合法! セクハラ家庭教師   作:暮影司

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就任! セクハラ家庭教師

「もう一度言ってもらってもいいですかね」

 

 父親の姉の従兄弟……だっけ。要するに親戚のおじさんだ。平さん……平然(たいらしかり)さんという。アラフィフのはずだが若く見える。母親がロシア人とのことで、かなりのイケメン。そんなイケおじのセリフとは思えない、あまりの内容に思わずパードゥンした。

 

「うちの娘に、セクハラを教えてやってくれ」

 

 どうやら聞き間違いではないらしい。

 どんなバイトだよ……。

 断ろう。意味わからんし。理解できる気がしない。

 そう、俺は親戚のところにバイトの面接に来ていた。

 ここは応接間。高そうな壺とかがある部屋で、高そうな椅子に座っている。

 大学受験に失敗し、めでたく浪人生となった俺は、予備校のお金を親に出してもらっている以上、小遣いは無し。

 とはいえ、受験勉強をしなければならない立場だ。アルバイトにかまけるというわけにもいかない。

 そこで親戚が家庭教師をしてほしいというから、これは渡りに船と思ったんだが……。

 

「うちの娘は、かわいい。超かわいい」

 

 そうですか。つっても、親のいうことだからなあ。

 

「だからセクハラされる。間違いない」

「はあ……」

 

 そういう時代ではないのでは?

 今はすっかりなくなったって聞いたよ。うちのセクハラオヤジから。

 

「わたしは娘のために、幼稚舎からずっと女子しかいない環境で育ててきた」

 

 本当にお嬢様なんだなあ……。うちの親戚にこんな金持ちがいたとはね。

 うちは貧乏でもなく、まあ普通だと思うけど、この家はガチの金持ちっぽい。

 

「しかし、娘は……うかつは、顔だけじゃなく、頭もよかったのだ。良すぎた。高校は欧米のハイスクールに留学したいと言い出したんだ。もちろん共学だ」

「はあ……」

 

 日本の大学の滑り止めも落ちたのが俺です。どうやら勉強を教えることはなさそうですね。

 

「志は立派だから、応援したい気持ちはある。一生女性しかいない環境というわけにもいかないしな」

「なるほど」

「でも心配だろ」

「そうですよね」

 

 欧米のハイスクールだなんてなあ。

 

「勉強についていけるかとか、言葉の壁とか」

「そういうのは全然心配していない。頭いいから」

 

 そうなのか。

 

「習慣とか、文化とかですか」

「それを学びに行くんだろ。いいんだよそんなのは」

「はあ……じゃあなにが心配なんですか」

「セクハラだろ!?」

「ああ……」

 

 そういうことか……。そういうことか?

 

「わたしの目の届かないところで、かわいい娘がセクハラされたらどうする!?」

「はあ」

 

 そういう理由でしたか。

 でもなんで俺に。

 

「君はあの片台灯作(へんたいとうさく)さんの息子だろう。セクハラについてはサラブレッドとも言える」

「それは……なんかすみません」

 

 親父のセクハラ武勇伝は有名らしい。まあ、親戚にもセクハラしてたもんな。

 

「確かに、俺は親父からセクハラについては散々聞かされてきたんで詳しいのは間違いないですが……」

 

 俺はしたことなくても、知識はあるから教えることは可能だろう。

 でもさー。

 

「セクハラに気づかないんだったら、それでいいのでは?」

 

 そもそもハラスメントって本人が嫌だと思うからやめろって話だろ。わざわざ教えるってやっぱおかしくないか?

 

「君は愚蒙(ぐもう)だな」

「……? ぐもー?」

 

 なんだ? 何言ってんだろう。

 

「愚蒙とは、おろかで道理がわからないもの。つまり馬鹿ということだ」

「なっ……」

 

 突然馬鹿にされたのか。そりゃ俺は受験に失敗したけども。

 

「君は言葉を知らなかった。だから馬鹿にされたことに気づかなかったわけだが、どうだ気分は。気にしないか」

「あっ……」

 

 そういうことか……。確かに。知らない言葉であっても、馬鹿にされたことは看過できないよな。

 

「差別もそうだ。日本人のことを馬鹿にしていたら? スペイン語だからわからないからいいのか?」

「なるほど……」

 

 確かに、確かに。差別されてもわからないなんて、ますます差別されるかもしれない。

 

「セクハラに気づかなかったら、バカな女だと思われてエスカレートしていくかもしれない。わたしはそれを思うと……」

 

