皆様遅くなって申し訳ありませんでした。
夜が更ければ朝が来る。
小鳥がさえずり、仄かに香る朝食の匂いで目が覚める。
「・・・・・・」
眠い。
朝はどうも苦手だと、早瀬七海はにぶい頭を働かせて目を覚ます。
ぼけーっと何をするわけでもなく、天井を見上げる。
「ふぁ・・・・・・、~~~っ!」
だらしないあくびに加え両手を伸ばす。
普段の彼女を見る人々からしたら思わずときめいてしまうような、そんな珍しい姿であった。
しかし、そんな微睡みはいつまでも続かない。
三度、ドアをノックする音が響く。
「失礼します。お嬢様、朝食の準備が整いました」
「・・・・・・わかったわ。すぐに準備するわね」
目覚めきっていない中、ゆっくりと衣装棚に向かう七海。
寝間着を脱ぎ捨て、ラフな服装に着替える。
因みに、寝るときにブラは着けない派だ。
「セイバー」
「おう」
彼女の呼び声と共に現れた偉丈夫、セイバー。
朝から見るには多少心臓に悪いが、四六時中いる以上、七海にとっては慣れたものだ。
「今日は休息をとったけど、大事ないかしら」
「あァ、問題らしい問題は起きてねェな・・・・・・」
「そう・・・・・・」
早瀬七海は思案する。
現状、セイバー陣営の立ち位置は非常に狙われやすい立場にいる。
しかし、セカンドオーナーという手前、逃げるわけにはいかない。
ノブレス・オブリージュ。
権力、社会的に上に立つ者には責任が求められる。
日本ではなじみの薄いものであるが、若くして勤勉であり、教養を仕込まれた彼女の心髄の一端を支えているものである。
若くして母を亡くし、父からの薫陶を受けた彼女はその意思を継ぐ資格と義務がある。
恵まれた血筋、恵まれた生活。
早瀬七海はまさしく名門の貴人であった。
「おはようございますお嬢様」
「おはよう。桃井さん」
「よォねえちゃん。今日もべっぴんさんだな」
開口一番、使用人を口説くセイバー。
桃井は苦笑しながらもありがとうございますと礼を述べる。
「お待たせしました」
ちょうど良いタイミングで出てきたのはコックコートを身に纏った壮年の男性。
口髭がチャームポイントで禿げ上がった頭にはわずかな白髪しかない。
「おつかれなさい飯岡。朝から大変だったでしょう」
「いえいえ、むしろ料理人冥利に尽きますよお嬢様。セイバー様、わが国には『腹が減っては戦は出来ぬ』という言葉があります。たんと食べて、お嬢様を頼みます」
「おう。当たり前だ」
使用人たちにはセイバーのことを新しく雇った護衛となっている。
最近はめっぽう物騒なことになったことに加え、普段から護衛を必要としなかった彼女からの提案に先代からの付き合いとなる飯岡はホッとしたものだ。
ただ、身長多少高く、上半身が裸ではあったが、まあ気にするほどでもない。
違和感を感じないということはそういうことなのだろう。
「美味ェ、美味ェ」
手づかみで意地汚く食うのは多少イラッとくるが、それでもセイバーが食事を残したことは全くない。
セイバーの食事の量は七海の何十倍の量になり、早瀬家のエンゲル係数の上昇に今日も貢献していた。
「お嬢様はこちらの席に」
「ええ、感謝するわ」
そんなセイバーの様子を尻目に早瀬七海は食事を摂り、味わうようにゆっくりと咀嚼する。
何度も味わった飯岡の料理、母の手料理を食べたことのない七海からしたらこれこそが家庭の味だった。
「いってくるわ」
「「いってらっしゃいませ、お嬢様」」
朝の見送りもほどほど、送迎の車に乗り込む。
広く仕立ての良い、要人御用達の用心警護用の乗用車であるが、どう見てもセイバーが入るわけないであろうに使用人は誰も指摘せず、また誰も違和感を感じていない。
「・・・・・・はぁ」
「お嬢様、どうかしましたか?」
「あぁ、いいえ。なんでもないわ」
頭に疑問符を浮かべる運転手。
七海は運転手の存在を失念したかのような態度であった。
(珍しいじゃねェか、テメェがため息なんざ)
(珍しいね・・・・・・。そりゃ、こんな状況が続いていればため息の一つぐらい出るわよ)
