Fate/destruction   作:ニーガタの英霊

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 寒波が激しく寒くなってきました。
 新潟はやばいくらい寒いです。


第10話

「アーチャー、作戦会議だ」

 

「う、うん。そうか」

 

 晴彦たちは大学から帰ったあと早々に向き合う。

 あまりの急さにアーチャーは少し戸惑っているようであった。

 

「まずは、現状の確認だ。現在、俺たちはレイヴさんとの協力関係を結んでいる」

 

「・・・・・・そうだね。けど、彼は今動ける立場じゃない。共闘の証として猟犬を譲ってもらったけど、直接戦闘は僕らでするしかない」

 

 レイヴから預かった猟犬、ラエラプス。

 戦闘が出来るわけでは無いが、索的能力が高い、アーチャー陣営の情報生命線である。

 

「幸い、セイバーのマスターはセカンドオーナーの立ち位置にいる。町の破壊などの外道は行わない。これでいいか?」

 

「上々だね。それほど切羽詰まった状況じゃない。けどレイヴ・ロザンが動くのは恐らく終盤だ」

 

「逆に言うと、終盤までセイバーは倒せないということか・・・・・・。なら、バーサーカーをメインに行動すればいいか」

 

「周囲の敵を徐々に排除すれば、彼も動きやすくなるだろう。そのためにはちゃんとした態勢を整えないとね」

 

「事実、ラエラプスがいる。索敵としてはこれ以上ないな、逆にこっちの正体が筒抜けになるが、お相子様だろ」

 

 アーチャー陣営は現在情報を確認する。

 

「タロスの弱点は踵だ。そこを撃ち抜けば勝てる。だからこそレイヴ・ロザンは僕らと同盟を組んだんだ」

 

 クレタ島の守護者タロス。

 アルゴー船の面々たる英雄ですら手を焼いたこの巨身兵は非常に厄介な手合いである。

 

 曰く、鍛冶神の造り上げた傑作。

 つまり、神秘の格としては神造宝具といっても過言ではない。

 

 タロス、クレタ島を毎日三回走り回って守り、島に近づく船に石を投げつけて破壊し、近づく者があれば身体から高熱を発し、全身を赤く熱してから抱き付いて焼き殺したという。

 

 事実、並の英雄では歯も立たない。

 

 しかし、ギリシャ神話においてタロスを倒した者がいる。

 名はポイアース。

 弓の名手である。

 

「・・・・・・撃ち抜ける自信は?」

 

「簡単なことだ、なめてもらっては困るよ、晴彦。それに作戦もある」

 

 アーチャーは不適に笑う。

 

「上々だ。だが、そんな弱点を晒したままってのもおかしいよな。何らかの補強とかあったりするかな」

 

「可能性としては十分ありえるんじゃないかな? けど、そんなことをしていたら逆に弱点を晒しているに等しいからね。真名を看破されない限りしないだろうね」

 

「うーん・・・・・・」

 

 現実問題、協力関係を結べたのは良いが、これでは走狗と変わりない。

 使われるだけ使われて捨てられるなどあってはならない。

 こと戦争に限ってはそれは顕著だろう。

 

「考えても仕方ないか・・・・・・。ほかのサーヴァントについて考えてみるか?」

 

「ふむ・・・・・・、そういえば名称だけでどんな英霊か聞いていなかったからね。晴彦、僕に教えてくれないかい?」

 

「えっ・・・・・・いいけど」

 

 驚いた。

 アーチャーが能動的に行動するなど、恐らく晴彦の記憶の中では恐らく初めてだった。

 しかし、敵を知るのは晴彦的にも賛成であった。

 アーチャーが如何なる英霊だとしても、相手も英雄譚に名を連ねた英雄。

 晴彦が逆立ちしても勝てないのが当たり前の戦士達。

 気を引き締めてしかるべきなのだ。

 

「何のサーヴァントが知りたいんだ?」

 

「そうだね、当面の敵であるバーサーカーかな」

 

「クラン・カラティンか・・・・・・」

 

 ふと思い浮かべるのはあの夜のこと。

 命からがら逃げ切ったあの記憶である。

 恐らく、いや、確実にアーチャーを召喚してなかったら死んでいただろうあの夜。

 

