カードゲームもできる乙女ゲームの悪役令嬢に転生したけど、そんなことよりデュエルがしたい 作:黒点大くん
王様にパーティーに招待されたので、行くことになりましたわ。
「社交界デビューってやつですね。デビューしたくないんですけど。ネガキャンが広まるのは嫌ですわ」
「安心してください。ネガキャンと言ってもだいたい事実なので、冤罪で評判は下がることはありませんよ」
「事実であろうと無かろうと評判に関わることを言いふらされるのが嫌なんですよ。評判が下がると決闘して貰えないかもしれませんから」
どうやら私色々やらかしたせいで、貴族の間では悪い意味で有名人らしいんですよね。
後々のことを考えずにやらかさなければよかった。前世ではもっと慎重派な人間だったんですけどねぇ。
「お。馬車が止まりましたね」
何かトラブルでしょうか。
扉から覆面をした二人組が入って来ました。
「俺たちは強盗だ」
「この馬車を誰の馬車と心得ますか」
「貴族様曰く王子の許嫁の地位を買ったわがまま女の馬車……らしいな。こういう真似は好かないが……恨むなよ」
ご存じじゃないですか。
そして私達はあっという間に拘束されました。
「第4王子の婚約者に手を出すのはマズイと思いますよ。王家の婚約者に手を出されるということはおうっ」
口枷をつけられました。
覆面はメモを取って伝書鳩に渡す。
「うるさい。くらえ催眠術」
「そっちのいい女も眠ってな」
私達は覆面たちに眠らされた。
sideトゥスル王子
伝書鳩から手紙を受け取ったゴラム子爵の6男が青い顔をして駆け寄ってきた。
「いかがしましたか?」
「無礼を承知で失礼します。ですが王子に関する急ぎの知らせですので」
「ありがとうございます。知らせの内容は?」
「これをご覧ください」
手紙を貰う。
手紙にはソウコ嬢が誘拐されたと書いてあった。
「知らせてくれてありがとうございました」
「ご丁寧に場所まで書いてありますし、助けに行かないとですね」
「このくらいどうにかできなければ王になる資格はなしじゃ」
お父様がいた。
跪く。
「そんなことよりも早く助けに行くのじゃ。カード盗賊の二番煎じ程度どうにかできないようでは王族失格じゃからな」
「わかりました」
指定の場所まで行った。
指定の場所には椅子に縛られているソウコ嬢とメイドさんがいた。
「随分とあっさり行くなぁ」
「雑魚どもは俺に任せてもらって欲しいぜ!」
「お願いしますオレンジさん」
「今の俺はレンジだぜ!」
この人二重人格らしいね。
リーダー格らしき不審者がデッキを構える。
「お前は知らないようだが、ウィドー・マリッジの研究所にあるデッキがコピーされたらしい」
「今関係ないだろうがよ」
「これがウィドー・マリッジのデッキのコピーだ。お前も知っている通り、著名人のデッキを意図的かつ無断でコピーすることは大きなスキャンダルとなる。コイツの膝にコレを置いて評判を下げたりできるというわけだ」
不審者はソウコ嬢にデッキを置く。
ソウコ嬢の目が覚めた。
「因みにだがコイツには催眠術で俺とカード関連の好感度を変えるようにした。体は無傷だから安心してくれよ」
「誘拐覆面様……はーっ。うーっ」
「椅子をガタガタ動かしやがって。鬼気迫るものを感じるな」
美味しい肉を前にお預けを食らっているライオンのようだ。
しかし催眠術で好感度を変えられるとソウコ嬢の名誉にかかわりそう。
「決闘をして俺に勝ったら催眠術を解いてやるよ。勿論俺が勝てば……古戦場のゼイバルトが欲しいからそれでも貰おうかな」
賊の目はギラギラと光る。
「ゼイバルトを望むなんて流石誘拐覆面様ですわ」
古戦場のゼイバルトはコスト6なのにコスト2みたいな性能しているけど、190年前から出現が確認されていないレアカードだ。
ゼイバルトを売れば玄孫の代まで遊んで暮らせる。営利誘拐か。
「因みにだがコイツを攫った理由はたかれば王家かメッセル家が反応してたかれると思ったからだ。理由はこれでいいか?」
賊の目はまたしてもギラギラと光る。
