翔るは緋、“硬”るも銅 ~散弾銃で殴るんじゃない~ 作:阿久間嬉嬉
ちょこっとだけキンジの秘密に迫ります。
―――あの後。
キンジの
炎が怖いか怖くないかという白雪の問いへ、真の答えを
助けに来た二人へ“ごめんね”と言いかけたのを、“ありがとう”と自ら治して、曖昧になりかけていたあの日から続く闇にも終止符を打った。
また流石に無傷ではなかったのか、キンジの毛先は多少コゲていたものの……肌などは火傷どころか、擦り傷と呼ぶにも微妙なものしかなかった様子。
その所為でアリアが、「ちょっとは火傷しときなさいよ、人として」とツッコんだことを、追記しておこう。
件の《魔剣》ことジャンヌは取り決めに従い、警視庁や武偵局へ送る前に、まずは
その際、綴教員はツンとそっぽ向く黙秘を決め込んだジャンヌを前に、物凄く邪悪な笑みを浮かべており、キンジ達はその表情がある意味頼もしく思えたとのこと。
これにて、白雪の護衛依頼、及び《魔剣》は終息を見た……。
「
レキが
催しも、裏の騒ぎも様々あった、アドシアードの全過程が、今日終了。
ボーカル兼ギターの不知火と、ギターのキンジ、ドラムの武藤による即席チームの演奏に合わせて―――晴天の元、いよいよ閉会式の
まだアリアたちの姿は見えないのは、まずは彼らの演奏のみで、アップテンポになってから本命がやって来る、そういう流れになっているからだ。
尚。
気になっっている方もいるかもしれないが……なぜバンドが生徒からの募集制なのかと言うと、単に武偵高が予算をケチっている為。
まあ弾代やサーバー運営など、確かにお金はかかるので、仕方ないと言えば仕方ない。
「bangbabangbabang'a?」
そして一気にテンポが変わって、チアガールたちの出番がやって来る。
いい笑顔で左右から女子たちが集まり、手に持ったポンポンを振って踊り始めるその中に……なんと、白雪までいた。
「や、やっぱり、その……」
「そのもあのも無し! GO! GO!」
「あうん」
もじもじしていた所をアリアに蹴り出されて、舞台の中央まで一気に運ばれていく。
――武藤が歓喜した理由こそ、まさにこれ。
キンジとの臨海公園外出、星伽の禁制鬼道使用……ここまで重ねたらもう同じでしょとアリアに促された結果、半ばやぶれかぶれで白雪もアル=カタをする事になったのだ。
《魔剣》との戦闘で色々吹っ切れた事と、キンジの「良いんじゃねえか?」という何時も通りのストレートな言葉が、どうも彼女を後押ししたらしい。
ただアリアとメインペアで出場する事までは、白雪の想定外。
なので最初は止めようとしたものの、先の通り準備委員会には出場を切望されていたし、そもそも振付を考えたのは白雪だしで、何の問題も無くするっと決まってしまったのである。
けれど、こんな形であれど……とうとう白雪は、《籠の鳥》という縛りを破ったのだ。
危うげでも籠から飛び立った、彼女の周りに籠はない。
今はまだ、広い世界へ羽ばたく練習段階。近辺を、おっかなびっくり飛び回るだけ。
でも何時か、広い空へと飛び立つ、その日はきっとやって来る。
「…………」
「いいぜ、いいぜー!」
一体どういう感情なのか、口だけで笑んだ薄い表情のまま、しかしどこか熱意を込めてギターをかき鳴らすキンジ。
隣では超が付くほどノリノリ、且つみなぎる元気のまま武藤がドラムを叩いている。白雪のチアガール姿に触発され、練習よりもうまく、力強く奏でている。
「I'd like to hug the body…」
その彼らの熱のある演奏を受けて尚、爽やかさを崩さないボーカルの不知火。そんな彼の歌うパートが、とある歌詞に入った直後―――ぽーん!
