翔るは緋、“硬”るも銅 ~散弾銃で殴るんじゃない~   作:阿久間嬉嬉

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魔剣抜刀・破

 ――皆様は憶えているだろうか。

 

 護衛依頼を受ける遠因となった、あの件(・・・)

 同時刻に別の場所で、キンジと不知火がそれぞれで白雪を目撃した、小さな事件を。

 

 思えばその時から既に、周辺に怪しい要素が多々見られたのだ。

 

 大きなものから、小さなものまで、しかし確かに存在する違和感が、あれから随所で積み重なっていた。

 ……しかし今この時まで、誰一人として気が付けていない。

 

 

 そのからくりは――考えてみれば単純な事。

 

 

 

「本当にそっくりなんだわ」

 

 本当に白雪が二人いた、と言うだけなのである。

 

 生来そういう容姿なのか、何者かが変装しているかは分からない。だが、雄々しさのある表情を除けば、もはや瓜二つ。

 もし生徒に混ざって暮らして居ようと、なんら違和感はないほど。

 だからこそアリアの敷いた監視網をかいくぐり、逆にキンジ達を監視出来ていたのだ。

 

 キンジが不真面目極まりなかったのことで、彼のいない状況が大して珍しくない空気も作り出され、結果《魔剣(デュランダル)》の逆監視の成立に一役買っていたと言えよう。

 ――とは言え。

 

「まあ捕まえれば同じ事だな」

 

 最終目的が阻止され掛かっている現状、彼女の策には何らかの落ち度(・・・)があったのだろう。

 それは探偵科(インケスタ)Dランクの彼に見抜かれ、不意を打たれた事からも容易に伺える。

 

「…我が一族は光をまとい、本質はその影……策士の裏をかく、策を得意とする」

「さっき似た事を聞いたな」

「その私が最も嫌うのが、『誤算』だ。そしてここまでのものは、想定の範囲外でもある」

 

 当然《魔剣》もそれが気になり、思わずと言った感じで呟いた。

 

「分かっていて来た様子だが……遠山、いつから予測していた」

トイレですれ違った時(は な っ か ら)

「なに……?」

 

 ともすれば何一つ分かっていなかったような男に、最初の最初で見抜いていたとふかされ、《魔剣》は眉間へしわを寄せる。

 しかしキンジは真剣そのもの。挑発している感じでもない。

 

「はっ、冗談も休み休み言え。私の存在を信じず、ホームズ四世と喧嘩別れした貴様が……最初から、策を見抜いていただと?」

「《魔剣》の存在については半々。でもお前みたいな侵入者の存在は、ずっと疑っていたんだわ」

「あ!」

「む……」

 

 なるほど、と言った感じで、キンジの後ろに来ていた白雪も目を見開く。

 

 つまり、アリアは《魔剣》が居ると思っていて、それが侵入者だと考えていた。

 大してキンジは侵入者はいるが、《魔剣》はいないと考えていた。

 故に齟齬が起きた。

 着陸地点は概ね一緒でも、そこまでの認識が違っていたのだ……ならば確かにつじつまは合う。

 

「…やはり解せん。貴様は、あの時私をスルーしただろう」

「お前がスルーしたからな、どんなに急いでいようがオレに挨拶して来ようとする、生真面目な星伽白雪(こいつ)の姿で。しかも睨むような眼で」

「……!」

「で、当の本人はオレの友人が花占いしていたところを目撃済み。どっちをする奴かで考えりゃあ、花占いなんだわ」

 

 要は最初の最初で異質に思われる程、《魔剣》は選択を間違えすぎていたのだ。

 お手洗いならばもう少し焦るのに、ただ急いて通り過ぎただけだと言うのが、違和感に拍車をかける。

 

 また花占いの件を出している最中、白雪はちょっと顔を赤くしている。

 目撃されたことを思い出しているのだろうが、逆説的に『どちらが本物か』裏付ける、証拠にもなっていた。

 

「それに星伽白雪は自分で突っ込んで、自分で暴れようとする迷惑な(たち)でな」

迷惑!?

