アイドルクロージング!   作:ひょうたんふくろう

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30 昼餉(合法)

 

「……」

 

「……」

 

 昼休み。ほんの数分前まではあの激闘の渦中に身を置いていたというのに、今やのどかでどこまでもゆったりとした時間が流れている。遠くに耳をすませばどこからか和やかな笑い声が聞こえるし、チチチ、と小鳥のさえずりが天然の音楽として場を和ませている──本当に、本当に平和な時間だ。

 

 そんな昼休み、いつもの場所。やることといったら、一つしかない。

 

「ユ、ユウくん……!」

 

「お、おう……」

 

 結ばれた約束は、しっかりと果たされた。なんだかんだで有耶無耶になるんじゃないかなって思っていたユウの期待とは裏腹に、ユウはこうして、ユリと二人きりでお弁当を食べることになった。それもやましいところなんて一つもない、クラスの全員から認められた合法(?)である。

 

「へへへー……!」

 

「嬉しそうだな」

 

「そりゃあね!」

 

 屈託のない笑みをまっすぐに向けられて、ユウの心臓がドキリと跳ねた。こんなの俺のガラじゃない、こいつの顔なんて見飽きている……だなんて心の中でいろいろ言い訳してみても、その事実は変わらない。むしろ、言い訳すればするほど意識してしまう。

 

 結果として、ユウは物理的手段を講じることにした。具体的には、気づかれないよう全力で自分の腕を抓りあげるというのと、なるべくユリの顔を見ないよう、弁当箱に集中するというものだ。

 

「飯なんて誰と食っても一緒だろうに……」

 

 照れ隠しでつぶやいた言葉。

 

「……ユウくんと一緒が……ユウくんと二人きりが、よかったの」

 

 意外とガチっぽい感じで返ってきた言葉。鈍いユウでもわかるくらいには、特別な意味が込められているそれ。ユウの視界の端には、頬も耳先も赤らめた可憐な少女がばっちり映っている。

 

 自分の視野の広さを恨みながら、運動した後だしそうなるのも当然だ……とユウは無理やり思うことにした。

 

「厳密には、二人きりじゃないけど」

 

「……それはまぁ、そうだけどさ」

 

 ユウもユリも気づいている。遠くの方でクラスメイト達がこっちをガン見していることに。万が一にも何かイケナイことでもあったら堪らないとばかりに男子が向こうの曲がり角に潜んでいるし、同じ考えなのか、はたまたアイドルと意外な活躍を見せたクラスのモブキャラがどんなランチを過ごすのか気になったのか、女子が向こうの校舎の三階の窓からこっちを見ている。

 

 血の涙を流しかねないくらいに悔しそうな表情をして、男子はユウとユリをランチへと送り出したのだ。複雑そうにも、安心したようにも、面白い発見があったかのようにも見える表情で、女子はユリとユウをランチへ送り出したのだ。ユウは元々気配に敏感だし、ユリだって職業柄視線には慣れている。こっそり見られていることに気づかない方がおかしい。

 

「でも、何を話しているのかはわからないでしょ? 今なら、普通に……いつも通り話してもいいんでしょ?」

 

「……まぁ、そうだな」

 

「……えへへ」

 

「……嬉しそうだな?」

 

「そりゃあね!」

 

 いつぞやと同じく、可愛らしいお弁当箱をユリは取り出した。今日も今日とて、その中身はいかにもSNS映えしそうな女子力あふれる仕上がりになっている。彩のバランスは良いし、ミートボールを刺しているピックだって妙にお洒落で凝っている。そして、ユウだったらドカ盛りして真ん中に梅干しがあるだけの白米は、見事なうさぎさんの形をしていた。

 

「……今日も冷食、使ってないじゃないか」

 

「ミートボールはチンして作れるやつだよ? ソースは自分で作ったけど」

 

 それはもう手作りって言っていいんじゃなかろうか。そんなことを思いながら、ユウはいつも通りの大きなお弁当箱とコンビニで買ったウィンナーパンを取り出……そうとして。

 

「待って」

 

「お、おう」

 

 その片手を、ユリによって押さえられた。

 

「な、なんだ?」

 