 こわっ。娘に手を出した男に、マフィアに金を払って殺しかねない顔をしている。

 

「バカにする言葉だの、差別的なことは教えられるが、さすがにセクハラを父親が教えるわけにはいかない……というか出来ない……」

「そうですね……」

「かといって赤の他人にも任せられない。そこで親戚の君ということだ」

「なるほどなあ」

 

 このバイト、絶対に理解出来ないと思っていたが、理解できてしまったよ。まさか俺がセクハラ家庭教師のバイトなんてものについて、なるほどと思うなんてなあ。

 

「そんなわけで、頼むよ。進士くん。君にしか頼めないことなんだ」

「うーん」

 

 しかしなあ。普通の家庭教師の仕事だと思ったから手を上げたのであって。

 

「ちなみに日給は三万円だ」

「三万円!?」

 

 日給三万! すごい! すごいが……。

 

「ちょっと高すぎるのでは?」

 

 いくら金持ちで親戚だからといっても。お年玉じゃないんだから。

 

「住み込みでバイトしてもらうから、時給にすると千円ちょっとだろう」

「住み込みなんですか!?」

「今からセクハラをしますと言ってやっては意味がないだろう。自然に生活してる間にやらなければ」

 

 ちゃんと考えてあるんだよな……。

 でもなあ。

 普通に家庭教師をするつもりだったし、まさか住み込みだなんて。

 

「う~ん」

「いやか? 三食は娘と同じものを出すし、風呂もベッドも用意するぞ」

 

 金持ちがこれだけ溺愛している娘に出している料理となると……期待大だ。風呂は大きいだろうし、ベッドもいいやつに違いない。

 しかしずっと働きっぱなしとなるというのはなあ。

 

「もちろん、娘が授業を受けている間などは自由に勉強していて構わない」

 

 受験勉強と両立できるならいいか。

 正直、バイト代にしても豪邸住まいにしても魅力的すぎる。断るには惜しいだろ。

 

「わかりました。やります!」

「そうかそうか、ほっとしたよ。じゃあ、娘を連れてくるから」

 

 そうか。まだ娘さんのことを知らなかったな。

 

「あ、そうそう。セクハラはしていいが、惚れるのは無しだぞ。恋愛は禁止だ。セクハラはいいが、恋愛はダメ。わかったね」

「は、はい」

 

 セクハラはOKだが、恋愛は禁止。

 そんなルールがこの世にあったとは。

 ま、俺ももう十八歳。成人ですよ。十四歳の女の子なんて、女って感じしないだろうな。

 まだ見ぬ少女を待ってると、コンコンというノックのあと、扉を開けて入ってきた。

 

「はじめまして。平うかつと申します」

「う、うわ……」

 

 び、美少女だ……清楚なお嬢様……。ロシアのクォーターというのもあるのだろう、モデルかアイドルに見えるぞ。

 正直、俺のどストライクだ。

 ところどころ丁寧に編み込まれた、つややかで栗色の長い髪。

 ハイブランドのティーセットを思わせる上品で白い肌。

 すらりとしたスレンダーな体型に、白いワンピースがよく似合う。

 目は二重で、まつげは長く、きらきらと輝いている。

 鼻は小さく、唇は薄く。まるでアニメのキャラクターが現実に出てきたみたいだ。

 胸は……中学生にしては大きいのではないだろうか。これから色気が出てくるのだろうと思わせる、半熟の果実だ。

 

「あの、どうしました?」

 

 こてん、と首を傾げる仕草も可愛らしい。

 声は凛としていながらも優しい。

 ぱちぱちとまばたき、大きな瞳が俺を見ている……や、ヤバいヤバい。惚れるのは禁止だ。

 俺がしていいのはセクハラだけ!

 自分の頬をパーンと叩いた。セクハラモード、オン!

