アイドルクロージング!   作:ひょうたんふくろう

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56 ワイドニュース:サプライズ復帰ライブ

 

『──先日行われた、アイドルのホタルさん、マリナさん、ミチルさんのライブ。久しぶりの大規模ライブにファンの皆さんの盛り上がりは凄まじく、会場は満員御礼、文句なしの大盛況でありました』

 

『ライブの最後にはサプライズイベントとして、長らく活動を休止していたユーリさんも登場。例の事件以降初めての歌声を披露したほか、ホタルさんらとの合同パフォーマンスもお披露目し、これから活動を再開していく旨を語りました』

 

『一部照明のアクシデントこそあったものの、このサプライズ復帰ライブで完全復活を宣言したユーリさん。これからのますますの活躍が期待されます』

 

 

 

「いやぁ、五郎丸さん……とうとうこの話をできる日が来ましたね……!」

 

「うむ、実にめでたい! もしかしたらこのまま戻ってこれないんじゃあないかと心配もしていたが、以前よりもさらに輝いているように見えるな!」

 

「まったくです! 待ち焦がれていた分、余計にそう思えてしまうのかもしれませんが……! 活動を休止していたどころか、こっそり秘密の特訓していたと言われても信じてしまえるくらいの仕上がりですよ!」

 

「はっはっは、その通りだな!」

 

「あっはっは、最高の気分ですね!」

 

「……」

 

「……」

 

「……」

 

「……あの、五郎丸さん? なんでそんな、いきなり無言になったんです?」

 

「……言わなきゃダメか? というか、こうやってまた呼び出し食らったんだ、ただ『よかったですね』……で終われるわけじゃなかろう?」

 

「ええ、まぁその……そりゃあ、建前的にはサプライズ復活ライブの大成功って話をしたいですよ。実際結果だけ見れば成功しているのは間違いないですし。ただ……」

 

「その過程に色々問題があったから、鉄砲玉のように一切の遠慮なく追及してくれる私を呼んで視聴率を稼ぎたい……ってところか? ええおい、どうなんだ?」

 

「……我々はサラリーマンなので、上からの命令には逆らえないのです。というか、五郎丸さんってばそう言う自覚あったんですね」

 

「ふん。お前らの考えそうなことくらいわかるし、自分のことをちゃんと客観視できないほど落ちぶれているつもりはない。……そのうえで、あえてお前らの思惑に乗ってやるわけだが」

 

「いやあ……他の局はスルーというか、触れちゃいけない感じで流していますけれども」

 

「おう……あの娘、ステージの上で倒れたよな?」

 

「倒れました、ねえ……」

 

「それも病気や体調不良って感じじゃないだろ? 直前まであんなに元気に喋っていたのに、マイクで歌おうとした瞬間にああなったってのは……」

 

「どう考えても、精神的なものですよね……」

 

「……まぁ、あれだけのことがあったんだ。トラウマになってしまうのも無理はない。そこを無理強いするような輩がいなかったのはひとまずの及第点として」

 

「ふむ?」

 

「──なんだあのザマは!? 貴様らの倫理観はどうなってる!?」

 

「ちょ、ちょちょちょ、五郎丸さん!? いったい何をそんな……!?」

 

「知れたこと! ライブ会場で動画撮影をしているばかりか、あの直後にはその映像がネットに出回って……! SNSだの掲示板だのには面白おかしくあの出来事が書かれて……! 証拠もないのにとんでもないデマを断定したり、『彼女はもう終わりだ』なんて無礼千万な書き込みがうんざりするほどあったんだぞ!!」

 

「おねがい、お願いですからホントに落ち着いて……!」

 

「これが落ち着いてられるか! 年頃の娘によってたかって何という仕打ちをしたと思ってる! そんな風に書き込まれたらどんな気持ちになるのか、どうして想像ができない!? 貴様らの頭の中には脳ミソが詰まっとらんのか!? ええおい、脳ミソが詰まってない頭なんて着けていても意味ないんだぞ!」

 

「ほ、ホントに落ち着いて……!! かつてないほどお怒りになられているのは十分理解できましたから……!」

 

「……ふん! 時と場合によっては、私の私財を投げうってでも情報開示請求をして彼奴らを全員しょっぴいてやるからな」

 

「えー、あー、五郎丸さんのお怒りは後で私が引き受けることにしますが……一点だけ、訂正があります」

 

