやることになった」
「そう、なんだ……」
「始まりが何であれ約束だ、アドシアード終了まで護衛する」
「キンちゃんが、私を守る…約束……」
アリアが居なくなったとは言え依頼の単位は惜しいらしく、キンジは引き続きボディーガードを務める旨を、昼の出来事と一緒に白雪へ告げていた。
そのアリアだが、夜になっても帰ってこないため、本格的に決別してしまったと見て良いかもしれない。
まあ白雪にしてみれば些末なことの様で、キンジの『約束』発言にむしろ「うれしい…」とまで返している。
アリアが嫌いというのは本心中の本心であること、そいて今まで何の危険も無かった事が後押しになっているのかもしれない。
「じゃあ、ゴールデンウィーク中も、アリア抜きだね」
「そうなるな。なんだ、どうした? 何処か外へ遊びに行きたいか?」
「う、ううん、私はお勉強するよ。キンちゃんにも美味しいミルクティー、入れてあげるね」
ここだけ聞けばただの勤勉家、或いは外に出るのが苦手な少女に聞こえるが、その実態はやはり『星伽』関連であろう。
それを知っているキンジは……唐突に白雪へ背を向けると、思いついたようにPCを起動。
何やら検索し終えた後、画面を指さしながら白雪の方へ振り返る。
「今月五日に東京ウォルトランドで花火をやるらしい、見に行くぞ」
「えぇ!? だ、だめだよ、こんなに人が大勢いるとこ……」
「葛西臨海公園から見ればいい。シチュエーションも
「キ、キンちゃんも!? ……キンちゃんも、一緒に…」
護衛でも何でもともに居られるその状況が最後の一押しとなり、白雪は小さく……されどしっかりと、キンジの提案に頷く。
―――花火大会当日―――。
あれから雲隠れしたアリアの捜索も行わず、ゴールデンウィーク中ずっとだらだら護衛を続けていたキンジだったが、もう一人依頼に巻き込まれた武偵が居たのをここで漸く思い出していた。
「どうしたレキ」
その張本人であるSランク狙撃手・レキと、コンビニ前ではち合った事によって。
……つまり会わなければ忘れていたのだから、不用心が過ぎると言うものだ。
何よりキンジの言葉からわかる様に、接触したのは珍しくレキの方からであり、キンジの記憶からは綺麗さっぱり飛んでいたのが伺えた。
大丈夫なのだろうかこの男……。
「今日は予定があるんだが」
「そうですか」
対するレキもレキで接触したにもかかわらず、その後はあらぬ方を見たまま微動だにしない。
ロボット・レキだの、行き過ぎて『レキ様』だのと、そう呼ばれても仕方がないメカっぷりである。
「用は無いんだな。なら、引き続きパートタイムは頼んだ、とだけ言っておく」
苦手であろうとそれはそれ、白雪との約束に遅れたくないキンジはそのままレキに背を向けた……まさにその瞬間。
「予定とは外出ですか」
唐突に、抑揚のない声でレキがキンジへ、質問を飛ばした。
「ああ、花火を見に行く」
驚いているのか違うのか分かり辛い顔で応えたキンジに、レキは先と全く変わらぬ語調で続ける。
「気を付けてください。ここ数日間ずっと……風に何か邪なものが、混ざっています」
「そうか。心当たりが多過ぎるな、気を付ける」
忠告とも取れる意味深なレキの言葉に、キンジは何ともいい加減な返答をしながら、彼女から離れた足取りそのままに男子寮へ直行。
護衛依頼中の為に私服に着替える必要もなく、だからこそそのままリビングへ向かう。
そこには―――。
「気合、入っているな」
なんと……浴衣でばっちり決めて静かに座る、正しくヤマトナデシコなたたずまいの白雪が居た。
清楚な白地に撫子の花雪輪。
鴇色の帯。
撫子の花かんざしで止めたアップの黒髪。
自分でちゃんと着付けたのだろう。キンジが思わず詰まったのも、理解出来る気合の入りようだ。
「お、お帰りキンちゃん! どうかなこの浴衣? 変じゃ、ない?」
「変じゃあ無いな」
「髪形はど、どうかな、学園島でゆって貰ったんだけど……」
「変じゃあ無いな」
「よかったぁー……」
一言一句同じ言葉を繰り返すキンジの適当さとは打って変わった、真剣に真剣を重ねた白雪のため息が零れる。
まあ実際変ではないのだから間違ってはいないし、白雪はそれでも十分なようなのだが……。
「それじゃあ行くか」
「はい」
そして。
片や背筋こそ立てていてもどこかいい加減さが漂う歩調で。
片や一挙手一投足から上品さが漂う歩調で。
夜の葛西臨海公園へと赴いた。
武偵高駅のモノレールから台場へ行き、ゆりかもめで有明へ向かい、りんかい線に乗り換えて新木場へ、最後に京葉線……と順々に乗り継ぐまでの道中、二人の会話は……
昼とは違う、春の夜の涼しさの事。
こんな時間に出歩かないから新鮮だと言う感想。
