Fate/destruction   作:ニーガタの英霊

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「投稿、開始(トレース・オン)!」


第14話

 ところかわって七海とレイヴの熾烈な交渉戦の裏で、晴彦は現在四谷町の一角に佇む高級ホテル、柊ルートインホテルに来ていた。

 

「此方がレイヴ・ロザン様のお部屋になります」

 

「はい、ありがとうございます」

 

「チェックアウトの際はフロントにて行いますので、お帰りの際は必ず立ち寄ってください」

 

 ホテルマンはそう告げると足早に去ってゆく、現在このフロアにいるのは晴彦とアーチャーのみだ。

 ホテルマンの姿が見えなくなるとアーチャーは霊体化を解く。

 

「アーチャー」

 

「あぁ、開けるよ。晴彦は少し離れているといい」

 

 晴彦は頷くと、アーチャーから距離をとる。

 アーチャーが鍵を差し入れ、ドアノブを捻る。

 その刹那、電撃のような魔力が反射的に発動する。

 だがしかし、アーチャーにそのような魔術は通用しない。

 対魔力、三騎士と騎乗兵にのみ許されたクラススキルによって、その効果は無効化される。

 

 ドアを開き、アーチャーは部屋を真っ直ぐ突き進む。

 レイヴが端正込めて造り上げた魔術トラップを文字通り力押しで破壊する。

 晴彦は爆発音、発砲音、その他諸々の音を部屋の外からぼんやり聞いていた。

 

「晴彦、罠はもうないよ」

 

「お、おう」

 

 戦々恐々、晴彦は足場を確かめつつ部屋に入る。

 驚くほどに、あれだけの大きな音が鳴り響いていたというのに、部屋は清潔を保ったままであったと言うことだ。

 

「・・・・・・なんというか、もっとスマートに出来なかったのか? 解除とか・・・・・・」

 

「あれが一番手っ取り早くて魔力消費の少ない方法だよ。保険として防音の結界も張った。よっぽどスマートな方法さ」

 

 そう言われると晴彦は何も言えない。

 誰も彼も魔力量は有限とは言え、晴彦の場合それは極端に低い。

 魔力の無駄遣いは出来ない。

 それもこの非戦闘時においては何よりも優先される。

 

「そう・・・・・・か。まぁ、そんなことよりも頼まれた事をしよう。えーと、これか? 鞄は」

 

 そもそも、何故晴彦達がここにいるのか、それは他ならぬレイヴ・ロザンの依頼であったからだ。

 陣地に回収していない研究成果や礼装があるから取ってきて欲しい。

 こちらが依頼され、特に断る必要もないゆえに晴彦達は粛々とホテルへと来たわけだ。

 

「みたいだね。どれ、確かめてみよう」

 

「あぁ、頼む」

 

 晴彦はアーチャーに鞄を渡すと、アーチャーはじっくりと鞄を確かめる。

 

「・・・・・・中に仕掛けがあるね。持ち運び程度なら問題はないだろう。注意としては決して開けないことだね」

 

「中に仕掛けか・・・・・・。忠告感謝する、アーチャー」

 

「この程度当たり前の事だよ晴彦」

 

 何て事なく、アーチャーは告げる。

 アーチャーは一流の戦士であり、また魔術にも精通している。

 神代の英雄たるアーチャーから見ればこういった仕掛けを解くのはは朝飯前だ。

 

「・・・・・・中身が気になるところだが、まぁ、今は粛々と仕事を進めよう。相手の期待に応えるのも仕事だしな」

 

「そうだね、今はコツコツ信用を積み重ねるべきだ。信頼には信頼で返す。すなわち道理だ。戦いという場であるからこそ道理を曲げてはいけないんだ」

 

 戦い、戦争には越えてはならない不文律がある。

 それを越えたが最後、戦争は戦争という形骸をなくしてしまう。

 越えてしまった末に起こってしまうもの、それは泥沼の闘争。

 どちらかが果てるまで続く規則もなにもない真の無法。

 アーチャーはそれを理解していた。

 

