私はね、アキくんのお姉さんなの   作:瑠威

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第8話

 

 

「……、…き、■■」

「…■■、さん」

「うん、お■ちゃんだよ。大丈夫? 辛いよね。お薬飲もう」

 

 

 目を開けた瞬間、鉛のように重い身体に頭の中でフライパンを叩かれているかの如くガンガンと突きつけて来る痛みに、ぞわりと背筋が凍る程の寒気。そして心配そうな■の姿。

 

 

「■さん、仕事…は?」

「■■のことを考えてたら、岸辺さんに仕事に身が入ってないから帰れって言われちゃった」

「………ごめん」

 

 

 俺のせいで■さんは仕事に穴を空けた。小さく謝れば■さんは「■■のせいじゃないよ」と言って優しく微笑む。

 

 

「私にとって仕事よりも■■の方が大切だもの。■■が元気でいてくれれば私は何も望まないの。■■が幸せだなあって思ってくれるならそれでいいんだ」

「■さん…」

「さて! 病人の■■くん。お薬を飲むためにもお粥食べて欲しいんだけど何味がいい? 鮭? 卵?」

「……鶏」

「ふふふ、鶏ね。いーよー! お■ちゃんが腕によりをかけて作ってあげるね!」

 

 

 「最近は料理は■■任せだったからなあ。上手く作れるのか私…」なんてブツブツ呟きながら■は部屋を出ていく。

 

 ■の居ない部屋は静かで寂しい。このまま寝て待っていた方がきっと■は嬉しいんだろうけど、次目を覚ましたら■が居ないんじゃないかなんて思って眠るに寝れなかった。俺は布団に包まると、そのまま枕を抱え布団を引きずりながら■を追って自分の部屋を出る。

 

 リビングに行けば、鶏粥に悪戦苦闘している■の姿が見えた。襖の閉まる音でリビングに俺が気づいたらしい■は一瞬目を丸くした後、何も言わず料理を再開した。

 

 枕を床に置いて、再び布団に包まりながら■の料理の音を聞く。それがなんだか安心した。だって、この音が聞こえる限りはまだそばに■がいるって分かるじゃないか。この音が止まったら■はどこかへ行ってしまう。その時まで、■は俺のために何かを成そうとしてくれている。

 

 父も母もタイヨウばかりに構っていたけれど、■は違うんだ。

 父も母もタイヨウも俺を置いて逝ったけれど、■は違う。きっと。

 

 

「■■、お粥出来たよ」

 

 

ーー 一転。

 

 

 何か、騒々しかった。寝るに寝れなくて、寝苦しくて。重苦しい瞼を開けてみれば、俺の部屋であるはずのそこには■■■と■■■が何故か取っ組み合いをしていた。

 

 

「おい、■■■! ■■■が風邪引いてんだから俺のご飯でガマンしろつってんだろ!」

「嫌じゃ嫌じゃ嫌じゃ!! ■■■のメシはクソマズなんじゃ!! ■■のメシがいい!!!」

「だあああ〜! じゃあ自分で作れよォ〜!!」

「それはもっと嫌なんじゃ〜!!!」

 

 

 ギャーギャーと騒々しい二人は互いに互いの髪を引っ張り合い、頬を抓り、足で腹を蹴り、ドッタンバッタンと戦っていた。

 

 

「…何してんだ、オマエら……」

「ほォらァ〜!! ■■■がウルセーせいで■■■が起きちまったじゃねぇか〜!」

「わ、ワシのせいでは無いわ! ウヌのせいじゃ!!!」

「はあ!? ヒトのせいにすんなよな!!!」

 

 

 そう言って二人はまたドッタンバッタンと喧嘩を始める。その度にホコリが舞って俺の体調は悪化を辿るばかりだ。そう思って気づく。ああ、俺、いま体調悪いなって。

 

 

「…なんだ、メシか…」

「ああ〜! 起きんじゃねーよ!! ■■■、熱あんだぞ! 40度はヒトが死ねるレベルだってニュースで言ってたんだかんな!!!」

「…全く、人間は弱いな! 体温が40も過ぎると死ぬなんてな! ガハハ!! ワシの体温は常に100度なんじゃ!!!」

 

 

 ガハハ!と高笑いする■■■に■■■が「ウルセー!!」と再び突っかかる。これじゃ収拾がつかないと悟った俺は起き上がろうとする。が、それを二人が止めた。

 