「ふん、言って見ろ」

 

「あのライブ、写真も動画もOKなんですよね」

 

「……えっ」

 

「カメラは禁止としているライブは多いです。ライブの映像は後で商品になるわけですし、そんなのアップされたら商売あがったりですからね。そうでなくとも、カメラを構えた人間たちでの争い……ようは、客同士のトラブルが発生することなんて目に見えている」

 

「お、おお……映画館で動画撮影しちゃいけないのと同じ理屈……だよな?」

 

「ええ。ですが最近はOKのところもあるんです。カメラも小型化してますし、禁止しても破る人は絶対に出てきます。であれば、開き直って撮影OKにしてしまえば……SNSにアップされたそれらはそのまま宣伝になる。たかだかスマホのカメラで、普通の席から撮った映像であれば、きちんとした機材でちゃんとした場所から撮った映像には遠く及ばない。ライブの映像を欲しがるのは本気のファンですから、売り上げが落ちることもない」

 

「そう言われてみると……そう、なのか?」

 

「はい。やっぱりプロがちゃんと撮ったやつの方が手元に残すモノとしては一番ですからね。……あ、撮影OKとはいえ、自撮り棒だとか大型カメラだとか、他人の邪魔になるようなものはNGだったりと、細かくルールは決まってますよ?」

 

「む……そうなのか。すまない、撮影の件ついては完全に私の早とちりだった。前言を撤回し、この通り謝罪する」

 

「……そうやってすぐに素直に頭を下げられるところが、妙に憎めないんですよねえ。この程度、謝る人の方が珍しいというのに」

 

「けじめはしっかりつけないと、私の気が収まらないというだけだ。それに、撮影の件は私のはやとちりだが、SNSの書き込みや飛び交ったデマについては変わってないからな」

 

「……ま、それはおいおい追及して頂くとして。我々が考えなくっちゃいけないのは……我々が求められているのは、今回の一連の流れに対する見解でしょう」

 

「ふむ。脱線してしまったがようやく話ができるな……これは?」

 

「ファンが撮影していた当時の映像ですね。その中で一番映りがいいものを選定しました。ミチルちゃんがサプライズの話を持ち出して……ほら、ここでいつものイントロが」

 

「あの娘の持ち歌の……【O'ast Kitten!】だな。この流れを見れば、この後の展開なんて誰でも予想が付くことだろうよ。……それにしても凄まじい盛り上がりだな。その場の空気がガラッと変わったのが、映像からでもわかる」

 

「ええ……特にこの瞬間! ユーリちゃんがステージに出てきた瞬間の盛り上がりと言ったら! 歴史が変わる瞬間に立ち会ったかのようですよ!」

 

「……ここからが、問題だな」

 

「……う」

 

「この音……マイクを落とした時の音だな。この時すでに、あの娘は膝から崩れ落ちている。ステージの真ん中に来るまでは平気だったのに……」

 

「見てください、苦しそうに胸を押さえてる……おそらくですが、あの事件と同じようなシチュエーションのせいで恐怖心が呼び起こされたのかと」

 

「自分を見ているこの沢山の人間のどこかに、あの時と同じような人間が潜んでいるかもしれない……ってか。……やはり、そう簡単に心の傷は癒えないんだな……む!?」

 

「すごいですよね、これ」

 

「な、なんだ!? いったいなにがどうなって……ちくしょう、映像が途切れたぞ!? それになんだあの爆音は!?」

 

「落ち着いてください、五郎丸さん……カメラは正常ですよ。映像が途切れたんじゃなくて、照明が落ちただけです。……ほら、設備不良のアナウンスが流れているでしょう?」

 

「だ、だがしかし……!」

 

「ええ、長くなりましたがここからが僕たちに求められていることです……少し巻き戻しして、今度はスローで見て見ましょうか」

 

「む……あの子が崩れ落ちた直後、画面端の舞台袖から……」

 

「スタッフの恰好をした男性が、凄まじい速さでユーリちゃんに駆け寄りましたね」

 

「……えっ? これ、スローだよな?」

 

「0.5倍速のスローですね」

 

「……普通に動いているように見えるんだが?」

 

「普通? よく見てください、早さはそうかもしれませんが動きは違うでしょう? 単純に、一歩の距離が凄まじいんです。とんでもない脚力ですよ、彼」

 

