アイドルクロージング!   作:ひょうたんふくろう

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52 事前準備

 

「おおー……」

 

 ユウの目の前で、慌ただしく行きかう人たち。ある者は何やら機材を抱えて、またある者は大事そうな書類を小脇に抱えて。誰もがひっきりなしに誰かと連絡を取り合い、そして自らの仕事を全うせんと目の前の事だけに集中している。

 

 今この場において、ぼーっと呑気な顔をしているのなんてそれこそユウくらいなものだ。

 

「すげえなあ……」

 

 文化祭の準備をもっと大々的にした感じだな──と、ユウは何となく思った。ただ、やはりというべきか中高生たちのそれに比べて真剣さが段違いであり、なんとなく肌がピリピリするほどの緊張感がある。ふざけている人間なんて一人もいないし、にこやかに笑っている者もいない。ともすれば、殺気立っていると表現してもいいくらいである。

 

「場違い感がすごいよな……俺、本当にここにいていいのかな」

 

「何言ってんのよ、ユウくん」

 

 いつもよりちょっぴり自慢げな様子で、ユウの傍らに立つ姫野が告げた。

 

「あなたも関係者……それも、一番主役に近い関係者なんだから。もっとしゃんとしていなさい」

 

 ──未だに実感がわかねえや。

 

 目の前に広がる──アイドルのライブのための特設ステージ。より正確に言えば、今まさに組みあがっていく最中のそれを見て、ユウは心の中で小さく弱音を吐いた。

 

 

▲▽▲▽▲▽▲▽

 

 

 なんだかんだで時というのは流れ、そしてとうとうその日はやってきた。ホタル、マリナ、ミチルの合同ライブとそのサプライズであるユーリの復帰ライブ──の、前日のリハーサルの日である。

 

「でっけェなあ……何人くらい入るんだろ?」

 

「一万人とちょっと、ね。あの子たちの格を考えたら、これでも小さめのハコになるかしら」

 

 都内某所にあるライブ会場……いや、今回の復帰ライブの会場として選ばれたのはとある大ホールである。元々何のために使われる施設なのかはユウには知る由も無いが、室内のそれはそれは大きなスペースで、正面の席に左右の席、そして二階席に留まらず三階席まで設けられているというなんとも立派な会場である。

 

 合唱祭で使った文化会館の大ホールをさらに大きくしたような感じだな、というのがユウの第一印象だ。もちろん、これはあくまでユウの貧相な表現力から絞り出した精いっぱいの例えなので、実態はもうちょっと異なったりする。

 

「これからリハーサルやるんですよね? なんとなく姫野さんについてきましたけど……俺、何すればいいんです?」

 

 ユーリも三人娘も、今は関係者の控室にいる。着替えたり化粧したりしなきゃいけないから、必然的にユウが追い出される形になった。もちろん、それ以外にも演者として打ち合わせだのなんだのをしなくっちゃいけないわけで、ありていに言ってユウに構っていられるほど暇じゃない。

 

 そしてユウの仕事は、ユーリのボディガードだ。本番当日はともかくとして、一応は関係者しかいないはずのこのリハーサルにおいては、実はそんなにやることがなかったりする。

 

「会場の下見とかをしておいた方が良いかなって思ったんだけど……」

 

「案内図はもう覚えました。さっき目ぼしいところは見回ったので、問題はないっす」

 

「……速いわね」

 

「まあ、それが仕事なので」

 

 それに、この程度の距離であればほぼ全域がユウの知覚範囲である。ホール内は見通しが良く、視線を遮るようなものは何もない。大きな空間だから声の通りも良く、そして空気が十分に震えて伝わる分、気配の察知もしやすい。

 

 もし、三階の席のどこか椅子の下に人が潜んでいたとしても、確実に見抜ける自信がユウにはある。

 

「あの子たちのパフォーマンスを通しでやるには……まだちょっと時間があるから」

 

「ふむ?」

 

「せっかくだし、あいさつ回りに行きましょうか」

 

「……え、俺もですか?」

 

