翔るは緋、“硬”るも銅 ~散弾銃で殴るんじゃない~   作:阿久間嬉嬉

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自身の目指す道と《武偵殺し》とのかかわりをちょっと察した所為で、ここからキンジ(硬)がアクセルかけて段々バカ、もといアホな事をやらかしてきます。


《武偵殺し》の真相

 バスジャック事件翌日。

 

「一体どこにいるのよ、あいつ……」

 

 事件についての報告書を出し、入れ替わりに受け取った探偵科(インケスタ)鑑識科(レピア)から《武偵殺し》の使っていたホテルのデータ及び痕跡をまとめた資料を手にしたアリアは、恐らくキンジがいるであろう場所を虱潰しに探し回っていた。

 

 

 しかしながら、今のところ学園内に影も形も見当たらない。

 

 

 彼女がパートナーにしようと必死だったころは主に男子寮で大人しくしているか、探偵科専門棟への出入りのみだったため別段苦も無く尾行できた。

 のだが今この時、言いたい事がある時に限って見つからないのだ。何と間の悪い男だろう。

 

 また「もしや向こうも自分を探しているのでは?」と念のため強襲科(アサルト)の黒い体育館にも顔を出してみたものの、そんなわけはなくやっぱり居なかったらしい。

 代わりに何故かイライラしていた強襲科の若い、それもアリアたちと同年代な女性教師・蘭豹に絡まれかけるなど、進展ありどころか散々な有り様。

 

 結局何処にもいやしない。

 

 そんな……まさにいつかの猫探しよろしくぶらぶら歩いていたアリアであったが、しかし。

 

「あれ?」

 

 コンビニ内部を除いた、陽が高くだだっ広い場所ではまず出会わない、ある意味レアな人物と遭遇する。

 それは碧色のショートカットを風に揺らす――。

 

「…………」

「どうしたのよレキ、こんな場所で」

 

 天才狙撃少女(スナイパー)、レキだ。

 

「何かあったの?」

「はい。風がいつもとあまりに違いましたので」

「今吹いてるこの風、じゃあ無いわよね?」

「風は風です」

 

 ついそのまま返してしまったアリアへ、しかしレキは特に気にする事も無く、抑揚のない声音のまま再度返答。

 

「曖昧な感情を……風が伝えてきているんです。或いは興味を持っている、とでも言いましょうか」

「だからこんな半端に開けた場所で立ってたの?」

「厳密には昨日の深夜からなので、今日ここに居るのは単なる偶然でもありますが」

 

 問いかけたのはアリアだが、その流れでレキがここまで自主的に話す事は珍しいのか、ルビーのような瞳を少し見開いて驚きの色を隠さずにいる。

 

 そしてその驚きは、次の言葉で容易く上塗りされた。

 

「ところでアリアさんは、これからキンジさんに会うおつもりですか」

「え…? え、ええ、そう……だけど……」

 

 まさかレキの口からキンジの名が飛び出るとは、さしものアリアも想像しておらず、言葉に詰まりながらの返しとなってしまう。

 

 ……だがそれも仕方のない事。

 

 レキは入学からずっと強襲学部狙撃科(スナイプ)でSランク武偵として戦ってきたのに対し、キンジは初期に強襲科でEを出して以降戦っておらず昨日の事件が実質初戦だった。

 あんな馬鹿げた動き(・・・・・・・・・)についアリアも惑わされかけていたが、思い返せば彼女と彼にこれまでの接点など間違いなく存在し得ないのである。

 そもそも先日の事件中ですら、キンジはレキとほぼ言葉を交わしていなかったことを、アリアもちゃんと知っている。

 

 彼自身が強いことと、強いから強い者とつながりがあることは、また別。

 それ故にどうしてレキの口からキンジの名が出たのか、アリアは不思議でならないのだ。

 

「ねえレキ、その風の言葉ってキンジと関係があるの?」

 

 だからかレキに先んじて聞いてみれば……。

 

「はい。断言しますが、風はキンジさんに興味を持っています」

 

 ……なんとも予想通りの答えが彼女の口から零れ落ちてきた。

 

「ただ『気を付けろ』とは言われていません、ただ興味を持っているだけです」

「なら大丈夫ってことなのよね」

「恐らく今は」

「……キンジの話をしたのは、合わない方がいいって事?」

「いいえ」

 

 まさかと思い聴いてみたところレキのアンサーは正反対であり、ちょっと拍子抜けしてしまうアリア。

 ―――が。

 

「人探しをしていたようなので、心当たりのある方を一人」

「ああそっかそっち……じゃあ居場所分かるの?」

「はい、あちらに。どうもまだそこから動いていない様なので、すぐ会えるかと」

 

 指さした方向にある景色をアリアは記憶から辿るが、そこにはただの空き地しか存在していなかったはずだ。

 そんな場所へキンジは何をしに行っているのだろう?