「あの距離をほんの数歩で走って……いや、駆けているのか……」

 

「動きも早いですが、判断も早いです。これ、ユーリちゃんが膝をついてから一秒するかしないかで動き出してることになりますよ」

 

「お、おお……同じステージに立ってる三人娘が気づく前に動いているな……これ、0.5倍速って言ってたよな? つまりこの距離を二秒程度で駆け抜けたのか?」

 

「計算上はそうなりますね……でもって」

 

「何のためらいもなく、あの娘を抱き上げたな。あの娘も自然に、彼に体を預けている」

 

「万が一のために控えていたスタッフなんでしょう。……顔が見えないのが実に惜しい」

 

「……見えてたらどうするんだ?」

 

「別に? ……それよりもほら、ここで照明が落ちました」

 

「あのとんでもない爆音はほぼ同時……どこか電気系統が故障してブレーカが落ちたのか? あれ、結構盛大な音がするだろ?」

 

「確かにそうですが……おそらく違うと思います」

 

「ふむ?」

 

「スローでよく見ると、実は照明が落ちるよりも前にこの爆音はしているんですよね」

 

「……? だから、何らかの理由でどこかが故障したんだろ? その音の後に電気が消えるんだから辻褄は……いや待て。そもそもとして、この設備不良自体が怪しいという話だもんな」

 

「ええ。あまりにもタイミングが合致しすぎてる。ただ、その割には矛盾しているところもありまして」

 

「矛盾? ……ああ、そうか! もしあのスタッフが純粋にあの娘を連れ出すために出てきたのだとしたら……!」

 

「暗闇にする必要、ないんですよね。そんなことしたら却って危ないですし」

 

「むぅ……結局どういうことなんだ? あの爆音は本当に設備不良だったってことでいいのか?」

 

「あくまで私の考えになるのですが」

 

「言って見ろ」

 

「設備不良自体はただの建前。異常事態が起きたユーリちゃんの姿を隠すために、誰かが咄嗟についた嘘……あるいは、事前に取り決めていたものでしょう。会場全体の照明が落ちるような重大な不良があんな短時間で直るはずありませんし、すぐ直るような軽微なものなら不良個所を見つけだすのが困難です。何より……あのアナウンス、全体放送でした」

 

「……じゃあ、あの爆音は設備不良によって起きたものではないんだな?」

 

「はい。あれはただ単にマイクが拾った音……つまりは、あのスタッフの彼が一歩を踏み込んだ音です」

 

「……えっ」

 

「あれとよく似た音に聞き覚えがあります……武道における踏み込みの音ですよ。五郎丸さんには、お相撲さんが四股を踏む音と言ったほうがわかりやすいですか?」

 

「う……た、確かに言われてみればそんな気もするが……だが、本当に? 理解はできるが、あの大きさの音ともなると相当に力強く踏み込んでもできるかどうか」

 

「それだけの速さで、彼はステージに上がって来てたんですよ?」

 

「あ」

 

「照明が落ちてなかったら。きっとすごい映像になっていたでしょうね」

 

「…………」

 

「さて。このあと二十分程度暗闇が続きます。映像に写っている小さい無数の光は観客の皆さんのスマホの光で……途中で一部照明が復活しますが、それ以外に目ぼしいところはないのでカットしましょう」

 

「……SNSへの書き込みが多かったのはこの待ち時間の時だな」

 

「今までだったらその場に居合わせた隣人とひそひそと話すだけだったのですが、今は手軽にすぐに全世界と繋がれてしまいますからね。これもまた時代の流れなのかもしれません……っと」

 

「照明が戻って……舞台袖からスーツの男が出てきたな。サングラスをかけているから人相がよくわからんが、比較的若く見えるか?」

 

「……」

 

「そのままステージの真ん中まで歩いて……ここで、あの娘の元気な声が聞こえてきたと。あとはもう、普通に彼女がステージに登場してライブが再開したわけだ」

 

「……どう思います?」

 

「どうって……事務所側もある程度この事態を想定していたってことじゃないのか? あの恰好、いわゆるSPとかボディガードとかそういうやつだろ? ステージの上の安全確認をした後は、さりげなく観客席とステージの間に映ってるし」

 

「なるほど……五郎丸さんには、そう見える(・・・・・)んですね」

 

「……お前には、どう見えているんだ?」

 

