機械ゴーレムに管理された世界で、長い眠りから目覚めた天才魔技師は真の能力を発揮。メイドと一緒にほのぼのスローライフを目指す   作:わんた

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ラビアンと同じものを一つ

 あの後、ナータたちは神兵を破壊つくし、ついでに都市の外壁も一部壊してから、撤退していった。

 

 俺を目撃した神兵は、すべて破壊しているので、しばらくは邪神たちが暴れたとして調査が進められるだろう。

 

 しばらくは時間を稼げるとは思うが、俺は地下でコソコソと生きていくつもりはないので、いつかはシェルターにたどり着くはず。その前に戦力を整えておく必要があるな。

 

 邪神と呼ばれている、上級機械ゴーレムと手を組むのも良いかも。

 

 やつらの行動原理次第ではあるが囮としては使えるはず。

 

 早めに調査をして利用方法を考えたいのだが……今は、別の都市を見学する準備を進めていた。

 

 

 

「再会できて嬉しいです!」

 

 宿の一階、酒場になっている室内で、ラビアンが両手を広げて歓迎してくれた。

 

 騒動から一週間が経ったので迎えに来たのである。

 

「元気そうだな」

「体が資本ですから」

 

 力こぶを作るようなポーズで自慢してきたが、残念ながらラビアンの体は細いので、たくましさは感じない。むしろ、大丈夫か? と心配になるほどである。

 

 行商を続けられるのだから体力はあると思うが、もう少し筋肉を付けた方が良いぞ。

 

「その言葉、俺との腕力勝負で勝てるようになってから言えよ」

「あはは、それは厳しそうですね」

 

 笑いながらラビアンはカンターの席に座った。

 

 木製のテーブルの上に酒がある。朝っぱらからアルコールを摂取しているようだ。

 

 奥にいるマスターらしき中年の男性が俺を見ていた。赤い髪をオールバックにしていて、髭は整っており男らしさと清潔感を両立している。犬耳に違和感は残るが、体格は良いので女性にモテるだろう風貌をしているのだが、管理の首輪が全てを台無しにしていた。

 

 マスターやラビアンも、所詮は機械ゴーレムに管理されている人だ。自由の喜びと幸福そして恐怖、辛さをしらない子供なのだ。

 

「ラビアンと同じものを一つ」

 

 無言の圧力を感じたので適当に注文すると、マスターは笑顔になった。

 

 それを見てラビアンが見蕩れる。

 

 俺はモテないとわかっているから、嫉妬なんてしない。ただ面白くはないと感じたが。

 

 ラビアンの隣に座ると、ドンッと木製のジョッキが置かれた。中には濁った液体が入っている。

 

「注文の品だ」

「どうも」

 

 簡単な言葉だけを交わしてから、ジョッキを持って口を付ける。香りは悪くない。きっと良い酒なんだろう。

 

 喉が渇いていたこともあって、ごくごくと喉をならしながら、酒を流し込む。

 

 なんだこれは!?

 

 口内を蹂躙する苦みが広がった。うまみなんてなく、純粋に苦いのだ。口の中に雑草のエキスを突っ込まれたんじゃないかって思うほどで、思わず吐き出しそうになってしまう。

 

 とはいえ、店内を汚すわけにはいかない。男は気合いだ! と思って、一気に飲み込む。

 

 胃の熱くなるような感覚があった。アルコールが強すぎる。俺は酒に強い方だと思っていたんだが、頭がクラクラしてきた。

 

「え、すぐに顔が赤くなったけど、ゴンダレヌさんは、お酒弱いんですか?」

 

 逆に何でお前たちは大丈夫なんだ。そう問いただしたい。

 

 こんなアルコールの強い酒を真っ昼間から飲みやがって。

 

 現代人、おかしいだろ。

 

「たまに、神様の解毒作用が効きにくいタイプはいる。コイツは、それだろ」

 

 マスターが気になることを言った。

 

 神の解毒だと? 上級機械ゴーレムが何かしたのか?

 

 質問したいのだが、視界がぐわんぐわんと回って、それどころではない。感覚が鈍くなっているのを自覚しているが、全身にアルコールが回ってしまったので、抵抗なんて無理だ。

 

「水……をくれ」

 

 気力を振り絞って出せた言葉だ。

 

 体から力が抜けてテーブルに頭をのせてしまう。ここまで酔ったのは始めてだ。

 

 もうこれはアルコールじゃないぞ。毒だ。毒。

 

「大丈夫ですか? 今日の昼には、都市のの外にでたいんですけど……」

 

 俺の体じゃなく、自分の計画が狂わないか心配しているところが、商人らしくてよい。このぐらい強かな考えを持っているほうが、俺の好みだ。前の時代だったら口説いていたかもしれん。

 

 いや、今からでもいいか?