 

「おい、起き上がろうとすんじゃねぇよ。今日は仕事入ってねーんだし、休め」

「そうじゃそうじゃ。■■が死んだらワシらの料理は誰が作ると思っておるんじゃ。ワシは■■■のクソマズ料理が毎日なんて嫌じゃぞ」

 

 

 ■■■の一言に■■■は■■■を睨みつけるが、その後大きなため息を吐いて怒りを霧散させたらしい。ビジッと俺を指さした■■■は「いいか! ぜってー寝とけよ!!!」と言って■■■を引き摺って俺の部屋を後にした。

 

 

「はァ〜!! 本当にこれだけでいいのかよォ〜!!!」

「おい! 絶対これ入れた方が美味いぞ!」

「おい■■■! 勝手に火力あげてんじゃねーよ!! 焦げるだろーが!!」

「ギャハハ!! ギャハハ!! ウヌ…! ギャハハ!!!」

 

 

 寝てろと言われたものの、キッチンの方が騒がしくて寝れない。きっとあの二人は俺のために何かを作ろうとしてくれているのだろう、多分。でも本当に正直、俺はあの二人の料理を信用していないので気が気ではなかった。なんならあの料理で殺されるかもしれないと、二重で震えている。

 

 ギャーギャーと騒ぐこと約三十分。死刑の時間が来た。俺の部屋に入ってくる二人の面影はどこか緊張していた。

 

 

「お、おらよ!」

「こ、心して食べるんじゃ!」

 

 

 そう言って■■■が渡してきた小さな土鍋はちゃんと湯気が出ていて、お粥に見える代物だった。

 

 

「■■■が風邪引いた時は鶏粥って決まってんだろ。わ、わざわざ姫野センパイに電話してまで聞いたんだかんな! 味わって食えよ!!」

「そうじゃそうじゃ! 何度■■■が料理のセンスがないと言われたことか!」

「それはテメーが余計なモン入れようとするからだろ!!!」

 

 

 そう怒鳴る■■■の手にはいつの間にか俺の携帯が握られていた。

 俺は少し緊張気味の二人を見ながら、お粥を口に運ぶ。二人が作ってくれた鶏粥は少し薄味気味だったけれど、暖かくて美味しかった。コイツらってマトモなモン作れるんだなと成長を見守った親の気分でさえある。

 

 

「ど、どうだ…?」

「美味いか…?」

「…ああ。美味い」

 

 

 俺が小さく頷けば、二人は花開いたように嬉しそうな顔を見せて「だよな!」「当たり前じゃ!」と口々に言った。

 

 結局、二人が作ってくれた鶏粥は腹が減ったと腹の音で大合唱を始めた二人にかっさらわれ…次の日、二人して風邪を引くのだがまだそれは誰も知らないことである。

 

 

ーー 一転。

 

 

 

 

 

 *

 

 

「あ、目ェ覚めた?」

 

 目を開けたアキの視界に入って来たものは、見慣れた天井ではなく、心配を通り越して青白い顔をしている伊地知でもなく、一緒に任務に出向いていた乙骨でもなく、いつものような黒い布地で瞳を覆っていない、青色の宝石のような瞳丸出しの五条だった。

 

 

「アキさあ、バカなの? 何二十九時間勤務って。バカなの? バカでしょ? 普通断るくない? しかも睡眠不足なのにご丁寧に僕の呼び出し受けてさあ、挙句の果てにはテンション可笑しくなって弟子ビビらせてたら意味ないよね? んで次は風邪引きましたって? バカなの? バカだよね? お願い俺はバカですって言って」

 

 

 そう言って五条はため息を隠すことなく大きく「はあ〜〜〜」と言うと、アキに水の入ったペットボトルを手渡した。アキは小さく礼を言って、ペットボトルを受け取ると水を飲む。

 

 

「硝子と仲良く談笑してたらさあ、顔を土色よりやばい色に変えて、ホントもう血相を変えたじゃ現せないぐらい焦った憂太が乗り込んできてこっちが焦ったよね。ヒマだったし僕も硝子に着いて行ったら高熱出して息切らしてるアキと、アキの状態確認してる伊地知がいてもうてんやわんや。とりあえず伊地知は仕事が立て込んでるからって返して、僕と憂太で意識のないアキを引き摺って、硝子が診て。知ってた? アキ三日寝てたからね。熱引かなくて、でもそういう時に限って硝子も忙しくなってさあ。昨日は七海とか灰原が居たのに任務で抜けるからって硝子に呼び出されて…。ホントお前らぐらいだよ。最強を後輩の看病で呼び出すなんてさ」