「当然。むしろここで顔を売らないでどうするのよ」

 

 そう言われてしまえば、ユウはもう拒否できない。言われるがままに姫野の後について行き、関係者──というか、おそらくは偉い人であろうその人たちの前で、にこにこと余所行きの愛想笑いをするだけである。

 

「やあ、姫野さん! よかった、一言挨拶しようと思ってたんだ! あんなこともあったわけだし、お互い色々大変だろうって」

 

「いえいえ、こうして無事に復帰にこぎつけられたのも皆さんの協力があってこそですわ。あの娘に限らず、ほかの娘たちのイベントだってあれからずっと継続できたわけですし」

 

 初めに会ったのは、おそらくはイベント会社の重鎮であろう壮年の男であった。他の人たちは大なり小なり動きやすい恰好……つまりは舞台の大道具係みたいな恰好をしているのに対し、その男だけは姫野と同じくしっかりとしたスーツ姿である。

 

 ただ……なぜだかそいつは、室内だというのに高そうなサングラスをしている。子供が遊びで着けるようなやつではなく、ハリウッドの俳優がプライベートのオシャレで着けるような色付きのやつだ。そのせいでどうにも、視線や目の表情がわかりにくい。

 

「あんなこと二度と無いとは信じたいが、まぁ今回の警備会社はウチの方からかなり強く『お願い』しておきましたからね。向こうさんもかなりやる気だからもう心配はないと思いますよ」

 

 にこやかな笑顔。そんな笑みを崩さず、その男は言葉を一度区切って──そして、ユウの方を見た。

 

「ところで、そちらの彼は? 見たところ高校生だし、関係者って感じはしないね。まさか、男子アイドルの売り込みかい?」

 

「ふふふ、そのまさかですわ」

 

「嘘ぉ!? とうとう男子アイドルにも手ぇ伸ばしていくことになったの!?」

 

 あはは、とわざとらしく笑う男。うふふ、とこれまたわざとらしく笑う姫野。おそらく男の方も、ユウがアイドル志望でない事なんてとっくに見抜いているのだろう。それでなおこんな茶番をしているのは、この場を和ますための小粋なジョークか、それとも何か思惑があるのか。

 

 少なくとも悪意じゃないよな……と自分で自分を納得させて、ユウはそのままにこにこと愛想笑いを続ける。オトナ同士の難しいやりとりのことなんて、高校生の自分が考えることじゃないと早々に思考を放棄した。

 

「この子、私の親戚なんですよ。力仕事メインの雑用って感じかしら。ほら……いろいろ対応しなきゃいけないことがあるのに、どうしても手を離せない時ってあるじゃないですか。そういう時に便利なんですよね」

 

「そう言えば、マネージャーもプロデューサーも兼任してるんだっけ。そりゃあ確かに手も足りなくなるし、ちょうどいい便利屋さんは欲しくなるね」

 

「ふふ、便利屋さんだなんて大層なものじゃないけれど。でも、普通に人を雇うよりも、断然信頼できるから……ほら」

 

 ぽん、と尻を叩かれて。ユウは、なるべく自然な顔ではっきりと声を上げた。

 

「自分、咲島ユウって申します。力仕事には自信あるんで、よろしくお願いします」

 

「ははは、よろしく。……たしかに結構鍛えてるのかな? 今度、ちょうどいいバイトがあったら紹介してあげるよ。お姉さんにこき使われるよりかは良い待遇にしてあげるよ?」

 

「ちょっと、ウチの子に変なこと吹き込まないで下さる?」

 

「おお、怖い怖い」

 

 男がわざとらしく肩をすくめて、そしてその場はお開きとなる。いつのまにやらユウの手の中に男の名刺があって、そこには男の名前と共に【代表取締役】の一言が添えられていた。

 

「おー……なんか偉い人っぽい感じの肩書だ」

 

「偉い人っぽい、じゃなくて偉い人よ。代表取締役って社長のことだから」

 

「え」

 

