柊市は主に四つの地区に分かれている。
北の韮山、東の四谷、南の竹宮、西の倉敷。
その中でも倉敷は風光明媚な自然地帯であり、先立って事件の起きた自然公園や古きよき町並みと山を削った新興住宅が並ぶ柊市民の憩いの場だ。
その一角にある寂れた工場跡。
戦時中は多くの武器の生産を行っていた廃工場がある。
現在、町の商業、工業地帯は竹宮であり、常日頃、若い男達はそこで仕事に励む。
戦前の残り香が多く残るそこは寂れ、放置された。
そんな工場跡地に一人の少年がいた。
雪のように白い肌と髪、対照的な赤い目を持つ少年
一般人からしたら先天的な色素障害、アルビノと断じられるこの少年。
しかし、魔術師からしたら真っ先にこう思い浮かぶ。
ホムンクルスと。
重厚な扉を開け、一人廃工場に入る少年。
背丈は150センチほどの低身長で小中学生に見まごうほどの小柄な彼は黙々と廃工場内を突き進み、工場の中心付近に立ち止まる。
「ただいま五号」
『おかえりなさい、八号』
中央には大きなカプセルが鎮座していた。
しかし、その中には一人の少女が培養液に浮かんでいる。
よく見ると、八号と呼ばれた少年と瓜二つであり、違いは性別と髪の長さ程度しか区別がつかないほど精巧に似ていた。
「すまない五号。戦略、戦術上の失敗だ。今夜の時点で、カラティンはアーチャーに一体、セイバーに六体やられた」
『八号・・・・・・』
「このままでの単独勝利は難しい。どうにかしていかなきゃならない。これから大幅な戦略の見直しをしなきゃならない。五号、血族の回収は?」
『うん、ちゃんと回収したよ。でも、良く考えたねクラン・カラティンの再融合化なんて』
「その分、令呪も使った。残る令呪はあと一画だ。使いどころが難しい。君には大変な思いをさせているからね」
直接戦闘のバーサーカー、補佐、指揮役の八号、魔力供給の五号と役割を分担している。
劣化したとはいえ、総勢28体のサーヴァントを擁するこの陣営はこのような秘密があったのだ。
一人のサーヴァントに一人のマスターではない。
二人のマスターに28体のサーヴァント。
本当であれば、一人のサーヴァントに対し数で追い立てれば勝てる戦いであると思っていた。
しかし、戦争とはそんな単純なものでない。
「アーチャー陣営。あれで中々厄介だ。セイバーもとんでもない宝具を持っている。ランサーにあの宝具を使われたら対処できない」
八号は頭を抱える。
曰く卑怯であると。
「アーチャーのあの矢も宝具だろう。物質を通り抜け、ホーミングし、しかも矢自体に気配遮断が付いている。遠距離から狙撃されたら対処できない」
視覚の共有化で見たあの景色は八号もぞっとするほどであった。
なおかつ、自然公園で放たれた矢はただの矢であった。
それですらバーサーカーが反応できなかったのだ。
別に注目していたものがあったとしてもそれは恐るべきことであった。
そんな技量に加え、あの矢の宝具が合わさったら。
「やはり、一番怖いのはアーチャーだ。あれをどうにかしないと、僕らに勝利はない」
『・・・・・・』
現に二体、そのアーチャーにバーサーカーはやられている。
しかもそのうち一体は己が土俵である近接戦でだ。
これで恐れないほうがどうかしてるだろう。
「血族の数は残り20体。使えなくなった奴を合わせて強化させてもたかが知れてる。全血族を融合させるか? 駄目だ、戦略的に破綻する。だとしたら・・・・・・」
ぶつぶつと自問自答を続ける八号。
どうにかしてアーチャー陣営を潰さねばならない。
八号はそうした強迫観念に押しつぶされていた。
『・・・・・・ねぇ、八号』
「・・・・・・セイバー陣営のこともある、ランサー・・・・・・いや、ライダーが勝った場合が一番好ましいか? だが・・・・・・」
『八号!』
「・・・・・・っつ! な、なんだ五号」