 殺意ではないものの、明らかに負の感情が高まった視線を受けて、ユウはひやひやしながら問いかける。先ほどまではにこにこと明るい笑顔を見せていた目の前の少女は、しかし今は軽くうつむいていて、その表情が見えない。

 

「……あの、これ」

 

「……ん?」

 

 ちょちょいと椅子を座りなおすユリ。くいくいと、自分たちの体で隠すように……ランチバッグを指さしている。

 

 その中には、アルミホイルで包まれた細長い何かがある。どこかで見たようなそれは、特にこのお昼時においては、別に珍しいものでも何でもない。

 

「その、コンビニの菓子パンばかりはよくないかなって」

 

 ──マジかよ。

 

 はにかみながら、ユリはそのアルミホイルを剥いた。

 

 中からは、それはもう見事な──ホットドッグが出てきた。

 

「そのウィンナーパン、消費期限まだ大丈夫でしょ? ……その、こっちのほうが早く食べないといけないし、ユウくんだったらそっちはおやつにでもすればいいかなって……!」

 

 恥ずかしさをごまかすようにユリは言葉を口にするが、肝心のユウには届いていない。

 

 それもそのはず。ユウは目の前のことが信じられずに、固まっているのだから。

 

 考えてもみよう。相手がアイドルであるとかそういうのを抜きにしても、女の子がお昼時に自分の好物をみんなに内緒でこっそり作ってきてくれるだなんて、それに憧れない男が果たしてこの世に存在するのだろうか。

 

 しかもこのホットドッグ、ただのホットドッグじゃあない。

 

 まず、パンの質が違う。ユウがいつも食べているのはふわっとした食感の安物のコッペパンが使われているのに対し、こっちはテーマパークで出てくるような、外はカリッと、中はもふっとした食感が特徴のガチなパンだ。

 

 そしてウィンナーがデカい。食べ応えがありそうだし、なんかいい感じの焦げ目までついている。市販品じゃこうはいかない。ケチャップやマスタード、それに刻んだ玉ねぎがふんだんに使われたよくあるアレもいっしょについていて、豪華さが段違いだ。

 

 文句なしに美味しそう。それが、ユウがこのホットドッグに抱いた感想であった。

 

「い……いいのか? これ、お前の昼飯じゃ……」

 

「……もう、言わせないでよ」

 

 ユリの昼食は、いつだってあの小さなお弁当箱一つであった。今日に限って、こんなボリュームたっぷりで豪華なホットドッグを追加で食べるなんてことはあり得ないだろう。

 

 それが意味することは、つまり。 

 

「頑張ったユウくんへの……ご褒美だよ?」

 

 照れながらそれを渡してくるユリを見て、ユウの心臓がどきりと跳ねた。

 

「ホントは、体育を頑張ってもらうために用意したんだけどね。ユウくん、ウィンナーパン好きだし、これならやる気になってくれるかなって」

 

 こういう結果になるとは思わなかったけど、という呟きはユウには届かなかった。それに惹きつけられていて……あるいは、それが意味する何かが信じられなくて、それどころではなかったのだ。

 

 結果として、ユウがやれたことと言えば。

 

「……ありがとう」

 

 純粋に、礼を述べることだけ。今までこんな経験なんて一度もないユウには、それ以外にどうすればいいのかまるでわからなかったのだ。

 

「どういたしまして! ……せっかくだし、『あーん』したげよっか?」

 

「それをやったら、いろんな意味で終わるぞ。俺も、お前も」

 

「私は大丈夫だと思うけどねー?」

 

 受け取る際にわずかに触れた柔らかい指の感触を気にしないようにしながら、ユウはそのホットドッグにかじりついた。

 

「……!」

 

 美味しい。文句なしに、美味しい。何がどう美味しいのかってのはユウの貧相な語彙では表現できそうにないが、今まで食べていたウィンナーパンとはなんだったんだってくらいに、そいつは美味しかった。

 

「美味いな……!」

 

「……うひひ!」

 

 気づけばあっという間に、ユウはそれを平らげてしまっていた。時間にして、三分もかかっていなかったことだろう。さぁ、次の一口を──と思ったときには手の中からそれが消えていて、やるせなさと悲しさと、そして満足感が同時に襲ってきたくらいであった。

 

「いや……マジに美味かった。それこそ、毎日でも食べたいくらいに」

 

「え……」

 