「だけどそれが功を奏した。キルトラップなんぞ仕掛けないんだわ」

「………」

 

 加えてキンジに「ピアノ線を仕掛けるな」と言われた際、白雪は本気できょとんとしていた。

 

 彼も薄々察していたようだが、あれは十中八九素の反応(・・・・)

 本当に、心当たりなど無かったのだろう。

 

 初見殺しにも程がある。簡単に括れるわけではない。

 だがしかし、《魔剣》の失態を一言でまとめれば、つまるところ―――。

 

お前、調べなさ過ぎ

 

 これに尽きる。

 誤算どころか当然の結実だったのである。

 

「小さな異常すら訝しまれる程の、じゃじゃ馬とはな。恐れ入った」

「…失礼じゃないかな、《魔剣》?」

「ふん」

 

 ムッとした白雪の抗議にも《魔剣》はどこ吹く風。

 策の完全成立こそ逃したが、裏を返すとそれだけなため、まだ余裕があるのだろう。

 

 されど今の彼女は武器も構えられず、キンジにショットガンを突きつけられ、行動を制限されている。

 白雪も抜いていないだけで、刀はしっかり握っている。

 

 いくら武偵が武偵法9条(殺さず)を破れず、防刃防弾服を着ているだろうとは言え、受ければただではすむまい。

 

 秘策でもあるのだろうか……?

 

「半端な装備で我が氷結を破り、使い義手でもない生身でTHKワイヤーを千切るその奇術、敵うならば……もう少しじっくり、見たかったものだ」

「今からいくらでも見るだろ」

「…いいや、そうもいかんので――な!」

 

 《魔剣》が言い終えると同時に眼前へ広がり、非常灯で赤くきらめくは、霧氷煙幕(ダイヤモンドダスト)

 キンジがからくりを喋っている間に……否喋らせている(・・・・・・)間に準備していたそれを、チャフ代わりにまいて姿を隠す。

 

 一拍置き、そこへ投じられた閃光弾(フラッシュ・バン)が、追加で炸裂。

 

「あっ!?」

 

 霧氷煙幕の中でより一層輝いたそれに、白雪は思わず顔を覆ってしまう。

 

 そして顔を戻した正にその瞬間、非常灯がふっと消え、あたりが完全な暗闇に堕ちた。三連続の視界妨害に、さしものキンジや白雪も全く動けず翻弄されるばかり。

 

 闇に紛れて逃げるのか? それとも襲い掛かるのか? はたまた白雪を攫うのか?

 次の狙いが分からない以上、迂闊には動けない。

 

 そんな彼等を嘲笑い―――極太の鎖を手にした《魔剣》が、白雪の背後へ回り込む。

 

 ターゲットは、あくまで彼女。

 だが誘拐から束縛に切り替え、不確定要素(キ ン ジ)をより確実に、この場へ釘付けにしようとしている。

 

 依然立ちすくむ彼等を他所に、そのまま《魔剣》は前方のターゲットへ掴みかかった。

 

「よう」

「!?」

 

 だが手にしたそれは白雪の胴ではなく、寸前で割り込んだ“キンジ”の腕。

 しかも彼の眼光はがっつりと、彼女を捉えて離さない。

 

 偶然ではない、必然だ。

 間違いなく《魔剣》が見えている……!

 

「おらあ!」

 

 怒声一発、放たれた掌底は鎖を掴み、ハンバーガーぐらいはあろうそれを握力で砕いた。無意識にかけた残りの鎖も、振り回すと同時に粉々と化す。

 この瞬間、キンジすら捕らえるのが不可能となり、《魔剣》は一目散に逃げだした。

 

「うお……?」

「キンちゃん!」

 

 置き土産で放り捨ててきた、追加の閃光爆弾が効いたらしく、キンジはそれ以上追えない。

 白雪も彼のことを心配し思わず立ち止まった。

 

 結局、地下倉庫からは逃げられてしまう。

 

「ど、どうしよう…!? このままだと《魔剣》が、排水溝から……でも、そもそもどこから出るか……!」

「第9排水溝」

「え?」

「レキが教えてくれてな、海流に異常があると…実際無理につなぎ直されていた。僅かな差異を見抜くアイツの慧眼、おそるべしだ」

 