 じわりと背中を流れる冷や汗を感じながら、その悪夢の日を振りほどく。

 

「大丈夫かい?」

 

「あぁ、大丈夫だ。カラティンのことだな。カラティンはアルスター、今で言うアイルランドの英雄・・・・・・いや、怪物といったほうがいいかな」

 

「アイルランド・・・・・・、僕からしたらとんでもなく遠い位置にいる英雄だね」

 

 アーチャーはインド、東方の英雄であり、方やバーサーカーは西欧の島国アイルランドの出自である。

 

「クラン・カラティンはケルト、またはアルスターにおける敵方の英雄だ。そもそもの発端はコノートの王、アリルと女王メイヴが互いに財産を競い合う場面で、女王メイヴが王アリルの持つ牛に対抗しようとアルスターの牛を借りようとしたことから勃発したアルスターとコノートの戦争だ。これを『クーリーの牛争い』という」

 

「そして、そこで登場するのがクラン・カラティンだと」

 

「あぁ、『クーリーの牛争い』はアルスター、コノートの戦いというより、コノートとアルスターの『光の御子』クー・フーリンの戦いだ」

 

「一人で大軍に挑んだのかい?」

 

 心なしか、アーチャーはそわそわしていた。

 英雄というものでも、こういった話は心踊るものなのだろう。

 

「一人って言うのも多少御幣はあるが、おおむねその判断でいい。戦時下、アルスターは女神ヴァハによって大衰弱の呪いを受けてしまう。これに唯一逃れられたのはクー・フーリンとその友人ロイグだけだった。クー・フーリンは武器を手に奮戦し、ロイグは彼の御者として最期まで彼に付き従った」

 

「へぇ、まるでラクシュマナみたいだ・・・・・・」

 

 アーチャーの脳裏に一人の男が思い浮かぶ。

 何時、如何なるときも自分につき従った異母弟の存在だ。

 

「話を戻すと、このクーリーの牛争い、およそ七年もかかった長い戦いで、その中には『浅瀬の決闘(アトゴウラ)』と呼ばれるものがあった」

 

 アーチャーは沈黙する、すっかり話を聞きに回っているのだ。

 

「戦時中、女王メイヴはどうにかしてクー・フーリンを自陣に引き込もうとした。だが、クー・フーリンは恩のある国は裏切れないとしてそれを拒否、同時にある条件を出した」

 

「『アルスター峡谷の浅瀬で待つ。一日に一回、誰か一人決闘の相手を寄越せ。俺がそいつと戦ってる間、お前達は進軍しても構わない。だがその戦いが終わったなら、それが何処でも進軍を止めろ』」

 

「・・・・・・女王メイヴもそれを承諾し、国中より勇士を募った。そこには兄弟子フェルディアや育ての父にして叔父のフェルグス・マック・ロイ。そして女王メイヴの愛人、クラン・カラティンの姿があった。・・・・・・まぁ、概要としてはこんな感じだか」

 

「うん、十分。分かりやすかったよ」

 

「そうか、じゃあ、クラン・カラティンに対する話だが、クラン・カラティンは二十八対、総勢五十八本の腕を持つ怪物だ」

 

「ラーヴァナより多いんだね」

 

「うん、まぁ、お前の反応じゃそうなんだろうな・・・・・・」

 

 ラーヴァナ、叙事詩『ラーマーヤナ』の冒険の最後を飾るラスボスである。

 正直比べることすらおこがましいほどである。

 

「まぁ、クラン・カラティンに対して気をつけるべきは毒槍だからな・・・・・・、正直、あれは厄介他ならない」

 

「毒槍か・・・・・・。生前、そういったものとはあまり出会わなかったからね、聞かせてくれないかい」

 

「クラン・カラティンの毒槍は傷つけたものを九日以内に死なせるという単純にして強力なものだ。正直、よく接近戦を挑めたもんだ」

 

「ははは、弓を使うにはある程度距離が必要だったからね。『終わりよければすべて良し』なんて言葉があるくらいじゃないか」

 

「・・・・・・お前は俺の生命線だぞ、軽率な行動は心臓に悪い」

 