「これを食えるってんなら、体育でそれなりに頑張るのも悪くない……おい、ユリ?」

 

 ふと気づく。さっきまで普通に話していたはずのユリが、なんか真っ赤になって固まっている。はて、何か変なことでもしたのだろうか、女ってやつは相変わらずよくわからん……とユウが思っていたところで。

 

「そ、そそそ、それって……“毎日食べたい”って……!」

 

「あ」

 

 言わずもがな、最近はあまり聞かない古い言葉とは言え、それはずばり、そういう意味の言葉である。

 

「ち、違うぞ? そういう意図があったんじゃなくて、純粋に、それだけ美味かったって意味で……!」

 

「……なに? ユウくん、私のこと可愛くないって言うの?」

 

「お前ホント面倒くさい性格しているな!」

 

 照れ隠しのように、ユリはぺろっと小さく舌を出した。その仕草もまた、アイドルだから破壊力は抜群だ。ある程度耐性がついてきたはずのユウでさえ、油断すればたちまちのうちに心臓を撃ち抜かれていたことだろう。

 

「ふーんだ! ……でも、今を時めくアイドルにここまでさせるなんて、ユウくんってば本当に大物だよね」

 

「そんなつもりはないんだけどな……いや、お前がアイドルだって言うのはもう嫌と言うほど理解したんだが、どうしたって最初の印象が強くって……」

 

「……つまりユウくんは、仲良くなった女の子相手なら同じようなことするってこと?」

 

「仲良くなった女の子、お前以外にいないからよくわかんねえや」

 

「またそういうこと無自覚で……んもう!」

 

 ユリはぽかぽかと、ユウの肩を小突く。本来なら軽くいなせるはずのそれを、ユウは甘んじて受け入れた。別に深い意味があったわけじゃない。なんとなく、たまにはこういうのもいいかな……なんて、そう思っただけである。

 

 うららかな午後に満ちる、温かく、のどかな空気。いつのまにやら本気でその時間を満喫してしまっていたユウは、教室に戻った直後、『お前すごく親しげだったじゃねえか!』、『咲島のくせにユーリちゃんと何話してたの!?』……などなど、クラスメイトたちから壮絶な質問攻めにされることとなった。

 

 

▲▽▲▽▲▽▲▽

 

 

「おう、帰ったぞ……と」

 

 放課後。今日も今日とて無事にユリを姫野の待つ駐車場まで送り届けたユウは、寄り道の一つもせずに真っすぐに家へと帰った。いつもならコンビニで明日のウィンナーパンを調達するところではあったのだが、今日は何となくそんな気分になれなかったのである。

 

「おかえり、おにーちゃん」

 

 家にはすでに、妹のアイが帰ってきていた。暑苦しかったのか、ブレザーも脱いでいるしスカートもそこらに放り投げているという、あまりよそ様には見せられない姿である。一応はもう女子高校生なのだから、少しくらいは慎みを持ってほしい……と、ユウは思わずにいられない。

 

 ぐびぐびと、美味しそうにドリンク──お洒落なスムージーなどではなく、プロテインだ──を飲んだアイは、ユウを見て不思議そうにつぶやいた。

 

「なんかおにーちゃん、最近ちょっと生活パターン変わったよね」

 

「……そうか?」

 

「うん。いつもはもっと……チャイムが鳴ったら直行で帰ってきてたでしょ。最近少し……三十分くらい? は遅れていると思う」

 

「……」

 

 それもそのはず。だってユウは、毎日毎日ユリを送っているのだから。普通の高校生だったら三十分程度誤差の範囲、それどころかこんなに早い時間に帰ってくることなんてありえない……そもそも、毎日毎日きちっと同じ時間に帰ってくることなんてないが、そこはユウである。普通の人とは違う生活をしているだけに、それが余計に目立ってしまっていた。

 

「……ま、俺だって寄り道の一つや二つくらいはするさ。今までだって何度かあっただろ」

 

「……その”何度か”がここのところずっと続いているから不思議なんだけどね」

 

 パンツ一枚にワイシャツ姿と言う、大変あられもない姿のままアイはどかっと腰を下ろした。女子高校生にしてはあまりにも貫禄がありすぎて、ユウはその背後に宴で杯を傾けるアマゾネスの影を幻視する。