 

 またレキが分かっているのはアリアも雰囲気でしか分かっていない『風』のお陰であろうか?

 

 様々な謎を残しつつ、一先ずアリアはレキへありがとうとお礼を言って別れ、教えられた空地へと足を延ばす。

 

 

 

 

 

 レキの言った通り……そこはちゃんとキンジが、ペットボトルのミルクティーを手に空を眺めていた。

 2メートル代の灰髪男は相変わらず背だけで目立つ。

 

 ふと見ればペットボトル中身はほぼ減っておらず、そのため開けたばかりだと見受けられる。

 だがレキの言い分を信じるのならば彼はここに来たばかりではないため、静かにティータイムを楽しむ目的でここに来たわけではないと分かる。

 

 何気に謎の多いこの男(キンジ)の背中を見つめていたアリアは、されどそのままでいる訳にもいかず声をかけた。

 

「見つけたわよ」

「じゃあ次はオレの番だな、三十秒数える内にどこかへ隠れてくれ」

「かくれんぼを装って遠ざけようとしないでくれる?」

 

 やっぱりとでもいうべきか。

 事件関係無くキンジはアリアとなるべく一緒に居たくないのか、何時ものおとぼけ発言の裏へ《あっちに行け》という個人的な頼みを混ぜ込んでいたらしい。

 そしてそれに数日も付き合えば、推理力関係無く流石に気付く様子。

 

 なのでアリアはそう返すと、キンジの隣へおもむろに座る。

 大きめの石がそこらに散らばるこの空き地は座るのにもピッタリなものがそこかしこに存在しており、アリアもさして椅子を探す事なく腰掛けられた。

 

 しばし片一方だけ気まずい沈黙が続き……意を決したようにアリアは一つ、言葉を紡ぐ。

 

「あのねキンジ。…昨日は、ありがと」

「《武偵殺し》か」

「うん。奴が泊っていたらしきホテルのデータは改ざんされていたし、あんたの事件も手掛かりや証拠はやっぱりなかったけど、事件そのものは大事にならず収められた。これもキンジやレキのお陰よ」

 

 この執拗に証拠を残さない手口。もう模倣犯とは扱えないなと皆が口にしていたように、キンジもそれに近い事を呟くと、ちょっとの間目を閉じてしまう。

 

 ……黙り込んでから十数秒後、キンジは溜息と共に喋り出した。

 

「そりゃあ良かったんだわ…いやまだ悪かったか? 理子たちも頑張ってくれたってのに、奴の一件は結局進展してねえからな」

「それでもよ。まず第一に被害者を、そして武偵ならば仲間を助ける事。企み全部ではないけど、くじけたなら儲けものだわ。あとはこれで焦れてくれれば……」

 

 “目的達成まで大きな一歩を踏み出せる”

 ―――その言葉を、アリアはしかし、口に出来ない。なぜならばキンジと結んだ『一度だけ強襲科の自由履修で事件を解決する』という約束から外れてしまうからだ。

 

 無論、アリアの本心は違うのだろう。

 武偵高校で履修する基本技術がズタボロなだけで、それを補えるほどの身体能力を持ち、さらに後押しする【何か】を手にしている男を手放すなど、利害だけで考えてもかなり惜しい。

 

 そして聴きたいことも山ほどある。

 後押ししている【何か】についても、レキが言っていた事に関しても、本人に付いても……一般市民(パンピー)になりたいと言う頑なに掲げられる目的についても。

 

(《武偵憲章その2 依頼人との契約は絶対に守れ》……そういう、約束だもんね…)

 

 もっと言えば先のやり取りでも分かる様に、キンジはアリアを未だ遠ざけたがっている。つまりもう約束は済んだと、向こうも向こうで思っているのだろう。

 

 だから今日は「もうキンジを追わない」と告げて新しいパートナーを探しに行くと、そうアリアは伝えに来たのだ。

 後ろ髪惹かれない内にイギリスへ帰る準備を終えるつもりでもある。

 

 ―――言わなきゃ―――そう、意を決してアリアは顔を横に向け……!