「王子様が誘拐覆面様に勝てるかどうか怪しいですね。まぁ一応婚約者なので心の中で応援くらいはしてやりますよ」
ソウコ嬢は私に対して並々ならぬ感情を持っていたはず。どうでもいいと言いたげな扱いをするとは。催眠術恐るべし。
ユナイツカードを見せた。
「決闘の合図か。メカントリー」
決闘が始まった。覆面の先攻だ。
覆面の1ターン目だ。
「チャージ。コスト1でアムド・メイガス発動」
コスト1 魔法 アムド・メイガス 属性:メカニカル
効果:この決闘中武装カードをモンスターとして召喚できる。そのモンスターのライフはコストと同じ数値になる。
武装カードをモンスターとして扱うカードか。なかなか斬新だ。
「誘拐覆面様の必勝コンボが出ましたわね」
「ターンエンド」
必勝コンボ? 警戒しよう。
私が軽減モンスターを出し、次のターンになった。
「3ターン目。ドロー。チャージ。コスト3でホブゴブリンの製本所を発動してターンエンド」
誘拐覆面の4ターン目だ。
「ドロー。チャージ。コスト4でヨティス・プログラム召喚。ターンエンド。いいカードを引いちまったなぁ!」
賊の目はギラギラ光っていた。
私の4ターン目だ。
「ドロー。チャージ。コスト3でソーサレスナイトを召喚して、魔法図書館の司書を捨てる。ホブゴブリンの製本所と合わせて3枚ドロー。ソーサレスナイトでプレイヤーに攻撃してターンエンド」
誘拐覆面:ライフ10→8
誘拐覆面の5ターン目だ。
「ドロー。チャージ。コスト3でプライスダウンを発動。そしてコスト2でアパレル・サイバー発動。ターンエンド」
どうやら相手は武装カードをたくさん展開するデッキらしい。
コスト3 魔法 プライスダウン 属性:メカニカル
効果:設置。ターンの最初に使用する武装カードの使用コストは2減る。
コスト2 魔法 アパレル・サイバー 属性:メカニカル
効果:設置。1ターンに1度発動する。武装カードを使用したとき2枚ドローする。
私の5ターン目。
「ドロー。チャージ。コスト3で魔法の教科書発動。ソーサレスナイトでプレイヤーに攻撃してターンエンド」
誘拐覆面:ライフ8→6
誘拐覆面の6ターン目。
「ドロー。チャージ。コスト3でライオットシールド武装。2枚ドロー。この俺でプレイヤーに攻撃してターンエンド」
「ダメージが凄い。これ以上はまずいですね」
トゥスル:ライフ10→7
私の6ターン目。
「ドロー。チャージ。コスト2でゴレムを召喚。1枚ドロー」
筋骨隆々な泥人形が現れた。
コスト3 モンスター ゴレム 属性:使い魔、魔法使い
効果:出現:自分のコストゾーンのカードを2枚未使用状態にする。
攻撃力:2 防御力:0 ライフ:1
うーん。あまりいいの引けていませんね。
「コスト4でシルクハットワンダラーを召喚。そしてコスト1でエンシェントリリー召喚」
シルクハットを被った蚕と青い百合の花が現れた。
コスト5 モンスター シルクハットワンダラー 属性:使い魔、魔法使い
効果:出現:場と墓地の属性:使い魔のモンスターをすべてコストゾーンに送る。その後2枚ドローする。この効果でコストゾーンに送られたカードは次の自分のターン開始時にすべてデッキに戻す。
攻撃力:2 防御力:0 ライフ:1
コスト2 モンスター エンシェントリリー 属性:魔導書
効果:リアクションの効果を持つカードのコストを1減らす。
1ターンに1度発動できる。墓地のリアクションの効果を持つカードを1枚手札に加える。
攻撃力:0 防御力:2 ライフ:2
「ターンエンド」
「よほど手札が悪いのか」
これで大丈夫。
誘拐覆面の7ターン目。
「ドロー。チャージ。コスト4でメタルシールドを召喚。2枚ドロー」
コスト6 武装 メタルシールド 属性:メカニカル
効果:このカードは攻撃された時、このカードに攻撃したモンスターの攻撃力分、防御力を下げる。このカードの防御力はターン開始時に7になる。
攻撃力:0 防御力:7
「誘拐覆面様の即死コンボが決まりましたわね!」
メタルシールドを武装してライオットシールドで相手を攻撃したほうがいいはず。ということは何かあるのか?