切符を買う買わないでキンジに促された一連の出来事について。
月が綺麗だと言う素直な言葉。
すぐに「ごめんなさい」という白雪の癖についての話。
そのどれもが短めで終わってしまう。
一番続いた会話と言えば。
「こ、これ……その…………なんというかで、で……デートみたいな……だったり、しなかったりしたり、してたり……」
「なんだ」
「………デート、してるみたいだね?」
「違う」
「……うん…?」
「外出の訓練以外にも息抜きを兼ねている。だから依頼が無ければオレ一人で行く」
「依頼……そっか、そうだよね」
「…………」
「変な事言って、ごめんなさい……」
「いいや」
「……優しいね」
「いいや」
「そ、そこも否定しちゃうんだ……」
「護衛だからな」
「……関係、無くないかな……?」
これである。
全く持って情緒が無いし容赦も無かった。というか息抜きがしたいのも誘った理由らしい。
だがそれでも尚、白雪にとってはキンジと居られる貴重な時間に変わりはない様で、何処か嬉しそうにしている。
キンジが『籠の鳥』である事を少し気にしていると、薄々察しているのだろうか。
――そうして葛西臨海公園についた頃。
すでに花火は始まっており、遠くに見える東京ウォルトランドから、色とりどりの花火が次々昇り中空で咲いていた。
距離が距離故に迫力はないものの、バン…バン…と断続的に音が聞こえる音は何処かはかなげで、一味違った魅力を醸し出している。
少なくとも夏に浸るには支障のない……否、寧ろ人気のない二人きりというシチュエーションには、この上なくマッチしていた。
二人は暫く咲き誇る花火を無言で見物し続け、やがて始まった乱れ撃ちのと同時に、白雪の呟きもまたぽつぽつと始まる。
「昔の事、思い出しちゃった」
「青森のか」
「うん……あの時もキンちゃんは、星伽から出してくれた」
どうやら乱れ撃ちでフィナーレだったか花火は終わり、あたりを静寂が包み、彼女の声に籠った感情がキンジにより伝わって来た。
「ありがとうキンちゃん」
心の底から感謝していると言う感情が、嘘偽りない笑顔と共に。
「まだ早い」
「え?」
そんな笑顔をキンジは自ら変えさせ、懐から『早い』理由を取り出した。
「線香花火だ、これをやる。こればかりは相手がいた方が楽しい」
「……ふふふっ、変わんないねキンちゃんは、ほんと」
どうやらレキと出会った際の外出で買っていた様子。
ある意味とは言え、外出訓練“兼”護衛“兼”息抜きに本気だったのは、白雪だけでは無かったのだ。
「あ、しまったライターが無い…買ってくる、待ってろ」
言いながらもう売店目掛けて走り出しているキンジ。……仮にも護衛がだだっ広い場所で放置するのはどうなのか……。
とは言えさすがは身体能力限定Sランク。
折り返すのも早く、3分と経たずに戻って来た。
「待たせた」
「………」
「すまん、待たせた」
早かろうが言わねばならぬと、キンジはベンチに座って待っていた白雪に呼びかけ、しかし反応が無かったので肩を叩く。
本当に気付いていなかったのだろう白雪はハッとして振り返り―――そのオキニスの様な瞳に、どこか怯えた色を宿していた。
「…悪い、怖がらせたな」
「う、ううん。大丈夫。それよりやっちゃお、線香花火」
少し強引に促されるまま、砂浜に座り込むキンジと白雪。
そして先程とは真反対とも、ある種同一とも言えるパチ…パチ…とした音を上げながら燃える線香花火を、二人共が真剣に見やっている。
「……………」
『立てば芍薬、座れば牡丹、歩く姿は百合の花』。それを体現する黒髪の美少女。
『立てば岩壁、座れば鋼鉄、歩く姿は巨人の像』。それを体現する灰髪の強面男。
そんな二人が見合うような体勢で線香花火をする姿はどこかおかしくて、されどどこか絵になっている、不思議な光景を作っていた。
「キレイだね」
「だから好きだ」
「うん」
何気ない、そんな短い会話も、今は何故だか気まずく無くて。
人工なぎさに打ち寄せる波の音が、いやに大きく聞こえる星明かりのみ照らす薄闇で、未だに落ちぬ線香花火が瞬く中。
「ねえ……キンちゃん。聞いてもいいかな」
ふと何かに促されたが如く、白雪はキンジへ小さく、小さく問いかける。
「なんだ」
「キンちゃんはさ―――『火』って好き?」
「場合による。大きさに関わらず、自分が使うならそれなりにだ」
言外に他者が使うならば嫌い、或いは怖いと言っているその発言に、白雪はそっと目を伏せた。
「……そっか……そう、だよね……あっ」
その所作がトドメとなり、白雪の線香花火はポトリと落下。
殆ど同時にキンジのも落ちてしまい、波の音がこの場を支配してしまう。
「ラスト一本やるか?」
「ううん、持っておきたいの」
「持つ? シケるぞ」