 

「俺の名前は、片台進士(へんたいしんし)。うかつちゃん、ガキのくせに結構いいオッパイしてるじゃねーか。ちょっと触らせてよ」

 

 俺は変態じゃない。これは仕事だ。セクハラするバイトをしているだけだ。

 

「まあ、胸を褒められるなんて初めて。嬉しいですわ、どうぞ」

 

 彼女は心底嬉しそうにほほえみ、俺の右手を取って、おっぱいを触らせた。

 

「ちょ、ちょ、ちょ、ちょ」

「ちょちょ?」

 

 2回ほど胸をモミモミする。

 もみたいからじゃないよ。セクハラしているだけだ。勘違いしないでくれ。

 これで「やだ、やめてください」と言って手を振りほどけばオッケーだが……。

 彼女は俺の顔を見ると、にっこりと女神のような笑顔。

 

「いいオッパイですか?」

「うん……じゃなーい!」

「えっ? よくないんですか?」

「いや、いいオッパイです。すごくいいオッパイです」

「そうですか、よかったです」

 

 よかったよ……。

 すっごくいいよ、いつまでも触っていたい……。

 

「ちがーう!」

「あら」

 

 惜しみながらも手を振りほどく。

 ダメだよ、こんな初めて会った男におっぱい揉ませちゃ!

 あのおじさん、何いってんだと思ったけど、正しいよ!

 

「いいですか、これはセクハラです」

「まあ、そうだったんですか」

「セクハラをされたと思ったら、嫌です、やめてくださいと言ってください」

「まあ。嫌なことなんてされてませんのに」

 

 あのおじさん、やっぱり正しいよ!

 嫌だと思って無くてもダメです!

 

「それでどこがセクハラだったのでしょう?」

「もちろんガキのくせに結構いいオッパイしてるじゃねーか。ちょっと触らせてよという部分です」

「どこがでしょうか……」

 

 どこもなにも全部セクハラだと思うが。

 普通わかるだろ、っていうのは禁句だ。

 セクハラの家庭教師なのだから、ちゃんと教えないといけないよな。

 

「そうですね。じゃあ強いて言えば二点になります。指摘してください」

 

 家庭教師っぽいな俺。うんうん。

 

「あら? うーん? ガキのくせにという言い方が乱暴とか?」

「そこじゃないです」

 

 惜しい。それはそれで文句言っていいんだが、セクハラポイントじゃない。

 

「うーん? 難しいです~」

 

 本当に頭がいいんでしょうか、この女の子は!?

 しかしわからないからこそ教える意味があるわけで。家庭教師の醍醐味ともいえよう。いいね、俺はちゃんとバイトをしているんだ。バイトだよ。うん。

 

「結構いいオッパイ、ここです」

「ええ~!? だって褒めてるじゃないですか」

 

 確かに。

 いやいや、確かにじゃないんだよ。

 

「あのね、褒めてればいいということじゃないんだよ」

 

 ってなんで俺は女子中学生にそんなことを言わないといけないのか……。

 

「でも、とっても嬉しかったですよ?」

「うっ」

 

 キラキラした目とにっこりした笑顔でこんなこと言われたら……好きになっちゃう……。

 だ、ダメだ!

 恋愛は禁止だ。バレたら、この割のいいバイトは一瞬でクビ! 

 

「こほん。いいですか、嬉しければセクハラじゃない、ということではないんです」

 

 さっき俺が言ったことと全く違うことを言ってる自覚はあるよ。しょうがないじゃんか。人間ってそういうものですよ。

 反省して考えを改める、それが重要なんです。

 

「そうなんですか……むずかしいです」

 

 そうだね、難しいね。ちょっと甘く見てたね。結構難しいんだね、セクハラって。

 

「そもそもね、恋人でもない男性が、女子中学生の胸について本人にいいとか悪いとか言っちゃいけないんだよ」

 

 うん。これはうまく言えたんじゃない?

 大企業のコンプライアンス委員やれるくらいだと思うよ?

 

「どうしてですか?」

 

 どうしてですかだと~!?

 わかるだろ~、普通わかるだろ~。んも~!

 きょとんとしちゃってさあ! かわいいなあもう!

 

「そのあと、触らせてよって言ってるじゃない。だから、おっぱい触りたくて言ってるだけかもしれないじゃないか」

 

 そうだよー。

 そういうことだよ。

 なんて悪いやつだ。絶対に許しちゃ駄目ですよ。俺のことは。

 

「んー。おっぱいを触りたいと思うのは、なぜなんですか?」

「え? そりゃあ、ほら。だって可愛い女の子のおっぱいを触りたいと思うのは、男として当然というか」

 

 そういうと、うかつちゃんは。

 かあああああああああと漫画なら書かれそうな表情で、顔を赤らめて。

 

「かっ、かわいい? ですか? わたし?」

 

 と言ったのだった。

 可愛すぎるし、こんなの好きにならずにいられない。

 そして、この子にセクハラを教えるのは、とても難しい。

 

 前途多難すぎるだろ、このセクハラ家庭教師ってバイト!

 

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