「ははは、以後気をつけるよ」

 

 晴彦は一つため息をつく。

 現状、事態は徐々に動いている。

 同盟相手はこちらのサポートに回っている。

 

 晴彦はポケットから宝石を取り出す。

 魔力石というこの礼装は魔術師の魔力底上げとしてレイヴから受け取ったもの。

 慢性的魔力不足に陥っているアーチャー陣営からしたらのどから手が出るほどほしいものだ。

 無論、交渉で奪い取った。

 レイヴは知人からもらった物であるといったため、これもまた使いどころを見極めなくてはいけない。

 

「アーチャー。これ、もっててくれないか」

 

「魔力石か・・・・・・、そうだね。これ一つであれくらいは使えそうだ。使い際は僕が判断していいのかい」

 

「構わない、戦闘中のことなんて早すぎて追いつけやしないよ。だったらお前にやる。そのほうが効率的だ」

 

「分かった、確かに受け取った」

 

 アーチャーは魔力石を懐にしまう。

 同時にアーチャーは立ち上がる。

 

「それで晴彦、この後はどう行動したら良い」

 

「斥候はラエラプスがやってる。アーチャーはここから離れないで周辺の見張りだ。ラエラプスか俺に異変があったらすぐ駆けつけるように。優先順位は俺、次点でラエラプス。襲われている人を見つけたら出来るだけ助けること」

 

「了解した」

 

 瞬時、霊体化するアーチャー。

 相変わらず行動の早いことだと晴彦は思う。

 

 そのまま晴彦は床に背をつけて寝転がる。

 昨日の疲れがそのまま残っているのだろうか、それとも緊張が途切れたのだろうか、ゆっくりと瞳を閉じる。

 

(難易度、高いな)

 

 晴彦はそう苦笑する。

 いきなり巻き込まれたこの戦争。

 望んだことじゃなかったかもしれない、出来ることなら知らずに生きたかったを思わなくともない。

 

「・・・・・・」

 

 思い浮かべるは過去の情景。

 誰も悪くはなかった、ただ、環境が間が悪かっただけ。

 普遍的な出来事、普通という何よりの贅沢。

 

「・・・・・・」

 

 目を閉じて、心の底から聞こえる声は、ひどく高く、そして半狂乱に叫ぶ少女の声。

 日常というのはひどく、脆く消え去ってしまうもので、晴彦はそれに気づこうともしなかった。

 

「『助けて・・・・・・』」

 

 奈落の底へ落ちる少女は晴彦を見てそう言った。

 

 ここには何もない。

 楽しかった思い出も、見たくもない残酷な罪も。

 そのすべてを置いてきた。

 

 しがらみなどなく、全部、ここで築き上げた全く持って新しい記憶。

 それはひどく孤独で、ひどく物寂しく。

 

 ―――空っぽ。

 

 そう、形容するのに相応しい。

 

 かりそめに普遍。

 作り上げた平穏。

 薄っぺらい交友関係。

 

 偽物の日常。

 

(―――俺は・・・・・・)

 

 ゆっくりと閉じた瞳を開く、まぶしい電灯が不愉快で、そっと、右手の甲で目を覆う。

 三画の令呪が何処となく現実をあやふやにする感覚を持って、ただ黙って見続ける。

 

(本当を手に入れることが出来るのか)

 

 聖杯は、最後に勝ち残ったものの願いを叶える万能の杯。

 正直に言って、そんなものがあるなら欲しい。

 晴彦は宝くじを持っている。

 それも、七分の一の確率で当たるほどの宝くじ。

 それは確率から言って、決して分の悪い賭けではないだろう。

 

 状況は未だ有利、残る敵はまだ六体ながらもまだ戦うのには十分。

 

 心なしか、俺はこの状況を楽しんでいるのではないのか?

 

 そんな考えが浮かんでは振り切る。

 思考は堂々巡り。

 浮かんでは消える、泡のようなものだ。

 

 答えはわからない。

 どうすることも出来ない半端者。

 

 だが晴彦にとって、そんなものは重要ではない。

 ただひとつの信念を持ってここに立つ。

 彼にとっては理由はそれだけ。

 

 きっと、それが正しいのだ―――。

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