「こういうイベントを企画したり準備する会社なんだけどね。ああ見えて、若手の育成に力を入れているというか……ルーキーともいえないようなアイドルのイベントにも積極的に力を貸してくれるから、ついつい頼っちゃうのよね」

 

 あの人は現場主義でバリバリ先頭に立つタイプだけど、これから会う他の人たちも同じくらい偉い人たちばかりよ──と、姫野は補足を入れる。

 

「どんだけいるんすか、挨拶しなきゃいけない人たちって」

 

「んー……会えれば、だけど十人くらい? こういうイベントって、決して一人で開催できるものじゃないから。通すべき筋は通しておくに越したことは無いのよ」

 

 故に、なんだかんだでこうしてあいさつ回りをするだけで結構な時間になってしまう、と姫野は言う。相手にとって迷惑でない時間を見計らいつつ、そしてそんな時間に挨拶できるようにこちらの時間も調整して……と、それだけで結構頭を使うことになるとのことだった。

 

「ま、お互いその辺はわかりきっているというか、お互いさまって所はあるから。よっぽどタイミングが悪くない限りは変に追い返されたりってことは無いけど……たまにね、すごくプライドが高いというか、そういうの(・・・・・)にうるさい人もいるのよね」

 

「あー……アレですか、印鑑は斜めに押せとか、ノックは三回しないとダメだってタイプですか」

 

「そうそう……って、変なこと知ってるのね。……ちなみに、外資系だとノックは四回って言われているわ。こんなの、昔はなかったのにね」

 

「あと……一体いつの間に、俺って姫野さんの親戚になったんです?」

 

「ふふ。人間、究極的に言えばみんな親戚よ。百代くらい遡ればどこかで繋がってるんじゃない?」

 

 それとももっと別の関係の方がよかったかしら──なんて、いたずらっぽく微笑まれて。ユウは、この人には一生口では敵わないだろうという奇妙な確信を抱いた。

 

 

▲▽▲▽▲▽▲▽

 

 

「あーっ! ユウくんってば、やーっと来てくれたあ!」

 

「お、おお……」

 

 控室。あるいは楽屋裏とも呼ばれるそこ。文字通り関係者以外立ち入り禁止な──関係者の中の関係者でもなければ扉を開けることすら許されないそこで、ユウは満面の笑みを浮かべるユリに出迎えられた。

 

「もうっ! いったいどこ行ってたのっ! ……なんかちょっと疲れてる?」

 

「姫野さんに着いてあいさつ回りしてたんだよ……」

 

「……ホントぉ? そもそも、ユウくんのお仕事は」

 

「……姫野さんの雑用係だろ?」

 

 今のユリは──いつぞやと同じ、アイドルの衣装を着こんでいる。本番さながら、メイクもヘアセットもばっちりだ。呼び出しさえあれば、いつでもステージにあがれる準備ができていると言って良い。

 

 もちろん、ヘアセットもメイクも一人じゃできないわけで。今この楽屋には、ちょうどその仕事を終えた上品そうなお姉さん──メイクの人がにこっと笑ってユリの傍に立っている。

 

「ユウくん、この人が最後の……いわゆるメイクさんよ。ユウくんが直接かかわることはないだろうけど、顔を合わせる機会は多いだろうから」

 

「どうも、咲島ユウです」

 

「こんにちは、ユウくん。ユーリちゃんからちょっと話は聞いてるわ。姫野さんの親戚で、臨時バイトなんだって?」

 

「ええ、まあ……姉さんに割のいいバイトって言われてホイホイついてきたんですけど、まさか小間使いにさせられるとは」

 

 すでに何度かしたやりとり。さすがにユウも慣れてきて、適当にそれらしい回答をすることにもためらいが無い。なんだか一瞬ユリの眉がぴくりと跳ね上がったように見えたのだけは気がかりだが、ユウは全力でそれを考えないようにした。

 

「そっ、それよりもさ! ……ユウくん、どお?」

 

 ちょっぴり照れくさそうにはにかんで、ユリはくるりとその場でスカートをひらめかせた。

 