「そもそも戦争が起こっている時点で駄目なんじゃと思うけど」

 

「・・・・・・? 戦争は結構な頻度で起こるものじゃないのかい」

 

「神代インドは修羅の国か何かですか」

 

 一つため息。

 そりゃそうだと、晴彦は思い出す。

 英雄とは基本的に武功によって伝説を築き上げたもの、こと戦争という形式をとっている以上、それは顕著である。

 

 違うのだ、英雄と自身の常識は。

 

 此方にとっては戦争とは遠い何処かの出来事。

 冷たいかも知れないが、どうぞご自由にやってくださいとしか言い様がない。

 対してアーチャーの戦争に対する意識は、いつ此方に飛び火するかわからない日常茶飯事の出来事。

 とりわけ神代ではそういった争い事は多い。

 

 どれだけ崇高な理由だとしても、はたまた下らない理由としても起こるものは起こるのだ。

 

(意識の擦り合わせか・・・・・・。身近なことでもいいから、適宜コミュしとかないとな)

 

 他者との信頼、好感度。

 何より大切かつ基本中の基本である。

 

(あまりゲーム脳過ぎるのもアレだが、参考にはなるか)

 

 なにせ命を懸けた戦い。

 外道を容認することはないが、非道に手を染める可能性がある以上、それは避けられない。

 参考にできるのは出来るだけ参考にしようと誓う。

 

(・・・・・・もう、あんな思いはごめんだしな―――)

 

「晴彦・・・・・・?」

 

「―――うぇ?! って、アーチャーか」

 

「急に黙りこんだけど、何かあったのかい」

 

 心配そうにこちらを見るアーチャー。

 

「いや、ちょっと考えごとをな」

 

「考えごとね・・・・・・、晴彦、一つ質問していいかな」

 

「なんだよ、急に改まって・・・・・・」

 

 アーチャーはベットに腰かけると、神妙な顔つきで晴彦を見る。

 

「晴彦。君も生きている人間である以上、秘密や隠し事もそれはあるだろう。それはそれでいいと思うし、そこまで無理に干渉しようとも思わない」

 

 誰だって人に言いにくいことはあるだろうから。

 そうアーチャーは締めくくる。

 

 人のトラウマは千差万別だ。

 しっかりと胸に刻む者もいれば、出来ることなら記憶に封をして思い出したくない者もいる。

 

 逃避。

 晴彦のソレは正しく逃避だった。

 逃げて、逃げて、逃げついた果てが此処だった。

 後始末を避けて、避け続けた結果、訳のわからない戦いに巻き込まれて、そうしてまた惑い、迷う。

 ひどく合理性を欠いた行動と結果だった。

 

「だけど、そんなことはどうでもいい。僕が知りたいのはたった一つのことだ。

―――どうして一人で抱え込もうとするんだい?」

 

「―――ッ!」

 

 その問いは、まるでこちらの心を見透したかのように、晴彦に突き刺さる。

 

「話を聞くことぐらいは出来るし、何より人生経験も豊富だ。それとも、僕はそんなにも頼りないかい」

 

「・・・・・・」

 

 そんなことはない、とは晴彦は言えなかった。

 それほどまでに、晴彦の心の根は深い。

 

『―――私は特別でありたいの』

 

 運動したわけでもないのに、急な発汗と心なしか息も荒くなる。

 頭には鈍い痛みを感じるが、足先は冷たくなったかのように、なんの感覚も感じなくなる。

 

「ゆっくりでいい、ゆっくりでいいんだ。僕も、君が歩み寄るまで待つから。少なくとも、これは信じてくれ。僕は、いつだって君の味方であり続けると」

 

「アーチャー、俺は・・・・・・」

 

 楽な決断だ。

 頼って、頼って、そのまま依存してしまえばどれ程楽だろう。

 そしてそれは他でもないアーチャーの提案だ、提案しといて後で嘘でした、ではそれこそ英雄の矜持に関わる。

 