『あのね八号。実は話があるの』
「・・・・・・わかった。聞こう」
形、姿が同じでも、八号は五号には頭が上がらない。
八号の戦略がまがいなりにも成立しているのは五号の活躍あってこそだ。
生まれにしても名称どおり五号のほうが早い。
弟、姉に逆らえずといったものである。
『うん。あのね、倉敷ダムにバーサーカーを派遣したとき、変な人に会ったの』
五号はそのときのことを思い出す。
フードを被ったしわがれた男性の声でそれは話しかけてきた。
『その人はね、俺様はキャスターのマスターだっていったの』
「・・・・・・なんだって」
キャスターのマスター。
バーサーカーをもって柊全体を見回ったが、キャスターには会えずじまいだった。
なるほど、灯台下暗しとはこのことかと、八号は納得した。
『用件は簡単、組もうバーサーカー陣営。俺様に会いたかったら、倉敷山の祠前に待つ。だって』
「・・・・・・」
八号は黙考する。
誰もあったことのないキャスターのマスター。
この情報は何よりも有益なものではないかと。
『・・・・・・罠かな?』
「罠か・・・・・・罠だとしても、総勢28体のクラン・カラティンに対処できる自信があるということだろう。穴熊が基本のキャスターだ。こうして招待するということは恐らく、陣地自体は完成している。手早いことだ」
キャスター、それは聖杯戦争において最弱のサーヴァントといわれるクラス。
理由は簡単、対魔力というスキルあってのことだ。
魔術を基本に戦うキャスターに対し、三騎士は悉く相性が悪い。
「同盟だとすれば、キャスターによる魔力供給に加え、自陣に有利に構築された陣地もある。相手は直接戦闘能力を欲している。しかも、対魔力を保持せず、三騎士に渡りあえる相手であろう存在をか・・・・・・」
条件は悪くない。
それどころか非常に組みやすい相手でもあり、バーサーカーの継戦能力の向上に役立つ。
陣地内ではまさしく最強ではないだろうか。
「五号」
『・・・・・・私は八号の決断に従うよ』
「ありがとう。この話、乗ってみようと思う。最悪、僕が死んでも君がいる」
『八号』
「大丈夫、みすみす死ぬ気なんか無い。生きてみせるさ。それが、博士との約束だ」
ホムンクルスの寿命は極めて短命である。
五号は生まれて二年、八号は生まれて一年しか経っていない。
生まれ、成長せず、やがて衰弱し、死に絶える。
聖杯戦争を生き抜いたとして、生きられるのは五年が関の山。
それでも、彼らが生きるのには十分な時だ。
「この戦いが終わったら、海を見に行こう」
『うん』
「いろんなものも食べてみたい」
『うん』
「雪も見てみたいなぁ」
『うん』
「五号、約束だ」
『うん!』
彼らは戦う。
夢にまで見た、自由の為に。
「で、アンタは乗ってくると思ってるんか」
「勿論」
ところかわって、倉敷山の山中。
洞窟内に彼らはいた。
「我が兄弟子が作り上げたホムンクルス。よもや此処で会えるとはおもわなんだ。だが、所詮は裏切り者。精々うまく活用してくれよう」
「・・・・・・」
「そう睨むなキャスター。貴様の国は中々に快適だ。もう少し肩の力を抜いたらどうだ?」
「ふん、あたしゃアンタの考えが嫌いでね、そんな奴が目の前に居たんじゃおちおち気も休まらないよ」
「そうか、それは残念だ」
キャスターのマスターはそういうとまた作業に戻る。
「・・・・・・懲りもせずに、人形遊びかい」
「それ以外やることがないのでな」
キャスターのマスターが行っているのは人形造りである。
現在その数およそ50体。
「・・・・・・食事も取らずに?」
「取る必要性が感じられない」
「楽しいのかい?」
「別段楽しいとは思わないな。慣れたものだ」
「・・・・・・アンタ、それでも人間か?」
「元・・・・・・だ。今では死徒のようなものだ」
