宇宙コネクト~喫茶語り~   作:イッセ

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3話 チュパカブラ

「喫茶店はいいものだ。」

 

 

 

昼食を食べながら、今日も俺はしみじみと思う。

 

 

 

普通の飲食店とは違う落ち着いた雰囲気。

 

 

 

飲食を楽しむお客たちも、騒がずそれぞれがこの雰囲気を楽しんでいる。

 

 

 

俺は今日、ランチ目的でこのカフェ「Cruinne」に訪れていた。

 

 

 

この店の料理は普段、ケーキなどのデザート類と軽食以外にパスタやピラフなどのちょっとした品を提供しているのだが、お昼の11時~14時の間だけ、定食メニューが注文できる。

 

 

 

今日の目当てはエビフライ定食。

 

 

 

大きい2尾のエビフライに白身魚のフライ。

 

葉野菜の盛り付けにはプチトマトが添えられ、そばにはたっぷりのタルタルソースがついている。

 

 

 

定食にはご飯とみそ汁のセットがついてくるのだが、このみそ汁、大根やニンジン・豚肉の小間切れが入っており、ほぼ豚汁状態なのが嬉しいところだ。

 

 

 

みそ汁で口を湿らせ、少量のご飯を食べてからたっぷりとタルタルソースをつけたエビフライをほおばる。

 

 

 

ザクッ!

 

 

 

自家製のタルタルソースなのだろうか?

 

中のピクルスが粗くカットされているからか、歯ざわりがいい。

 

 

 

正直、美味しい料理はいつまでも食べていられる気がする。

 

 

 

 

「ごちそうさまでした。」

 

まあ、実際に食べ終わってみると程良い満腹感があり、適量であったと満足できるのだから不思議なものだ。

 

 

 

俺が食事を終え、一息ついているといつも見かける常連客が声をかけてくる。

 

 

 

今日店でたまたま出会った顔なじみは・・・・・・・・。

 

 

 

「ジュースおいしい。」

 

 

 

・・・・「チュパカブラ」だった。

 

 

 

 

「・・・・ルチェルさんって、毎回氷なしのジュースばかり飲んでますよね?」

 

 

 

ルチェルさんもこの喫茶店の常連でたびたび顔を合わせており、ひと月ほど前に都市伝説のチュパカブラの正体だと教えてくれた。

 

 

 

お腹が減り過ぎて正体がばれた上に、とっさにコヨーテのふりをしてごまかしたと言われた時は唖然としたものだ。

 

 

 

「この喫茶店は宇宙人向けの食事も出してるそうですが、ルチェルさんはたのまないんですか?」

 

 

 

ここの常連は一見すると人間に見えるが、正体を隠した宇宙人たちが愛用している。

 

 

 

俺が食べているような地球人向けの料理もあるが、多種多様な異星人向けメニューがあることから、ここでの顔なじみは大体が宇宙人なのだ。

 

 

 

「・・・・ああ、私たちT8K2628星の住人はジュースのような液体が食事になる。

 

というか、固形の食料自体を見たのがこの星に来て初めて」

 

 

 

そういうと、ルチェルさんは恥ずかしそうにひたいをかく。

 

 

 

このT8K2628という数値は、宇宙連邦できめられた惑星名称だそうだ。

 

「地球」や「火星」といった惑星個々の名称は、その星ごとの呼び方なので異星人同士のコミュニティーで伝わる統一名称を連邦間で定めたとかなんとか。

 

地球にも呼び名があるらしいのだが、残念ながら教えてもらったことはない。

 

 

 

「そういえば、都市伝説のチュパカブラも動物の体液を啜っているUMAでしたっけ?」

 

 

 

こうして人間と同じ見た目をされると、この人たちが種族や星が異なることを忘れてしまいそうになる。

 

 

 

「というか『T8K2628星の住人』?

 

その言い方ではルチェルさんの種族だけじゃなくて、T8K2628星の生き物みんなが液体食糧を食べているように聞こえるのですが?」

 

 

 

そんなわけがない、地球だって哺乳類や鳥類。魚類に昆虫と様々な食事方法をする生き物がいるのだ。

 

 

 

「?そう?接種方法こそ違うけど、うちの星では生き物の体液が食事方法。

 

地球で言う食物連鎖のようなものこそあるけど、上位の種族は下位の種族の体液が食事。

 

正確に言えば、食物連鎖の1つ下の種族といえばいいかな?

 

人間のように肉や野菜を食べるんじゃなく、決まった種族の体液ばかりを吸う」

 

 

 

まあ、雑食ではなく肉食獣や草食獣のように決まったものしか食べないということだろう。

 

驚くべきは、その星の生物すべてがそのような食事をしているという点であろうか。

 

 

 

「というか、地球の生物が多用すぎ!

