機械ゴーレムに管理された世界で、長い眠りから目覚めた天才魔技師は真の能力を発揮。メイドと一緒にほのぼのスローライフを目指す   作:わんた

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さっさと退け

 トゲトラが飛びかかると、キメラハンターのボスは槍を横に振るって顔に当てた。無事に攻撃を避けたかと思われたが、すれ違いざまにトゲの付いた尻尾がボスの腹に当たる。

 

 革鎧を着ていたのだが貫通してしまったようで、腹を押さえながら膝をついてしまった。槍だけはかろうじて握っているが、体は満足に動かせないだろう。

 

 相手が怪我をしたと理解したトゲトラは、余計な攻撃をくらわないよう、距離を取って様子を見ている。

 

 待てば獲物は勝手に死ぬとわかっているのだ。

 

 見た目と違って賢い。キメラハンター達が恐れるはずだ。

 

 死にかけているボスから視線を外して、逃げていったキメラハンターを見る。予想していたとおり追いつかれていたようだ。個別撃破されているようで、すでに生き残りは一人だけ。二匹のトゲトラに挟まれていて、死ぬのも時間の問題だろう。

 

 最初から集団で戦っていれば、一匹か二匹は倒せただろうに。

 

『動きますか?』

 

 再び耳からナータの声が聞こえた。

 

『まだだ。少し早い』

 

 今助けたら、生き残りが出てしまうじゃないか。

 

 商隊には俺しか頼れる相手がいない状況を作りたい。もう少し様子を見ておくべきなのだ。

 

「こっちに来るなッ!!」

 

 会話をしている間にボス以外のキメラハンターはかみ殺されていた。叫んでいるのはボスだけ。三匹のトゲトラに囲まれている。襲うことはなく、じっと見ているだけだ。

 

「エサはあるんだ! 俺を見逃せ!」

 

 ボスが仲間の死体を指さした。

 

 三匹の腹を満たすだけであれば、充分な食料は手に入ったと言える。だがな。今回はそれじゃ足りないんだよ。

 

 新しいトゲトラが木から飛び降りてきた。その数は五。獲物が逃げ出すことを考えて隠れていたようだ。

 

「なんだよ……それ……」

 

 戦意を失ったボスは槍を手放した。腹を押さえながら涙を流す。

 

 トゲトラが後ろを向いて尻尾を叩きつけると、腕、足、頭の順番で潰れ、悲鳴を上げながら絶命した。

 

 最初に戦っていた三匹は食事を始め、後から来た五匹は馬車を引いている馬に狙いを定める。

 

『行ってくる』

 

 馬が死んだら移動に困るので、そろそろ止めよう。

 魔力で身体能力を強化して、道に飛び出た。

 

「ガル?」

 

 死体をむさぼっていたトゲトラと目が合う。赤い血がべっとり付着している口を開き、威嚇してきた。

 

 俺がその程度で怯えるとでも?

 

 舐められたものだな。

 

 魔力を外に放出して威嚇すると、トゲトラは数歩下がった。逃げるなら追わなかったのだが、どうやらエサが惜しくて戦うことを選んだみたいである。

 

「ガルッッ!!」

 

 飛びかかってきたので体をずらしてかわしてから、走り出す。馬を狙っているトゲトラに近づくと、剣を振り上げて首を飛ばした。

 

 死体は黒い炎に包まれて燃えていく。

 

 生き残っている七匹のトゲトラが、全員俺を見た。

 

「逃げるなら追わない。どうする?」

 

 返事をする代わりに目の前の一匹が、口を大きく開きながら走ってきた。長い二本の牙で、かみ殺すつもりだろう。

 

 ギリギリまで引きつけてから跳躍、トゲトラの背に乗る。黒い炎をまとった剣を逆手に持ち脳天を突き刺すと、すぐに飛び降りた。

 

 また肉が焼けていく。

 

 ようやく俺は危険だと思ったのか、生き残っているトゲトラたちは後ずさる。

 

「死体は持って帰っていい。さっさと退け」

 

 俺の言葉を疑っているのかわからんが、すぐには動かない。じっと俺を見ている。

 一斉に襲われても良いように構えつつ待つ。

 

「ガル」

 

 ふっと、トゲトラからの圧力がなくなり、俺から離れていった。キメラハンターの死体をくわええると去って行く。

 

 どうやら俺の警告は通じたようだ。商隊の危機は去ったと言って良いだろう。

 

 姿が見えなくなったので警戒を解き、馬車に近づく。

 

「キメラは追い返したぞ」

 

 声をかけると、数秒の間があってから返事がくる。

 

「誰だ? リクトンは生きているか?」

 

 驚いたことに女の声だ。こんな危険な仕事をしているんだから、男だと思い込んでいたので驚く。

 

 性別が予想と違ったからと言って、対応は変わらんがな。

 

「俺は、この辺でキメラハンターをしているゴンダレヌだ」

 

 殺したキメラハンターの名前だ。

 

 体がゴツゴツとした印象を持ちそうな響きだった。

 

「お前らが雇ったキメラハンターは全滅している。生き残りはいない」

「本当なのか!? 嘘じゃないだろうなッ!」

「ドアを開けて見ればすぐにわかる」

 

 剣を鞘にしまってから、腕を組んで待つ。

 

 ガチャリと音を立ててから馬車のドアが開いた。隙間から目だけが見える。俺の姿を捕らえると、少しだけ驚いた雰囲気があった。

 

「君がゴンダレヌか?」

「そうだ。周囲は安全だから出ても大丈夫だぞ」

「…………わかった」

 

 ドアが大きく開いて商人が降りてきた。

 

 真っ黒な髪は短く、ぱっと見は男性のようにも見える。服装も動きやすさ重視をしているようでパンツスタイルだ。腰にはナイフがあるものの、防具は一切ない。

 

 キメラハンターが全滅したとき、ナイフを使って自害するつもりだったのかもな。

 

 女は周囲を見渡し、血だまりを見て納得した顔をした。

 

「私は商隊のリーダー、ラビアンだ。助けてくれて感謝する」

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