『ということで、以上が事の顛末だ』
「そうか・・・・・・。私が頼んだこととは言え苦労をかけてしまったね」
レイヴは嘆息する。
しかしそれは交渉上のポーズ、事実レイヴは元から晴彦の容態など気にしてなどいない。
アサシンから命からがら逃げ切ったことは賞賛して然るべきなのだろうが、いずれ戦う相手、消耗したとしても痛くはない。
『じゃあ苦労ついでに、俺の質問に答えてくれないか』
「ふむ・・・・・・、それくらいは良いだろう。なんでも言って見るといい」
使い魔を使っての通信ではあるが晴彦の容態はそれほど悪いものでもない。
現にアーチャーではなく、晴彦が交渉の舞台に立っている。
相手にはそれほどの余裕があるということ、無論こちらも慢心は出来ない。
『アサシンから攻撃を受けた。傷はそれほどじゃないが、症状が治癒しない。レイヴさんはこれについて何か対処法はないか教えてくれ』
「ほう・・・・・・、傷が癒えないとな」
そこでようやく得心ゆく、気が動転していたとはいえあのときライダーの傷が癒えなかった、もとい作用していなかったのにはそういうからくりがあったからからと言うことを。
「・・・・・・生憎と実物を見ないことにはわからんな。何せサーヴァントのもつ呪詛だ、神秘の格が違う。いくら私が才能豊かな魔術師とは言えな・・・・・・」
これは戦争、時には非常な選択を迫られる。
魔術師として合理性を追求する以上、心の贅肉など削ぎ落とすのは基本中の基本である。
だが、しかし。
レイヴ・ロザンにとって、そのような選択は下の下と切り捨てる。
「まぁ、その程度の答えでは満足せぬだろうし、こちらにしても猟犬の怠慢のせいで負わせてしまった怪我だ。傷の状態、様子、経過を教えてくれ、それなりに手助けになるだろう・・・・・・」
パワーバランス自体は変わらない。
相手にアーチャーがいるとしても、こちらには亡き女王のタロスがいる。
保有戦力自体が変わらずとも、現状においてレイヴ・ロザンの陣営と葛西晴彦の陣営とでは明らかに危険も負担も晴彦が大きいならば、それ相応に譲歩するのが必定。
加え、簡単に売れる恩であれば売れるだけ売る。
例え敵対することになろうとも、その時点までは友好的に、魔術師以前に英国紳士たるレイヴ・ロザンの矜持である。
唯単に高圧的に相手を追い詰めるのが話術に非ず、飴と鞭、清濁飲み下すゆえの話術。
時計塔の中でも貴族に生まれ三十年、多くの政争を経験したレイヴ・ロザンだからこその時論、そこに誤りがあったとしても、決してその経験とノウハウは無駄ではない。
世が世なら、生まれが違えば希代の政治家に成れたであろうレイヴ・ロザンの弁論術であった。
『腕の傷はそれほど深くない、肉は切られたが、神経事態には異常なし、相手のナイフは確か折りたたみ式、刃渡りは・・・・・・ちょっと覚えてないな。心臓を一突きされそうなのをレイヴさんの鞄で防いだ』
「質問、呪詛は武器に付属したものであったか?」
『・・・・・・いいや、ナイフ自体はそれほどのものでない、傷自体に呪詛を付属するものだ』
「で、あるならば。アサシンが傷をつけたというのが重要なのではなかろうか。古今東西、武器、ないしは技量によって『傷が癒えない』傷を与えるものはそこそこいる」
有名どころで言えば、クーフーリンの『ゲイ・ボルグ』、ヘラクレスの『ヒュドラの毒矢』などが当てはまる。
「対処法としては、相手を倒すか、武器を破壊するかだな。無論、相手を倒したところで癒えるものと癒えないものもある。特に、毒関係はその最たる例だ」
アーチャーの見立てでは毒ではない。
ならば一安心だが、現実、問題は一向に良くならない。
『・・・・・・幸い、毒ではない。それは大丈夫だが・・・・・・、なぁレイヴさん。聞いてみたいことがある』
「何かな?」
呪詛は傷自体に作用するなら、逆に考えてみればそれ以外には作用していない。
腕が回復不可能なほどの傷を負ってしまったとき、腕を切断することで命を救うことだってある、ならばこの発想は十分にありえることではないか。
