ノンモラルな描写があります。
欠けた夢を見た。
彼という男はなぜ狂気に身を委ねることとなったのか・・・・・・。
暗い暗い、闇の底へと墜ちてゆく。
何処が上で、下かわからない。
ふわふわと浮遊している感覚と、深海の底に沈むような息苦しさを抱えて彼は埋没する。
人が人たりうるものはなにか。
空腹な時、人は物を食べる。
悲しい時、人は涙を流す。
痛い時、人は痛みを訴える。
辛い時、人は誰かに助けてほしくなる。
楽しい時、人は笑う。
それらは当たり前の感情であり、普遍的な感情である。
当たり前。
それがどれ程尊く、また偉大であるか。
常人に理解出来るだろうか?
ならば、彼にとっての当たり前、普遍は何か。
彼にとっての愛情、快楽。
その全てはあることに直結する。
笑うことは当たり前。
食事をとることも当たり前。
失うことも当たり前。
―――ならば人を殺すこともまた、当たり前のことである。
彼は終生、その生き方を変えることが出来なかった。
―――私は満たされない。
その言葉と共に、彼は舞台に降り立った。
たったひとつの想いを抱いて。
その願いはとても独りよがりで、ある種、何よりも人間らしい望みであった。
刺殺、人を切るという感覚は心底奮える。
撲殺、顔を殴るときこそ至高であり、潰れた顔は人の尊厳を汚すものだからな。
射殺、楽な殺し方だ、ひどく単調でつまらないが自身の安全を十二分に確保できる。
焼殺、炎の草原でタップダンスを踊るように火達磨になる様子はひどく滑稽だ。
爆殺、罪の無い人々が混乱に陥り無法者の群れになるのもまた失笑ものだ。
絞殺、親しい者を殺すのはこれが一番だ、信頼する相手からの最大の裏切り、絶頂ものだ。
斬殺、圧倒的弱者が武器を手に強者を追いやる、相手が無様に命乞いする様は実に溜飲を下げる。
自殺、まさか自分から死んでしまうとは、それほどまでに追い詰めてしまったとはやるじゃないか私。
毒殺、さぁ飲みたまえ、別に毒は入っておらんよ。
虐殺、殺しつくせ、相手は人の皮を被った化け物だ。
ここは悪意の吹き溜まりだ。
誰も彼もがどこかおかしくなった狂人たち。
若く整った顔立ち青年もいれば、優しげな風貌の老紳士、禿げ上がった頭髪の中年などの様々な人間、人種がいた。
殺せ、汚せ、犯せ、壊せ、踏みにじれ!
無様であれば、無様なほうが良い。
いや、美しく飾りつけよう、ちょうどジャケットが欲しくてね。
犯して犯して犯し尽くせば良い、どうせ屍体だ。
バラバラに刻み尽くせば良い、野犬の餌にちょうど良い。
いいや食べよう、特に幼子の尻肉は特に美味い。
祭壇へと供えよ、神への供物である!
「実に醜いな貴様等は・・・・・・」
おお、■■■■■! 我々の主人格よ!
貴様如き小僧が主人格とは納得いかん!
所詮は空想上の産物、今でも遅くは無かろう。私を解放せよ!
絶叫を!
嘆きを!
痛みを!
禁忌を!
憎悪を!
快楽を!
狂気を!
美を!
死を!
殺人を!
さぁ渡せ! ■■■■■! 貴様の肉体を! それは私の、俺の、僕のモノだ!