「すげーんだな……衣装の人とか、化粧の人とか。でっかいラジカセみたいなやつがあったり、なんかこう……とにかくみんな、プロっぽい感じでなんかすげえ」

 

「……ユ・ウ・く・ん・?」

 

「ああうん……似合ってる、と思う」

 

「……まぁ、良しとしよう」

 

 メイクのお姉さんが目をぱちくりとさせて。否が応でも気づいてしまうその気配にユウとユリをそれぞれ二度見して。「えっ、これ、そういうこと?」と言わんばかりに姫野を見つめて……そして、姫野がわざとらしく肩をすくめるところまで、ユウの鋭敏な知覚ははっきりと感じ取ってしまった。

 

「あの、私が言うのも何なんですけど……大丈夫な奴、ですよね?」

 

「ウチの事務所、日本国憲法で許されていることなら何をしても問題ないわよ?」

 

「ほぁぁ……! 道理でお化粧がいつもより映えるわけだ……!」

 

 お口のチャックに気を付けないと、とメイクのお姉さんはにこやかに笑う。なんだかとっても不穏な気配がしたので、ユウはただただ黙ってその様子を見ることしかできなかった。

 

「ホタルたちはもうステージよね?」

 

「はい。もちろん、あの娘たちもバッチリお化粧出来てますし、衣装についても問題ありません」

 

「リハーサルの運行も問題ない……わよね?」

 

「うん。遅れてるって連絡は来てないから……もうそろそろ、ステージに向かっても良いかも」

 

 ユウたちがあいさつ回りをしている間に、順当にリハーサルは進んでいたらしい。今はもう機材の準備なども整って、実際のパフォーマンスの運行のところまで進んでいるという。

 

「じゃ、ステージに行きますか。ユウくんも、もう一度しっかりルートを確認しておいてくれる? 当日は明かりも消えてるから、うっかりすると迷うかも」

 

「了解っす」

 

 控室でのやり取りはそこそこに、ユウたちは連れ立ってステージへと向かう。ちょっぴり薄暗い関係者用の通路を通れば、ステージの裏の……いわゆる舞台袖まではほぼ一本道だ。

 

 ──ちょうど、一曲終わって区切りが良いところだったのだろう。ユリと同じく粧しこんだ三人娘が、舞台袖に現れたユウたちに気付いた。

 

「よっ、咲島くん」

 

「ども」

 

 三人が三人とも、アイドルの衣装姿だ。そしてユーリと同じく、ほんのりとナチュラルメイクをしている。レッスン時のラフな運動着姿であるところしか見たことがないだけに、ユウにとってこの三人の正装というものは殊更に新鮮に映って見えた。

 

「さて、咲島くん。……なにやらじっと私たちを見ているようだが、何か言いたいことでもあるのかい? 遠慮せず言ってくれてもいいんだよ?」

 

 自信たっぷりに、ホタルがえへんと胸を張る。彼女はいつだって自信満々でよい意味で不遜な態度を崩さないが、今日はしっかり衣装を着こんでいるだけに、余計にその仕草がサマになっている。

 

 もっと言えば……そう、本気の研鑽を積んだもののみに現れる、あの特有の空気。気恥ずかしいので言えないが、彼女からは確かにそれが感じられた。

 

「……化けたなあ」

 

「大概失礼だね、キミも!? アイドルが衣装でばっちり決めてるのに出てくる感想が……ちょっと待て、ユーリ。なんで一人でガッツポーズを取ってる?」

 

「べっつにー?」

 

 「似合ってる」と言わせるのと、「化けたなあ」と言う感想。人によってはどっちが上なのか判断が分かれるところかもしれないが、少なくともユリの中では「似合ってる」と言わせる方が上等であるらしい。

 

「まぁ、マジな話すると……なんか、三人とも妙に息切れが酷くないっすか? それにただ歌って踊っただけにしては汗が酷い。……少なくとも、レッスンの時はここまでじゃなかった」

 

 はっきりわかるほどの発汗。三人とも額や首筋に珠のような汗が浮かんでいるばかりか、息がだいぶ荒れている。レッスンの時はここまでの状態に放っていなかったことを考えると、ダンスパフォーマンスによってこうなってしまったとは考えにくい。