「……私には」

 

「む?」

 

「……すごく、すごく恐ろしく見える。というか、こんなのが本当にあるだなんて、正直今でも信じられない」

 

「……おい? お前、いったい何を」

 

「──凄まじい気迫(・・・・・・)。映像越しでさえ伝わってくるだなんて、おとぎ話だと思ってましたよ」

 

「……は?」

 

「最初にステージに立った時。彼は意図的に自分に注目を引き付けている。この広い範囲にいる何千人もの人間に対して、自分だけを見るように気迫でそれを成している」

 

「……わかりやすく、言ってくれ」

 

「例えば格闘技で、フェイントという技術がありますが……それは相手に注目されなくっちゃ意味がない。そのうえで、フェイントだとばれないように自然な動きでないといけない。彼がやっているのは、それを凄まじく大規模にして凄まじく高精度にしたものですよ」

 

「……」

 

「そして、ユーリちゃんが登場してからはそれを止めた。今度は自身の一切の気配を消して、さりげなく観客席とステージの間に陣取っている。さっきまであれほど強い気迫で注目を引き付けていたのにも関わらずに、です」

 

「……」

 

「そして……もっとすごいのは、ここから」

 

「……まだ、あるのか?」

 

「ええ……むしろこれこそが真骨頂。正直私は、こんなところでこれほどまでの技術の粋が見られるとはまるで思ってすらいなかった」

 

「……言って見ろ」

 

「──動かぬ気迫。守護する気迫。観客席に向けていたはずの気迫を、今度は全て後ろに……ユーリちゃんだけに向けている。観客には一切悟らせないまま、唯々ユーリちゃんを安心させるためだけに、そのすべてを彼女に注いでいる」

 

「……俺が絶対に守ってやると、背中で語っているということか?」

 

「まさしく。まさしく、その通りです。ユーリちゃんからしてみればすさまじい安心感だったことでしょう。ただ気迫を発するだけでも難しいのに……これほどの質と量に、精密なコントロール。驚嘆すべき能力であると同時に、うすら寒い何かを感じずにはいられないです」

 

「いろいろ突っ込みたいところはあるが、お前が言うならそうなんだろう……そのうえであえて聞くが」

 

「はい?」

 

「観客に漏らさずに、彼女だけに注いでいるという気迫とやら……それをなぜ、お前は感じ取れたんだ? そうしていることを悟らせないために、彼は彼女だけにそうしてるんじゃないのか?」

 

「……いやあ、すごいボディガードですね。きっと相当手練れの方なんだと思います。だからこそユーリちゃんも、最後まで安心して歌えたんでしょうね」

 

「……なんかお前のことがすごく怖くなってきた。実は裏の稼業とかやってない?」

 

「……ははは!」

 

「うわあ……なんだよそのどっちともとれる乾いた笑いは……」

 

「んっんー……。私のことは良いんです。それよりも重要なことがあるでしょう?」

 

「む? 色々不可解なことはあるが、彼女がトラウマで倒れたものの、スタッフの協力により何とか復活できた……ってことじゃないのか? そのスタッフが、我々の知っているものよりも相当凄まじいってただけで」

 

「……あ、それでいいならそう言うことで終わりにしましょうか」

 

「おい」

 

「だ、だって……五郎丸さんなら絶対気付くというか、突っ込んでくると思っていたので……。そうでもなければ、正直もうこの件には関わりたくないんですよ……」

 

「言え。ここまで来たんだ、洗いざらいすべて話せ。安心しろ、責任は私が取る。そのための私だろ?」

 

「…………」

 

「…………」

 

「……あの映像を見て。はっきりと確信しました」

 

「ふむ」

 

「スーツの男と、最初にユーリちゃんを連れ出したスタッフ。あれ同一人物です」

 

「む……!? いや、背格好は似ているが雰囲気が全然ちが……待て、違うのは雰囲気だけか?」

 

「ええ。服装と髪型、雰囲気は変えていますが背格好は同じでしょう? 気迫を操る達人に、凄まじい身体能力を持つ達人……そんな達人があの場に二人もいたとは考えにくい」

 

「ま、まぁ……だが、それがそんなに不思議な話か? むしろ、言われてみればそうとしか思えなくなるくらいだ。あれだけ時間があれば、ちょっと変装するのだって難しくはないだろう?」

 

