翔るは緋、“硬”るも銅 ~散弾銃で殴るんじゃない~   作:阿久間嬉嬉

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魔剣抜刀・急 / 終

 守るように味方へ背を見せ、主武装の日本刀を八相に構え直す白雪。

 

 口へ手をやり、一瞬でショットガンを取り出しながら前に出るキンジ。

 

 煙を感知したスプリンクラーがまき散らす、異様に冷たい水を浴びつつ警戒する彼らの後方で、解放されたアリアが叫ぶ。

 

「あんたはやっぱり《魔剣》で充分よ、卑怯者! どこまでも似合わないご先祖様ね! ジャンヌ・ダルク三十世!!」

「それはお前もだろう、ホームズ四世」

 

 挑発だと分かっていても、その言葉だけは聞き逃せずにいたジャンヌの声が、離れた位置(エレベーターホール)から届いて来る。

 

 そして気付く……六階全体の室温が、急激に下がっている事に。

 スプリンクラーからまかれる水も途中で凍り付き、地下七階で煙幕代わりに使われたダイヤモンドダストを、より広い範囲で作り出す。

 

 神秘的な美しさとは裏腹に、このスーパーコンピュータ室の構造と材質では、決してありえない魔の現象だ。

 正しく、魔法。

 数多の人を魅了する銀氷の輝きも、この場では恐怖を呼び覚ます捕食者の眼光に等しい。

 

「キンちゃん、アリアは暫く戦えない……だから守ってあげて」

 

 それでも同じ超偵(ステルス)故に感じ取れる“意図”はあり、まだジャンヌが攻勢に出ないと判断した白雪は、右手に刀を保持しながら後退。

 

 左手でアリアの右手を包み込み、暖かな光を微かに灯し始めた。

 

魔法使い(マッギ)の冷気は、自然のそれとは形質が違う……ただ溶かすだけでは意味が無い、云わば毒なの。でもシスターか巫女なら綺麗に出来るよ」

 

 ならばすぐに戻れるはずだろうと考えた、キンジの口を先んじて抑えるかのように、けど…と白雪は続ける。

 

「この氷はとても強い(・・・・・)G(グレード)も8はあるから、私の力で治癒しても元に戻るまで……最低、五分はかかる」

 

 たかが五分。されど五分。

 この場でなくとも、あまりに長いその時間。

 

 数秒で首を落とせるだろう魔剣(ジャンヌ)に、分単位のハンデを抱えたまま挑むのは自殺行為だ。

 

 ……問題はそれだけではない。

 それを、今度はアリアがジャンヌに聞こえぬよう、小さな声で二人に伝えた。

 

「予め言っておくわ、あたしの銃はもう使えない。床に氷で貼り付いちゃってるし、そもそも寒冷地仕様じゃないのよ。オーバーホールしなきゃ生き返らないわ」

「遠距離要員は、オレだけか」

 

 皮肉にも、この中で一番おかしな武器が、一番安定していた様子。

 

 そしてアリアのカミングアウトと、キンジの返しを聞いた白雪は、三度決意して口を開く。

 

「なればこそって言うべきかな……繰り返し、お願いするよ、キンちゃん。後ろに居て、アリアを守って。ジャンヌとは、私一人で戦うよ」

「回復できるのがお前だけなら、逆だろ。そうでなくてもあいつ相手に、お前一人前に出させて戦わせるほど、オレは冷血じゃあない」

 

 まごうことなく本心から零れたキンジの言葉に、しかし白雪は首を横に振る。

 

「うれしいよ、でも、今は……今この時だけは、私に戦わせて。心だけで抗っている訳じゃない、勝算が無いわけじゃない、だから」

 

 言い終わり、今度は呪文のような物を唱え始めた白雪の内心を巡る、決意と想い。

 

 

 

 ―――そして、先の光景。

 

 迷惑とは言ったけれど、それでもずっと無視しないでいてくれて。

 ずっと、ずっと、何時も通りに接してくれて。

 どこか苦手そうだった自分のことも、自分の予想を超えて、自分以上によく理解していた。

 

 武偵は超偵に勝てないと言う常識を、あろう事か馬鹿力で覆し。

 キルトラップを、持ち前の頑強さで無視し。

 人質を取られても、常識外の遠距離業で、思惑もろとも突き崩した。

 

 そして。

 余りに無茶苦茶な彼を、そんな彼の隣を走ろうとする少女を、身を投げ出してでも守ろうとした者達を……改めて見やり。

 

 

―――白雪は、鳥籠を破る決意をする。

 

 

 そもそも、だ……何がキンちゃんのお世話をするだ。振り返ってみれば、守られてばかりじゃないか。

 “つもり”でしかなかった事を見ずにいて、どうする。

 

 『どこかに行ってしまう』という、巫女占札の結果からも、分かっていた事だろう……キンジは、ずっと自分の傍になんていない。

 

 自分が今のまま(・・・・)でいる限り、傍に居続ける事は出来ない。

 

 元より何のために自分は東京まで出てきた?