 

 ユウの基準で考えれば──これは、ちょっとばかり何か不測の事態が起きている、ということになる。

 

「う……そ、そんなにはっきりわかっちゃう?」

 

「……なんか、改めて言われるとその、ちょっと恥ずかしいです」

 

「……ユウくんのえっち」

 

「なぜ」

 

 結構鋭い肘の一撃を甘んじて受け入れて。そしてユウは、ちらりと姫野の方へと視線を向けた。

 

「ま、レッスンスタジオと同じ状態じゃないからね……今なら大丈夫だから、ちょっとステージに上がって見なさい」

 

「いいんすか?」

 

「いいわよ。……ほら、機材の人とかも今は上がっているから」

 

 ステージ。ある意味ではアイドルの聖域とも呼べる場所。リハーサルとはいえ、ついさっきまでそんなアイドルが歌って踊っていたその場所に、ユウは少しばかり躊躇いつつも足を進めた。

 

「……あっちい」

 

 熱い。暑いではなく熱い。自身に当たる強力な光線を肌にピリピリと感じる。ついでに、まっすぐ前を向いているはずなのにどこか眩しい。全体の明かりが点いている時でさえこの調子ともなれば、本番になると……辺りが暗くなると、まともに観客席なんて見えなくなるのでは、と思えてしまう。

 

「スポットライトが思いっきり当たるから。普通にしているだけでも結構熱いのよね」

 

「なるほど……こりゃ確かに、相当体力使うな。慣れなきゃけっこうキツそうだ」

 

「今は調整しているけど、本番はもっとしっかりライトがあたるからねー……。私も初めてライブした時、熱いしチカチカするしで意識朦朧としてたもん」

 

 本番とレッスンでは環境が違う。だからこそ、レッスンの時には出てこなかった問題が浮き彫りになる。故に、こうしてリハーサルを行って事前確認をきっちりしておくことが、無事にイベントを成功させるために何よりも大事なのだ──と、姫野は語った。

 

「……まぁでも、これなら別に問題ない」

 

「……ユウくん?」

 

「ん、こっちの話」

 

 ──たとえ視覚が封じられようと、何かが起きる前に何とかできる。

 

 舞台袖からステージの上まで、せいぜいが十数メートルといったところ。この程度であればユウは一瞬でユリの元へと行けるし、客席から不埒な輩が出てこようとも問題なく対処できる。スポットライトで視覚が効きづらいかもしれないが、何のハンデにもなりはしない。

 

「当日は基本的にユリの近くにいてくれればいいわ。この娘が出るのは演目の最後の所だけ。……しいて言うなら、サプライズだから一般のお客さんにバレないように周囲に気を配ってもらえると嬉しいかも」

 

「了解っす」

 

 会場の下見は十分。当日にやることもはっきりしている。ここまでくればもう、ユウとしてはもうやることはない──その瞬間が来るのを待つだけである。

 

「俺としては、もう十分に見させてもらったって感じです──あ、いっこだけ」

 

「なにかしら?」

 

「今更ですけど、俺って普段着でいいんですかね?」

 

 気づいてしまったその事実。ユウはどこにでもいる男子高校生──否、普通の男子高校生よりもかなりファッションに疎い。最低限、外に出かけられる衣服は持っているものの、アイドルの目の前に立っていても違和感がないようなオシャレな衣服は持ち合わせていない。

 

「スーツとか、持ってるんだっけ?」

 

「いえ……しいて言うなら、学ランが」

 

「ま、学ランがあれば冠婚葬祭全部行けるものね……。大丈夫、今日みたいなやつで平気よ。どうせ表立って動くことは無いから、上からスタッフの上着を着て貰えば良いわ」

 

 最後に残った懸念事項もあっさり解決。これでもう、本当にユウには何の確認事項はない。

 

「本番まであと十数時間……気を抜かずに、きっちりやり通すわよ」

 

 姫野の言葉に、ユウもユーリもうなずいた。

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