「御免被る。なぜならお前らは美しくない。ひどく矮小で無様で、哀れみすら覚える。
―――そして俺は貴様等のような豚が嫌いだ。愛も知らず、信念すら持たないものが何を言う」
一閃。
アサシンは愛用のナイフでおびただしい殺人鬼たちを追い払う。
「俺の身体は俺のものだ。誰のものでもない。血肉元より髪の毛一本貴様等にやる物は無い。偉大なる先人よ」
アサシンは極めて淡々と作業のように効率よく闇を払う。
「糞の肥溜めだ。俺もお前らも。どこかおかしくなった狂人だ・・・・・・。だからといって生き方を変えるつもりは毛頭無いがな」
一人切るごとに男達の憎念が、罪過が身を焼きつける。
凄惨な現場、他人にとっては狂気、自身にとっての常識。
一人の男は床下に敷き詰められた若い男性の死体が、とある女性は二人の夫と三十二人の恋人、一人の息子の棺。
なめした人皮のオブジェ、冷蔵庫に保存した人間の臓器。
夥しい拷問による裂傷、つるされた骸。
ホルマリン漬けにされた死体、どろどろに溶かされた死体。
美しく香りよく、何より美味に調理した人肉料理。
犯された少女、無残にきざまれた少女、泣き叫ぶ少女、死した少女。
「救えない、救えないなぁ」
これが人間。
凝縮された悪意の一部。
どうしてこれでも人間が素晴らしいといえるのか?
「どうしようもない。そうだろ、それしか知らないんだ。それだけがすべてだったんだ。殺人鬼(ソレ)になった自分が本当の自分だったんだからな」
暗い、暗い、乾いた血にまみれた凄惨な小さな部屋。
たった一人、孤独な男が一人佇む。
「ここが、『俺達』の心象か。酷いもんだ。本当に、どうしようもない屑だ」
人は一生で一人しか殺せないという。
殺人鬼である自分はもうそういった次元にはいない。
「喰らいたい位だ。貴様等をな・・・・・・。なに、こう見えて料理は得意だ」
自分で自分を皮肉る。
本来の自分だったらどれほど良かったのやら、あまりに混ざりすぎて軸がブレている。
「無様だな、実に無様だ。嘆かわしいほどに・・・・・・」
金物が床に落下し甲高い音を響かせる。
アサシンは力が抜けたように地面に膝を着き、自身の両手を見つめる。
「弱い」
心を強く持てなかった。
人の善意を知らなかった。
人というのは悪意しか持っていない。
優しさを、愛情を、幸福を彼らは知らなかった。
知っていたのは辛く、屈折するほどの痛みと快楽だけ。
外の常識を知らず、知ろうとせず、ただ、一方的な快楽に身を委ねた。
「・・・・・・ミーシャ」
愛しき大切な者であった少女。
今はもう思い出せない。
ほかの方法はあっただろう。
終生、そういった屈折した感情を押さえつけていればよかった。
まともでいられた。
腕っ節の強さが人間の強さじゃない。
知能指数の高さも人間の強さじゃない。
人と付き合う社交性が強さじゃない。
健全な心を持ち、決して挫けない意思を持つもの。
それが人間だ。
信念も無く、弱く、脆く、ただ荒れ狂うだけのわがままな精神弱者。
人ですらない人以下の怪物。
人はソレを殺人鬼という。
「・・・・・・」
若干の気だるさと疲労。
立て掛けられた柱時計を見るに現在は朝の7時。
「すぅ・・・・・・、はぁ・・・・・・」
起きて早々、体内の空気を吐き出し、新鮮な空気と入れ換える。
冷たい空気が身を引き締め、ゆっくりと首を回して眠気を飛ばす。
「・・・・・・」
帰宅早々ソファーで一睡し、何をするわけでなくテレビリモコンを手に取りテレビを点ける。
チャンネルは地元のローカル放送で昨日起きたとされる自然公園での火災が話題となっていた。
「まったく、物騒だな」
嫌気が差す。
こういった騒ぎは勘弁してほしい。
「日本の警察は優秀だからな、受肉化してる以上、動きづらいことこの上ない」
受肉化して早々警察とバッタリあったが、非常に親切で親身であった。
かつ、職務に従順な態度はアサシンにとって驚いたものだった。
思考の傍ら、パソコンの電源を起動する。
「世の中も便利になったものだ」
そう呟くとアサシンは器用にタイピングする。
戦いにおいて重要なのは情報だ。
細かく、多く、正確に仕入れる。