「俺でプレイヤーに攻撃」
「コスト4でリアクション。ヘカーテの月魔術。2枚ドローしてダメージを2減らす」
「ターンエンド」
トゥスル:ライフ7→6
私の7ターン目。
「ドロー。チャージ。エンシェントリリーの効果でヘカーテの月魔術を戻す。コスト3で預言者ヨティス召喚。合計3枚ドロー。ターンエンド」
「あまり手札がよくないようですね王子様。がんばれー」
手札はいいけど、ライオットシールドの防御力を越えられるカードがない。このままじゃじわじわと削られて負ける。
誘拐覆面の8ターン目。
「ドロー。チャージ。コスト5でギガドリル召喚。2枚ドロー」
「うおお。でっけえドリルですわ。さすが誘拐覆面様ですわ。王子もなかなかやりますが、一歩及びませんでしたわね」
コスト7 武装 ギガドリル 属性:メカニカル
効果:貫通
攻撃力:3 防御力:0
「メガドリルでプレイヤーに攻撃」
「コスト4でヘカーテの月魔術」
「更にライオットシールドでプレイヤーに攻撃。ターンエンド。凄いカードが手札にあるが、倒すのは次のターンにしてやる」
またしても賊の目がギラギラ光る。
トゥスル:ライフ6→2
私の8ターン目。
「ドロー。チャージ。エンシェントリリーでヘカーテの月魔術を回収する」
「その魔法厄介だな」
「コスト3で武装解除発動」
コスト3 魔法 武装解除 属性:魔導書
効果:武装カードを1枚破壊する
ギガドリルはモンスターになっているから選べない。
「ライオットシールド破壊」
「ずっこいですわ。あっ。オウジサマガンバレー」
「ソーサレスナイトでプレイヤーに攻撃」
「アクションストライク。余剰エネルギー保存」
コスト3 魔法 余剰エネルギー保存 属性:メカニカル
効果:アクションストライク。ダメージを受けたとき1枚ドローし、このカードを使用済み状態でコストゾーンに送る。
「これはピンチだな」
「ターンエンド」
誘拐覆面:ライフ6→4
誘拐覆面の9ターン目。
「ドロー。チャージ。ターンエンド……このデッキあまり強くないのかもしれないな」
「もっと強いデッキをコピーすべきでしたわね。決闘者の強さはデッキの強さで決まりますもの」
「プロフェッサー マリッジなら同じデッキでも遥かに強かったと思いますよ」
理解度が違いますからね。
私の9ターン目。
「ドロー。チャージ。コスト5で魔法の雷発動。プレイヤーに3ダメージ。そしてソーサレスナイトでプレイヤーに攻撃」
「最後の最後で切り札を引けたか」
誘拐覆面:ライフ4→0
誘拐覆面はデッキを懐に入れる。
誘拐覆面は催眠術を解いた。
「そう言えば襲ったときの言い回しが少々不自然でしたね。なんか思うところがあったんですか? 何となくですがやらされている感があったんですよね」
「滅茶苦茶偉い貴族様に人質をとられたってところだ。デッキは依頼主に貰った。依頼主曰く許可を貰ったからセーフらしい」
地位の高い貴族でプロフェッサー マリッジのデッキをコピーできる立場の人か。かなり絞れる。
これは凄いヒントだ。
「ずいぶんあっさりばらすんですね」
「失敗したから、情報べらべら喋ってもペナルティがねえし。それに俺は貴族が嫌いだ。人質取るからな」
「人質を取る卑劣な人間ってのは俺たちも変わらねえんだけどよ」
「人質を取るなんて卑劣な人ですね」
ソウコ嬢とメイドさんが解放された。
ソウコ嬢は誘拐覆面のデッキを見る。
「確かこのデッキはウィドー・マリッジからコピー許可されたデッキなんですよね」
「だからなんだ」
「ウィドー・マリッジにもスポンサーはたくさんいるのですが、その中でも偉い貴族となるとゴラム領の人間かと」
「ゴラム令嬢が。そんな馬鹿な。始末したいなら襲ってどうにかすればいいのに、わざわざ教えたりする理由がない」
一気に嘘くさく見える。そう言えば貴族が嫌いと言っていたっけ。偉い貴族に疑いのかかる風評を流布させようとしてそう。
下っ端が私を掴む。
「親分は嘘を言っちゃいねえよ! 仕方がないとはいえ、卑怯な真似をしてしまったんだからな。お詫びみたいなもんだ!」
「やめろ。コイツの立場なら、金品のついでにゴラムとやらの評判を貶めたいのかなと思っても仕方がない。それに会ったばかりの人間が信用できないのは仕方のないことなんだ。これを見ろ」
誘拐覆面は口を出してから舌を見せる。
舌には嘘をつくと目が光る呪いがかかっていた。
「嘘をつけないことが分かっただろ。反逆されるのが怖いからって依頼主にやられたんだ」
「話はだいたい見えました。しかしたかれるだのゼイバルトだの言っていたのはなんだったんですか」
「そう言えば金品目的だって思ってくれると依頼主が言ってたからだ。それに悪人を装ってくれという依頼主様からのお達し画あったからな」
時折目が光っていたのは、そういうことだったのか。
誘拐覆面たちが人質を取られていると言っていたところに向かい、人質を解放する。
「子供のためだったのか」
怪しまれないようにパーティーに戻った。
後日証拠を揃えてゴラム領へと赴く。
「誘拐の疑いがかかっています。なんでこんなことしたんですか」
ゴラム子爵の6男は全てを察した表情をする。
「こういう形で手柄を建てなければ、ゴミのように死んでいくだけですから。そのために先生から事件をでっち上げて手柄を立てればいいと教えて貰って」
「マッチポンプですか」
この口ぶり…計画の裏には誰かいるらしい。