 

「ふが?」

 

 ……開いたその口へ食べなれた好物の味(ももまん)が迫り、キンジに手ずから押し込まれた。

 しばらく放置されていた筈のそれは何故かしっかりとした噛み応えがあり、温度からして出来立てでは無かろうに、湿った不快感を与えない。

 

 思わずもぐもぐしてしまうアリアを見つつ、キンジは表情をいつもの少しダルメなものから変えないまま、しっかり彼女を見て口を開く。

 

「そんで次はどうするんだ? 待機か?」

「なん、はんふぇ(なんで)……」

 

 てっきり約束を持ち出してくると思いきや何故かまだ組んでいるかのような(・・・・・・・・・・・・)口ぶりで言ってくるキンジへ、アリアはももまんを咥え呆けたまま返す。

 

 そんなアリアへキンジはミルクティーのペットボトルを、片手でちゃぷちゃぷともてあそびながら、そう言った理由簡素に伝えてきた。

 

「《武偵殺し》の件はまだ終わってないだろうが。一度は、まだ続いている」

 

 だからまだ一度は終わっていない。……邪まに取ってしまうなら、いっそ詭弁とも言える言い分なのだが、キンジにはどうしても譲れないことらしく。

 

「それにな、これで引き下がっちゃあオレも憧れに邁進できない。後ろへ武偵由来の“陰”を引っ張って来ちまやあ、柔軟に変わるにも変われねえんだわ」

 

 そしてあくまで自身の目的を遮らせない、憧れを途絶えさせない為だと付け加えびしり、アリアを指さした。

 邁進云々も本心なのだろうが、逆に言うと今の台詞に偽りはないと言う事であり……。

 

「んぐっ……じゃ、じゃあ、つまり」

「おうよ、まだよろしくな神崎」

 

 依然として名字呼び、だけれど態度は軟化している。

 ――そうなると先のかくれんぼ発言は、本当にただの冗談だってのかもしれない。

 

 いや、だとしても……だからこそ、アリアはとても嬉しくなって。でも、素直じゃない言葉が前に出て。

 

「決めるのが遅いのよ! いいわ! 《武偵殺し》の件で、これからビシバシ使ってやるんだから!」

「………」

「なっ何よその目!?」

「ん? ……しまった、まさか神崎の音爆弾で耳が……?」

人の声を何だと思ってんのよ!!

 

 結局はさっきまでの、そして出会った頃のやり取りに戻ってしまうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

―――それから少し経ったある日曜の朝。

 

「どこに行くんだ神崎。武藤を呼んでいいか」

「何を想定しているか知らないけどね、遊びに行くんじゃないから」

「…………良かったあ……」

「待って、何で心の底からほっとしてんのよ!?」

 

 春だと言うのにボアでもこもこした暗い銅色の襟高長袖ジッパー服を着たキンジは、白地に薄ピンクの柄が入った清楚なワンピースを着るアリアに連れられ、新宿を訪れていた。

 

 アリアに道行く男たちはちらちらと目線を向けているがそれも当然、まるでファッション雑誌から飛び出して来たかのような、二重の意味で絵に描いたような美少女なのだから、自然と視線も吸い寄せられてしまうだろう。

 

 ……そして傍に居る日本人とは思えないぐらいバカでかい強面な男に気付き、目線を反らすまでがワンセットとなっているがそれは置いておく。

 

 そんなアンバランスな二人は西口から出るとショップの立ち並ぶ方角ではなく、オフィスの立ち並ぶビル街方面へと脚を進め始める。

 

 歩くこと数十分―――目の前に見えてきた建物に、キンジは思わず口を開いた。

 

「警察署じゃねえか。オレ、何かやったか」

「…あんたはあたしがどういう目で見てると思ってんのよ」

 

 しかしキンジの戯言は兎も角としてアリアの様にめかし込んでくる場所ではないのも事実。一体何が目的で来たのだろうか。

 というより、何故キンジまで連れてきているのか?

