私はね、アキくんのお姉さんなの   作:瑠威

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最近ハーメルンで投稿していないなと思ったのでpixivで連載しているものを載っけます。無断転載ではありません。一日一話更新(予定)


第1話

 

 

ーー早川アキには姉がいる。

 青みがかった黒髪の、少し切り長の瞳が特徴的で、それでいて優しく微笑むような清楚系の姉だ。

 アキの両親は身体の弱い弟、タイヨウに付きっきりで、弟ばかりに構ってアキや姉を一切見ようとはしてくれなかった。「お兄ちゃんでしょ」「少しは我慢して」そう言われ続けたアキ。別にお兄ちゃんで生まれたくなかった。なんで僕を見てくれないの。弟に嫉妬だけが募っていくアキを助けてくれたのはーー紛れもない姉だった。

 

 姉の名前はチズという。とても優しいお姉ちゃんだ。誰よりもアキを優先して見てくれるチズ。優しくアキの名を呼んでくれるチズ。アキはチズに名前を呼ばれることがいっとう好きだった。

 

 

「アキ。タイヨウがまた体調を崩しちゃったみたいだから今日は二人で遊びましょ」

「うん! お姉ちゃん!!」

「何がしたい?」

「雪遊び!」

 

 

 「外で遊ぶ」という発言を聞いてタイヨウが羨ましそうな目でアキたちを見てきた。それにいち早く気づいた母が「今は安静にしてなさい」とタイヨウに言った。タイヨウは少し寂しそうに小さく頷くので、そんな様がなんだか可哀想に見えたアキは「早く良くなって一緒に遊ぼうな」と言った。タイヨウは少しだけ嬉しそうにまた頷いた。それを見ていたチズから「立派なお兄ちゃん優しいね」と頭を撫でられてアキはタイヨウのお兄ちゃんで良かったかもしれないと初めて思った。

 

 大好きなチズの手が冷えないように用意周到に手袋を持って家の外へ出た。「何して遊ぶ?」とアキが聞く前にチズはアキの顔面に雪玉を投げつけてくる。してやったりと笑うチズを見てアキも雪玉を投げつけてやった。

 

 

「寒いねぇ」

「寒いな」

「手が悴んで来ちゃった」

「手袋あるよ」

「わあ、アキ気が利くね」

「………」

 

 

 白い雪の上に寝そべってクスクス笑いあった。きっと家に帰れば雪でびしょびしょになったアキとチズを見て母は雷を落とすに違いない。でも楽しいから仕方ない。寒いけれど、チズとの空間を邪魔されない今がアキは好きだった。

 

 

ーーそれは一瞬だった。

 突如、家が吹き飛んだ。幸いなことにアキとチズは家の外にいたので、被害に遭うことはなかったけれど、それでも。この一瞬でアキとチズの家族である両親も弟のタイヨウも死んでしまったのだ。

 

 この日、銃の悪魔が一瞬上陸したらしい。銃の悪魔の一撃でアキ達の家族は塵になったという。アキは目の前が真っ暗になったけれど、そんなアキを助けてくれたのは紛れもないチズだった。

 

 銃の悪魔の攻撃に運良くと言っていいのか、逃れられたアキとチズ。アキがひとえに今まで生きてこれたのは年の離れたチズのおかげだった。

 

 銃の悪魔の攻撃によって家族が殺されたのはアキがまだ小学生である頃。チズは中学三年生で受験を控えていた。けれど、チズはアキとチズの家庭を安定させるため、高校に進学することなくデビルハンターと成る道を選択した。

 

 チズは怨み辛みだとかそんな感情には疎く、銃の悪魔に復讐を!なんて大層な信念ではなく、ただただアキと暮らすための安定したお金が欲しい。その気持ちだけでデビルハンターをやっていた。

 

 弟であるアキだって分かっていた。チズはデビルハンターに向いていない。人の死が身近にあるデビルハンターよりも、お花とか子供が近くにいるような在り来りの平和が似合う女性だった。

 

 アキは復讐心からではなく、チズをデビルハンターから遠ざけたくてデビルハンターに成った。ちまちまとしたバイトの薄給じゃ人間二人と言えどその生活を支えることはできない。ただ、チズには普通の暮らしをして欲しかった。アキのせいでチズにはたくさんの苦労と我慢を強いた。だから、もうアキという枷から解放されて自由に生きて欲しい。