『傷口を抉り取って、回復魔術を使えば、呪詛のついた部分だけ切り離せば治療可能じゃないか?』
「それは・・・・・・」
まさしく逆転の発想。
いや確かにその考えはなくはない。
いくらサーヴァントが与えたとはいえ傷は傷、毒でもない限り、患部を取り除けばどうとでもなる。
「いや・・・・・・、まさか。いやでも・・・・・・、あれ? あり、なのか・・・・・・?」
その発想はなかった。
目から鱗とはこういうことを言うのだろう。
「可能だが・・・・・・凄く痛いぞ」
『・・・・・・でも、こうでもしないと傷が壊死しますし、これから警察にいくんですから、最悪警察病院のほうにも厄介になりますんで、一応の言い訳がたつようにと・・・・・・』
通話だからこそ分かる震え声。
傷口に塩を塗るとはこういうことなのか、いやむしろ削り取るというか・・・・・・。
「まぁ、なんだ。がんばってくれ。通話はこれで切るから。さすがの私も断末魔を聴きながら茶会に洒落込む趣味はないのでな」
『あぁ、はい。そうしていただけると・・・・・・、おい待てアーチャー。そんな鋭利な短刀をどこから持ってきた。ちゃんと消毒したかって、おい待て、おい! 心の準備ってものが―――』
「・・・・・・」
途端、通話を切るレイヴ。
「その・・・・・・、なんだ」
その声は晴彦には届かないが、なんだかんだ同盟相手だ。
英断をした彼には一応の賞賛を送らねばなるまい。
「がんばってくれ、晴彦君」
気を取り直して、一度自室に戻る。
何せ今日は客人がいるのだ、あまり待たせるのも主催としていかがなものか。
レイヴは足早にしかし、取り乱すことなく客の待つところに向かう。
あちらが血を流す戦争なら、こちらは持てる知恵を振り絞った戦争だ。
死にはしないといって、負けるわけにもいかない。
(何せ、私の聖杯戦争はまだ終わってすらいないのだから・・・・・・)
この戦いは勝ち抜き戦ではなく、バトルロワイヤル。
最後まで立っていた者こそ勝者。
レイヴ・ロザンは諦めない、絶対に、絶対に、絶対にだ。
彼のその瞳に撤退の二文字はないのだから・・・・・・。
「あたしゃ、聞いてないよ。あんなガキが来るなんて・・・・・・」
「そうか。兎も角、客人だ。丁重にもてなすように」
倉敷山内部にある陣地で彼らは佇む。
そんな中、予想通りとでも言うかのようにヨーゼフ・ウッド・アルビオンは淡々と告げる。
「・・・・・・もう一度言うよ、あたしは聞いてないと」
「当たり前だ。俺様がキャスターになぜそんなことを言わなければならん」
―――我慢ならん
キャスターは目を見開いたかというと、瞬間、幾重かの氷柱がヨーゼフに突き刺さる。
加え、氷柱は突き刺さると同時に、ヨーゼフの体から体温を奪い、空気中の水分を凝固させ、彼を氷の中へ閉じ込めさせようとする。
驚くべきはこれ程の魔術を
さすがは神代有数の大魔女の一角と畏れられたキャスターの魔術である。
勿論、種も仕掛けも全くないとはいわないが、自身の魔力を通さずに行ったことは普通ならば魔術師のプライドをへし折る分には十分な程に。
驚くべき精度に加え、一種芸術的な魔術の施行。
現代に生きる魔術師とはやはり格が違う。
たがしかし、そんな彼女のマスターもまた現代有数の魔術師であることを忘れてはいけない。
「やれやれ、これはどういうことだね。キャスター?」
氷の中からは然りとあのヨーゼフ・ウッド・アルビオンの声が聞こえるではないか。
しかし、キャスターにとってもこの出来事は一度や二度のことではない。
「黙んな、化けもん。あたしゃ機嫌が悪いんだ」
攻撃の理由は八つ当たり。
それもそう、自分の預かり知らぬ所で協定が結ばれていて、あまつさえその報告を怠った。
自分が蚊帳の外で体よく扱われているこの状況に怒りを覚えない英霊はいない。
「・・・・・・そうかね、なら部屋にでも戻ると良い」
加え、この癪に障る態度。
自分は悪くない、どうしてそうカリカリするのかといった鈍感な態度もまた、キャスターの怒りの原因であった。