 

 管理の首輪を外して自由というものを教え込み、俺好みに変えていく。

 

 案外悪くないと思える。ついでに、腕や足ぐらいは機械ゴーレム化させてもいいかもな。キメラの森を、一人で歩けるぐらいの強さは手に入るだろう。

 

「ご所望の水だ」

 

 水らしき液体の入ったジョッキが置かれたが、取っ手を握ろうとしても体が動かない。なでるようにして、触っているだけだ。

 

「あー。これはダメだな。目がイってる」

「そんなぁ。最強の護衛が、お酒に弱いなんて聞いてないよ!」

 

 丁寧な態度も良かったが、こういった気軽な感じもいいな。俺の中でラビアンの好感度が上がっていく。シェルターに持ち帰って、洗脳させてやろうか。

 

「こいつ、そんなに強いのか?」

「そうだよ。フォレストゴリラを瞬殺したし、スパイクタイガーの群れも一人で追い払ったんだ。キメラハンター二級以上は確定だね!」

 

 マスターの見る目は変わった気がする。

 俺は男に興味ないから諦めろ。

 

「人は見た目にはよらん、ということか」

「そういうこと」

 

 俺を置いて二人は意気投合しているようである。仲が良さそうでムカつく。とりあえず一発マスターを殴っておくか。

 

 立ち上がろうとしたら、バランスを崩してラビアンに寄りかかってしまった。

 

「ねえ、大丈夫!?」

 

 心配する声が聞こえた。

 

 当然無視だ。側頭部に当たっている、胸の柔らかさを全力で感じなければいけないのだから。

 

***

 

 ゴトゴトと音が聞こえ、上下に振動している。背中からは固い感触が返ってきている。緑の匂いがすることから、外にいることが分かった。

 

 酒を飲んで不覚にも意識を失ってしまったことまでは覚えているが、そのあとの記憶がない。どうやら寝ている間に、どこかに移動させられたようだ。

 

 体を起こして周囲を見る。

 積み上げられた木箱しかない。床には俺の使っていた剣が置かれていた。

 

 武器を手に持ちつつ立ち上がると、ようやくここがどこなのかわかった。荷馬車の中だ。

 

 木箱の間を縫って御者台に向かうと、ラビアンの後ろ姿が見えた。

 

「お前が運んだのか?」

「そうですよ。ゴンダレヌさん」

 

 隣の席に座れと言いたかったようで、ラビアンは御者台を叩いていた。

 

 拒否する必要はないので、指定された場所に腰を下ろす。

 

 今は草原に作られた街道を進んでいるようだ。見渡しは良く、周囲に動物はいない。もちろんキメラもだ。

 

「俺が目覚めるまで、待てなかったのか?」

「簡易宿に間に合わなくなっちゃいますから。夜は絶対に寝なきゃいけないし、時間がなかったんです」

 

 ああ、なるほど。管理の首輪によって睡眠時間が決められているから、急いでいたのか。夜番なんてできない仕組みになっているので、行商人は簡易宿というところで安全を確保しているのだろう。

 

 自由を知っている俺からすれば、なんとも不便な生活だとは思うが、ラビアンたちにとっては普通なんだろう。疑問すら抱いていない。

 

「明日には出来なかったのか?」

「納期の都合がありまして。今日中に出ないとマズかったんです」

 

 一日でも遅れたらダメ、なんてことも仕事ならあるか。

 

 そういえば何を運んでいるのか聞いてなかったな。商業の都市で何を買ったのか気になったが、ラビアンが先に質問をしてきた。

 

「そういえば、少し前に大きな事件があったの知ってます?」

「神兵……様が戦った話だよな」

「そうです! 犯人は捕まってないみたいなんです。ゴンダレヌさん、何か知ってます?」

 

 商業の都市に向かう途中に語った仕事と、関連付けているかもしれない。

 

 勘が良いな。知ってるも何も犯人は俺なんだ、なんて言うわけにはいかないので、首を横に振って否定した。

 

「上位のキメラハンターならと思ったんですが、あの噂は間違いなのかもしれませんね」

「噂だと?」

「邪神が商業の都市に乗り込んで、神兵様を襲ったって話です。もしかしたら本格的な戦争になるかもと、みんなピリピリしているんです」

 

 ナータが自由の神の手先と名乗っていたが、噂がねじ曲がって邪神――上級機械ゴーレムが乗り込んだとなっているようだな。大きくは間違ってないから、噂というのもバカにはならない。

 

「戦争になったらどうなるんだ?」

「神兵様と上位のキメラハンターの共同作戦が展開される、というのが通常の流れです」

 

 だから、俺が何かを知っているかもと思って聞いてきたのか。

 

 俺が殺して証明書を奪い取ったキメラハンターは、上位どころか下位だったから、仮に戦争になったとしても声はかけられなかっただろう。

 

「私が住んでいる都市は、混沌の神様が治めているんですけど、最近になって自由の神と仲が急速に良くなっているという噂があるんです」

 

 自由の神は邪神という扱いをされていた。管理を強めたい機械ゴーレムからすると、当然の対応だ。

 

 混沌だって傾向としては自由とにている。そういった意味では、いつ邪神認定されてもおかしくはない。ラビアンの噂が本当であれば、認定されるまで秒読みの段階だろう。

 

「しばらくは、別の都市で過ごした方が良いのかなぁ」

 

 俺に言うわけではなく、ラビアンはぼそりと呟いた。

 

「できるなら、そうした方が良いだろうな」

「まーー、無理なんですけどねーーーー!」

 

 管理の首輪がある限り、生まれ育った都市からは逃げられない。

 戦争が起こったても避難はできないだろう。

 

 管理されているかこそ、都市と運命をともしなければならないとは、やはり生きにくい世の中である。

 

 上級機械ゴーレムの支配する世界。

 

 平和であれば放置していたが、戦乱の世が来るのであれば、考えを変える必要があるかもしれない。

 

 道具ごときが、人の命を弄ぶなんて許せないからな。

 




この話で完結となります。
最後までお付き合いいただきありがとうございました。
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