 それすら叶わぬのなら戻ると、素直に諦められないのが自分(白雪)なのに、何時も通り震えて見ているばかりか?

 

「う、くっ……!」

 

 ――白雪の治療に痛みが伴うのか必死に声を押し殺すアリアと、先の言葉へ反論せずにいるキンジの横顔を、今一度彼女は見つめた。

 

 ここまで踏み込んで来た彼らすら、先の自分の発言を信じて、身をまかせようとしてくれている。

 アリア(好敵手)は、位置を知らせない為に、袖を噛んで堪え。

 キンジ(憧れ)は、やりたい事をやって来いとばかりに一歩下がって、遠くを見やる。

 

「はっ…!」

 

 ――ならば私も、ちょっとだけ憧れへ、近付こう。アリアのように……キンちゃんのように―――

 

 

 想いと共に呪文の書かれた、和紙の御札が四方へ投げられたかと思うと、白雪の周囲の氷煙が晴渡り……周囲の気温が段々と、暖かい物に戻っていく。

 

 濡れていた、皆の服も乾いている。

 

 魔法のようであり、されどジャンヌとは真逆の暖かな情景の中、白雪は一歩前に出た。

 

「ジャンヌ……最後の確認だよ、どうしても戦うの?」

「それ格上が口にすべきものだ。元より、原石にすぎぬ貴様が、イ・ウーで研鑽した私に勝てるとでも?」

「私はG17超能力者(ステルス)なんだよ」

「……」

 

 最初の宣言へ嗤って返したジャンヌも、白雪が口にしたその、超能力者にとって最大級の威嚇に相当するのだろう言葉は、笑わない。

 

「貴女も感じる筈。この頭のリボン……封じ布を、解いた時に」

「それが仮に真実であったとしても、だ」

 

 ジャンヌは今度は緊張感の籠った、そしてどこか認めがたいよう心のある声音で、言葉を紡ぐ。

 

「お前は星伽を裏切れない。それがどういうことを意味するか、お前自身がよく分かっているからだ」

「キンちゃんに続いて……策士、策に溺れたり、だね。今までの私はそうだけど、今の私は星伽の……どんな制約(おきて)も破らせる。そんな想いを抱かせる存在が、傍にいる」

 

 室内温度が常温へ戻り、発煙筒の煙も消え、スプリンクラーが次々と停止する中。

 三度、『誤算』を突きつけられたジャンヌは、とうとう黙り込み――意を決したように、煙の奥から姿を現した。

 

 顔こそいまだに白雪ではあるが、服装が違う。袴と小袖から、可能な限り軽装化した西洋甲冑へ変わっている。

 

「直接対決そのものは、一つのケースとして想定済みだ。それにGの高さと精神力の消費は比例する事を、知らぬ訳ではあるまい。戦闘継続時間は、こちらが上。持ちこたえれば、私が勝つ」

 

 言い終わるや否やジャンヌは“顔”に手をかけ、ベリべりとそのマスクをはがす。

 

 どうやら生来の顔では無かったらしく、その下から現れた瞳は、刃のように鋭い切れ長の蒼眼(サファイア)

 三つ編みとポニーアレンジの、ハーフアップに整えられた髪も黒ではなく、氷のような銀。

 

「リュパン四世仕込みの動き難い変装も、これで終いだ」

 

 古めかしさのある、男勝りな口調とは裏腹な……美しい白人であった。

 

 本来の姿を見せたジャンヌから目をそらさぬまま、白雪は後方のキンジへと、微かに震えながら言う。

 

「キンちゃん、ここからは私を……見ないで。これから使うのは――星伽に禁じられた技。これを見たら今ちゃんはきっと怖くなって…ありえない(・・・・・)って思う。キライになる。だから……」

「そっちの方が、余程ありえねえんだわ」

 

 あくまで簡素で、しかしストレートなキンジの言葉に背を押されて、それでも少しだけ無理に作られた笑顔のまましゅるりと、頭の白布を解いた。

 