 

 なのに、チズはそれを拒否した。

 その結果が…これだ。

 

 

ーーチズが死んだ。

 

 アキがマキマに得体の知れない「デンジ」という男を押し付けられる二日前のことだった。

 

 チズはアキの目の前で死んだ。

土手っ腹に穴を開けて、血の水溜まりを作って、アキのスーツをチズの血で真っ赤に変えてるぐらいの血を流して死んだ。

 最期にアキの頬を一撫でして逝ってしまった。

 

 

「絶対にシアワセになってね」

 

 

 死ぬ前にチズがアキに告げた言葉。

自身を致命傷に追いやった悪魔に恨みをぶつけるわけでもなく、痛みに顔を歪ませるでもなく。安らかな笑顔と一抹の()()のアキを案じて。

 チズの澄んだ赤い瞳がアキを射抜く。

 アキは小さく頷いた、

 

 

「…シアワセになるよ、姉さん」

 

 

 アキの言葉に返事をするようにチリンと音が鳴った。この音はきっと、アキが初めて貰ったお小遣いでチズに買ってあげた誕生日プレゼントの鈴のキーホルダーだ。

 

 でも、姉さん。

 唯一の家族がいないこの世界でどうやってシアワセになればいいと言うのか。そこまでは声に出さなかった。

 

チズを殺した悪魔の中から銃の悪魔の破片が大量に見つかった。

 

 

 

 

 *

 

 早川有希(アキ)には物心着く前から家族がいない。

 いや、正確に言うと()()()いる。生まれた時からそばに居てくれる「お姉ちゃん」。しかし、この「お姉ちゃん」をアキの身近の人間は誰一人として認識してくれなかった。

 

 父と母。「お姉ちゃん」とアキ。しかし、両親はアキに姉などいないと言い、最後にはアキに虚言癖のレッテルを貼り付け認識することはなくなった。アキが両親の目の前を横切っても話しかけることも無く、両親からアキの名が紡がれることは一切ない。それはアキが齢三歳の時には日常となった真実である。だが、アキはそんなことをされてもへこたれなかった。何故なら隣には「お姉ちゃん」がいる。「お姉ちゃん」はいつも慈愛を持った眼差しでアキを見つめてくれる。ガラス細工を触るような手つきでいつもアキの頭を撫でてくれる。「お姉ちゃん」さえいれば何も怖くなかった。寂しくもない。少しだけ、物足りないような気もするけれどきっとそれは一時の気の迷いだ。なので、目に見える家族はいない。アキの家族は普通の人には見えない「お姉ちゃん」だけだ。

 

 そんなアキには「お姉ちゃん」以外にも見えるものがあった。

それは姿形はバラバラで小さいものから大きなものまでいるし、大抵目を合わせるとアキを襲ってくる。残念なことに()()アキには自衛の手段は無いため、襲ってくるもの全ては「お姉ちゃん」が撃退してくれる。

 

 いつもアキを護ってくれる「お姉ちゃん」。「お姉ちゃん」はそれを誇りにしているらしく、護れた時は胸を張っていることが多い。でもアキはそれが嫌だった。アキはいつも「お姉ちゃん」に護られている。本来は男が女を護る立場なのに。

 

 でもアキは非力だ。非力故に、一人で突っ走ることは許されない。なので、「お姉ちゃん」に相談をしてみた。

 

 「お姉ちゃん」は少し悲しそうな顔をしていた。最初は「アキは戦わなくていいの。私に護られていればずーっと安全よ」と言っていたけれど、アキが折れなかったので仕方なくという雰囲気で刀を渡してくれた。

 

 刀はどこか懐かしい感じがした。ずっと昔からこれを握っていたような気がする。「お姉ちゃん」にこのことを話すとまたしても悲しそうな顔をした。

 

 なんでそんな悲しそうな顔をするの?