「ああ、そうさせてもらうよ―――っと!!」
乾坤一擲、ただでさえ人間離れした膂力に加え、魔術で更に強化した腕力では氷柱程度割るのは造作ない。
砕ける氷柱、辺り一面に飛び散る氷の礫。
唯一、砕ききれなかった氷柱の土台にくっついたフードつきのローブを残して。
そして、砕け散った透明な氷の破片は徐々に変化を始める。
そう、たったので魔術を起動させたのだ。
現代に生き、百年も満たない、たった一代限りの新興の魔術師がだ。
氷の礫はやがて溶け、水へと形状を『変化』させる。
水は集まり、やがて人形を形成する。
鼻や目、頭髪に至るまで精巧に人間と変わらないかに復元する。
残る古びたローブを被れば、以前と変わりないヨーゼフの姿があった。
基本的な、簡単な魔術ならば兎も角、自身の肉体を損傷なく元通りにするというまさに奇跡と呼べる業をやり遂げたにしてはほんのごくわずかな魔力で、且つ一工程(シングルアクション)だ。
キャスターはその姿を見て、怒り、そして哀れむ。
お前は、そうまでして死にたくなかったのかと、そのようなものになってまで、生きたかったのかと。
ヨーゼフ・ウッド・アルビオンの魔術師としての属性は見ての通り水。
『ノーブル』と呼ばれる希少な風程ではないが、珍しい属性である。
そして、彼が持つ唯一の特性は『変化』、余り珍しい特性ではなく、此方はまた普遍的なものである。
属性と特性を見てもオンリーワンと呼べるほどでもない彼がどうしてこの様な人間離れした肉体へと成ったのか、それは彼の起源に直結する。
そもそも、起源とは魔術師に限らず、あらゆる存在がもつ物事に対する方向性、あらかじめ定められた物事の本質である。
そういった起源を持つ、あるいは起源を自覚したものを起源覚醒者と呼び、ヨーゼフ・ウッド・アルビオンもまた魔術師以前にその範疇に入る。
水の属性、特性は『変化』ただひとつの凡庸な魔術師である彼のそんな起源、それは単純にして明快であり、それ故、何よりも強いものである。
―――『生きる』こと、彼の起源はそれだった。
彼は怖れる、死を。
彼は望む、生きることを。
生きるためにはどうするか、簡単だ、不死身になればいい。
そのために彼は肉体を棄てた、人という器を棄てた。
そして同時平行で考えたのだろう、この世界で無くならずに循環し続けるものはなにかを。
そんな無茶苦茶な『変化』を可能にする程の土台があったが故に、彼は辿り着いてしまったのだ。
持ちうる肉体は水、魂を弄るほどの能力を持たないが故に、ただ肉体のみを研鑽し続けた結果、水の持つ形状変化に循環という特性と自身の持つ『変化』の魔術を併せた不老不死。
老いも怪我も病気からも解放された肉体を新たな器へと昇華させた彼の最大の研究成果である。
「・・・・・・アンタは」
ヨーゼフ・ウッド・アルビオンは生き続ける。
まさしく、世界が滅ぶその時まで彼はただ生存し続けるだろう。
「アンタはそれで良いのかい。世界が滅びる、それを一時的にでも容認するということは。アンタ自身の身を追い詰めるということに」
「・・・・・・キャスター、何が言いたい」
「反しているんじゃないんかい、アンタの身体は水っていう世界を構成する世界の一部だ。世界が滅ぶなら、当然アンタの身だって無事じゃ済まないだろうさ」
魔術によって、不老不死を成し遂げたヨーゼフといえど、肉体をガイアに近い存在に変革した程度。
すなわち、水という肉体は必要以上にガイアに依存している。
世界の滅びと同時にガイアから水が枯渇したとしよう、いや、枯渇ならともかく、完全に消滅したとしたら、それはすなわち、ヨーゼフ・ウッド・アルビオンという存在の消滅に繋がることだ。
だが、そんな危惧をヨーゼフは一笑に付す。
「何かと思えばくだらない。キャスター、そんなものはね、聖杯さえ手に入ればどうとでもなる―――」
「・・・・・・根源の渦って奴かい」