 曰く狙撃競技が始まる、そのほんの少し前だったので滞りなく連絡が取れ、ハイスピードで駆け付けられた、との事。

 

 ……ちなみにこの地下倉庫に繋がる排水溝こそが、その第9排水溝。

 上に上がる時は一苦労だが、ここまで連れて来られれば攫う時も逃げる時も最短距離で済む。

 

 それも計算ずくだったのだろう。

 

「分かってるなら急がないと……!」

「勿論だ」

 

 言いながら暗闇の中を走るキンジと、その背を目印に追う白雪。

 梯子さえ登り切れば後は全力疾走で良いため、こういう時だからこそ慌てずにいこう……として。

 

「!!」

 

 ―――ズズン! ズゥン! ―――というくぐもった音がしたかと思えば、下の排水穴からいきなり海水が噴出して来る。

 《魔剣》が排水系を壊したのだ。おそらく、二か所も。

 

 それは見えていると知って尚、焦りを募らせるためと……上階についてからマンホール扉を締め切り、水が溢れない様にするまでの時間を、逃走に充てるため。

 

 当然と言えば当然か、素直に第9排水溝へ向かって逃げるつもりは無い様子。

 

 白雪を先導させ、後ろから押す形で梯子に辿り着いた二人は、恐るべき速さで上がって来る海水から何とか逃げ切り……そう時間をかけず上へたどり着けた。

 

 が、しかし。

 

「……っ!」

「きゃあっ!?」

 

 なりふり構っていないのか追加で排水系が壊され、勢い良く噴き出した水に、白雪が流されて行ってしまう。

 

 させるかとばかりにキンジが、水圧何するものぞとぶん殴るように閉めたお陰で、六階は先に白雪を押し流した分だけで済んだ。

 

 とは言え白雪は見失ってしまったし、向こうが逃げるまでの時間を、まんまと稼がれたのも事実。

 

 六階は広い。

 ある事情から七階よりも入り組んでいる。

 下手を打てば逃げられる。

 

「…脚は止まっている筈だ」

 

 にもかかわらず、キンジの顔に焦りはない。

 

 

 

 

 なぜならば。

 

 

 

 

「貴様…ホームズ四世……!」

「とうとう追い詰めたわよ、《魔剣》!」

 

 ここにはアリアも居るのだから。

 

 お陰で《魔剣》は六階……壁のように巨大な集積回路が立ち並ぶ、電脳のにおいを醸し出す部屋……HPCサーバー(スーパーコンピューター)ルームの一角で、盛大に足止めを喰らっていた。

 

 大型コンピューターが迷路のように配置されている為、姿自体は隠せているが、迂闊に動けないことに変わりはない。

 

 というより。

 

「上に続くカギを壊したのも、エレベーターを塞いだのも、裏目に出たわね! 追って来たのがキンジだけだと思ったのかしら?」

 

 ――自分から袋のネズミになってしまっていた、と言った方が良かろう。

 もっと言えば階下はとっくに水中。逆転の発想も使えない。

 

 元々《魔剣》は複数人を相手する際、上手く分断して各個撃破を狙うという、戦術パターンを持つ……という情報をアリアは持っていた。

 加えて彼女のような策士は、誤算で狂った場合自らの手で『無』にしたがる傾向がある事も知っている。

 

 だからキンジが飛び込んで白雪を助ければ、2人をここで仕留めようとするはずだ、とそう睨んで敢えて待ち伏せていたのである。

 

「そうか…仲違いは、演技だったのか……!」

「あら、察しが良いじゃない。まあ唐突のぶっつけ本番だから事前の打ち合わせなんて無かったけど」

 

 それに実際、アリアは途中まで本当に怒っていた。自分の直感をキンジに否定されたからこそ、ショックで憤慨していたのだ。

 の、だが……それをある意味沈めたのが。

 

「あいつの手元にあったメモ、あんたからは見えなかったのね――『ここで一度分かれるぞ、神崎は周りを固めて欲しい。オレがいつも通り構えて、犯人をあぶりだす』――って!」

