機械ゴーレムに管理された世界で、長い眠りから目覚めた天才魔技師は真の能力を発揮。メイドと一緒にほのぼのスローライフを目指す   作:わんた

19 / 45
マスターは解除しろと言うじゃないですか

「元気そうだな」

「マスターも元気そうで」

 

 血がしたたり落ちる斧を持ちながら、ナータがゆっくりと近づいてくる。昔見たホラー映画に似たようなシーンがあったな。確か主人公が惨殺されて終わる作品だったのを覚えている。

 

「俺の居場所は何故わかった?」

「なぜでしょうかね」

 

 笑いながら誤魔化されてしまった。機械ゴーレムがマスターの質問に答えないとは。あり得ない出来事が目の前で発生している。もしかして長期稼働したことで、おかしくなってしまったのか?

 

「マスターにはわかりますか?」

 

 斧を振るって、刃についた血を飛ばした。もし脳に不具合が発生して俺への攻撃が可能になったのであれば、ナータと戦わなければならない。

 

 人間と機械ゴーレムの戦いはどっちが有利か? と聞かれたら、迷わず機械ゴーレムと答えるだろう。だが、俺は魔技師で対機械ゴーレム用の魔法を多数覚えている。身体能力では劣るかもしれないが、魔法を組み合わせれば負けることはない。

 

「わからないから聞いている」

 

 襲撃に備えて手を前に出して魔力を集める。あとは具体的な魔法の効果をイメージして、魔法名という形で意志をのせれば発動する。

 

 警戒していると察したナータは、悲しそうにしながら斧を投げ捨てた。

 

「マスターの体に追跡の魔法がかかっていて、私やアデラは追えるようになっているんですよ」

「そんな魔法、いつかけたんだ?」

「機能停止する前です。意識を失っている間にマスターが攫われても取り返せるよう、使っておいたんです」

 

 言い分はわかる。独立思考する機械ゴーレムの動きとして、不自然はない。

 だが、疑問は残る。

 

 なぜ目覚めてからすぐに伝えなかった?

 

 マスターに従順であれば、寝ている間にかけた魔法は報告するはず。それなのにナータは何も言わなかった。むしろ隠していたようにも思える。

 

 素手になったナータは両腕を広げた。

 

「なぜ言わなかった?」

「だって、マスターは解除しろと言うじゃないですか」

 

 目の前に立ったナータは俺を抱きしめた。魔法は発動させてない。敵意を感じなかったからと言うのもあるが、最大の理由は興味深い変化だったからである。

 

「もしかして、感情をもったのか?」

 

 上級機械ゴーレムには感情があるとの噂があった。

 俺の最高傑作であるナータが持っていても不思議ではない。

 

「……感情と言って良いのかわかりませんが、私は非合理的な考えをするようになりました」

 

 俺を抱きしめているナータの体が震えている。人間であれば涙を流していそうだ。泣きそうになる機械ゴーレムなんて初めて出会ったぞ。

 

 目覚めてから色んなことに驚かされてばかりだ。

 

「壊れてしまったのでしょうか」

「俺の最高傑作品が壊れるわけないだろ。これは進化だ」

「機械ゴーレムが進化、ですか?」

「そうだ。お前たちは学習できる頭脳がある。経験が一定の値を超えて、新しい何かが目覚めたんだろう」

 

 本当に感情を得たのかはわからなかったので、この場では断言しなかった。だが、大量の経験が機械ゴーレムの性質を変えたのも事実で、俺の知らない何かが生み出されたのは間違いない。

 

 ナータが今感じている戸惑いや不安は、どうやって手に入れたのか。時間をかけて研究していこう。もしかしたら上級機械ゴーレムが変質した理由、それが判明するかもしれない。

 

「進化した私はどうなってしまうのですか? もしかして、あの神もどきになってしまうのでしょうか?」

 

 賢いナータは俺と似たようなことを考えていたようだ。この変化は全ての機械ゴーレムに起こった。その結果、人類を管理するようになったと。

 

 もしかしたら変更不能な「人類ために働く」という初期設定ですら、変えられるような変化が訪れてしまうかも。そんな想いがナータを怯えさせているのだろう。

 

「それは誰にも分らん。しかしナータが俺の機械ゴーレムで、俺のために働く存在だというのは変わっていない」

「はい。変わっておりません」

 

 体を引き離してナータを見る。

 これからの言葉は壊れるまでずっと覚えておけ。

 

「なら今まで通り、ずっと俺に従っていればいいんだ」

 

 間違っても上級機械ゴーレムのように、自分が神だと錯覚するな。人類にとっての最高の道具であれ。そんな意味を込めて言った。

 

「かしこまりました。どんなことがあっても、私はマスターの手足となって動きます」

「よろしい。これからも頼んだぞ」

 

 これでナータが反乱を起こす可能性は下げられただろう。稼いだ時間を有効に使って、何が起こったのか観察するぞ。

 

「ですが、これだけは言わせてください」

「なんだ?」

「もう二度と、無断で地上には出ないでください」

 

 以前であれば「次は護衛させてください」と控えめに言っていたはずだ。今回みたいに、強い言葉で俺の行動を抑制するような発言はしなかった。

 

 覚えたての感情に似たなにかが、ナータを動かしたのだろう。

 

「検討する」

「ダメです。約束してください。マスターに死なれたら、私はどうすればいいのか分からなくなってしまいます」

 

 行動原理が消失すると怖がっている。これも新しい。まるで他人に依存する人間のような振る舞いじゃないか。

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。