「それもある。確かに、この肉体はガイアの状況に依存していることは俺様も承知のことだ。伯爵や閣下のようにうまくいかない不完全な不老不死である。己の非才さが憎い位だ。だが、聖杯を手に入れればそのような心配には事欠かん。水という物質をガイアから切り離し、俺様を構成する独自物質にすることも可能であろう。そうすれば、世界の終焉とともに俺様も散るということはあるまい」
幸いにして閣下の許可は取ってある、聖杯を勝ち取った暁には自由にしてもよいと。
「閣下が望むのはこの聖杯戦争の試験的な実施であり、ここの聖杯もまた偽物の贋作。まぁそれでも、貴様はその器だけは欲するようだがな。キャスター」
「当たり前だよ、それがあたしの願いなんだ」
「なら、何も問題あるまい。俺様は聖杯の中身を欲し、キャスターは聖杯の器を欲する。実に利害が一致している」
キャスターの願い、それは聖杯の器の回収である。
かつて所持していたそれを己が手に取り戻すこと、それが彼女が聖杯戦争に参加してまで願うことであった。
キャスターのかつての領地は豊かであり、彼女と彼女の娘達が穏やかに暮らしていたあの暖かな日々を取り戻したい。
故に奪われた魔法の釜を、聖杯を欲するのだ、とある盗人に奪われ、その最中破壊されてしまったソレを。
「ならば、話はもう良いだろう。客人を待たせている、そろそろ出迎えねばなるまい。何せ、俺様の時間は待ってはくれない」
ヨーゼフ・ウッド・アルビオンが振り向くことはもうない、立ち止まることもない。
彼はただ、目標に向かってただ邁進するのみ、それ故に、どのような言葉も彼には届かないだろう。
「アンタが―――」
それでも、言わずには言えなかった、一度決められた方向性からは逃れることはできない、ヨーゼフはそこからは抜け出せない。
足元に転がる、大小さまざまな歯車や人形のパーツ。
その中でも、キャスターは顔と思われる部分を拾い上げる。
それは男性の顔だった、ヨーゼフ・ウッド・アルビオンの作品は他人への贈呈品を除いて、全て男性の人形で、機能は多々あれど、外見は全く同じであった。
「―――アンタが人形を作るのは、あんたの失った人間の部分を求めているからじゃないんかい・・・・・・」
名残と人は言うのであろう、ヨーゼフが人であるのか、そうではないのか、キャスターは彼を『化け物』と罵った、アサシンは彼を『人間』と呼んだ。
相手を侮蔑するのは簡単だ、だが、そうするにはキャスターはあまりにもヨーゼフに接しすぎた。
哀れむのも簡単だ、だがそれは思考停止他ならない。
そして、彼を救おうにも彼はあまりにも罪を犯しすぎた。
「せめてもの慈悲だ・・・・・・」
彼の願いは許容できない。
なぜ、彼が自分なんぞを召喚したのかは謎だが、彼女ができることはこれしかないのだから。
「アンタを止めてやる。アンタが私を道具程度にしか思ってなくてもね、アンタはもうあたしの身内だよ」
生きているなら、せめて生きているうちに殺してやる。
彼女なりの優しさだった。
そんな彼女の独白は誰に聞こえるわけでもなく、虚空へと消えていった。
ヨーゼフ「死にたくないお、生きたいんだお(´;ω;`)」
ヨーゼフ「でも生きるためにはどうすればいいんだお?(´・ω・`)」
ヨーゼフ「そうだ! 不老不死になればいいんだお!(`・ω・´)」
ヨーゼフ「人間の体だとすぐ死ぬから要らないお(´/ω・`)/ポーイ」
ヨーゼフ「地球環境上で決してなくならないのは水だから肉体は水にするお!(`・ω・´)アイショウモイイシネ」
ヨーゼフ「地球がヤバいお・・・・・・、このままじゃ滅んでしまうお・・・・・・(´・ω・`)」
ヨーゼフ「この肉体は地球環境依存だから、地球が滅んだら死んでしまうかもしれないお・・・・・・(´;ω;`)」
ヨーゼフ「世界を救うために、新しく世界を新生させるお! ついでに聖杯の力で世界から独立するお!(`・ω・´)」
ヨーゼフ「これで世界が滅んで死んでしまったとしても、大丈夫だお!(`・ω・´)カンペキ」
キャスター「うわぁ・・・・・・」