 

 あの時彼がもてあそんでいた、メモ用紙の中身である。

 

 だから彼女は“怒りながら喜ぶ”という、とても器用な表情をしていたのだろう。

 芝居目的で食って掛かったと、つまり自分の考えを妄想だと叩き落とした訳ではないと、分かったから。

 

 先のキンジの動きからわかる様に、白雪が自ら動いて《魔剣》へ会いに行くのは計算外だったろうが、そこ以外は想定通りだった、という訳だ。

 

「奴は私の存在を疑っていたがな」

「けどそれ以上にあたしの勘を信じたってことでもある、そして勝ったのはあたし達よ」

「決まってもない勝敗を誇るな、ホームズ四世」

 

 喋っている間にキンジも向こうから走ってきて、後は白雪が来るのを待つのみとなる。……《魔剣》の否定を否定する様なこの状況、本当に勝利が見えてきた。

 

「けほっ…キンちゃん! アリア!」

 

 キンジが到着するか、しないかのタイミングで、とうとう白雪も合流。ずぶぬれになった体で、水が気管に入ったかせき込みつつ駆け寄ってくる。

 

 そんな彼女へアリアはすぐさま駆け寄ると、ガバメント二丁を構えてガードするように背を向けた。

 

「キンジは前衛(フロント)、あたしの反対側! 白雪は後衛(バック)、頼んだわ!」

 

 陣形さえ整えればあとは物音を逃さず構え続け、《魔剣》の動きを待つのみ。

 

 そして白雪は緋色の鞘を保持したまま、補助刀身(サブエッジ)を取り出し。

 

 キンジは、アリアとすれ違うように駆けて行き。

 

 

「騙されるか」

 

 そのまま振り向くと、白雪へ切り裂くようなエルボーを放つ。

 

「え!?」

「そうだろうな!」

 

 白雪――否、白雪のフリをした《魔剣》はハリボテの長鞘を投げ、身をひるがえす。

 巫女服の袖をひらめかせてキンジの視界を隠しつつ、アリアの背後へ回る。

 

 同時に後ろをつかせぬよう、集積回路をやや斜めに背にした。

 

 衝撃ハプニング2連発に揺さぶられ、アリアは咄嗟に動けない。

 

「ふぅ…っ!」

「っ…たぁ……!?」

 

 肩越しに右手と左手へ息を吹きかけられたアリアは、まるで焼きゴテでもあてられたかのような声を出し、ガバメントを二丁とも取り落とした。

 

 その手には氷が張っており、彼女は思わず手を胸へ抱え、喉元に補助刀身を迎え入れてしまう。

 

「だから私は言ったはずだ、決まってもいない勝敗を誇るなと。少しの間隙さえあれば、こちらは容易に策を組み、穴を穿てるのだ……只の人間如きが」

「説明ぐらいさせろ」

 

 今の言からも分かる通り、キンジの合流と同時に《魔剣》がやって来たのは、そこが絶好の不意打ちチャンスであったため。

 

 キンジが白雪(偽)を判別出来たのは普段の違和感が由来なので、見た目だけで判別できるわけではなく、故に判断材料が必要だ。

 

 それこそが補助刀身……まだ主武装を持っている筈なのに、そっちを抜いたと言う違和感だったのだが、如何せんアリアが近すぎた。

 そもそもアリアは《魔剣》が白雪そっくりだと知らないので、そりゃ油断もする。

 

 そしてショットガンを抜けばすぐアリアを盾にされる。

 刃物もある以上、下手な衝撃は加えられない。

 

 また、キンジが事前に言えば傍聴されてしまう。

 何よりも……犯人が未だに白雪の格好をしているのか(・・・・・・・・・・・・・・・・・・)、その真相を今日この時まで誰も知らなかった。

 

 つまり二人で分担した事で追い詰められたのも事実だが、その所為で情報共有が上手くいかず、土壇場で逆転されてしまったのだ。

 

