もしも、ハチナイの監督が〇〇だったら…    作:久戸瀬放映Project

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注意 小説書くの初心者、独自の偏見有り


試合前日

眩しい夏の日差しが照りつける中、グラウンドでは明日の決勝戦へ向け、模擬試合が行われていた。

「野崎!何やっとるんじゃ!」

ベンチから監督の怒号が響く。

「あれだけ先頭バッターにフォアボールさせるな言うたじゃろうが!」

マウンド上の野崎夕姫は、泣くのを堪えながら、帽子を取ってベンチに深々と頭を下げる。ちなみに、今回怒鳴られたのは野崎夕姫のみではない。トンネルした選手、進塁しなかった選手、内角にビビる選手…そんな選手に監督は容赦無く吠える。良く言えば選手達の気が引き締まる。悪く言えば萎縮してしまっているといった感じだった。過去の試合で、あまりにもミスがひどい時は、ベンチを蹴ったり、扇風機を殴り壊す事もあった。とある噂では、前のチームで監督をしていた時は選手を殴っていたとも聞く。選手皆からすれば、監督=怖いという印象が、完全に植え付けられていた。

 

模擬試合後、選手達は夕食を済ませ、ホテルの会議室で相手のデータや戦術のミーティングをしていた。相手の育体高校は、名義上は女子硬式野球部となっているが、男子も普通にいるらしい。また、色んなところからいい選手を買収しているという情報もあった。単刀直入に言って、ズバリ普通でないチームである。

「こんなチーム相手に勝てるの?」

誰かがポツリとつぶやく。それに続いてひとり。またひとりと弱音が出てくる。すると、今まで腕を組んで沈黙していた監督は立ち上がり、ある選手に視線を向ける。

「野崎。ちょっと来い」

唐突な呼び出しに野崎夕姫は小さく返事し、うつむきながら重い足取りで監督と部屋を出た。長い廊下を歩く中、野崎夕姫はあれこれ良からぬことを考えていた。

(やはり、あのフォアボールがそれほど皆さんに迷惑がかかっているのでしょうか…)

(「明日の試合、お前は出るな」と言われるのかしら…)

(もしかして、叩かれる…)

そうこうしているうちに、監督の自室に着いていた。

「まぁ、座れ」

監督は椅子を引く。野崎夕姫は「はい…」と小さな返事をして座った。監督も対面するように座る。野崎夕姫は何を言われるかビクビクしていた。握りしめた手には汗がびっしょりで、全体的に力が入っているのが見て取れる。

「野崎、俺が今日言ったこと、覚えとるか?」

「はい…先頭バッターにフォアボールしてはいけないこと、ですよね…」

監督は、うんうんと頷く。

「では、なぜいけないと思う?」

野崎夕姫は恐怖で頭が真っ白になっていた。それでも何とか答えを考えた。

「えっと…ノーアウトランナー1塁になるからですか?」

下を向きながら、自信のない小さい声でポソリと答える。

「そう。その通り。でも付け加えて言うなら、そこから失点につながる事が多い。データで言うと8割の確率で失点するらしいだ」

「今日の野崎の投球を見て思ったんだが、よくボール球を投げとった気がする。特にフルカウントの時はそう。何か理由があるんか?」

「えっと…その…」

野崎夕姫は言葉を詰まらせる。理由は他でもない。監督=怖いのイメージが染み付いていて、答えたことにより怒られるではないかと、どうしても考えてしまうからだ。しかし答えなければ、なお怒られる考えも同時にあった。なかなか決心がつかない野崎夕姫に監督は察したのか、にっこり笑顔でこう言った。

「怒らないから、言ってみなさい」

その言葉に、野崎夕姫は震える声で答える。

「打たれるのが怖いんです。皆さんに迷惑をかけてしまうのではないかって…」

「打たれてか?点を取られてか?」

野崎夕姫はコクリと頷く。目には堪えていた涙かポロポロと溢れ出ていた。

「そうか…。野崎。これは俺の考えなんだがな。困ったら時は前に出て勝負をしてみろ。勝負をして後悔するのと勝負から逃げて後悔するのは、同じ後悔でも大違いだ」

監督は野崎夕姫の顔を覗き込む。

「野崎。勝負して打たれるのと失点するのと、自身のフォアボールで失点するの。どっちが嫌だ?」

野崎夕姫は涙を袖で拭いて、ハッキリと答える。

「後者の方です!私、後悔したくありません!」

凛々しい顔から、その熱意がよく伝わる。

「そうか!それなら、明日の試合、これだけは覚えていろ。「困った時、苦しい時、辛い時は前に出ろ」だ。分かったな?」

「はい!監督!」

「よし。それなら、もう寝ろ。お前のピッチングなら十分勝負出来る。お前しかいないんだから、しっかり寝て調子を整えとけよ」

「はい!失礼します!」

野崎夕姫は人が変わったように元気よく部屋を出る。

「…さて、明日のスタメン、どうするかな」

監督はゆっくりと立ち上がり、会議室に戻る。

 

会議室の扉を開けるとまだミーティングの途中だった。監督の姿を見ると選手達は静まり返った。監督が「なんや?」と不機嫌そうにそう言うと皆目線をそらす。そして、同じことを思った。

(野崎さん、大丈夫かな?)

ミーティングが終わり、ラストに監督からスタメンと打順の発表があった。

1遊 有原翼

2二 河北智恵

3一 朝比奈いろは

4三 東雲龍

5右 九十九伽奈

6左 草刈ルナ

7中 永井加奈子

8捕 鈴木和香

以上。

 

監督の「解散」声で選手達は会議室からぞろぞろ出ていく。

「監督!ちょっといいですか!」

有原翼が監督を睨みつけながら呼び止める。その後ろには河北智恵と鈴木和香もいた。

「監督!明日の試合、野崎さんを出させてください!」

「お願いします!うちのチームには必要不可欠なんです!」

「野崎さんとは、ずっとバッテリーを組んでますが、確実に成長してきています。お願いします」

3人の猛烈なアタックに監督は耳たぶをかきながら答える。

「明日の先発。野崎しかおらんだろう」

監督はそう残すと、会議室を出ていった。

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