 

 

 

 

 ◆

 

 この世には呪術師という職業があるらしい。

 早川アキ。年齢は気がつけば15歳となっていた。学校? そんなものには通っていない。

 

 時は過ぎても相変わらず両親はアキを居ないものとして認識するし、アキも両親を居ないものとして認識していた。アキの一日は基本「お姉ちゃん」と筋トレして素振りして、化け物を殺すという中学三年生にしては殺伐とした日常だが、アキはこの日常に満足していた。

 

 そんないつものルーティンとして化け物を殺していたアキの目の前に男が現れた。男は厳つい顔をしており、サングラスをかけ年末年始にお笑い芸人だか落語家だかをビンタしている人と酷似していた。

 

 男は名を「夜蛾 正道」と言った。プロレスラーではないらしい。詳しく話がしたいと言われ、近くのレストランへ入る。

 

 夜蛾は言った。

 アキは「呪霊」を祓える力があると。

 アキは「呪霊」が見える。

 そしてーーアキの「お姉ちゃん」が「呪霊」であることも。

 

 アキは震えた。別に「呪霊」が怖いわけじゃない。目の前の男に臆しているわけでもない。ただ、初めてだったのだ。

 

 

「お前は…「姉さん」が見えるのか?」

 

 

 気がつけば「お姉ちゃん」の時期を超え「姉さん」と呼びはじめるようになったアキ。アキの成長が嬉しくも感じ、そして少し寂しいとも感じる「お姉ちゃん」。呪っている「お姉ちゃん」と呪われている「弟」。関係性は歪だけれど、よっぽど呪術師の家系よりも家族らしく夜蛾には見えた。

 

 

「いや、俺は見えはしない。なんとなく空気で「そこに呪霊がいる」ということを感じられるだけだ」

「そうか…」

 

 

 アキ以外に「お姉ちゃん」の存在を認識してくれる人間に、未だ一度もアキは会えていなかった。けれど、なんとなくでも「そこにいる」と認識してもらえることが凄く嬉しい。「お姉ちゃん」はちゃんと生きている。アキの虚言ではなく、ちゃんとこの場にこの世にいるのだ。

 

 

「でも…もしかしたらお前の「お姉ちゃん」を認識できる奴がいるかもしれない」

「え」

「早川アキ。呪術高専に来ないか」

 

 

 アキは学校に通うつもりはなかった。「お姉ちゃん」を認識出来ない人間と仲良くなりたいと一欠片も思わなかったからだ。でも、夜蛾の話を聞いて通ってもいいと思った。何より、呪術師は職業と言うだけあって給金が発生するらしい。ずっと両親と共に暮らしていくのにもストレスがかかる。早く家を出たいと思っていた。

 

 なのでアキは二つ返事で頷いた。

 来年からアキも立派な高校生である。

 

 

 

 *

 

 ◆早川 チズ

 アキの名前が銃の「AK-47」と「空き」から来ていることを踏まえ、姉であるチズは銃の「Cz75」と「一途」から「チズ」になった。

 生前契約していた悪魔は「願いの悪魔」。悪魔本人は「願いの悪魔」と書いて「(すく)いの悪魔」と言っていた。

 悪魔と契約する条件はチズ自身の「夢」を食わせること。それは寝ている時に見る「夢」なのか、将来などを思い浮かべる「夢」なのか。それはチズと「願いの悪魔」しか知らない。

 

 

 ◆早川 アキ

 原作よりも復讐心は薄め。その代わりシスコンがプラスされている。アキ本人と過去が過去なため、本人に自覚はないが他人から見ると超がつくほどのシスコンと言っても間違いは無い。そのため、基本的バディは姉なので原作ほど姫野との接触もない。けれど、酒と煙草をアキに教えてくれたのは姫野である。ポジショニングとしては「善人であり護るべき姉のチズ」と「いけないことを教え合う悪友の姫野」で姫野から好意を持たれているかは不明。

 姉であるチズが目の前で死に、しかも銃の悪魔関連ということから何気にSAN値チェックは失敗している。けれど、二日後には「デンジ」がやって来るので思い詰めているヒマはないとその危うさに自分自身でも気づけていない。もちろんマキマさんは気づいてるよ!