「……ここからは、私の推測です。憶測と言ってもいい。断定しているわけじゃないし、ただの妄想なんですが」

 

「随分と予防線を張って来たな……で、なんだ?」

 

「………………この人たぶん、この前の事件でユーリちゃんを助けた人ですよ」

 

「…………えっ」

 

「見た目は似てるでしょう? それに、そうだとすればユーリちゃんや事務所が全幅の信頼を寄せる十分な理由になる。四階から平然と飛び降りるすさまじい身体能力の持ち主なんだから、今回のこれだって」

 

「……合致するな、それは。今から思えば、ステージに飛び込んできたあの動き……あの時とそっくりなような」

 

「どれだけ探しても彼の情報が見つからなかったのも」

 

「既に事務所と接触していたから……いや待て、前回少し話した一番あり得なさそうな推測が正解ってことか? 凄まじい勢いで辻褄が合いまくってくんだが」

 

「……事実は小説よりも奇なりってやつですね」

 

「ふむ……しかし、所在がはっきりしたのはいい話じゃないか。無駄な憶測や探り合いもこれでなくなるだろうし、私も彼とゆっくりと語り合うチャンスが生まれることとなる」

 

「いえ、この件はここまでです。少なくとも私はもう……深追いはしないし、したくない。いや、したくてもできない」

 

「……うん? どういうことだ? お前、あれだけあの謎の少年の正体を知りたがっていたのに。ぽっと出の部外者の癖にユーリちゃんと何やってんだ……みたいなこと、言ってなかったか?」

 

「……もし。もし私の想像が合っているのだとすれば。私なんかじゃどうにもできない」

 

「おい、それって」

 

「辻褄はあう……辻褄しかあわない。そんなのおとぎ話のはずなのに、状況がその事実を裏付けている」

 

「わかるように言ってくれ……今日のお前、いつにもましてなんかおかしいぞ」

 

「五郎丸さん」

 

「なんだよ?」

 

「ドラゴンって信じます? この地球上のどこかで生きていると思います?」

 

「なんだよ急に……ドラゴンってゲームとか映画に出てくるアレか? さすがにそれはないだろう?」

 

「では、UFOは?」

 

「……ドラゴンよりはありえそうだが、生憎私はUFOは信じない主義だ」

 

「では、ネッシーや人魚は? 河童でもいいですけど」

 

「UFOよりは実在の可能性はありそうだが……お前、さっきから何を?」

 

「ツチノコは?」

 

「む。……ツチノコは、形はどうあれ、元となったなにかは存在していると思う」

 

「……では、いわゆる池のヌシは?」

 

「それはいるだろ。というか地元の池で釣ったことがあるし。普通のやつより倍は大きかったっけな……」

 

「……そういう信憑性の話として。とある界隈において、池のヌシとツチノコの間くらいの信憑性で語られる有名な伝説みたいなものがありまして」

 

「それ、裏の業界とかじゃないだろうな? というか、その信憑性って……割と信頼に値するというか、滅多に見つからないだけで実在していると言って良いレベルのものじゃ」

 

「私の想像が間違っていないのなら、彼がそう(・・)です」

 

「……」

 

「ごく一部の人間だけに語り継がれる伝説の用心棒。口伝にて伝わるその活躍ぶりがあまりにも人間離れしているものだから、そういう物語が本当のことのように語られているのか、あるいは単純に尾ひれがついているだけだと思っていましたが……」

 

「…………」

 

「もう、信じざるを得ない。であれば、下手に突っつかない方が良い。それが一番平和な方法で、もし迂闊に踏み込んだら……」

 

「……私には何のことだがさっぱりわからんがね、少なくともあの青年は実に清廉で高潔な人物のように見える。一人の人間として誠意と尊敬とごくあたりまえな敬意をもって接すればいいってだけの話だろう」

 

「……そう言い切れるあなたが、本当に羨ましいですよ」

 

「ふん。おまえらマスコミはいつだってそうだ。自分たちが『取材してやる』という上から目線で物事を進めることが当たり前だと思っている。単純に、人との接し方が成ってなかっただけだと思うがね」

 

「じゃあ、五郎丸さんは彼に……」

 

「今すぐじゃなくとも、落ち着いたらゆっくり話をしたい。前に言った通り、高級な個室の飯屋でな。無論、チェーンの居酒屋の方が良いと言うならそっちでもいいし、私の家が良いというのならそれでもいい」