聖杯戦争。
その戦争も序盤も序盤。
ライダー陣営が脱落していることから中盤に差し掛かりつつあるといってもいいだろう。
そんな状況で、未だ小聖杯の位置すら把握できていない。
七海にとってこれは非常に拙い状況であった。
(ヨーゼフ・ウッド・アルビオン。未だに足取りすら掴めてないのよ・・・・・・! 聖杯戦争に参加していることは確かだけど、宣戦布告以来、全くの音沙汰なし)
正直言って、不気味他ならない相手に対し、立ち回り方ですら困っているのだ。
最初の誘いで乗ってきたのはライダーとランサー、それとバーサーカー。
ライダー、ランサーが目的の相手で無いとして、あの男のサーヴァントは何か。
霞を掴むかのような先も見えないような状態、七海は考えに詰まりそうだった。
(・・・・・・確か、親父の仇らしいじゃねェか)
(えぇ、あの男の立ち入りを許可したお父様もお父様だけど、何より、ここまで早瀬をコケにしてくれるとはね。心底馬鹿にしてくれるわ)
未だ会ったことの無い敵。
その敵を知らせたのは他ならない神父であった。
あの神父とは10年の付き合いになる。
疑うことはあっても、その人柄や能力は信用できる。
神父が言うに、奴は父の亡骸を背負って、堂々と教会に入ってきてこういったという。
『今より一月の後、魔術師の、魔術師による至上の儀式の祭典が始まる。主催は俺様、ヨーゼフ・ウッド・アルビオンが責任をもって遂行しよう。貴殿、ロナウド・ハーペンには監督役を。大聖杯、並び小聖杯の用意はすでに調っている。さぁ、杯を満たそう』
はっきりいって馬鹿げている。
人の父親を殺しておいてその態度は何だと。
他人がどういった人間だとかは関係ない、ようは自分が気に入らないから。
理由はそれだけで十分。
(―――ハッ! いいねェ、自分の父親が死んだってのに怒ってはいるが冷静そのものじゃねェか・・・・・・!)
(気に入らない?)
(いいや、むしろソンケーするぜ。俺んときはそんな冷静でもなかったからな)
伝説においてセイバーは父の死を以って復讐鬼となり、怒りのままにあらゆるものを破壊しつくした激情家である。
父の死と聞いてはいい思いはしないだろう。
幸か不幸か、父の死があるからこそ、友好関係を築けているといっていい。
(そう、ありがたく受け取っておくわ)
(おう! バンバン感謝して、俺を最高の戦場に連れてってくれ)
(貴方はいつもそれね)
セイバーの願い。
それは単純にして相応。
自分の全力を出せる相手と全力で戦うこと。
自分を打ち倒せる相手と戦い敗北すること。
ようは戦闘狂も良いところだ。
『敗北を知りたい』
セイバーは七海にそういった。
ナルト叙事詩におけるセイバーの死因は衰弱死だ。
戦場での傷で亡くなったが、それは戦闘での死ではない。
戦いの果て、血肉沸き立つ戦場での高揚感に包まれたままブツリと精神が切れるような、そんな死を彼は何より欲した。
セイバーにはなんの含みもない。
ただ暴れたいだけ、そんな普段からやんちゃが過ぎるこの英雄をなぜか七海は好ましく思った。
「お嬢様」
「ええ、ありがとう平賀」
運転手の平賀がドアを開くと、そこは学院前。
白を基調とした清潔感を感じる造りをした聖オルレアン学院はミッション系の女学院であり、男性の数は極めて少ない。
「おはようございます早瀬さん」
「ええ、おはよう」
たまたまあった同級生と挨拶を交わしながら生徒玄関までの並木道を行く。
「・・・・・・」
「やぁ、またあったな。ミス早瀬」
「・・・・・・何をしているのかしら」
実に良い笑顔で手を振られた。
出会う可能性は高いと思ったが、朝から会うとは予想していなかった七海は驚く。
元ライダーのマスター、レイヴ・ロザンである。
「見て分からないかね。掃除だよ」
そういうとレイヴは竹箒を少し上げる。
朝っぱらから金髪のイギリス人が用務員紛いのことをしており、その男の背景が分かる七海からすれば滑稽極まりないことであった。
「あぁ、そういえば茶の約束をしていたな。どうだろう、教会まで寄ってはいかがかね」