 そのため、原作よりも「デンジ」と「パワー」の死に敏感だったりする。

 死因は原作通り。

 ナニカの力の因果によって呪術の世界へと飛ばされる。

 

 

 ◆特級過呪怨霊「早川 千珠(チズ)

 アキ曰く「俺の姉」である女性。しかし、書類上の記録には「早川 千珠」のことに関して一切残っておらず真偽は不明とされる。

 後に、五条曰く「(すく)いの女神」と呼ばれる。アキすらも知らない縛りをチズと課しているらしく、その対価として「アキが望むもの」をチズが提供している。

 アキ曰くチズの容姿は「黒髪の切れ長の瞳をした優しいお姉さん」と言うが、五条曰く「真っ黒に塗りつぶされていて容姿どころじゃないよ。アレは見れたモンじゃない」とのこと。果たしてどっちが本当なのだろうか。

 ちなみに名前の意味は「千」の数「珠」。

 数珠とは煩悩を消して身心を清浄にし、仏さまへの帰依をあらわす法具である。念仏だけではなく、それぞれの珠が人間の煩悩を祓ってくれる仏様であるといわれてきたもので、現在(いま)チズ自身が行っていることとは全くの真逆の意味を現す。

 

 

 ◆早川 有希(アキ)

 生まれた時からそばにいる「お姉ちゃん」が大好き。「チズ姉さん」と呼んで慕っている。

 基本的にチズが見えない人間は嫌い。チズと一緒にいられるからという理由で呪術師を始める。解呪する気は更々に無い。

 実は一度、印を組み「コン」と鳴いて見たら狐の顔が出てきて、皮膚を取られたことがある。全身の皮膚をごっそり持っていかれ、「お姉ちゃん」の力によって怪我は回復したが、その力は二度と使ってはいけないと「お姉ちゃん」に言われる。

 名前の意味は「有」る「希」望。だってまだアキ自身は希望を掴み取ってないから有るはずだよね希望。そうだよね?

 

 

 

 *

 

 アキは高校生になった。

 ロクに少・中を通っていなかったアキだが、夜蛾のツテで高校に通うことができるらしい。正直、アキは高校なんかに通わなくてよかったのだが、「お姉ちゃん」が『通わせてくれるって言ってるんだから好意に甘えなさい』と言ったので通う次第だ。

 

 呪術高専の東京校。アキはそこの新1年生として通う。

 実を言うとアキは不安だった。アキは同年代の人間と深い関わり合いになったことがない。「お姉ちゃん」と「自分」さえ()()()()()()()()()()()()からである。夜蛾曰く、アキを除いてあと二人ほど新入生が居るらしいので顔はいつもの仏頂面でも実は緊張していたりする。

 

 

『アキ、緊張しているの?』

「……別に」

『ふふふ。大丈夫だよ、アキは。アキなら大丈夫』

 

 

 アキの緊張を解すように「お姉ちゃん」はアキを抱きしめてくれる。

 ーーふわりと香ったタバコの匂いには気づかないフリをした。

 

 

 

 

 

「君が早川? 僕は灰原雄って言うんだ! よろしくね!!!」

「…七海建人です」

「………早川アキ」

 

 

 夜蛾から聞いていた「新ー年生は教室集合」の言葉に従って、ー年という掛札が下がっている教室の戸を開けてみれば他二人はどうやら既に居たらしい。集合時刻の約十分前。常識を持ち合わせている同級生だとしれてアキは少し息を吐いた。

 

 空いていた一番廊下側の席に座れば上記の挨拶をされた。アキもとりあえず名前を言えば、ひゅんと右腕を取られて「よろしくね!!! 」と灰原によって上下へ揺らされる。ブンブンと上下に揺れる自身の腕を見てどうすればいいのか分からず、アキの視線は右往左往する。それに気づいた七海が「灰原」と名を呼んだ。

 

 

「困っているから辞めなさい」

「えッ!? ごめんね!! つい、仲良くなれそうだなって安心しちゃってさ!!!」

 

 

 アキから見て灰原という人種は見たことの無いものだった。てらてらと笑う姿は正しく太陽のよう。()とは違うぴかぴかと周りを照らすような笑い方、()()()()()()()居ただろうか。

 

 

「呪術師の人ってどこかネジがイカれてるような人ばっかって聞いてたからさー。七海や早川がマトモそうで安心した!」

「…七海と灰原は知り合いじゃないのか?」

「違うよ! 僕たちも早川が来る数分前に自己紹介したんだ!」

「…見た通り灰原はパーソナルスペースが狭い。考えるだけムダだ」

 

 

 そう言ってため息を吐く七海の様はかれこれ数分の出会いだと言うのに酷く疲れているように見えた。

 

 

 

 

 灰原と七海は先程アキに言った通り数分の仲である。アキよりも先に出会った二人は灰原の人懐っこさによってまあまあぐらいの仲にはなっていた。でも、きっと。それだけじゃない。

 

