カードゲームもできる乙女ゲームの悪役令嬢に転生したけど、そんなことよりデュエルがしたい 作:黒点大くん
私は強くなりました。
「この数日得るものが多かったですね。そのおかげで私が確実かつ着実に熟し実ることができました」
「後は腐り落ちるだけだな。個人的には早くそうなることを望みますよ」
そんなに私のことが嫌いなら世間体とか気にせず抹殺すればいいと思いますよ。
何なんだろうこの人は。
「それに生徒会総選挙が終わった以上得るものがあっても無駄だと思うけど」
「でも強くなるというのは、確実に良き決闘と巡り合わせる機会を失うことなんです。実力の最大多数から外れて噛み合わなくなりますからね」
強さと言うのは苦痛な結果を得ますが、過程が病みつきになるので求めてしまうものなのです。
強さというものの矛盾と得やすさは鬱陶しいですね。
「悲劇のヒロイン振りながら無視をするなんて良くありませんよ。貴女は全校の女子生徒の4割が羨む立場にいるのですから」
「そんなものよりもたった一度の良質な決闘の方が価値はありますよ。言ったら怒りそうなので言わないのですが」
抗議の意味合いを込めて頬をつねられました。私そんなつもりじゃ……
しかしラウィラニさんの言った通り実力は震う機会がなければ、意味がないのです。
「みんながみんな一気に強くなればそれが一番なんですけどね。特にラウィラニさんが強くなってくれれば最高です」
「そうですか。不謹慎ですがアブゾーブが来てくれるといいんですけどね
オットー先輩を取り巻きにしていた人が行方不明でつい最近生徒が増えた記録もないので、姿をパクったアブゾーブがいないことは確かなのですが。
翌日になりました。
「おはようございます」
「オットー先輩ですか。もしかしてラウィラニさんを訪ねに来たのですか?」
「そうじゃない。実力だけなら頼りになるのがソウコちゃんだけだから頼りに来たの」
「ということはカードがらみですね」
オットー先輩はうなづきました。我ながら話が早くて有能ですね。
校庭全体が濃霧に包まれていました。
「この濃霧は一枚のカードが原因で起きているらしいよ。命の危険はないらしいけど、こういうのは景観に関わるから何とかしたいんだってさ」
「でしたらはやく原因を取り除けばいいですよね……もしかしたらそれが出来ない理由があるのですね。貴族や富豪の生徒もいるということは取り敢えず命の危険はないと判断したと分かりますが」
生徒に頼ってないで先生も頑張って欲しいのです。本当に情けないですわ。
この霧は鬱屈すぎて見ているだけで頭が変になりそうです。一刻も早く取り除かないといけませんね。
「第一発見者によると早霧のミストニアという未知のモンスターカードが原因だから、慎重にならざるを得ないということらしいよ」
「未知ではあるけれどカードであることは分かっているから、そこら辺りの視点からアプローチしようということでカードに詳しい生徒や先生が集められているってわけ」
レイナさんがいないのにカードに詳しくないオットー先輩もいる時点で審美眼には信用できませんね。
しかし早霧のミストニア……この私が存じないカード、これは惹かれますわ。
「ミストニア……初めて聞いたはずなのに、聞いたことがある気がしますね」
「デジャヴという奴じゃない?」
「そうかもしれませんね」
喉に刺さった魚の小骨みたいに引っかかっているのです。
霧はだんだん濃くなっていきます。
「こんなに視界が悪くては不安ですわ。こんなに視界が悪くては学園側も排除しようと考えるのも分からなくはないですね」
「ああ。視界が悪いからせいぜい気を付けるんだな」
「お気遣いいただきありがとうございますオットー先輩。しかし言われなくても分かっておりますよ……オットー先輩の声と口調ではないですね。知らない生徒ですか」
ということは対して決闘が強くない人でしたか。認識して損しましたわ。私の貴重な時間を奪うなんて……
何かが手のようなものが顔に触れました。
「何をするんですか」
「壊れないように気を付けろよ」
うしろにふりまわした腕が空振ります。
濡れた白い手袋に視界を塞がれ、手をはがそうとしたら手は消えました。