「そう・・・・・・ね、せっかくの約束ですもの。断るのも筋違いでしょう」
「うん、それはよい。着いてきたまえ。最高の本場の味を味わってもらおうじゃないか」
SHLまで時間はある。
七海はレイヴの後を追うこととした。
彼ならば何か知ってることがあるかも知れない。
そう思ってのことであった。
「さて、掛け給え」
連れて来られたのは教会の奥の部屋、そこは神父達の居住スペースであり、七海も入るのは初めてであった。
「ここは?」
「聖杯戦争脱落者のための居住空間。私の部屋だ。最大十人はここに住めるようになっている」
レイヴは器用に紅茶の準備をしながら会話をする。
そんな様子を片目に部屋の様子を眺めるが、これといったものは無く、殺風景な印象を受ける。
「それにしても、聖杯戦争の参加者をこんなところに入れてもいいのかしら」
「現状、脱落者として保護されているのは私だ。私が良いといってる以上、何も心配あるまい」
「私がだましうちをするとは?」
「しないだろう、君は」
レイヴは紅茶を注ぎながら答える。
「君はセカンドオーナーだ。立場ある人間だ。そんな人間が、今まで積み上げてきたものを犠牲にして教会と敵対するなどあまりにデメリットが多すぎる」
テーブルに紅茶のティーカップを置く。
こちらに二つ、向かいに一つ。
レイヴは席につくと両手を絡めて七海を見据える。
「君は賢いだろう。此処とだってそれ相応の繋がりはあるのだろう? そんな君が私を害するとは思えんのだよ」
「・・・・・・」
(マスター・・・・・・)
(大丈夫よ。紅茶でも啜ってなさい)
雰囲気が変わった。
最初の飄々とした態度とは違い、七海はレイヴを見誤っていたと気づく。
「・・・・・・よォ」
「久しいなセイバー。実際に会うのはあの日以来か」
「ふん・・・・・・。茶を飲みに来ただけだ」
セイバーは仁王立ちしたまま、紅茶一息に啜る。
「ははは、いい飲みっぷりだ。君にはウイスキーのほうが良かったかな」
「酒があんのか、寄越せ」
「セイバー、失礼よ」
セイバーの横暴な態度に頭を痛める七海たが、セイバーはその憮然とした態度を崩さずにレイヴを威圧する。
だがしかし、レイヴ・ロザンは怯まない。
「スコッチウイスキーだ。度数は40。我が国の良質な酒だ。ゆっくりと味わってくれ」
セイバービンごとは酒を含むと目を見開き無理やり嚥下する。
「なんだこの酒はァ―――!」
セイバーは驚嘆する。
今までに感じたことの無い酒精の多さに、まさか自分が酒を吐き出しそうになるなど。
「ははは、やはり蒸留酒の経験はなかったか。これが現代の酒だ、セイバー」
「すげェな現代・・・・・・」
余程気に入ったのか、その後はちびちびとセイバーは酒をあおるばかりであり、七海は静かになってホッとしたような、餌付けされて不安な、そんな気持ちだった。
「さて、会話を楽しむのも良いが、ただの会話だけではつまらない。そこでだ、ちょっとしたゲームをしようじゃないか」
「ゲーム?」
「あぁ。なに、ルールは簡単だ。私と君で交互に質問し合う。辞めたいときは辞めると宣言すること。但し辞めを宣言出来るのは自身が質問者である場合のみ」
「嘘をついた場合は?」
「少し面倒になるが、自己強制証明(セルフギアス・スクロール)でも結ぶかね」
そういってレイヴはカバンから一枚の紙を取り出す。
自己強制証明。
己が魔術刻印をもって次代にすら繋がれる決して違約出来ない魔術社会における最大の呪術的契約。
「なに、心配することはない。今回使うのはあれの劣化版の様なものだ。短期契約でゲームが終わったら解放されるようなね」
「見せてもらっても」
「結構」
七海はそうして紙を手に取る。
成る程、良くできている。
文字自体に魔力を刻んでいるのだろう。
おそらくはルーン、魔術の中でもマイナーな術である北欧の呪術である。
時計塔のロードというとは伊達ではないようだ。
その他の小細工はなく、順当に契約を遵守しようという意思の表れだろうか。
「わかったわ。契約しましょう」