 

「迷ってたんだけど、教える事にしたの。あんたも《武偵殺し》の被害者の一人だから」

「…………なあ」

「?」

「神崎、お前確か《武偵殺し》のこと模倣犯じゃあ無えって言っていたな。ってことはまさか」

「…探偵科(インケスタ)なだけあって偶に鋭いのね。入ればわかるわ……付いて来て」

 

 アリアに促されるままキンジも所内へと入って行き、辿り着いたのは、留置人面会室。ドラマでもよく見る、管理官の監視下で拘留されている容疑者と会話をしている、あの部屋だ。

 

 そんなアクリル板越しに出て来たのは……驚くなかれ。緩やかに伸びた長い髪に、オニキスのような瞳を持った、一人の若い女性であった。

 

「あら、この方はアリアの彼氏さん?」

「すみません、人を突飛な性癖持ちにするのは遠慮していただけないかと」

「ち、違うわママってあんたは一々余計なのよ!!!

 

 ノリツッコミに近いアリアのチョップと、態となのかそれぐらついたキンジを見て、目の前の……アリアの母親はおっとりとした所作でくすくす笑う。

 

 実はキンジの内心は年の離れた姉にしか見えねえ―――意外と驚きで占められているのだが、無論誰も知ることはなく、そのまま会話は続いていく。

 

「じゃあ大切なお友達さんなのね。アリアもボーイフレンドを作る年頃になったのねぇ、お友達を作るのさえ下手だったアリアが……ふふ、ふふふ」

「違うのよママ、そういうのじゃないから、絶対。……こいつは武偵高の生徒で、名前は遠山キンジよ」

「その通りなので勘繰るのはやめてくれませんか。でないと胃が、多分三日前から動いていない胃が……」

また何も食べて無いのあんたは!?

 

 お決まりの夫婦まんざいを楽しそうに眺めるアリアの母親は彼女が落ち着くのを見計らってキンジへ声をかけた。

 

「初めましてキンジさん、私はアリアの母で、神崎かなえと申します。娘がお世話になってるみたいですね」

「ご丁寧にどうもありがとうございます。娘さんには余計なお世話でお返しされ」

ふんぬ!

「クリティカルヒット……!」

「うそつけっ!!」

 

 

 

 そんなやり取りを挟むうちにアリアも緊張の様なものが薄れたのか、本題に入るべくアクリル板の方へ身を乗り出す。

 

「面会時間がそうないから手短に話すけど……聞いてママ、このアホは《武偵殺し》の三人目の被害者なの。先週自転車に爆弾を仕掛けられたのよ、何とか切り抜けたけど」

「……まぁ…」

 

 ―――ここでかなえも表情を硬くし、空気が張り詰め 自然とこの場に緊張感が走る。

 同時にキンジも、先から考えていた憶測と、覚えた予感が段々『確信』に変わってきていると感じていた。

 

「さらにもう一件、バスジャックも起きてる……奴の活動は急激に活発化してきてるのよ。そしてバスジャックはあたしたちが解決したから、その予想外の影響も絡めて攻めれば、ヤツもシッポを出す筈。捕まえて、せめてヤツの件だけでも無罪を証明できれば、ママの懲役864年が762年にまで減刑するわ」

「……!?」

 

 そのありえない刑期を聞いて、さしものキンジも驚愕せざるを得なかったか、思わず目を丸くしていた。何百年の刑期など、最早懲役とは名ばかりの終身刑でしかない。

 

「最高裁までに何とかしてみせる、他も全部、絶対に! ママをスケープゴートにしたイ・ウーの連中、全部ここにぶち込んでやるんだから!」

「気持ちは嬉しいけど、イ・ウーに挑むには時期尚早よ。それに『パートナー』は見つかったの?」

「それは…」

 

 アリアが言いあぐねたのは、恐らくキンジとの約束が期限付きである為……そしてキンジの表情が少しだけ、パートナーと聞いて歪んだためだろう。

 無論ここで彼にちゃんと確認できれば良かったのだが、時間が迫っている手前、そのまま話は進んでしまう。

 

「アリア。あなたの才能は遺伝性のもの、でもあなたには一族の良くない面―――プライドが高くて子供っぽい部分も強く遺伝してしまっている。『パートナー』が居なければ危ないし、能力を半分も発揮できないわ」

「…………」

「曾お爺さまにもお祖母さまにも優秀なパートナーがいらっしゃったでしょう? そして、あなたにはあなたを理解し、世間とつないでくれる、橋渡しになる人が必要なのよ」

「それはもう何回も……耳にタコができるぐらい聞いたわ。欠陥品扱いで、パートナーが居なくて、だから……でも……」

「人は急ぐと転ぶもの、足元の小石にすら気付かなくなるものよ? ゆっくりと、しっかりと歩みなさい」

 

