機械ゴーレムに管理された世界で、長い眠りから目覚めた天才魔技師は真の能力を発揮。メイドと一緒にほのぼのスローライフを目指す   作:わんた

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黙りなさい

「懐かしい顔だな」

 

 昔に何度も街中で見かけた、警備用機械ゴーレムである。頑丈に作られているが、戦闘能力は高くない。俺が知っているままの性能であれば、ナータの脅威にはならないだろう。

 

 ガンッ、ゴンッ、ガンッ。

 

 ナータが神兵を殴り続けている音だ。

 マウントポジションをとって今も一方的に攻撃している。圧倒的な性能差があって、反撃はできないようだ。神兵と言ってもこの程度か。拍子抜けだな。

 

「や、やめ――」

「黙りなさい」

 

 神兵は泣きそうな顔をしているが、ナータは無視を続けている。感情を持ってしまったが故に、機能停止の恐怖に負けてしまったのだろう。

 

 この一点だけみれば、感情を獲得した機械ゴーレムは退化した、とも言えそうだ。実際はそんな単純なことではなく、進化した部分もあるだろうが。

 

「ごめ――」

 

 ガンッ、ゴッ、ガンッ、ガンッ。

 

「許して――――」

 

 ガンッ、ガンッ、ガンッ。

 

「…………」

 

 何を言っても殴る手を止めないナータ。神兵はついにだ黙ってしまった。瞳の色が暗くなり、意識を失っている症状が出ている。あっさりと倒してしまったんじゃ、神兵の実力がわからない。

 

「手を止めろ」

 

 腕を振り上げた状態でナータが止まった。

 首だけをうごかして俺を見る。

 

 何で止めるんですか、なんて言いたそうな顔だ。感情があるとバレてから隠すことがなくなったな。

 

「俺の命令に不満でもあるのか?」

「ございません」

「立ち上がって、神兵から距離を取れ」

 

 無言で命令に従ったナータは斧を拾うと、俺の前に立った。

 

 守るために近づいたのだろう。命令は素直に聞いているので、内部機能が故障したわけではなさそうだ。

 

「神兵の性能テストを再開したい。もう一度、戦えるか?」

「もちろんです。あのゴミくずとは違うことを証明してみせます」

 

 ライバル心が芽生えたのかわからんが、やる気があるなら止める必要はない。肩に手をおいて「任せたぞ」と伝えてから石の上に座る。

 

 ナータは斧を前に出して構えた。

 

 機能停止しただけであれば、機械ゴーレムは自動で再起動する仕組みになっているので、神兵であればすぐに起き上がるだろう。

 

「残り十秒というところか?」

 

 心の中でカウントダウンを始める。八……六…………三……二……一。

 

「ここは!?」

 

 神兵は目覚めると眼球だけを動かして、周辺を確認。ナータの姿を捕らえると、飛び起きた。

 

 ガタガタと歯を鳴らして腰が引けている。俺を見つけたときのような、上位者としての立ち振る舞いはない。面白い反応だ。機械ゴーレムのクセに、心が折れているのだ。

 

「人間ごときに怯えているのか?」

 

 嗤ってみせると、神兵が文句を言おうとして口を開きかけ、止まった。

 ナータが間に入って威嚇したからだ。

 

「お、お前……」

「なんでしょう?」

「…………」

 

 圧力に屈して神兵が黙った。こいつメンタルが弱すぎるだろ。

 まさか、初めて格上の相手と戦って怯えているのか!?

 

 こんなんじゃ、試験ができないじゃないか!

 

「お前、神兵と言われるほど強いんだろ? 人間に従う機械ゴーレムごときにビビるなよ」

「わ、私はビビってなんて……っ!!」

 

 最後まで言えなかった。ナータの眼光に耐えられなかったのだ。

 初めて覚えた恐怖という感情を克服するすべはない。

 

「お前には失望したよ。もっと頑張れると思っていたぞ」

 

 首を大きく横に振って気持ちを伝えた。

 

 急速に興味が失せていく。

 

 もう解剖して調べれば良いか。頭を破壊して機能停止させよう。

 

「処分して良いぞ」

 

 無言でうなずいたナータが、一歩足を前に出す。ゆっくりと歩き、進むが、神兵は戦うそぶりを見せない。生まれたての子鹿のように震え、処刑されるのを待っているだけだ。

 

 立ち止まったナータは斧を大きく振り上げる。

 

「貴方の神に祈ってみたら? 助けてもらえるかもしれませんよ?」

 

 おお! 煽るというテクニックも覚えたのか!

 

 神兵とは違って良い感じに成長している。

 感情を持つのも悪くはないと、思わせてくれた。

 

「た、助けて……」

 

 そうやって命乞いした人間を、お前は何人殺したんだ? なんて言おうと思ったが、俺も実験で何人か殺したことがあるので、正義の使者みたいな態度は出せない。

 

 運がなかったと思って、壊されてもらおう。

 

 ヤれと、目でナータに指示をする。

 腕が振り下ろされた。

 

「ごめんなさい! もう人間様に逆らいませんから! 助けてください!!」

 

 神兵がひれ伏して、地面に頭をつけた。

 

「待て!」

 

 斧の刃が神兵の頭に当たる直前で、ピタリと止まる。

 

「お前は神兵で、人間より偉かったんじゃないのか? 命乞いをして恥ずかしくないのか?」

 

 嫌みで言ったわけじゃない。こいつの行動原理がどうなっているのか知りたくなったのだ。

 

 すべての機械ゴーレムに設定された「人類のために働く」という目的が、まだ生きているのか。それとも長い時間と共に変質してしまったのか。

 

 目の前でみっともなく謝っている神兵から、ヒントをもらえるかもしれない。

 

「……恥ずかしくはないです。私は人類のために働く機械でございますから」


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