「それは良かった。ペンを貸そう」
レイヴは懐から万年筆を取り出し、七海に渡す。
カードリッジタイプで何度も使ったであろう良品であった。
「はい、これで契約は完了ね。質問はどっちが」
「君が選びたまえ、ミス」
レイヴは背もたれに寄りかかり、リラックスした体形をとる。
「そう、じゃあ質問するわ。貴方が会ったサーヴァントのクラスは?」
「君のセイバー、ランサー、ライダーにバーサーカー。忌々しいアサシンにアーチャーだ」
アーチャー、未だ正体を明かさないサーヴァントの一人。
七海にとって価千金にあたう情報だった。
「そう、次は貴方ね」
「ふむ、そうだな・・・・・・」
レイヴは黙考し、口を開く。
「私の情報が正しければ、柊のセカンドオーナーの名は早瀬九郎だった筈だ」
「―――っ!?」
「彼は我が魔術協会、しかも時計塔に席を置いた優秀な魔術師。面識はないが、この聖杯戦争。招かれるならば彼の筈と思ってたのだがね。
―――何か知らないかね?」
早瀬九郎。
早瀬家の先代当主であり七海の父親だった男だ。
脳裏に浮かぶは在りし日の父の姿。
バリカンで苅り揃えた坊主頭に口髭を蓄えた壮年の男。
見た目通り厳しく、真面目一辺倒だった父だったが、七海にとってかけがえのない家族そのものだった父。
眼を瞑り、しばし呼吸を整える。
極めて平静にポーカーフェイスは崩さない。
「聖杯戦争の直前、亡くなったわ。死因は窒息らしいわ」
「・・・・・・そうか、それは済まないことを聞いた」
「構わないわ。父も、さぞ無念だったでしょうから」
父は優秀な男だった。
少なくとも、ただの魔術師ごときに遅れをとる人物ではない。
行ってくると、夕飯までに帰ると言った父は、冷たくなって帰ってきた。
なまじ死体に外傷がなかった分、ひょっこり生き返るんじゃないかとそんな風に思ってたりした。
魔術は兎も角、経験も経営能力も七海は父に及ばない。
父から受け取った魔術刻印と遺された触媒。
そして聖杯に選ばれた証たる令呪。
根源の到達、そして父の無念を晴らすこと。
その為に、七海はたどり着かねばならない、あの男の下へと。
「ゲームを続けましょう。質問は私からよね」
「あぁ、受け付けよう」
七海は紅茶を一杯だけ口をつける。
少しだけ冷えている紅茶は飲みやすかった。
「ヨーゼフ・ウッド・アルビオン。彼について知っている事を教えて頂戴」
七海にとって重要なこと、それはヨーゼフ・ウッド・アルビオンの居場所。
この聖杯戦争中、全くもって動きを見せていない正体不明の人物。
そして、この聖杯戦争の主催者の男。
対してレイヴは内心驚きを隠せなかった。
「ヨーゼフ・ウッド・アルビオンだと・・・・・・! 『彷徨海の俊英』と言われた。あのヨーゼフ・ウッド・アルビオンか・・・・・・!」
「えぇ、恐らくは・・・・・・」
「どういうことだ・・・・・・? 何故、それほどの者がこんな辺境の島国に・・・・・・」
レイヴは考える。
セカンドオーナーの彼女がなんの脈絡も無しにヨーゼフ・ウッド・アルビオンの名を出すとは思えない。
確実に、そう何らかの形でこの聖杯戦争と関係しているであろうことは想像に難くない。
「・・・・・・悪いが、ヨーゼフ・ウッド・アルビオンに関してはそちらの持つ情報と変わりないと思うがね。そもそも、彼がこの聖杯戦争に関与してるとしても、今聞いたこと自体が初耳だ」
「そう・・・・・・」
七海は少し残念そうに眼を瞑るが、少しの考えの後、七海は口を開く。
「それでも教えてほしいわ。私の視点と時計塔のロードでは感じ方が違うかも知れない」
「・・・・・・わかった。あの男については私も他人事に聞いたくらいだ。それでも良かったら話そう」
レイヴは佇まいを直すと、ポツポツと語り出す。
「ヨーゼフ・ウッド・アルビオン。魔術協会三部門の一角、彷徨海に在籍する魔術師。魔術属性は水、彷徨海では名うての人形師と有名であったな」
彷徨海。