「あんたが、《魔剣》……ママに着せた107年分の罪は、あんたの、罪っ……! 償わせるわ…! ホームズの名に懸けてね!」

「この状況で言うことか? それに、他者から付けられたその名は、好きではない……何より、高々150年程度の歴史で誇るなよ。私の名はお前のそれより、遥かに続く――600年の歴史を誇るのだ」

 

 鼻で笑うような声音で言ってのけた《魔剣》は、次いで目を細め、何処か納得した様な語調で紡ぐ。

 

「なるほど、双剣双銃(カドラ)――理子の言った通りだ」

(そうか、だからずっとその姿か)

 

 彼女の変装術に疑問を抱き、同時にどこか覚えもあった彼だが、ここで合点がいき内心そう呟く。

 

 変装術を今日に至るまで解かなかったのは、無論このような不意打ちも兼ねてはいるのだろうが……一番は《魔剣》自身の技術ではなく、あくまで理子由来だったからであろう。

 

 ならば本人に施されたにせよ、学んだにせよ、自由自在とはいかなくて当たり前だ。

 無論まだ、これこそ本人の顔という可能性もあるのだが。

 

 しかし……その納得と、可能性を覆すほど、大きな驚愕が襲い来る。

 

 

「その姿は美しく、愛らしく、心は勇敢……偉大なる我が始祖―――ジャンヌ・ダルクと、よく似ている」

「何だと?」

「ジャンヌ・ダルク……!?」

 

 ―――ジャンヌ・ダルク――。

 

 15世紀の百年戦争において活躍した、フランスの聖女。

 大胆不敵な行動と、聖職者に一歩も譲らない弁論で、敵軍へ立ち向かったとされる女性。

 

 そして《魔剣》の言葉を信じるのなら、彼女はその子孫と言う事になる。

 

 だがそれは、ありえない。

 あり得る筈がない。

 

 オルレアンの聖女と呼ばれ、湛えられた彼女だが……その結末は、火刑。

 それも十代でだ。

 故に、子孫が居る筈などない。

 

「それは影武者だ」

 

 ……そんな、キンジとアリアの内心を読んだ《魔剣》は鼻で嗤い、否定する。

 

「我が一族は策の一族、光をまといて陰を行き、聖の衣で魔を隠す」

「初代から、Ⅲ種超能力(クラスⅢステルス)……魔法使い(マッギ)だったっていうの……?」

「その通り。そして私達はその正体を、歴史の闇に隠しながら、誇りと、名と、力と、知略―――それらを代々、子孫へ受け継いできたのだ。そして私が、その30代目となる」

「…ジャンヌ・ダルク30世か」

 

 キンジのそれを、肯定するかのように笑んだ《魔剣》―――ジャンヌは、アリアの太ももへ手を伸ばしながらに、また言葉を発する。

 

「我が始祖は危うく火刑に処される所でな……この力(・・・)を研鑽、研究し続けたのは、それも理由なのだ」

「うあっ!?」

 

 激痛に体をねじったアリアの膝小僧が、両手と同じように凍り付く。

 

「アリア。リュパン四世が攫い損ねた貴様も、貰っていこう。それとも―――死ぬか? それも想定済みでな」

「…………」

 

 震えるアリアに、押し黙るキンジ。

 アリアが危険、だが何処を撃ってもどうしようもなく、やれば武偵法9条を破りかねない。

 そんな葛藤を知ってか知らずか、《魔剣》はキンジへ不敵に笑む。

 

「そして遠山、お前は恐らく普段のお前ではないのだろう。推理能力は自前と分かったが、変装の即時見破り、戦闘能力の向上は別……HSSでEランクから一時的に脱却したか」

「エイ、チ……?」

「教えてやろう、アリア。遠山の、所謂“本気モード”は女が弱点となるのだ。敵であれば割り切れても、仲間は別、特に人質にされると弱いようでな?」

「なん…! な、に…!?」

「…………」

 

 未だに無言のキンジ、そして肩で息をするアリアへ、ジャンヌが凍るような声音で忠告を飛ばす。

 

「遠山が動けば、アリアが凍る。アリアが動けば、その部位を凍らせる」

 