 

「……」

 

「だが……そうだな、これでも私は、お前のことはちっとは信用している」

 

「……はい?」

 

「──これを見ている諸君。こいつがこう(・・)まで言い切って、そしてこんな有様になっている相手だ。おそらく本当に、迂闊に首を突っ込んだら大変なことになるのだろう。私はその一点においては、間違いなくこいつのことを信じている」

 

「……」

 

「──故に。私が何か行動するまで誰も余計な手出しをするんじゃない。いいか、これは私からの警告だ。確かに言ったからな。……それでなお言いつけを無視した連中がどうなってしまうのか、本音を言うならそっちを見てみたいところだがね」

 

「五郎丸さん、あなた……」

 

「さぁ、これでこの話は終わりだ。あの娘も復帰して、今は頼れるボディガードも傍にいる。これからどんどん活躍してくれるだろうから──今度は、ファンとしてこの場で語り合えることを祈っているよ」

 

 

 

▲▽▲▽▲▽▲▽

 

 

「これね、昨日のワイドニュース。知らないわけないよね、昨日も今日もずっと似たような話題で持ちきりだし、朝のテレビでもやってたんだから」

 

「お、おう」

 

「相も変わらず、ユーリちゃん関係についてはここの局が頭二つ以上抜けた報道をしているよね。五郎丸さんは相変わらずだし、コメンテータの人もなんかこう……なんか、すごいし」

 

「そ、そうだな。すごくよく場を見ているというか、あれだけの情報ですごく細かいところまで気づいているもんな」

 

「うん。というか、明らかにあの人”こっち側”のこと知っているもんね。そうじゃなければ、あんな風にはならないもんね」

 

「……」

 

「……」

 

 にこっと微笑んだ妹の顔を、今日この日ほど恐ろしいと思ったことはユウにはなかった。

 

「ねえ、おにーちゃん……?」

 

 たん、とユウの左肩に置かれたたくましい大きな手。

 

 みし、みしとそこから聞こえちゃいけない音が聞こえているのは、決して気のせいではないのだろう。すくすくとたくましく育っている妹の成長に、ユウは少しばかり泣きそうになった。

 

「咲島流【撃】の型──麦倒(ばくとう)だよね、あれどう見ても」

 

「あー……そう見えないこともない、かな?」

 

「あたし、これまだできないんですけど? めちゃくちゃ下手くそで技って言えるレベルじゃないんですけど?」

 

「……全力の踏み込みダッシュに大層な名前がついてるだけだが、【撃】ではありつつ、実際は【流】の要素が強いからな。コツとしては、ただ地面を踏み込むんじゃなくて、地面を壁に見立てて駆け上がるように力を──」

 

「おにーちゃん」

 

「はい」

 

 どうにか修練の話に話題を変えようとしたものの、ユウのそんな浅知恵が効くような相手じゃない。というか、普段は修練の話なんてしようともしないユウがそんな行動をしてしまった時点で、答えを自ら白状しているようなものだった。 

 

「──私、おにーちゃんがこんなことしているなんて聞いてないんですけど?」

 

「……い、言ってなかったっけ? ほ、ほら、このまえあいつが遊びに来た時に」

 

 言ってない。そんなのわかりきっている。というかバレたくないからユウは言わないようにしていたし、それを察してくれたのか、あるいは単純に時間の問題だと思ったのか、ユリもそのことについては触れなかった。

 

「おにーちゃん」

 

 たったその一言。

 

 ただのその言葉だけで、ユウはこれから起こるであろう苦難に対する覚悟を決めた──決めさせられてしまった。

 

「洗いざらい、全部話してもらおうか。さもなければ──ユーリちゃんに、おにーちゃんが他所のアイドル見て鼻の下伸ばしてたって言いつけてやる」

 

「…………それ、俺の仕事が無くなって楽になるだけじゃね? 俺としてはむしろ──」

 

これが一番効く(・・・・・・・)。わかんないけど、理解(わか)る」

 

 咲島流の奥義の片鱗に触れつつある妹を見て……そして、奥義なんて使わなくてもしっかりと臨場感たっぷりにイメージできてしまったアイドルの顔に、ユウはぶるりと体を震わせた。




 塩漬けストック、とうとう尽きました。しばらく書き溜め期間に入ります……。
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