 大丈夫だ、俺。

 落ち着け、俺。

 しっかりしろ。

 晴彦は内心で自らを鼓舞する。

 眼鏡を額までずらし、目と目の間、眉間の下をぎゅっと押さえる。

 

 ちょっとだけすっきりしたような錯覚を得て、アーチャーを再度見ると、変わらない表情で問いに対する答えを待つアーチャーがいた。

 

 アーチャーは話した。

 ならば、次は自分の番だと晴彦は奮い立つ。

 

「アーチャー、最初に言っておくと何でもかんでも話すという訳にはいかない」

 

「そうか・・・・・・」

 

「けど、それはお前が信用ならないからじゃない。この問題は、俺自身の問題だからだ」

 

 今はまだ、向き合うことは出来ない。

 それでも、逃げることだけはもう止めよう。

 受け身であり続けるのはもうやめだ、そうして、手遅れになるのはもっと嫌だから。

 

「時間をくれ。いつか、向き合える時が来るはずだから。そのときは、俺の話を聞いてくれないか」

 

「十分だよ、マスター。その言葉だけでも、聞く価値があった」

 

 未だ未熟な己がマスター。

 だが、向上心だけは特筆に値する。

 それだけで、アーチャーが仕えるには充分なほどの理由である。

 きっと大丈夫、彼は戦える人間だと、アーチャーは確信する。

 

 恐らく、きっかけが必要だっただけなのだ。

 それが偶々聖杯戦争だっただけで、そして偶々召喚されただけなのだ。

 

(やれやれ、諭す気だったのに。肩透かしを食らったよ)

 

 思惑を外されてしまったが、アーチャーの表情は思いの外清々しかった。

 最初から大層な理由を並べる必要はなかったというのに男というのは自分を含めて見栄っ張りな人種なのだろう。

 

「あぁ、だけど、頼るときはちゃんと頼るからな。・・・・・・というより、ほとんど頼ってばっかりじゃないか? 俺・・・・・・」

 

「そんなことは無い。現にレイヴ・ロザンを組んだことを選択したのは晴彦だよ」

 

 晴彦は気恥ずかしそうに頭を掻く。

 

「・・・・・・戦闘とかは全く出来ないし、魔力だって十分じゃない」

 

「人とサーヴァントを比べちゃだめだよ。そもそも次元が違うからね。魔力供給については・・・・・・、追々ということで」

 

 がっくし。

 肩を下げて落ち込む晴彦を見て苦笑するアーチャー。

 一方、晴彦のメンタルはずたずただ。

 アーチャーを召喚してからというもの、魔力供給に関しては一歩も前進していない。

 安定のために高位霊地を手に入れるというものがあるが、そういった立地の場合、狙われることは往々にある。

 特に自身の召喚した英霊はアーチャー。

 魔術に心得はあるもの、本職の魔術師やキャスターに比べ陣地作成技術はあまりにもお粗末であった。

 

「陣地作成に関しても、ラクシュマナに一任していたからね。彼のありがたみは分かっていたはずだけど、ここまで苦労するとはね・・・・・・」

 

「ラクシュマナって言うと、確か弟だったけか」

 

「うん。弓は僕が上手だけど、魔術に関しては彼が上手だったね。一時的にでもシーターを守れたのは彼の結界のおかげだ。ほかにも気が利くし、素直な良い子だったよ。その分、僕以外には気性が荒かったけど」

 

「お前も大概だけど、弟も大概だからな・・・・・・」

 

 ラーマの大冒険譚である『ラーマーヤナ』において、ラクシュマナはラーマに付き従い、大敵ラーヴァナの息子であるインドラジットを策で嵌め殺すなどの大功をあげている。

 というより、インド神話はおかしい。

 それはもう色々と、主に持っている能力や武器、規模などが。

 

(インド神話の登場人物って大体、ぼくがかんがえたさいきょうのきゃらくたぁを地でいくからな・・・・・・。アーチャー、ラーマもある意味最強系チート主人公な訳だし。)

 