 

環境も場所によって違い過ぎし、50度を超える砂漠もあればマイナス100度近くにもなる南極もある。

 

なんでうちの星と同じく回転してるのに、そんな違う!?」

 

 

 

ああ、環境の違いは生物の進化に密接なかかわりがあるからか。

 

たぶん、ルチェルさんの星は惑星内での気温や環境がほとんど変わらないのだろう。

 

 

 

「『収れん進化』でしたっけ?

 

異なる種族にも関わらず、生物が同様の生態的地位についたときに、系統に関わらず類似した形質や特徴を持つことがある。

 

イルカとサメやアシカとアザラシとか、それが星単位でおこってるって感じですかね?」

 

 

 

どこぞで聞いた雑学を思い出しながら、ルチェルさんに確認してみる。

 

正直、同じような生物ばかりが産まれる惑星環境というのは、俺の常識では想像すらできないのだが。

 

 

 

「一部翻訳されなかったんだけど、だいたい当ってる。

 

うちの星って、地球に比べてなんか『のっぺり』してるの。

 

山や海とか天気や季節っていう概念もなかったし、初めて地球に来たときはすっごい驚いた(笑)」

 

 

 

まあ、地球に住んでいる我々すら夏や冬の違いにひーこらしているのだから、ルチェルさんにとっては死活問題だったろう。

 

 

 

「おかげでストレスが溜まっちゃって、来た当初はろくに食事もとれなかった 」

 

 

 

チュパカブラ事件の原因はそれか。

 

 

 

ストレスで食事がとれず、お腹が空きすぎて正体がばれたと。

 

 

 

というか、ストレスで食欲不振になるあたり、トカゲの生態に似てる気がする。

 

 

 

「でも、生き物の体液を摂取するって、効率的な食事方法だよ?

 

人間もそうだけど地球の生き物って、摂取した食料を栄養源に分解して血や肉を作ってるよね?」

 

 

 

確かに、地球の生物の多くは消化器官があり、食物は腸で摂取されやすいよう胃などで分解される。

 

 

 

「僕らは、摂取した体液をほぼそのままの形で摂取できて、体内の体液へも流用できる。

 

だから、消化に使うエネルギーがあんまりいらない!」

 

 

 

なるほど面白い。

 

 

 

人間の進化には、食材の調理に火を使うことで、消化によるエネルギー消費が抑えられたことも理由だと聞いたことがある。

 

 

 

対照的に、コアラなどは毒素のあるユーカリの葉を消化するためエネルギーを使い、1日の大半を睡眠で過ごすという。

 

 

 

星にいる生物全体が似たような進化をしているというのも重要だ。

 

生態的に同じような生き物ばかりなので、種族が異なっていても生体エネルギーの流用がある程度可能なのだろう。

 

 

 

ルーチェさんがコヨーテの真似事なんぞで人間をごまかそうとしたのは、生態のかけ離れた地球の動物の体液を啜ったことによるものだと思うことにする。

 

 

 

・・・・とはいえ。

 

 

 

「・・・まあでも、これは人間の勝手な感性でしょうが。

 

効率ばかりを求める食事方法というのは、なんだか味気ない気がします。

 

俺は食べることが好きなので、外国の変わった食べ物や食事方法なんかも興味ありますし、できれば宇宙の美味しい料理とかも食べてみたいです」

 

 

 

生物的な違いなのだから的外れな意見ではあるのだが、『効率的な食事』と言われると、なんだか悲しい気持ちになる。

 

 

 

多少のグルメを気取っている俺は、知らない料理があれば食べてみたいし、美味しいと感じた料理は人にも勧めたいタイプなのだ。

 

 

 

「友達として食事の話題で盛り上がれるのは嬉しいけど、実際問題難しいと思うよ?

 

生態的な部分ももちろんだけど、よその食文化というのはあまり触れない方が身のため」

 

 

 

ある生物にとっては美味しいものでも、別の生物にとっては毒ということもあり得る。

 

 

 

そう考えると、ルチェルさんの言う通り、よその食文化に口を出すのは良くないのだろうが・・・。

 

 

 

「・・・高宮だって、牛や馬のような宇宙人に『草を反芻した時の美味しさ』とか語られても、困るよね?」

 

 

 

そりゃそうだ!!

 

 

 

毒とか以前に、別のベクトルで大問題だった。

 

 

 

「・・・うん。この話題やめましょうか」

 

 

 

リアルに思い浮かべてしまったので、定食で食べた葉野菜のサラダが戻ってきそうな気がした。

 

 

 

今後、異星人と会話するとき、安易に食事の話題をするのはやめようと思う。

 

 

 

食後の紅茶を頼みながら、俺はそう心に決めた。

 

 

 

カフェ「Cruinne」。ここは変わった常連客が利用する。

 

少し変わった喫茶店である。

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