ああ、やっぱり好きになれない。
よくもまあ、こんな身も心も化け物みたいなやつに召喚されたもんだと皮肉る。
合理性の怪物。
キャスターはこの男をそう評する。
この男に人情や悦楽というものは存在しない。
あるのはただ『生きる』という本能だけ。
たったひとつの生存本能のみで死徒に上り詰めた元人間。
それがこの男、ヨーゼフ・ウッド・アルビオンであった。
「そうかい、なら好きにするといいさ」
「無論だとも、喜べキャスター。新生の日は近いぞ」
「そんなもん、くそ食らえだよ。アンタの勝手な思想をあたしに押し付けるんじゃないよ」
「世界は滅ぶ。これはどうしようもない事実ではないか」
この男がいうに世界は滅ぶらしい。
これは魔術協会の出した演算結果らしく、この男、いや、この男達はそれをどうにかしようとするらしい。
「だから世界を滅ぼす。アンタのやってることは本末転倒だ」
「世界革命の為には犠牲は付き物であろう?」
「・・・・・・」
「理解したか?」
「ああ、そうだね。なに言っても無駄ってね」
キャスターは苦虫を噛んだかのように顔をしかめる。
あの賢者とは正反対に人の情を置いてきたかの様な人間をキャスターは見たことがなかった。
「世界を滅ぼす、人類を滅ぼす。俺様のために死ぬことが出来る。随分とまあ、崇高なことじゃないか。ふふふふふ」
その言葉を最後にヨーゼフは作業に没頭する。
まるで自分が正しいとでも信じているかのように。
傲慢にして情緒を解さず、やっていることは世界を滅ぼす準備。
キャスターはそんな相方の姿が見ていられなかった。
そんなマスターのいる一室を出て、洞窟内を俯瞰する。
何でもいい、ただ気分を変えたかっただけだ。
「はぁ・・・・・・、どうしてまぁ、あんな奴に育ったんだか」
親の顔が見てみたい。
キャスターは他人事のように呟いた。
能力は認めるし、戦略に口を挟める気もないが、どうも人格的に相性が良くない。
いっそ殺せばいいが、それもキャスターには不可能である。
「奴を殺せるのは、アサシンか・・・・・・。まあ、それもいいだろうねぇ」
自分がどうやってもヨーゼフを殺せないのは分かっているし、あんな奴に聖杯を渡すなど考えたくもない。
問題はあのアサシンの手綱をとれるかだ。
「・・・・・・無理だね。とれる気しないや」
アサシンはあれで中々頭が良い。
それに加え、何をするか分からない気味の悪さもある。
だから、わざと泳がせてるわけだが・・・・・・。
「幸い、アサシンはうちのを殺したがっている。そこに賭けるしかないか・・・・・・」
キャスターが正面戦闘をすることは稀だ。
故に、謀略を張り巡らせ、盤面の操作に注視せねばならない。
「時間勝負だね」
キャスターの戦い方は特徴的だ。
直接戦闘に劣る以上、情報と準備期間が鍵になる。
陣地を整え、戦闘を有利に進める礼装を作成し万全の準備をもって敵を迎え撃つ。
そうしてようやく五分、まだまだ勝利には程遠いときた。
バーサーカーを取り込んだとして、使えるかどうかは別問題である。
「さて・・・・・・と、あたしも仕事するかねぇ。全く、こんなババアを働かせるなんざ戦争ってのはろくなもんじゃないよ」
ぼやきもそこそこ、非常に不本意であるが、上司が働いている以上、部下が何もしないというのも外聞的にも心情的にも悪い。
領土の中央に位置する塔からキャスターは飛び立つ。
その姿は人ではなく大きな鷲に変じ滑空する。
彼女の眼下には不吉なほどに美しく恐ろしい凍土が広がっていた。
陣地作成:A+
魔術師として、自らに有利な陣地を作り上げる。
”神殿”を越える”領地”を形成する事が可能。
変身:C
鳥になって空を飛ぶことも、魚になって水の中を泳ぐことも出来、諜報活動、戦闘からの離脱に適する。
全サーヴァント、マスター登場!
ここまで長かった・・・・・・。