「一々消えたり出て来たり卑怯ですね。姿を見せてください」
「何を言っているんだ。お前はさっきから俺のことを見ているし、俺が何者なのかも知っているだろう」
「噓ばっかり。貴族にふさわしくない精神性ですわ。貴族たるもの精神も高潔でなければいけません」
声の主が現れたらきっととっちめます。
濡れた白い手袋に顔面を殴られました。
「そんなにいうなら相手をしてやろう」
「やっと出てきましたね。この卑怯者」
白い手袋をした人が出てきましたね。
でもなんか涎垂らしてて目も虚ろで生気が少しもない……まるでゾンビみたいです。
「早霧のミストニアだ」
「趣味の悪いいたずらですね」
私たちのいるところだけ霧が晴れました。
ミストニアはカードを見せつけます。
「それは早霧のミストニアではないですか。早くそれを学園側に渡してください」
「1000年前にあの忌まわしき者どもに封印されていたんだ。1000年だぞ。1000年もカードに封印されて昆布みたいに出汁にされてやっと外に出たのに不自由になりに行くわけないだろ」
「分かりやすい説明ゼリフですね」
カードの原料には魔法や魔族が封印されているっていう設定でしたね。
学があるのは結構ですがジョークがつまらないです。
「まあいいや。お前もこいつのように決闘で洗脳してやろう」
「白い手袋が操っているパターンですね」
「だから何だというんだ」
なんだかんだで決闘が始まりました。
そして私の先攻3ターン目です。
「ドロー。チャージ。コスト3で妖刀ムラマサを武装してそのままプレイヤーに攻撃してターンエンドです」
「いきなりきついのを一発貰ってしまったなぁ」
何かを隠しているような気味の悪さです。
ミストニア:生命力10→7
ミストニアの3ターン目です。
「ドロー。チャージ。コスト3で早霧のミストニア召喚。早霧のミストニアでプレイヤーに攻撃してターンエンド」
「浮いた手袋から霧が発生していますね」
「少しずれた奴だがまあいい。この私の手にかかって命が終わるなんて羨ましい」
顔は変わっていないのに拍手だけで嬉しそうなのが分かりますね。
3 モンスター 早霧のミストニア 属性:魔導書
効果:貫通、アンタッチャブル(このモンスターは選ばれず攻撃されない)
攻撃力:1 防御力:0 ライフ:3
私の4ターン目です。
「ドロー。チャージ。コスト4で般若の舞姫を召喚して攻撃です」
「アクションストライク。ミストボディ」
私の攻撃はものの見事に霧を通り過ぎたものの、般若の舞姫の攻撃は無事に当たりました。
3 魔法 ミストボディ 属性:魔導書
効果:アンタッチャブルを持つモンスターが自分の場に存在する場合このカードはアクションストライクを得る。
次に受けるダメージを0にする
霧だけにキリがないですわ。
「こぉれであなたの残りの生命力は5ですよ。私の手札には百花繚乱があるので、次のターンにマスターニンジャをサーチすればリーサルまで行けますね。ターンエンド」
「人間の癖に貴族魔族に死亡宣告とは生意気な」
「貴族魔族ってなんか族が多いですわね」
あっこれで思い出しましたよ。ミストニアは神話の本でチラッと見たことのある名前です。
ミストニアの4ターン目です。
「ドロー。チャージ。コスト4でミスティックミスト発動。早霧のミストニアでプレイヤーに攻撃してターンエンド」
「ちまちまと10ターンかけて相手を倒すのですか。未知のカードとは聞いていましたが大したことありませんね。ミスティックミストもミストニアと相性は良くありませんし……時間を無駄にしました」
4 魔法 ミスティックミスト 属性:魔導書
効果:設置。アンタッチャブルを持つモンスターが自分の場に存在する場合相手ターン中にコストゾーンに置かれたカードは使用済み状態になる
私の5ターン目です。
「ドロー。チャージ。コスト4でサオトキキの術を発動します。効果でマスターニンジャをサーチ。妖刀ムラマサでプレイヤーに攻撃します」
「アクションストライク。
「ターンエンドです」
遅延ばかりですね。制圧そのものを目的とした遅延や凄いの出すための遅延なら歓迎ですが、この弱い戦法で嬉しそうに拍手していたのでそれはなさそうなのが苦痛です。