「ジャンヌ、これでもうあなたを逃がす訳にはいかなくなった。星伽の禁制鬼道……貴女達と同じく始祖から脈々と、おおよそ2000年の永い時の中で対で来たこの力を、見るからだよ……!」

 

 柄頭に右手を添え、刀を横倒しにし、それでいて頭上に掲げると言う奇妙な構えを取った、まさに瞬間―――ボウッ!! と刀身に緋色の光が広がる。

 

 それは……まぎれもない、灼熱の焔(・・・・)

 

 つまり件の構えは、その焔で自らを傷つけないことを前提にした、正に火焔剣術専用の型なのだ。

 

「白雪は(いみな)を隠す、伏せ名。本当の私の名前は……緋巫女(ひみこ)

 

 周囲を照らし上げる程の光を放つそれが、揮発油や可燃ガスによるトリックありきなものではないことは、最早言うまでもない。

 

『キンちゃん――火って、好き?』

(あの、質問は…)

 

 キンジは思い出し、また察する。

 葛西臨海公園で白雪が口にした、糸の読めない謎の質問を。そこに込められていた、意図を。

 

 

 そして奇しくもそれとほとんど同時に、矢の如く白雪は駆けだした。

 

「やあぁ!」

「……!!」

 

 紅き熱をまとう白雪に目を奪われていたジャンヌは、されど一瞬屈むと、隠していた西洋剣を取り出し日本刀の一撃を受け止めた。

 

 火花ではなく氷塵が周囲へ飛び散り、鎬を削る2振りの刃を中心にして、冷気と熱気が入り混じる。

 

「フ……ッ!」

 

 白雪渾身の一撃は、するりジャンヌに受け流され、その先にあったコンピュータを音もなく切断。

 

 恐るべき切れ味ではあるが……何故かジャンヌはそれを見るか見ないかの内に、すぐさま後退してしまう。

 

 その顔へ、僅かながらに怯えている表情を浮かべて。

 

「炎……!!」

 

 火あぶりになりかけたから、この力を研鑽し続けた――彼女の先祖が氷の力を鍛えた理由を、先にジャンヌは説明している。

 

 しかし、それならば熱を操る力でもいい筈だ。

 己を守るような力でもいい筈だ。

 なのにどうして真反対の、極低温を選んだのか。

 

 その答えは恐らく、彼女のその表情そのもの(・・・・)。自分を殺めかけたその赤色が、溜まらなく恐ろしかった(・・・・・・)のだろう。

 

 だからこそ、凍れる銀色の属性を研究し続けたのだろう。

 

「今のは星伽候天流、初弾の技。次の、緋火虞鎚でその剣を斬ります。それで終わり―――イロカネアヤメに、斬れないものはないの」

「それは――こちらの台詞だ、白雪。私の聖剣デュランダルに、斬れぬものなど存在しない」

 

 真っ向返したジャンヌは己の異名の元なのだろう、幅広のクレイモアをすっと立てて、炎への根源的恐怖を振り払うように構えた。

 

 鍔にはめ込まれた蒼い宝石が、炎に照らされその身を一層、輝かせる。

 

 刹那……。

 

 

「――っ…はあぁ!!」

 

 白雪は勇猛に、だがどこか焦燥を募らせて、ジャンヌへと斬りかった。

 

「せぇっ!」

 

 破壊力こそ高いが、高熱をまとう性質故に上段始動が基本となる白雪の剣術を、中・下段を切り替えつつジャンヌは迎え撃ち、紅の剣閃尽くを捌いていく。

 

 一瞬の停止から鋸のように引かれ、かと思えば跳ね上がって来る日本刀を避ければ、リノリューム床が切り裂かれる。

 刀身を立てて扇状に捻り、剣の腹で打ち据える防御から連動して薙がれた西洋剣をいなせば、集積回路が千切れ飛ぶ。

 

「ヤァ!」

「ふん…っ!」

 

 焔気の墨が中空に“三”の字を描き、氷気のインクが逆三角形を映し出し、かと思えば周囲が斬れる。

 

 ギン!! ザギンッ! ギギィン!!! ……っと、床もコンピュータもキャビネットも壁も扉も、その全てが切り結ぶたび例外なく刻まれていく。

 

 ―――唯一切れていないのは、白雪の持つイロカネアヤメと、ジャンヌの持つデュランダルのみ。

 

 斬れぬものなしと豪語した彼女らの得物だけだ。

 

 