この時驚くべきことに、アサシンは小器用に耳で音を聴き、視角で情報を読み取っていた。
分割思考:C
思考中枢を仮想的に5つに分け、同時に運営する。
「・・・・・・遅かったか」
アサシンが行ったこと、それは所謂ハッキングだ。
自然公園の監視カメラに接続し映像を入手、と行けたらよかったのだが、その作戦は一歩遅かった。
「警察ではないな。とすると、参加者か・・・・・・。しかもご丁寧に改竄してある。現場はともかく、人物を特定することも不可能か」
情報強者の参加者か、あるいは協力者がいる。
アサシンはより一層の緊張を引き締める。
思えば令呪をきったのはある意味成功だったかもしれない、確実に一騎減らすことが出来たのだから。
「だが、これで自然公園での出来事が聖杯戦争に全くの無関係ということはあるまい」
恐らく、何らかの戦闘があったと然るべきだ。
そう仮定した場合、少なくとも二陣営以上いたであろう。
「しまったな、マスターを早々に殺したのは流石に失敗だった」
愚痴を言いつつも、アサシンは手を休めることはない。
早々に見切りをつけ、次の情報を取りまとめる。
場所はとある市街地近くのコンビニの監視カメラ。
「ビンゴ」
そこに写し出されたのは金髪の男、レイヴ・ロザン。
そしてその傍らには眼鏡をかけた若い青年の姿があった。
「さて、実に面白くなってきたが、食事をとらねばな」
アサシンは立ち上がるとキッチンへ向かう。
柔和な笑みを浮かべ、空腹を堪えながらどのような料理を作るかを考え、食材を思い浮かべる。
「さぁ、楽しい楽しい聖杯戦争だ」
アサシンは食材をとりに冷蔵庫へ行きソレを冷蔵庫から取り出す。
「君もそう思うだろう・・・・・・。愚かなマスター?」
それは綺麗に解体し、皮を剥いだ人の手であった。
しかしそれだけではない。
よく見れば血抜きされた人の各種部位、内臓が凡そ二日分ほど、同じ部位があることから少なくとも二人以上がアサシンによって解体されている。
「相も変わらず貧相な手だ。朝からスープにするにはトロトロに煮込まなければならんからな・・・・・・唐揚げがいいか」
軽快に部位をまな板におき、肉切り包丁で骨ごと五つに切り分ける。
塩胡椒で味付けし、特性のスパイスを加えて油に投入。
こんがりきつね色に揚がったら、そのままオーブンで余計な油を落とす。
お好みできざんだ野菜を添えて出来上がり。
ワインを一瓶持って、グラスに注ぐ。
「ハムッ・・・・・・」
肉をワイルドに手づかみで食す。
「・・・・・・多少大味か。」
味の感想もそこそこに食事を続け、ワインを一口。
「・・・・・・安物だな。深みが全くない」
それもそのはず、時価二千円相当のテーブルワイン。
元マスターの私物から拝借したが、どうもこのマスターは同情するくらい貧相な舌であったようだ。
激しく気分を害されたが、食事自体は完食する。
作ったからには残さない。
彼なりの美学であった。
口が寂しいので骨を口に含み、飴玉の様に口で転がしながら瓶ごとワインを飲みつつ、パソコンに目を通す。
ルートを絞り、道順を把握。
他マスターの動向、元マスターの使い魔を弄って偵察させ、情報を収集する。
大変な作業であるが、アサシンの技能を持ってすれば物の数時間で片がつく。
戦闘外において、ことアサシンとキャスターほど恐ろしいサーヴァントはいない。
黙々とアサシンは作業を進める。
彼なりの戦い方であり、アサシンの由縁だ。
殺されたことが分かっていても、誰に殺されたのかを完璧に隠蔽し隠す。
犯人は分からず、目に見えない殺人者。
故にアサシン。
情報を纏め上げ、バラバラのピースを当てはめる様に繋げる。
現れたのは一人の青年。
「さて、見つけたぞ・・・・・・」
大学のデータベースにハッキングし、情報を抜き取りに成功したアサシンのパソコンに一人の青年が写し出される。
「葛西晴彦くん?」
たどり着いた六人目のマスター。
その中に晴彦が追加された瞬間であった。
アサシン「(アサシンの)マスターは死んだ! もういない! だけど俺の血潮にこの腹にひとつになって生き続ける!」モグモグ