3 魔法
効果:アンタッチャブルを持つモンスターが自分の場に存在する場合このカードはアクションストライクを得る。
このターン互いに受けるダメージを0にする
ミストニアの5ターン目です。
「ドロー。チャージ。コスト5で惑わしの霧発動。ミストボディを手札に加えてミストニアで攻撃。ターンエンド」
「そういうせこい上に弱くて地味な戦法使うから封印されるんですよ」
効果的にたくさん並べてチクチク殴ると強いのですが、複数持っている様子はなさそうですから単純に弱そうなのです。
5 魔法 惑わしの霧 属性:魔導書
効果:設置。アンタッチャブルを持つモンスターとミスト魔法カードが自分の場に存在する場合3枚ドローする。一ターンに一度墓地からミストと名の付くカードを一枚手札に加える
私の6ターン目です。
「ドロー。チャージ。コスト5でマスターニンジャを召喚します。そしてマスターニンジャでプレイヤーに攻撃です」
「アクションストライク。ミストボディ」
「妖刀ムラマサと般若の舞姫でプレイヤーに攻撃します。こんな地味で面白みのない戦法で時間を取るなんて罪深い人です」
こんなにつまらない決闘も貴重ですね。
しかしこれで終わりです。
「そんなもので攻撃すればこの体が傷ついてしまうぞ」
「別にいいですよ。その薄汚い手袋とカードと遺体は火山に捨てますから」
「倫理観の無い奴だ。同族意識のない奴に人質戦法は効かないみたいだな。数回効いてたから味を占めるんじゃなかった」
ミストニアは白い手袋を捨てました。無駄だと思ったんですね。
しかしこの勘の良い私を敵に回したことを不運に思え。案の定先輩も倒れていますね。
「私ってそんなに倫理観の無いように見えるんですかね」
「見える。決闘が強くない人間は容赦なく切り捨てるような雰囲気がある」
「何もかも計算ずくに決まっているじゃないですか。さすがのわたしもそんなことしないのです」
白い手袋を片方預かりました。
あっさりとどめを刺して決闘は終わりました。白い手袋を全部拾います。
「大した遅延でもなかったですね。つまらなかったので二度とやらないように……そうか。分かりましたよ。強くなくても、決闘が良質でなくとも、面白いものは面白くてつまらないものはつまらないのです。私が如何に弱くとも今の決闘はつまらなく感じたでしょうしね」
「なに勝手に悟っているんだ」
人生の大事なことを勝手に悟るだなんて魔族は残酷ですね。
こんなことしている場合じゃなかったです。
「私にも聞きたいことがあるので生かしておきましたよ」
「聞きたいことって何なんだ。人間ごときに素直に言う訳がないだろう」
「そうですか」
持っていた白い手袋の片方をカードでバラバラに切り裂きました。
もう一方の手袋はガタガタ暴れましたがちゃんと抑えます。
「なぜ1000年も封印されていたのに、たかだがこの数百年前に発生した決闘法を理解しているのですかね。裏に誰かいるのですか?」
「口はないが口が裂けても言えないんだ。協力者にまんまといっぱい喰わされたわけだ」
「半身が裂けても言えないなんてよっぽどですね」
ミストニアは私の手から離れました。
ミストニアはバラバラに裂けた手袋を並べます。
「言えはしないが文字を書いたりすることはできる。わざわざ人間に化けている変身の技を持つ魔族貴族のお方だったのだ」
「アブゾーブと書いてありますね。まんまと利用されたわけですか。貴方みたいな使い捨ての鉄砲玉がこれからも出てくるでしょうね」
ミストニアのもう片方の手袋の小指を切り離します。
改めて見ますとミストニアの強いところはソーサレスナイトの手札コストになるところですね。
「霧も晴れましたしこれで十分ですね。学園町先生に報告しますか」
私への怨恨がきっかけなことは言わないようにしましょう。
結果ミストニアは厳重封印及びこの事件のことは一部伏せられて発表することとなりました。
「今回のことは人生において大きな学びを得ること出来ました。それだけはアブゾーブに感謝しなければ」
この年で人生哲学の答えを見つけられるなんて私は幸せ者ですね。