「これが一流の、超偵の戦い、なのね……!!」

 

 ここで漸く最低限回復したアリアが、キンジの足元で顔を上げた。

 

「だが長くは続かないな。ジャンヌが言っていたし、星伽白雪の攻めも強引すぎる」

「あんたにだけは言われたくないだろうけどね……でもその通りよ」

 

 Sランク且つこれまでの経歴から超能力者との戦闘経験もあるアリアは、冷静にツッコみながらキンジを肯定しつつ、言葉を続ける。

 

「普通、超能力者は消耗を最小限にするため勘所で使うの。でも同類が相手だとそうもいかない……だから最初から全力で使い続ける」

「その代わり消耗が半端じゃあないから、ガス欠も早い」

「正解。だからその瞬間を狙うの」

 

 望むならばジャンヌのガス欠を狙いたいが、焦りっぷりを見るに恐らく先に限界が来るのは、白雪だ。

 介入のしづらさと本人の決意から、今は二人とも見ているだけ……だが上記の通り、どうしたって加勢が必要になる。

 故に作戦立案は必須だと、アリアは二人から目をそらさないまま、何処か硬い語調でキンジと言葉をかわす。

 

「正直……あそこまでの戦いには、出あったことが無いけど、経験則と勘で……何とか、してみせる」

「頼んだ」

「……! ええ、頼まれたわ!」

 

 彼女の直感通り都市伝説(デュランダル)が実在し、迫っていたと知ったからか、キンジの返答は軽くも早かった。

 既に前傾姿勢を取ってすらいる。

 

 パートナー候補の信頼を受け、更に元気を取り戻したアリアは、だからこそチャンスを逃さないため二人を見つめ直した。

 

 

 ―――そんな短い作戦会議の間に、戦模様は大きく変化していた。

 構えの弱点があって尚、白雪優勢だった戦況は……今や互角。

 

 それもただの拮抗にあらず。

 ジャンヌは単なる消耗に近しく見えるのに、対する白雪は歯を食いしばっているのだ。

 

 くり出された大上段からの唐竹割も、明らかに威力が上手く乗っていない。ならばと、途中で峰に掌を添えた体当たりへと変えられる。

 

 ジャンヌもその強引な一撃を受け止めきれず、重みと衝撃で数歩退く。

 

「はぁ、はぁ……!」

「ふ、ふふ……!」

 

 最早手を添えられる程度の炎(・・・・・・・・・・・)しか纏っていない白雪を、ジャンヌは不敵に笑って見やる。

 

 その笑みと共にざぁっ…! とまかれたダイヤモンドダストに紛れる。そして、咄嗟に突き出された日本刀へ西洋剣を添え、身体ごとスピン。

 ガンッ! と後方の壁面へ突き刺させた。

 

 本来ならばもっと深く沈み込むだろうイロカネアヤメは、その切っ先しか埋もれておらず。

 

「はぁ……はぁ、くうっ……!」

 

 フルマラソンもかくやの疲労困憊ぶりでそれを引き抜いた白雪は、何故か朱鞘に刀を収めてしまった。

 

 それでもジャンヌは油断なくデュランダルの先端を向けている。

 

「私の剣のみ狙い続けるとは、甘い女だ……まるで氷砂糖。不壊の聖剣デュランダルを、あろう事か斬ろうなどと、おこがましいにも程がある」

「く……!!」

 

 首へ向けられた白刃にも白雪はただ、苦悶の呼吸でしか返せない。

 

 正に万事休すな光景を前に、キンジは微動だにしないまま、アリアは浮きそうになる身体を自制させて、ひたすら待つ。

 

「白雪は……力を圧縮(チャージ)してる様に見える……ただの疲労じゃないわ……まだ手がある……!」

「…………」

 

 そして再び室内が氷点下へ至ったかと思うと―――突如として風雪が吹き荒れ、白銀の空間を作り出していく。

 

 それは後方へ構えられたデュランダルへ、ジャンヌが力を溜めている証。

 

 万が一を徹底的に排除すべく、青白い光を聖剣の刃へ、徐々に蓄えさせているのだ。

 

「見せてやる、『オルレアンの氷花(Fleur de la glace d'Orlēans)』を――銀氷となって、散れ……!」

 

 冷酷な残光が細氷を蒼く照らし出し、いよいよ白雪へ叩きつけようと、ジャンヌが一歩前に出る。

 

 

 ―――刹那――!

 

 

キンジ! 3秒後任せた!

