Code.『U』   作:rarudo95

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第3話

「ここで……いいんだよね……。」

 

 メモに書かれている地図を頼りに辿り着いた、1軒の診療所。

 

「鷹目医院だから……、ここで合ってるはず……。」

 

 カナが診療所の扉に手をかけようとした、その時

 

「え……?」

 

 なんと、独りでに扉が開いたのだ。

 

 そこから出てきたのは、目の下に大きなクマをこしらえ、スーツの上に白衣を纏い、口にタバコを咥えた黒髪の女医だった。

 

「おー?なんだ、来てたのか。」

 

 女医はそう言うと、カナをまじまじと見つめた。

 

「えっと……、鷹目……麻衣さん……?」

 

 カナがそう問いかけると、女医……鷹目 麻衣が頷いた。

 

「おう、よろしくなー。」

 

 麻衣はそう軽い感じに挨拶すると、言葉を続ける。

 

「あまりに遅いから、道に迷ったのかと思ってなー?駅まで迎えに行こうかと思ってたところだったんだよ。

 ちょうど時間も出来たしなー?」

 

 麻衣はそう言うと、タバコの煙を吐く。

 

「すみません……、色々あったので……。」

 

「色々?」

 

「はい……。」

 

 カナが頷くと、麻衣は彼女の顔を覗き込む。

 

「疲れたって顔してるねぇ。とりあえず上がりなよ。コーヒーくらい出すよ。」

 

 麻衣はそう言うとカナを診療所の中へと招き入れた。

 

 診療所の中に入ると、中は薄暗く誰もいない待合室が広がっていた。

 

「今は誰もいないよ、ちょうど休憩時間なんだ。もう少ししたら……また人が来るから、仕事に戻らないとなんだけどね。」

 

 麻衣はそう呟くと、『関係者以外立ち入り禁止』と書かれたドアのドアノブに手をかける。

 

 そこを開けると、階段があった。

 

「こっちだ、入りな?」

 

 麻衣はカナに向かってそう言うと、カナは女医の言葉に従うように階段を上る。

 

 階段を上った先にはまたドアがあり、カナは麻衣に促されて扉を開けた。

 

「ぁ………。」

 

 扉を開けると、そこにはリビングが広がっていた。

 

 テレビにソファ、キッチン、本棚が視界に広がる。

 

「ここは診療所と住居が一体化してるんだ。だから、今日からここがお前さんが生活する家だよ。」

 

 麻衣はそう言うと、リビングの隣にある一室をカナに見せる。

 

「この部屋、好きに使ってくれて構わないから。何かあったらあたしに言いな?」

 

 麻衣はそうカナに告げる。

 

「ありがとうございます……麻衣さん。」

 

 カナは女医に深々と頭を下げた。

 

「いいってことさ。リランにお前さんを預かるって言ったのはあたしなんだから。」

 

 麻衣はタバコをふかしながらそう言った。

 

『リラン』というのは、カナの母親の名前だ。

 

 女手ひとつでカナを育ててきた。

 

 麻衣とは幼少期からの幼なじみで、カナが羽座間市の高校に進学することが決まった時に『ウチで面倒を見る』と言ってくれたのだとか。

 

「荷物はその部屋に置いてゆっくりしてな?今、コーヒー入れてくるから。」

 

 麻衣はそう言うと、キッチンへと向かう。

 

 カナはカバンを床に置くと、ベッドの上に腰掛けた。

 

「柔らかい……。」

 

 柔らかくてふかふかで、とても寝心地がよさそうなベッド。

 

「今日から……ここで生活するのか……」

 

 天井を見つめながら、カナは呟く。

 

「砂糖とミルクはいるかい?」

 

 麻衣がコーヒーの入ったマグカップをリビングのテーブルの上に置くと、カナにそう問いかける。

 

「お願いします……。」

 

 カナはそう答えると、麻衣はスプーンを手に取り、片方のカップに砂糖とミルクを入れてかき混ぜる。

 

「ほら。熱いから気をつけな?」

 

 麻衣がカナにマグカップを差し出した。

 

「ありがとうございます……。」

 

 カナはそれを受け取る。

 

 温かな温もりが、両手に伝わってきた。

 

 カナは一口、コーヒーを啜る。

 

………苦い。

 

 砂糖とミルクは入っているが、それでも彼女の口には苦く感じた。

 

「…………で、何があったんだい?」

 

 麻衣がそう問いかける。

 

「そんな疲れた顔してるんだ、何か余程の事があったんだろう?」

 

 麻衣がそう言うと、カナは俯き、口を開く。

 

「…………嘘みたいな話ですけど、信じてください……。」

 

 カナはそう言うと、ここに来る前の出来事を麻衣に話した。

 

『カートリッジ』を拾ったこと。

 

 仮想空間に迷い込んだこと。

 

 モンスターと遭遇したこと。

 

 謎のスーツを纏った少女に出会ったこと。

 

 そして……自分もまた、そのスーツを身にまとい、モンスターを戦ったこと。

 

 最後は命からがら逃げてきたこと。

 

 一通りの出来事についてカナが語ると、麻衣はそれを黙って聞いていた。

 

「信じてもらえないとは思うんですけど……、ホントにあった話なんです。」

 

 カナはそう言うと、ポケットの中に入れていたカートリッジを麻衣に見せた。

 

「これが……その証拠というか……」

 

 カナがテーブルの上に置いたカートリッジを、麻衣は手に取る。

 

「これが、カートリッジ……ねぇ……」

 

 麻衣はまじまじとカートリッジを見つめると、言葉を続けた。

 

「お前さんの話、あながち嘘って訳でもないらしいねぇ……?

 実は、この街では最近妙な失踪事件や殺人・傷害事件が相次いで起こってるんだ。

 ウチにも怪我した人が来たりすることもあるんだけど、患者が言うんだよ。

『怪物を見た』とか『変な空間に引き込まれた』とかね。」

 

 麻衣はそう言うと、コーヒーを一口飲む。

 

「それと関係しているのかもしれないねぇ。」

 

 麻衣はカナにカートリッジを返すと、こう告げた。

 

「もし、お前さんの言う通りなら、護身用くらいにはなるんじゃないか?

 肌身離さず持ってた方がいいかもしれないな?」

 

「……わかりました。」

 

「今日はもう休みな?慣れない街でそんな事があったんだ。疲れただろう?」

 

 麻衣がそう言うと、カナは頷いた。

 

「はい……、お言葉に甘えさせていただきます。」

 

「おー。」

 

 麻衣はカナの頭に手を乗せ、わしゃわしゃと撫でる。

 

「じゃああたしは診療所に戻るよ。何かあったらすぐに言いな?」

 

 麻衣はそう言い残し、診療所へと戻って行った。

 

「鷹目……麻衣さん、か……。」

 

 カナはそう呟くと、微かに微笑んだ。

 

「そんなに悪い人じゃないのかもしれない。」

 

 カナはカートリッジを手に取り、じっと見つめる。

 

「護身用に……か。」

 

 そして、ポケットに入れると足を伸ばして少し背伸びをした。

 

「んー…………。」

 

 そのまま、コロンと横になる。

 

 そして彼女の意識は、そのまま夢の中へと落ちていった。

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