 

「でも、なんか顔つきが優しくなったよね! ……なんか心境の変化でもあった? 実は部活の体験入部とかしてたり……!」

 

「んなわけあるか。……そういうお前こそ、部活は決まったのか?」

 

 もういい加減、体験入部の時期は過ぎているだろうけど……なんて思いつつ、ユウも冷蔵庫を漁る。相も変わらずこの家にはジュースもコーラも無いが、麦茶と牛乳だけは豊富にあった。

 

 コップに氷をいくつか入れて、ユウはトクトクと麦茶を注ぐ。カランカランと良い音がして、太陽の光を浴びた麦茶は黄金色に輝いた。

 

「んーん。やっぱりなーんかしっくりこないんだよねえ……。運動部も武道部も、どうにも……」

 

「だろうな」

 

「今のところ一番しっくり来たのが調理部かなあ。放課後にみんなで材料持ち寄って、お料理するの! ……まぁ、だから毎日できるわけじゃなくて、文化部の兼部の人がほとんどなんだけどね。時間の自由も効くし、仲良くおしゃべりしながら好きなことができるし……ちょうどいいかなって」

 

「いいんじゃねえの? どうせ三年間やるなら、好きなことを楽しく……ってのが一番だろ。時間の自由が利くってのも最高だ」

 

「あはは。みんなからは、「すごくもったいない!」って言われちゃったんだけどね。運動部からも、結構しつこいくらいに勧誘がきたり……」

 

「だろうな」

 

 言わずもがな、アイも咲島の血を引く一人である。出来の悪いコラ画像のように──女子高生とはとても思えないほどにその体格は立派で、身長だってユウより高い。鋼のような筋肉は決して見掛け倒しではなく、同年代の女子はおろか、男子でさえ寄せ付けない圧倒的なスペックを誇っていた。

 

 無論、単純な身体的スペックだけではスポーツでトップを取れるとは限らないが、逆にいえばどんな競技でも身体的スペックだけ(・・)でトップクラスに位置することができる。それだけのものを、アイはもっている。運動部が勧誘したくなるのも、ある意味では当然だった。

 

「ねね、あたしの部活のことはどうでもいいんだよ。そんなことより……」

 

「そんなことより?」

 

「……あれから、ユーリちゃんと何かあった?」

 

 期待に満ちた、何かを懇願するようにも思える表情で、アイはユウに問いかけた。

 

「お前、またそれか……」

 

「だって、気になるじゃん! ユーリちゃん、あれから一切テレビ出てないし! 事務所のホームページにも全然情報ないし!」

 

「だったらなおさら、俺に聞いたって意味ないだろうよ」

 

「そんなことないもん! おにーちゃん、ユーリちゃんと一緒にジョギングしてたんでしょ!? あの時、ユーリちゃん助けたんでしょ!? ……知ってる? おにーちゃん、巷じゃ通りすがりの自衛官だとか、ユーリちゃんの魅力にぞっこんになった傭兵とか、中には芸能界の裏の人間だけしか知らない闇の用心棒だとかって言われてるんだよ……!」

 

「……微妙にかすってるのがあるのが怖いな」

 

「だったら! 個別に連絡先貰ってたりとか、あの後事務所の方から接触があってもおかしくない……違う? そうでなくとも、ユイちゃんのときに連絡先の一つや二つ、交換するものでしょ!?」

 

「お前、自分の兄貴がジョギングで一緒になっただけの女の子と連絡先を交換するような人間だと、本気で思ってるのか?」

 

「……そんなこと言わないでよぉ。もしかしたら奇跡ってものが起きるかもしれないじゃんかぁ。どうせろくに使ってないケータイだってわかってるけど、でも、期待くらいはしてもいいじゃんかぁ」

 

 わざとらしく、アイは泣き真似をした。どうやら、今日はここまでで引くと決めたらしい。引き際を覚えてくれるのはユウとしてもありがたい限りだが、だんだん、少しずつそれが長引いてきているのが少しばかり気にかかるところであった。

 

 ちなみに、ユウのケータイは充電しなくても一週間ほど持つ。つまりは、そういうことである。

 

 また、最近は三日に一度は充電しなくてはならなくなっていることを、アイはまだ知らない。 

 