 

 

 「つか何。無限あったら風邪うつらないだろって。七海も灰原もバカだからうつらねーつんだよ」とまるで高専時代のような口調で五条は言った。

 

 

「で、メシは」

「え」

「お前が起きたらメシ作ってやれって特に灰原に念を押されてんの。作ってないことバレたら面倒だし、食べれるんだったら作るけど?」

「…五条さんってメシ作れたんですね」

「ねぇ、お前らって俺のことなんだと思ってるわけ??」

「五条さん、口調戻ってます」

「やべ」

 

 

 そんなことを言いつつ、五条は「よっこいせ」とおじさん臭い掛け声と共に立ち上がるとキッチンの方へ消えて行った。と言っても、この部屋は保健室ではなくアキの自室なのでキッチンというキッチンも設備されておらず、簡易的なコンロが置かれてるぐらいなので五条の姿は丸見えだ。

 

 最初は本当に五条が料理なんて作れるのかと疑惑的ではあったが、案外トントンとリズムよく野菜が切られる音がするので、多分安心だ。少なくともアイツらが作るお粥よりは安心してーー。

 

 なんか、モヤモヤする。胸に引っかかったこれは一体なんだろう。なんだかモヤモヤを通り越してムカムカしてきた。

 

 

「ねぇ、アキ本当に大丈夫? 顔真っ青だけど」

「………吐きそう」

「はああああ!? ちょっ、まっ、ご、ゴミ箱!!!」

 

 

 吐いた。

 

 

 

 

 

 *

 

 

 

 

 

 

 

 

「来る12月24日、我々は百鬼夜行を行う」

 

 

 

 

 

 

 

 

 *

 

 百鬼夜行当日、アキは九州を任されていた。五条曰く「東京の高専生達は出来るだけ教員(僕ら)の目の届く場所にいて欲しい。東京周辺は僕がいるし、京都は京都の高専生達がいるからいいけど、九州はがら空きだからアキが行ってきて」とのこと。

 

 夏油が百鬼夜行だなんだと言い始めるまでに、アキは色々なことが起きた。弟子を(無理矢理)とったり、風邪でぶっ倒れて結局一週間ほど体調が治らなかったり、乙骨を転がしたり、真希を転がしたり、乙骨を転がしたり乙骨を転がしたり乙骨を転がしたり…。それなりに忙しい日々を過ぎ、今日である。

 

 ぶっちゃけるとアキは機嫌が悪かった。別にクリスマスを一緒に過ごす彼女がいるわけではない。単純に恵を案じているのである。津美紀が呪われてる今、伏黒家には恵しか居ない。津美紀が呪われてからと言うもの、今までの反抗期が嘘のように丸くなり五条の稽古に精を出すようになったらしい。そんな恵を労るため、アキは男同士のクリスマスを予定していたのに。まさかの百鬼夜行である。恵にはキツく外に出るなと言いつけてあるので、さっさと終わらせて伏黒家の冷蔵庫に入れてあるケーキでも食べたい。なんならこの日を楽しむため、前日から仕込みはバッチリなのだ。

 

 

「恵がクリスマス一緒にいて欲しいって珍しくオネダリしてきたんだから…面倒事に巻き込まないでくれ…!!」

 

 

 九州に降りてきた呪霊はクソ弱かったし、なんなら後の連絡で乙骨がリカを解呪したらしい。

 

 

ーー夏油傑、死亡

 

 




 











「な〜、風邪引いてる時って何食べんだァ?」
「は? そんなのワシが知るわけないじゃろ」
「だよな〜〜〜」
「ウヌは風邪を引いた時、何を食べとったんじゃ?」
「俺ぇ? 俺は…別に。その辺に落ちてたモンを上手く食ってたよ」
「ふーん。使えんヤツじゃな」
「お前程じゃねーけどな!」


 二人はキッと睨み合うと、そのまま頬を抓り、髪の毛を引っ張り、ドッタンバッタンと暴れ出す。


「で。どうするんじゃ」
「…仕方ねー。ここで俺らがウンウン唸ってても時間が過ぎるだけだ! ここは早パイをよく知ってるヤツに聞くしかねーだろ」
「アキをよく知ってるヤツゥ? それは一体誰じゃ」
「コイツしかいねーだろ!」