女子たちが一斉にポンポンを捨てると、隠していた拳銃が出現。会場の生徒達は大盛り上がり。
そしてバン・バン・ババンの歌詞に合わせて空砲を放ち、生徒達にウケたのとノリで更にヒートアップして、練習以上に撃ちまくる。
知っての通り、アル=カタの意義は“世間へのイメージアップ”……だがこんな物騒な仕込みをしては、本来の目的も果たせなくなりそうだ。
せめて、報道陣が手心を加えてくれることをただ祈り、ただ信じるばかりである。
そして……振付分全てを終えると同時に、アリアと白雪を中心に組体操のようなポーズへ移行すると、左右から紙吹雪が飛び出し。
「
『FOOOOOOOー!!』
不知火が歌い切り、アリアや白雪や女子たちが声を挙げ、キンジと武藤も残心と余韻を見せ―――これにてアドシアードは一件落着となった。
今はもう、満面の笑みを浮かべる白雪を祝福するかのような、雪にもにた銀紙の舞う中で……。
・
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―――時刻は、夕刻。
学園島唯一のファミレス《ロキシー》内のボックス席に、キンジ・アリア・白雪の三人は居た。
アリア主催のアドシアード打ち上げ二次会と言う事で、しかも上機嫌な彼女のおごりである。
理由は勿論、《魔剣》の逮捕により母・かなえの刑期を一気に短縮できたからだ。
リアル貴族なのに何故ファミレスなのかは置いておこう。何より、不躾に聞いたキンジが撃たれ(弾丸を掴んで捨て)ているので、聞いた所で野暮にしかなるまい。
……ちなみにキンジ達バンドメンバーの打ち上げもここだったため、実は彼は二時間近くずっと座っていたりする。
ならばもう少し抗議の声を挙げてもよさそうなものだが、割とどうでも良かったのか、もしくは疲れから諦めたのかもしれない。
閑話休題。
なにあれともあれ、各人で注文を終えた後、一番に声を挙げたのは―――アリアだ。
それもどこか、不満げに。
その声が向く先は当然と言うべきか、キンジである。
「あのねぇ……あんた何でミルクティーなのよ。あたし達が来た時も飲んでたわよね?」
「意外と美味いんだ」
「味の話じゃないのよ味じゃ」
ため息をつくアリアだがどうやら白雪も同じなようで、ちょっと苦笑いを浮かべている。
されど仕方あるまい。
何せ白雪ですらしっかりしたご飯を頼んだし、そもそもこれは打ち上げだと言うのに、キンジの注文は
無論、理由はそれだけにあらず。
「確かに一番頑張ったのは白雪だわ、でもMVPは満場一致であんたなのよ? もうちょっと高い物を頼みなさい」
「ここのミルクティーは1種類だけだ」
「他の物を頼めって言ってんのよ!?」
「はは…やっぱりミルクティーなんだね、キンちゃん」
最初から事件の可能性を考え。
途中の意図的な分断策を自ら言い出し。
最初の邂逅で白雪を救出。
最後は剣へ食らいついて止め、散弾銃で殴り落とし、ジャンヌを仕留めた。
ここまでの活躍をしておきながら、頼むものがドリンクだけとくれば、そりゃあ奢る方が異議を申し立てたくもなる。
これが謙虚や遠慮ならば兎も角、そうではない上に素なのだから、自然と語調も強くなろう。
「まったくもう……」
梃子でも動かない事を察したアリアは、今度は自分が諦める番かとため息をついて腕を組み、座り込んでしまう。
するとそれを見計らっていたかのように、白雪が切り出して来る。
「それでアリア。『話がある』って、なんのこと?」
どうやらロキシーへ来る前にそんな前置きをしていたらしく、改めて聞かれたアリアはコホン…と一つ咳払いし、びしりと白雪へ指を突きつける。
そしてファミレス内へずんと響くほど、大きな声で宣言した。
「白雪! あんた、あたしのドレイになりなさい!!」
―――キンジの部屋へ
その暴君中の暴君さながらな発言に、キンジや白雪は勿論のこと、隣のボックス席にいた男子生徒数名ももれなく固まる。
……至極当然の反応過ぎた。
「ありがとう、白雪」
更に文脈すらおかしくなったせいで、いよいよ内容が分からなくなってきた。キンジですらツッコミを飛ばさない。
そんな空気となろうとアリアは少しもブレぬまま話し続ける。