「ま、お前のにーちゃんは、お前が思っている通りそのまんまのにーちゃんってことだよ。昔も今も、これからもな」

 

「むー……。高校二年生、青春真っ盛りなんだから……ちょっとはなんか、そういうのないの?」

 

「お前が期待するようなことがあるなら、まっすぐ帰ってきて引きこもってたりしないさ。……そういうお前こそ、そういう(・・・・)のを大事にしたいなら……」

 

 ふう、とユウは息を吐いた。

 

「……ほどほどにしておけ。深入りするな。俺みたいにはなりたくないだろ……お前が一番、俺以上にこの意味をわかっているよな?」

 

「……それでも私は、私の決めた道を進む。私がやりたいことをしたいし……お兄ちゃんがカッコいいって思うよ」

 

「……そうか」

 

 ならばもう、ユウが言うことはない。これだけ言ったうえで、道を決めたのはほかならぬ妹自身なのだから。

 

「ま……お前が言いたいこともわからなくもない。俺も真っ当に生活していたら、今頃『ユーリ』に熱中していたかもしれないな」

 

「でしょでしょ! なんだかんだ言って、おにーちゃんユーリちゃんの曲気に入ってたもんね!」

 

「おう。アレだけはマジにすごい曲だった。柄にもなくダウンロードしちまったからな」

 

「えっ!? 私、普通にCD持ってるよ!? 言ってくれれば貸してあげたのに!」

 

「……マジか。ちくしょう、なんか知ってるやつに金払うのって今更ながら妙な気分だ」

 

「……そんな気分になれるなら、まだまだ捨てたもんじゃないって個人的には思うんだけど?」

 

 予想外にも、また掘り返されてしまった話。ふと、ユウは想像する。

 

 自分がほかのみんなと同じように、アイドルとしてのユーリに夢中な姿を。今日みたいにユーリとランチを食べたり、一緒に登下校をする姿を。つまらない授業の愚痴を言い合って、くだらないことで笑いあう姿を。

 

 でも。

 

 どんなに想像しても、やっぱりしっくりこない。

 

 だってユーリはアイドルで、ユウは咲島の人間なのだから。

 

「……俺みたいなやつが近くにいたら、アイドルとして致命的だろ」

 

「それは……どういう意味で?」

 

「わかってるだろ? ……言わせるのか?」

 

「……そこは恋人発覚的な意味でって、冗談でも言ってほしかったなあ」

 

 ふう、とアイは大きく息を吐いた。どうやら今度こそ、この手の話はここで終わらせるつもりらしい。間違いなく、明日か明後日には似たような話を振ってくるだろうが、少なくとも今日のうちはこれ以上この話題を続ける気は無いのだろう。

 

「なんかもう……あたしはホントに心配だよ。おにーちゃん、学校楽しい?」

 

「失礼な妹だな、お前は」

 

「いや、半分本気なんだけどさ……なんかこう、イベントとかでも一人ぼっちを貫いているイメージしかないんだけど……」

 

「今日日一人ぼっちを貫けるようなイベントなんてねーぞ。体育祭にしろ文化祭にしろ、常に誰かと一緒に行動だ。人手が足りないし、誰かいないならすぐバレる。……高校ってのも、そう言った意味ではあんまり自由じゃないな」

 

「そーぉ? でも……例えば、ウチなんかこの前こういうのがあったんだけど……おにーちゃん、どうしてたの?」

 

 ぴら、とアイが鞄の中から何かのプリントを取り出した。すでにあちこちに折り目がついていて、見るも無残な状態だ。ファイルの一つにも入れられず、適当に鞄の中に突っ込まれたのだろう。すでに終わったイベントのそれでなければ──これから捨て去られるものでなければ、ユウは間違いなくアイにそれなりに厳しいお説教をしていたはずだ。

 

 そんな、誰もが同情したくなるような状態のプリントを見て、ユウは目を見開いた。

 

「──げっ!」

 

「……え、何その反応? おにーちゃんのところ、まだやってないの?」

 

 

 ──【合同体力テスト】

 

 

 アイの差し出したプリントに大きく書かれていたのは、そんな文字。

 

 全学年が同時に行う──不特定多数が各々ある程度自由な順番で各測定を受けることができる、春の終わりの一大イベントであった。

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