 デンジはそういうと、パワーにとある携帯画面を見せつけた。


「む? それはアキの携帯じゃな」
「そーだ! 早パイの部屋に入った時に盗っといて良かったぜ」
「で。コイツは誰じゃ」
「…多分姫野センパイ」


 パワーもデンジも文字に心もとないので、自信はないが、まあ、多分、姫野の連絡先であっている、はず…。


『で、私に電話してきたってワケか』
「な〜、姫野センパイさあ、病人って一体何食うわけ? ステーキ?」
「ステーキ! ワシも食いたい!!」
『いや、病人にステーキはナイでしょ。普通はお粥とかうどんじゃないの?』
「お粥? お粥ってなんだ?」
「ワシは知っとるぞ! アレだ、白いゲロみたいなやつじゃろ!」
『何その覚え方。やめてよお粥食べれなくなるでしょ』
「ふーーーん。それって美味しいの?」
『久々に食べると美味しいよ』
「………で、作り方は」
『あ、作ってあげるんだ。アキくんのために』
「別に野郎のためじゃねー。ただ、ずっと寝とかれても俺たちのメシが出てこないのは死活問題だしな」
「そうじゃそうじゃ! ワシはデンジのクソマズメシよりもアキのメシの方が好きじゃ!」


 デンジとパワーの言葉を聞いて、電話の向こうで姫野の笑う声が聞こえた。


『男って素直じゃないよねぇ。別に素直になっても損ないと思うけど』
「……。で! お粥! 作り方!!」
『ふふふ、ハイハイ。お粥にもさー、色んな種類あるんだけど…アキくんは鶏粥派だと思うから鶏粥作ってあげてよ』
「鶏粥?」
「ワシは知っとるぞ! ニワトリをまるまる入れるんじゃろ!」
「えー、それ羽とか入ってて美味しくなさそう」
『さすがにニワトリをまるまるは入れないよ。鶏肉をちょこっと入れるの』
「唐揚げ?」
「唐揚げ! ワシも食べる!!」
『…病人に唐揚げは重いかな、うん』


 『ていうか二人に唐揚げ揚げられないでしょ』と姫野は言った。それは事実なのだが、唐揚げが食べたい二人は「えー」と揃って声をあげるが、キリがないので先に進むことにする。


『まずは、えーと。鍋、鍋に鶏むね肉と水と塩と酒を入れて煮て』
「水と塩と酒ェ? どれぐらい? ひと袋? 日本酒一瓶?」
「おいデンジ! アキ秘蔵の日本酒持ってきたぞ!」
『うーん、塩は小さじで一杯、酒に関しては日本酒じゃなくて料理酒をアキくんのためにも入れて欲しいな』
「小さじ? 小さじってどれくらいだ?」
「…ちっとでいいんじゃないか?」
「料理酒ってなんだ? 日本酒と何がちげーんだよ。あ、どーせだからビールも入れとくか?」
「…面倒だから全部でいいじゃないか?」

『出来た? 出来たら次は…んーと、そうだそうだ。鶏肉を取り出して、鶏ガラスープの素と黒胡椒を入れて。あ、鶏肉は粗熱をとったら割いてまた入れてあげてね』
「鶏がらスープ…はねーけど味の素ならあるからそれでいいんかな?」
「食べられればなんでもいいじゃろ」
「黒胡椒ってなんだ? 胡椒じゃいけねーの?」
「胡椒と鼻くそ入れとけば間違っとらんじゃろ!」
「そうか? んー、そうだな!」
『いや、間違ってるから。やめてあげて』
「割くってどれぐらいに?」
「面倒だから潰してしまえ! えいっ!!」


『後はじっくり煮て、ネギ入れたら完成! あ、鶏肉はもうちょっと後でも良かったかも…まあ、アキくんだし大丈夫でしょ。味もそんなに変わらないだろうし』
「おい、これ絶対まずいぞ! 味が薄い!! 全くせん! そうじゃ、カラシとかワサビ入れた方がいい! 味にインパクトを付けねばな!!」
「おいコラ、パワー! 余計なモン入れようとすんじゃねー!!」
「ふははは!! どうせならこれも入れよう!!」
「おいやめろ生魚は生臭くなる!」
「じゃあシュークリーム!」
「何がじゃあだ! 余計なことすんじゃねーって!!」

 
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