北欧圏に拠点をもつ魔術組織であり、神代の魔術こそ至高だと信じている懐古主義者の巣窟とも揶揄されているが、一方で肉体面に働きかける魔術としてはかなりの先進的技術を得ている。
かつて『彷徨海の鬼子』と呼ばれた死徒二十七祖のネロ・カオスが在籍していたことから見ても時計塔やアトラス院に決して劣っている訳ではない。
「特に、非常に精巧かつ高い品質の人形を造り上げることに高い定評があってな。少し昔まで、そういった依頼を頼む事が周囲であった。私も友人や親族によく見せてもらったよ」
レイヴが見たのは女性型の人形で半自立的に動き、作業に従事する機械人形であった。
はたからみて、それは人形には思えないほどに美しく、人と遜色ない出来であった。
しかし、一度解体すれば内部に搭載された機械が溢れかえるほどあり、何処がどうなっているか皆目検討もつかないほどであった。
「だが、その前半生は謎に包まれており、どこの出自かは誰も知らず、彼も話そうとしない。・・・・・・もう、半世紀も生きた人物と言ってもね」
「・・・・・・」
「正体不明。人付き合いの薄い魔術師としてもその素顔を見た者も皆無。彷徨海でも講師としての授業以外は部屋に籠りっぱなし。ただ、腕は本物だ」
魔術師の中でもトップクラスの実力をもつ正体不明の魔術師、それがレイヴの評価だった。
「そう・・・・・・私のもつ情報とも大差なかったわね」
七海は少しだけ落胆するが、ある意味予想の範囲内だった。
目新しい情報があれば貰い物程度に考えていた。
「そうか・・・・・・、あぁ。そう言えばひとつだけまだあったな」
「まだ・・・・・・?」
レイヴは思い出したかのように、口を捲し立てる。
「極端に人付き合いの悪い氏ではあるが、時計塔、アトラス院と共にある繋がりがあるらしい」
「ある繋がり?」
七海は眉をひそめる。
話を聞く限り、コミュ障にも程があるような奴に好んで繋がりを持つ奴がいるのだろうか。
「時計塔、アトラス院。共に講師の立場にあり、特に魔術師としての縁戚が無い者である二人の人物と親しいらしい」
「ある人物とは?」
七海は耳を澄ませて傾聴する。
まだ持ち得ていない情報、身を乗りだしそうになりながらも冷静を保つのを心掛けるが。
「それは次の質問かね? であれば私も二連続で質問するが、如何かね」
しかし、だがしかし、そうは問屋が卸さない。
ふとレイヴに眼を向けると実にいい笑顔をしていた。
質問はヨーゼフ・ウッド・アルビオンに対してであって、二人の人物とはまた別の話であると、そういうことらしい。
ジョークと二枚舌外交はジョンブルの得意技。
思えば、亡き父の訓示の一つであった。
「・・・・・・踏み込みすぎと言うことね。わかったわ、私の質問はこれで終わりよ」
「ふむ・・・・・・。では私の質問だ。そうだね、聖杯戦争が起きた理由。そもそも、聖杯がどのようなものなのか。まぁ、今回の聖杯戦争のあらましなどを聞かせてもらえないかな」
「・・・・・・また微妙に答えにくい質問をしてくれるわね」
「ははは、性分なものでね。加え、自分が参加した聖杯戦争の事を語れなくてはロードの名折れだ」
理論はしっかりとしている。
叩けばほこりが出るような稚拙な作りだが、それでも此方を牽制するには十分なほどに・・・・・・。
完全論破のための道筋は見えている。
しかし、その道筋の為に一体どの程度の弾丸が必要であるか。
事ここに至ってゲームのルールに嵌まってしまった。
此方が欲する情報を並べ立て、いざ致命傷に近い問いに対し即座に風呂敷をたためる準備をする。
レイヴは七海に比べルールを熟知していた。
ゲームに乗った時点で既に相手の手のひら。
早々に気づけたのは紛いなりにも優秀であったからこそである。
レイヴ・ロザンは仮面を被る。
張り付けた笑顔の裏にどのような思考が渦巻くのか、七海にはまだわからない。
父であればまだ張り合えただろう。
だが、七海が相手をするには経験が足りなかった。
相手は時計塔のロード。
海千山千の魔術師相手に日夜政争を企てる巣窟の中でもその矢面に立つ貴族。
今までに感じたことの無い強さを七海は感じていた。