 そこでかなえが瞼を伏せたのと、ほぼ同時。

 

「神崎、時間だ」

 

 時計を見ていた管理官が面会の終了を告げて来てしまった。それでもとアリアはアクリル板へ喰らい付くように顔を寄せる。

 

「待っててママ! 必ず、全員捕まえてやるわ!!」

「やめなさい。アリア、一人で先走らないで……焦らないで。わたしはあなたが心配なの」

「いやっ! アタシは今すぐにでもママを助けたいんだから!!」

「最高裁は弁護士の先生が手を尽くして先延ばしにしてくれているの、だから落ち着きなさい……いつまでも傷が無いままではいられないのよ」

「やだやだやだやだやだやだあっ!!!」

「アリア……!」

「時間だ!」

 

 駄々をこねるように喚きだしたアリアを慰めるべく、かなえは身を乗り出してしまうのだが、そこを管理官に二人がかりで抑えられてしまう。

 

「やめろっ! ママに乱暴するなぁ!!」

「…………」

 

 引き摺られていく形で退室するかなえを見てアリアは激昂し、アクリル板へ飛びかかるが……当然ながらそれは透明なだけで、とても分厚い。さらに、固い。

 傷などつくはずもなく、傍で目を鋭くした内心の読めないキンジと共に、アリアはただ母親が向こうに消える様を眺めるしか無く。

 

 ―――扉が、閉ざされた。

 

 

 

 

「あんな扱いしていいわけがない……されるようなこと、してないっ……なのに、なのに……訴えてやるっ……あいつら、絶対に……!」

 

 曇り空の下を変えるアリアの足取りは、天候よろしく、とても重苦しい。

 キンジも声などかけられず、彼女がずっと独り言をつぶやく以外、何の言葉も交わさないまま新宿駅まで早足で戻って来てしまった。

 

 声を掛けられなかったのは、アリアの様子が上の通りであるだけでなく、恐らくキンジの予想を超えた刑期と冤罪が駆けられていた為も含むだろう。

 まさか乗り物ジャック以外にも複数の、それも重い犯罪を押し付けられているとは、キンジでなくとも予想できない。

 

 そして明かされた、アリアの焦りの正体……母親の最高裁。

 

 ―――以前アリアはキンジへ『ドレイになれ』と言っている。無論、その内実はドレイでも何でもなく『パーティーを組む』であったのだが……かなえとのやり取りを見るに、真の目的はどうやら『パートナーを見つける』ことだったらしい。

 

 確かにそれを見付けられれば、荒っぽいやり方とは言えかなえを助ける事も、もしかすると可能かもしれない。

 ……されどアリアは天才少女。

 彼女に合わせられる武偵など早々居る訳もなく、居たとして大概が政府直属など動かせない(・・・・・)者達ばかり。

 

 前も、そして今日もキンジを奇術程度で矢鱈と追い回していた不可解も、これで解けるし頷ける。

 考えてみれば銃を破壊できる奇術を持ち、銃弾を素手でつかみ取り、身体能力も高くSランク(アリア)に対処もできると来れば……キンジにしつこくもなるだろう。

 

「う……うっ……」

 

 とうとう降り始めた雨の中で、我慢の限界に来たアリアもまた、しゃくりあげて泣き出してしまう。痴話げんかにしか見えないのか通行人はただ、にやにやと通り過ぎるばかり。

 

「……………」

「泣いてなんか、無いんだから、アタシは……うぐっ、ふぐ……」

「………」

「うあああああぁぁぁぁ…ママァ……っ!!」

 

 土砂降りの如く泣き出した彼女を見つめる彼へ通り雨が降り注ぎ、夕暮れの中で目立つネオンが二人をちかちか、挑発するように照らし出す。

 

 結局二人は《武偵殺し》を捕まえようと意気込んだ時とは正反対の、暗い雰囲気のまま解散する羽目になった。

 

 

 

 

 

 

 

「……理子?」

 

 ―――とあるメールにキンジが気付いたのは、その夜のことであった。

 

 一気に動いた状況が、よりいっそう、猛烈に動き出す。

 

 決着はすぐそこまで、迫っている。

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