「でもキンちゃんがくれたものだから……」
「なら昔の記憶よろしく、記憶の中に持っておいてくれ。さもなくばオレがやる」
割とノリノリで言われた台詞に白雪は思わず吹き出してしまい、結局彼女が最後の線香花火を楽しむ事となる。
その光景を黙って見つめているキンジへ、白雪は再び……されど今度は純粋な感想を告げてきた。
「ほんとに、ありがとねキンちゃん。嬉しくて……私、今夜は眠れなさそう」
「外出皆無だったのは知っていたが…だからって、そんなにか」
「うん、そんなに。私にとっては特別で、軌跡みたいな事なんだよ」
小さくなりつつある線香花火からは目を離さないまま、白雪が続ける。
「受験の日だって、そうだった。キンちゃんはワルモノから助けてくれた」
「体当たりと同時に掻っ攫っただけだ」
「だけでも、だよ。その日も、昔も、そして今日も……どんな理由であれ、キンちゃんは私を外へ連れ出してくれた。だから武偵高で恩返しをしたかったの」
「悪いが、必要は無い」
ひどく直球な言葉にも拘らず、白雪にその言葉こそ欲しかったようで……。
「やっぱりキンちゃんはキンちゃんだね。どこか傍若無人だけど、そのままの勢いで誰かに手を差し伸べてくれて……強引にまきこんじゃう」
「…………」
困ったような、それでいて幸せでもあるような、複雑な笑顔を浮かべる白雪。
無表情で、何も返さず沈黙したキンジ。
最後の火玉はそこで落ち、地面でも消えぬまま火花を上げる。
それをたっぷりと、言われた通り記憶へ記録するかのようにじっと眺めた後……気品のある物腰で立ち上がった。
追う形でキンジも立ち上がって月夜の海へ目線を向け、ざん…ざざん…と残る音の
――すると。
「この間の、巫女占札のことなんだけどね」
「おざなりに幸運とか言われたアレか」
「うん……でもそう言ったのには、訳があるの…………だって『キンちゃんはこの場所からいなくなる』ってでたから……それも、数年以内に」
「一般市民に成れるって事じゃないか。良い事だ、オレの夢へ一歩は確り果たされる」
「キンちゃんはそう思うだろうけど……私はね、アリアが連れてっちゃうんじゃないかって……」
「天地がひっくり返ればあり得る」
回りくどい例えで白雪の懸念を否定するキンジに、それでも弱弱しいまま白雪は返す。
「だってアリアが来てから、キンちゃんはちょっと変わったもん。明るくなったような……何かを決めた様な……」
「そこに関連があると思うのは気のせいだ」
思った以上にハッキリ紡がれた言葉ですら、白雪の顔を上げさせることも敵わない。
「アリアが良いなら、幸せならそれでいいの、陰から支えても、恩返しが出来るなら……だからお勉強も生徒会も部活も頑張って、自分を高めて、でも足りなくて……結局役に立たなかった」
「…………?」
白雪の、まるで胸の内を一気に吐き出しているかのような自供に、キンジは疑問符を浮かべる。
「神崎については妄想が過ぎる。《武偵殺し》や他の件はタイミングが悪かっただけだ」
「ちがう、ちがうんだよ、キンちゃん……!!」
ただただ、何時も通りに返したキンジに。
どうしてか泣き出しそうな声で、白雪は振り返って。
その胸の内へ、一気に跳びこんで来た。
「うおっ…」
「キンちゃん……!」
曲げた腕を突っ込み阻むと言う行いすら何の鎮静剤にもならず。
白雪はうるんだ瞳のまま……狂いそうなほど、様々な葛藤が混ざって溶けた目のままに、息を吸い。
「嫌われるのが怖くて、幼馴染でいられないのが怖くて、言えなかった夢……私の我儘を、おねがいします……叶えてください……!」
「…………」
「私だけを見て、そして―――」
―――どぉん…!
――ばん…ばん…!
言い切る前に差し込まれた……余韻を打ち消す、花火の音色。
「終わりじゃあなかったか。インターバルだったらしいな」
「………うん」
驚きに身をすくめてしまった白雪と、護衛だからか少し位置を変えさせたキンジの動作が、上手い具合に噛み合ってしまい、白雪の懇願はすべて吐き出せずに終わる。
一体何だったのか、それをキンジは聞こうとしない。
白雪も、言わない。
勢いで半歩離れた互いの距離がどうにも遠く見える、複雑な雰囲気すら漂っていく。
「…ごめんね」
そして何処か虚ろな瞳で諦めたように呟くと、とっくに花火へ向き直っているキンジに倣い、白雪もまた花火を眺め始めた。
(うん……もう、決めたよ)
胸の内に灯る歪な焔を、そっと隠しながら。
(――決めるか、これで)
変わらず帯びた硬い鋼を、より強固に仕立てながら。
・小話・
次回、漸く戦闘に入れそうです。
大暴れは勿論のこと、アリアや白雪の台詞に対して抱いているキンジの本心も、
VS理子みたいな形で明かせればと思います。