機械ゴーレムに管理された世界で、長い眠りから目覚めた天才魔技師は真の能力を発揮。メイドと一緒にほのぼのスローライフを目指す   作:わんた

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意外に遠いんだな

 俺のおかげでキメラの襲撃から生き残った商隊は、馬車を順調に進めていく。

 

 森の中は動物の鳴き声がして騒がしく、緑の匂いが濃い。時折、キメラの視線を感じることもあったが、俺が魔力を解放して威嚇すると、襲いかかってくることはなかった。本能が実力差を理解したのだろう。

 

 家畜のように管理されている人より賢いな。

 

「もしよければ」

 

 混沌の神が治めている都市の話が終わり、しばらく黙っていたラビアンが、少し戸惑いながらも俺に声をかけていた。

 

 顔を見てみる。少し緊張しているようだ。

 

「帰りも、護衛してもらえませんか?」

「…………」

 

 これからニクシーの両親が映った写真を撮りに行くのだが、終わったら予定はない。シェルターに戻っても良いのだが、その前に混沌の神と名乗る上級機械ゴーレムが治める街を見学しても面白そうだ。

 

 統治の方針に違いがありそうだし、興味はある。どうするか悩んでいると、ラビアンが慌てた様子で口を開く。

 

「ゴンダレヌさんほどの実力者がいたら、安心して移動できると思っただけだから! 他にやましいことは考えてませんって!」

 

 何を想像したのか俺にはわからんが、気になったことを指摘する。

 

「街に行けばキメラハンターなんて、沢山いるだろ。俺じゃなくてもいいのでは?」

「行商の護衛なんて、等級が高い人は受けてくれないんですよ」

「儲からないからか?」

「それもありますが、一番の理由は拘束時間ですね。片道三日もかかるので」

 

 優秀なキメラハンターであれば金には困っていないだろうし、街で遊びたいだろう。三日も何もないところで護衛を続けるなんて、やりたくないはずだ。報酬が少ないのであればなおさらだ。

 

 依頼に集まるのは等級が低いキメラハンターばかりであれば、俺をスカウトする理由にはなるだろう。

 

「意外に遠いんだな」

「……やっぱりダメです?」

 

 ラビアンは上目づかいをしながら抱き付き、胸を押しつけてきた。意外と大きく、柔らかい感触がする。ふんわりと甘い香りすらしていた。

 

 断られると思って色仕掛けをしてきたか。女商人らしい強かさを感じた。

 

 腰に手を回して体を密着させる。

 

「金の他に、体でも支払ってくれるのか?」

「いや、その……お望みなら?」

 

 なんで疑問で返すんだよ。ラビアンはこの手のことになれてないのかもしれん。

 

 駆け引きなんて面倒なので、手を離して距離を取る。

 

「え……」

 

 色仕掛けが失敗したと思ったようで、ラビアンは絶望したような顔になった。帰り道で死ぬかもしれない。そんな気持ちが湧いたのだろう。

 

 キメラハンターの等級によって生存率が変わる仕事なのだから、こういった反応になるのも当然か。

 

「街に戻ったらやることがある。無事に終わったのであれば、護衛してもいいぞ」

「本当ですか!?」

「ただしちゃんと報酬はもらうし、守るのはラビアンだけだ」

 

 今みたいに商隊を組んで、ぞろぞろと移動するのは守る方としては大変である。

 他のキメラハンターは信用ならないし、大勢で移動したくはない。

 

 この条件を飲まないのであれば断る予定だ。

 

「それで良いですよ! 護衛してもらえるのであれば、他の商人とは別で帰ることにする!」

「護衛は俺だけだぞ? それでもいいのか?」

「もちろん。ゴンダレヌさん以上に頼れる人はいないから!」

 

 どうやら俺と二人っきりでも文句はないようだ。喜んでいる。

 

 夜に襲われても別にかまわないなんだろうな。

 

「私は小鳥の宿屋って場所に泊まる予定なんですけど、一週間後の朝に来てくれます?」

「わかった。仕事が無事に終わったのであれば行こう。もし時間になっても来なければ、俺は死んだと思ってくれ」

 

 等級の高い俺が死ぬかもしれない仕事が控えていると分かり、言葉に詰まっていた。

 

 気まずくなったのか、その後は無言になる。

 

 しばらくして商業の神が治めているという街に着いたのだった。

 

* * *

 

 外壁の近くにいる門番に、身分証明書を提示したときは偽装がばれないか心配だったが、何事もなく許可はおりた。

 

 門を通り抜けるときに体中を調べられるような感覚はあったが、警報が鳴ることはない。俺が人間だったからだ。機械ゴーレムであれば、敵襲だと判断して神兵とやらが殺到したはずである。

 

 上級機械ゴーレムにとって、もはや人類は敵ではないとの考えなんだろうな。

 

 道具のくせに舐めやがって。

 

「ここでお別れだ。骨はプレゼンとして受け取れ」

 

 換金が面倒だったので、何も持たずに御者席から飛び降りる。振り返ると、ラビアンは驚いた顔をしていた。

 

 何か言いたそうに口を開きかけていたが、結局は言葉にはならない。馬車を止めることなく通り過ぎていった。後に続く馬車も素通りである。

 

「さてと、どうするかな」

 

 ニクシーの家があった場所へ行く前に、観光でもしようか。

 

 キョロキョロと周囲を見ながら歩き出す。

 

 都市の中を見る限り、建物は石造りで大きくても三階建てしかない。ビル群などはなく、歩いている人々の服装のデザインは古い。大昔にタイムスリップしたような感覚になった。

 

 表通りの治安は良いみたいで子供達が元気よく走っている姿なども見え、屋台で買い食いをしているキメラハンターらしき男もいる。戦争する直前のピリピリとした空気はない。平和そのものだ。

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