 言われた通り動かないキンジに対し、ジャンヌは徐々に徐々に遠ざかり続け、アリアからより離させようとしている。

 

 そんな彼を見かねて。

 

 或いは、喝を入れるために。

 

「キンジ、撃ち、なさい……! 撃って……!!」

 

 凍えそうな調子で、消えそうな声音で、されども力強く、アリアはキンジへ声を飛ばす。

 だが、キンジは動かない。頑なに黙りこんで、つっ立ったまま、動こうとしない。

 

 逆に動いたのは、ジャンヌ。アリアの顎をグイッと持ち上げ、己の唇を近づけていく。

 

 その手には刀がある。下手に反撃しても、ダメージを受けるのはどちらか、明らか。

 

「喋ったな? アリア。無視して動く悪い口は、要らないな」

 

 口から凍気を吹き込まれたが最後、凍るどころか壊死するだろう。体内から、破壊されてしまう。

 だが打つ手がない。

 

 女性を人質にされては動けず、守りたい心が、相手を滅ぼす。

 今のキンジよろしく、ただ間抜けに、口を半開きにしたままに。

 

 それが、遠山の血筋の抱える闇。

 HSSを持った者の、宿命。

 

 

 

 

「言質は取ったぞ」

 

 その例外が身体を一瞬かすませ、微振動させて。

 

 ―――ガツンッッ!!

 っと爆音をかき鳴らし。

 

「ぬがあっ!?」

「あぶっ!!」

 

 アリアごと(・・・・・)ジャンヌをぶっ飛ばす。

 

 地面には、刻まれたブレーキ跡と、くっきりした足形が見える。

 超短距離を疾走し、急停止して、《等身大の衝撃波》を砲弾よろしくぶっ放ったらしい。

 

 これでは氷息はおろか、補助刀身も振るえない。そも、先の激突で放り出されている。

 

 ……更に。

 

「カッ!!」

「なんっ……ゔ!?」

 

 開きっぱなしなキンジ口から、ギャリイッ! とおなじみの金属音が聞こえたかと思うと、今度はジャンヌの身体が左肩を支点に、高速回転。

 

 どういうことかとのぞき込んでみれば、何と口の中にショットガンがある。

 

 手品師もびっくりの離れ業だ。

 

「な、なぜ……貴様、HSSは…黙っていたのは…!?」

「視線と刃物を反らすまで待っていた。そもさっきから全部素だ」

なあ……っ!?

 

 ジャンヌの驚きは至極当然。

 理子と同じくキンジの「受け継がれるはずだった」体質についても知っているのだから、本気を出せばそちらになると思って当然。

 

 だから凄腕紳士と見切りをつけ、蓋を開けた筈が……そこに居たのはただの怪力マン。

 

 ――予測など出来る訳がない。

 

「だが……っ! 力馬鹿であれ、一人ならば襲るるに足らん! 白雪は星伽の」

「ううん、魔剣…いいえジャンヌ」

 

 その予想外がもう一つ、集積回路の影から、刀を握って身を躍らせる。

 白雪だ……!

 

「キンちゃんにこれ以上、迷惑はかけられない。心配なんて、させられない……なにより!」

 

 振り降ろされた刀を、防刃巫女服で掴もうとするジャンヌはしかし、こちらを睨むキンジに邪魔され。

 

「キンちゃんは、私をちゃんと見てくれてたのに、私はキンちゃんを見れてなかった……だから! 本当に、キンちゃんと並ぶのなら! もう、怯んでいられない!」

「くっ……まさか、命を捨ててまで……!」

 

 裂帛の声とともに流れた一閃。

 それを、何とか避けたジャンヌは発煙筒を落とし、またもや物陰に姿をくらませる。

 

 雪風のように、静かなまま。

 

「星伽白雪…」

「キンちゃん……」

 

 そして真逆の意思を、炎の戦意を。

 

「ちゃんと戦うよ、私も」

 

 星伽の守護巫女が、心に燃やす。

 

 

 

 対《魔剣》戦の、終幕は近い―――。




・小話・

次回、本格戦闘です。
またキンジ(硬)がやらかします。
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