 

 寸詰まりの刀を抜くか抜かないかの内に、弾丸もかくやとアリアが飛び出した。

 

 余程集中していたのだろう。ジャンヌはまるで今気が付いたかの如く、ハッと白雪からアリアへ視線を移すと、まなじりを釣り上げる。

 

「ただの武偵の分際で!」

 

 “武偵は超偵に勝てない”そのセオリーを破りに来たアリアへ、ジャンヌの怒りに任せた横一閃が向けられた。

 

 だがその一閃が振り切られるより早く……ジャンヌが脱ぎ捨てた足元の巫女服を、アリアが刀で掬い上げ、一瞬だけ視界を塞ぐ。

 

「……!!」

 

 もう止まらないジャンヌの剣から放たれた、凍てつく蒼き奔流は―――スライディングで抜けたアリアの上を通り過ぎ、天井へと巨大な氷の花を咲かせる。

 

 ここまで巨大な力を使ったと言う事は、つまり、逆説的に……!

 

「今よっ!!!」

 

 ―――そんなアリアの叫びより一瞬早く、キンジはジャンヌへと一足飛びに接近。

 速度を全く殺さぬまま、カッパーレッド・ショットガンを槍のように突き出し、同色のシェルをぶっ放った。

 

 この超速の一撃にジャンヌは……恐るべき早さで反応し、引き戻したデュランダルで弾き流しながら、迫りくる銃口を睨みつけ。

 

「力馬鹿、如きがあっ!!」

 

 なんと逆に肉薄(・・・・)

 足元を払って来たアリアの二刀をジャンプで避け、キンジが左手で投げた破片の散弾の力を使って、刀身を回転させ一気に唐竹割へ移行した。

 

 狙いは……キンジの、脳天。

 

 なんという超人技か。

 魔力を失っても健在な剣術でくり出した魔技は、最早キンジがどう動こうと、頭を捉える軌道で迫っている。

 

 理子に使ったショットガンの入れ替えは、やった所で近すぎて届かない。

 体躯の大きさが災いし、真剣白刃取りも間に合わない。

 

 アリアの、白雪の視界の中で、スローモーションのように流れていく斬り降ろしは、とうとうキンジの脳天を捉え―――。

 

 

「え……?」

 

 瞬間、惨劇が止まる。

 

「キン、ちゃ……」

 

 デュランダルが、平行になる。

 

「――ッ――!?」

 

 空中で、ジャンヌが停止する。

 

 

 

 

 

 

 

「ギ、ギギ…」

 

 キンジが、刀身へ喰らいついた事によって―――!

 

「な、なん……なんっ……」

 

 最早獣か鰐か、思い付いこうと不可能な咬合白刃取り(バイティング・キャッチ)に、ジャンヌもアリアも白雪も、何も言葉が出てこない。

 

 唯一素面で動くのは、下方からギリギリでショットガンを突きつけようとする、キンジ一人。

 

 しかし武偵法9条(殺さず)の存在と、まだ止められた程度という現実を推進力に変え、ジャンヌは再び力を込めた。

 

 自分は相手を殺せる。キンジは殺せない。

 次の一手の早さならば自分に分があると……!

 

「ギ、ガ——ガアッ!!」

「うあっ!?」

 

 その思惑を……ジャンヌを顎の力だけで投げ上げた、キンジの眼光が。

 

「白雪!」

「―――緋緋星伽神(ヒヒノホトギカミ)―――!」

 

 駆け抜け、居合い抜きの要領で下から上へと振り上げ、聖なる剣にとどめを刺した白雪の刀が。

 

 体勢を崩し、剣を割り、全てを脆くも砕いた。

 

 そして空中に居るジャンヌへと―――氷花を天井もろとも破壊せしめて残る、白雪のナパーム弾の如き炎渦の柱を、身一つでキンジが“ぶち破って”迫り。

 

「寝ていろ!」

 

 中折れ状態となったままのショットガンを、上下逆さにして振り上げ、構え。

 発砲させてジョイントをガキン! と戻し、鞭のような一撃を放つ。

 

 意識を失う直前ジャンヌの脳裏に浮かんだのは。

 

(なん、なんだ、おまえは……)

 

 心からの、畏怖の言葉。

 

 

 ……そして。

 

「は、ははは……ありえない(・・・・・)、過ぎるよ、キンちゃん……」

 

 思わずそんな一言を、白雪も口にしてしまうのであった。




・小話・

Q.キンジってゴリラですか? ワニですか?

A.ワニゴリラです。
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