「キンジ、レキ、そして白雪……今回《
されども、それ故に段々彼女の言いたい事が見えてきた。
「そしてあたし一人で当たっていれば実力から殺されて、白雪だけならそのまま攫われて、キンジだけなら逃げられていた……誰か一人で当たっても、今回の勝利は絶対につかめなかった。それは認めるわ」
紡がれた理不尽な
白雪は元々イ・ウーへ攫われてもいいと言う、覚悟の上で相対していたのだし。
キンジは戦えこそしても、その異質さから即撤退を選ばれかねなかった。
決して愚者ではないジャンヌが彼ら個々人を相手にどう動くのか、それは想像に難くない。
つまり今回の件は、奇跡のようにピースが噛み合った結果、勝ちを得る事が出来た。
そう、アリアは言いたいのだ。
「今回の勝利は、三人の勝利。……今まではパートナーさえいれば良いと思ってたけど、二人じゃ出来ない事もあるんだって、知った」
脳裏に超能力者同士の戦いを浮かべながら、アリアは続ける。
「こっちの方が強いのだとしても、それだけじゃ意味がない事もざらにあるわ……つまりあたしのパーティに、新たな特技持ちが増えるのは良い事なの。白雪みたいな、あたしに無い力を持ってる仲間は特にね」
だからこのドレイ発言もまた、あの時のキンジと同じもので。
要するにただの言い代えであり、本質はパーティーを組まないかと、仲間になって欲しいと言うものであったのだ。
「ド、ドレイって……でも、キンちゃんさまの、ドレイなら、わ、私……」
「オレは嫌だからな、心の底から」
「ひゃいっ!?」
一方、白雪は最初の“ドレイ”発言が変なツボに入ってしまったようで、もにょもにょとそんなことを呟き、キンジに拒否されてしまう始末。
先ほどもしもを否定しなかったのは、これで反応出来なかったかららしい。
「まあとにかく! そういう訳で契約こそ満了したけど、これからはなるべく一緒に居てもらうわよ! だから集いの場も可能な限りキンジの部屋にする事! そしてはい、これカードキーね!」
「ありがとうアリアありがとうキンちゃん!」
「感謝をするならカードを捨てろ」
追加でとんでもない事を言い出すアリアと、凄まじい速さでキーを取り胸元にしまい込む白雪に、キンジは結構嫌そうな顔でそう呟く。
地味に『集いの場』であって『住居』ではないあたり、キンジの部屋の彼女らの私物は片付けるつもりなのだろう。
……まあ片付けないと部屋の主へ
銃を出して脅さない理由は、まあ言うまでもない。
無駄弾が増えるだけなのだし。
「ご、ご注文の品になりまーす…」
そうこうしている内に―――彼らの大騒ぎに頬を引きつらせ、また最初に撃ったせいで怯えてもいるウェイトレスが、注文の品を運んできた。
アリアはコーラとももまん丼。
白雪は烏龍茶と炊き込みごはん御膳。
キンジはミルクティー3杯。
まともな注文が白雪しかない、と言う先の会話よろしく凄まじく悪目立ちするボックス席で、それぞれが飲み物を手に持って……。
「それじゃ新たなドレイの誕生に
「嬉しい、嬉しいよ……っ! これがキンちゃんの、愛の証だよぉー!」
「後でチョップだ、待っていろ」
言葉は全く揃わないまま、息ぴったりにがちゃん! とグラスを突き合わせるのであった。
――そして、おおよそ三十分後。
――キンジがお手洗いに席を外した時。
「それで白雪、本当にキンジは
「うん…何の力も、感じなかったよ。だからこそジャンヌも、『力馬鹿』って言ったんだろうし」
「戦い方が限定されているのは“ぽい”んだけど……」
「星伽候天流と、ある意味同じだね。火に焼かれない為の構え――でも」
「ええ。白雪は普通に剣術を使えるわ。でもキンジは我流体術と、ヘンテコショットガン以外、呆れるほど使えない」
「本人でもどうにもならないみたいだしね。念の為調べてみるよ……遠山家とは縁があるから」
一番身近で、一番謎な男へ踏み込むその会話と、ちょうど同じタイミングで―――。
「……くふふ」
学園島へ新たな旋風が巻き起ころうとしていた。
Q&A式の小話を挟んでから三巻目に移ります。
次は理子との再会、そしていよいよ
なのでキンジがより一層やらかします……お楽しみに。