 インフレにインフレを重ねた結果、正しく人外魔境と化した神話の世界。

 神様もそうだが、その下の英雄ですら頭がおかしいレベルの手合いばかり。

 中二の宝庫は伊達じゃない。

 

「・・・・・・」

 

 だから必然、気になる。

 なぜ、彼ほどの英雄が何を望み、どうして召喚されるに至ったのか。

 思えばもっと早くに言うべきであったそれを、晴彦はぶつけてみようと思った。

 

「―――なぁ、アーチャー。お前の願いってなんだ?」

 

「・・・・・・僕の願い、か」

 

 アーチャーは目をつぶり、腕を組む。

 その姿は何かを思いだし、考える様でもあった。

 数瞬のどきどき流れるのを待つと、ゆっくりとアーチャーは口を開く。

 

「―――僕の、僕らの戦いの全ては、神の、ヴィシュヌ仕組んだことらしい」

 

「・・・・・・は?」

 

 それは、彼が初めて見せる表情。

 今まで、晴彦は彼のそういった面を見ることは無かったため、ある意味新鮮に、そしてある意味興味深かった。

 苦悶、あるいは怒り。

 均衡のとれた凛々しい表情は曇り、眉間には皺がより、苦虫を噛んだかのように、アーチャーは実に不機嫌そうだった。

 

「僕が生まれたのも、僕が妻を選んだのも、僕が戦いに赴いたのも、僕が宿敵たるかの魔王に挑み、そして打ち倒したのも全てヴィシュヌの計画通り、全部がヴィシュヌのおかげ。

―――あぁ、そんなものはとてもじゃないが認められない・・・・・・!」

 

 叙事詩『ラーマーヤナ』において、ラーマはヴィシュヌの転生体と信仰されている。

 しかし、彼はインド神話では珍しく神の血の混じった半神ではなく、紛れもない人間の身で伝説を打ち立てた英雄だ。

 父親も母親も同じく人であり、あるとしても神の加護を授かったと記述される程度である。

 しかし、何故彼がヴィシュヌの転生体と呼ばれるのか。

 

 それは、彼の打ち立てた英雄譚を横からかっさらったとしか言いようがないのではないか―――。

 

「僕が打ち立てたそれが全てまやかしだとしたら、僕の人生はなんだっていうんだ。いいや、僕だけじゃない。僕が倒した、僕の為に散った彼らの生き方はどうなる、彼らの誇りは? それが全て偽物だって言うのか? そんな訳、ないだろうに・・・・・・!」

 

「アーチャー、あんたは―――」

 

 怒ってるのか、他の誰でもない彼らの名誉の為に・・・・・・。

 

 アーチャーの脳裏に焼き付いた、宿敵ラーヴァナとそれに与した、誇り高きアスラの戦士。

 彼の忠臣たるハヌマーンと犠牲となった多くの猿軍。

 

 それら全てはヴィシュヌの信仰を満たすための道具としたら、とてもじゃないが当事者である彼は我慢ならなかったのだ。

 

「晴彦、僕の願いは僕とヴィシュヌへの信仰を断ち切ること。僕の人生は僕のものだ、他の誰でもない。僕自身の英雄譚だからだ」

 

 ヴィシュヌに取り込まれた自身の人生の再構築。

 それがアーチャーの願い。

 

「晴彦、これが僕のたった一つの望みだ」

 

 鋭い薔薇色の瞳に浮かぶは強い意思。

 まるで、この想いだけは曲げられないかと言うように、どんな神様が否定しようと、これだけは諦めきれないかのように、晴彦は英雄の信念というものをまざまざと見せつけられた。




ヴィシュヌ「ラーヴァナ倒せたのも全部俺のおかげなんすよwww」
インド人「ラーマがすごいのはヴィシュヌだったからなんだ! ヴィシュヌってすっげぇ!」

 こんなことされたらキレる、誰だってキレる。

 よくよく考えてアーチャーの願いとかいってなかった件。
 魔力補給を除けばある意味チートコンビの二人であった。
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