 人間とはひとつの目的がぶら下がればまあまあ頑張れるし、そのためならそこそこの仲の良さを演出することだってできる。別に二人の前に大層な目的がぶら下がっているわけではない。けれど、ひとつ夜蛾に頼まれたことがあった。

 

 それは今から20分前に遡る。

 

 

「君も一年生?」

「ええ…そうです」

「そっか! 僕も一年!! 灰原雄って言うんだ! 君は?」

「…私は七海建人です」

「そっか! 七海よろしくね!!」

 

 

 二人の邂逅は高専内の入口にて。夜蛾から指定されていた場所である。緊張して中々寝付けなかったらしい灰原が先に集合場所にてついていた。と言っても七海も遅刻したわけではなく、きっちりと十分前を心がけて居たので、高校生ながら礼儀はちゃんと持ち合わせていた。

 そして、集合時間の五分前に夜蛾がやってきて少し涙ぐむことになるのだがーーそれはどうでもいい話である。

 

 

「君たちが灰原と七海か」

「はい!」

「そうです」

「私は高専で教鞭を執っている夜蛾正道だ。君たちの担任は私ではないのだが…色々とワケ合ってだな。教室まで私が案内することになっている」

 

 

 自己紹介もほどほどに夜蛾は「着いてこい」と二人に声をかけて歩き出す。灰原と七海は夜蛾の一歩後ろを歩いていく。

 

 

「今年の一年は灰原と七海の他にもう一人いる。そのもう一人が色々とワケありでな。なので済まないがそのことを伝えるために君たちには三十分早く集合してもらった」

「…ワケあり?」

「あ! 噂に聞く御三家〜ってヤツですか?」

「いいや。違う」

 

 

 夜蛾は首を横に振った。たしかに御三家が高専に通うというのは少々面倒な事態になったりもする。元々、御三家は高専なんかに通わなくても家で必要なことは教えて貰えるからだ。そのため、去年急に「俺、高専通うから!」と言い出し諸々の手続きが終わった頃に「は? 何言ってんの。俺は京都じゃなくて東京の方に行くに決まってんだろ」とまたもや爆弾を落とし色々と厄介の渦に巻き込んだ阿呆は居たがそれはそれ。今回の案件とはまったく関係の無い話だ。

 

 

「お前たち、呪霊は知っているな」

「まあ…見えてますし」

「詳しい知識は置いておいて存在は」

「お前たちのもう一人の同級生…早川アキはその呪霊に憑かれている」

「「え」」

 

 

 しかし、その呪霊は夜蛾には見ることが出来ない。アキの近くによれば、アキに憑いてる呪霊の圧倒的存在感を感じることができるのだが、ただそれだけ。膨大な呪力を感じることはできても姿形は一切分からない。まあ、こちらに敵対心は持っていないようなので今はアキと縛りを科すことで放置している状態にあるが。

 

 

「しかし、あの呪霊は特級相当にあたる。何をきっかけで暴れられるかわからんからな。上層部は怯えている」

「…祓えばいいのでは」

 

 

 話を聞いていた七海が至極まともなことを言った。呪霊とは人に害を成す存在だ。居るのであれば祓ってしまえばいい。少なくとも高専にはそれが出来てしまう先輩が二人ほど居るはずだ。

 

 

「…その呪霊は被呪者である早川アキに危険が及びそうな時にしか基本的に干渉してこない。早川アキが望んだことなら基本的になんでもするらしいがーーそれでも一度でも人間に手を上げたことは無い」

「……」

「……」

「呪術界は万年人手不足だ。命を賭ける仕事だからな。任務に出て帰ってこないことなんてザラにある。だから上は考えた。上の操り人形に成るのであればそれが一番いいと」

 

 

 死ぬなら死ね。ただしそれは呪霊を祓った後だ。そういうことだろう。夜蛾の言う上は早川アキを人間として見ていない。使えるものは使えるまで使い潰す気概でいる。まだ早川アキは十五の若造なのに。

 

 

「…アイツは私が見つけるまでずっと呪霊を祓って生活してきた。人間という人間と関わりを持ったことがない。だから、変な色眼鏡を掛けずお前たちは一個人の「早川アキ」という人間を見てやってくれないか」

 

 

 そう言って夜蛾は足を止めると、教室の戸を開けた。

 

 

「入学おめでとう。灰原、七海」

 

 

 

 

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