これでやっとルビが振れる・・・・・・!
柊市の中でも有数の観光名所が並ぶ四谷地区の中でも辺鄙に陣地を構えるランサー陣営であったが、この日ばかりは朝から慌ただしい外出の準備に追われていた。
「随分と今日は早いね。何かあるのかい?」
「・・・・・・
珍しく霊体化を解いた状態でランサーは壁を背にもたれ掛かりつつ結香と会話を興じる。
そんなランサーに対し、懐にいくつかの礼装を準備しつつ、結香は応えた。
「師匠? 敵って事はないのかな」
「それはないと。たぶん・・・・・・」
「たぶん、か・・・・・・」
結香の口ぶりからおそらく魔術に関係した師であろうと算段をつけるランサー。
生前に師は持たなかったランサーであったが、呼ばれれば応えるほどに愛着を持っているのだろう。
そんな師弟関係を想像して、ランサーは少しだけ結香を羨むがそれとこれとは話が別。
現在、ランサーの最重要項目は結香を守ること。
たぶんということから、罠の可能性を考えつつ、警戒を怠らないように気を引き締める。
しかしこのマスターのことだ、案外杞憂かも知れない、元々口数の少ないマスターだ、関わってすでに数日が経つが意識の齟齬というのが多々ある。
現世風に言うとうっかりとか天然というのだろうかとランサーはぼんやりと思う。
だが、それでも自身のマスター。
多少意見が合わないといっても騎士として婦女子を守ることは当然のこと。
マスターがどうか分からないが、極力主とは良好な関係を築きたい。
そう思うのは当然のことだった。
洋館から出で、町の中枢へ向かうと人の波は徐々に増えていく。
通勤時刻から少しずれた時間帯であっても流石は市の観光名所の言ったところか。
結香は国道を沿って、駅近くにあるとある喫茶店に入る。
店名は『アーネンエルベ』駅前の喫茶の中でも口コミによって徐々に人気を増してきている新人店だが、生憎、結香はそういったことの興味は薄かった。
今日この店に来たのはとある人物からの誘いがあったから他ならない。
店員の呼びかけを無視し、店内を見渡すと目当ての人物はすぐに見つかった。
「お久しぶりです、師匠」
「おぉ、久しぶりよのぉ。結香・・・・・・」
傍らにコーヒーをすすりながら、師匠と呼ばれた老人は応えた。
背はそれほど高くない、顎には伸びた白い髭を蓄え、顔中には皺がより、年季を通わせる出で立ちであった。
「好きなものを頼みなさい。代金に関しては心配しなくていい」
「はい」
傍から見れば、祖父とその孫娘のような団欒であるが、分かる者は分かってしまう。
ランサーもその一人であった。
(結香、この御仁が)
(私の師匠)
(・・・・・・そうか)
ランサーは驚く、それもそのはずだ。
ランサーは最初、この老人を見た時、武人と思った。
隙のない立ち回りに、老練さを兼ね備えた瞳、細身ながら老いてもなお鍛え上げた肉体。
そして思う、この御仁は恐らく自分と張り合えると。
故にランサーは驚く、この翁が魔術師だということに。
結香の実力は決して劣っているわけではない、むしろ今次聖杯戦争の中でも随一の魔術師である。
ランサーでありながらセイバーと張り合えるほどのステータスの高さがその証明だろう。
ちらりと翁の瞳がランサーを射抜く。
気づいている。
武人として一級線の腕前に加え、魔術師としての技量を兼ね備えた翁の瞳に打ち抜かれるランサーであるが、負けじと翁を見つめ返す。
「結香、召喚したサーヴァントは」
「ランサーです。真名は・・・・・・」
「―――そこまで言わずとも良かろう。良い強者を引いた。霊体化したままで構わんよ」
翁はそういって拝礼に加え頭を下げる。
「・・・・・・そういえば、わしの名を言ってなかったな。廖と呼んでくれ」
そういって翁―――もとい、廖は非礼を詫びる。
「結香、ドリンクバーを使うと良い、わしはランサーと話がしたい」
「・・・・・・」
結香は首をかしげる。
この子は根が純粋で素直だが、どうも人の機微には疎い。
まぁ、そうそむけたのはほかならぬ彼女の父である男なのだが。
「・・・・・・そうよの。結香、わしのコーヘーが切れた。悪いがもってきてくれんかの」
「・・・・・・分かりました」
結香は廖からカップを受け取ると、ドリンクバーに向かう。
結香が席を立つとゆっくりと廖は話し始める。
「・・・・・・突然のことですまないのぅ、わしはこの戦いに口を出すことは出来るが、手を出すことは出来ん。もともとそういう約束であるからのぅ。だから、出来るだけ最上の触媒を選んだつもりじゃ。ランサーで召喚されたのなら、その心配もなかったということかのぅ」
廖は口をもぞもぞと動かし、ランサーに語りかける。
そこには弟子に対する深い愛が籠もっていた。
「君に頼みがある。お願いだ。結香を最後まで守ってはくれないだろうか」
(・・・・・・)
「言葉は結構だ、所詮はわしの勝手な押し売り。年寄りの妄言と受け取っても構わん。だが、この子はまだ幼く、世界を知らない」
ぽつりぽつりと語りだす廖。
今の彼には若いときの快活さはない。
あるのは誰よりも長く生き、多くの時代を見てきたという自負だけだ。
「わしでは無理だ。わしではあの子は助けられん。いや、本心では助けたい。しかしな、上はそれを承認してはくれん。大儀がないのだ。ただ助けたい。それだけじゃ不十分とのことよ」
ランサーは廖を計る。
嘘はない、武人の勘として、ランサーはそう思う。
ろくな人生を歩むことはなかったが、こと第六感、嗅覚だけはランサーは飛び抜けている。
「・・・・・・くだらん感傷かのぅ。どうも、わしは永く生き過ぎたようじゃ」
廖は口を慎む。
もはや言葉は不要ということであろうか。
言葉なくとも感じられるのは哀愁。
寂しげな背中であった。
「師匠、お持ちしました」
そんな中、結香は戻ってくる。
「あぁ、ありがとう。うん、安い店といっても中々馬鹿に出来ない。そうは思わないかね」
「はぁ・・・・・・」
「・・・・・・ふふふ、結香にはまだ少し難しすぎたかのぉ」
そして、ランサーはふと気づく。
結香の見目はおおよそ十代後半、対して廖の結香に対する態度はまるで幼子をあやすかのようである。
(・・・・・・)
魔力量も高く、悪人ではない己のマスター。
彼にとってこれ以上ない相棒である自分のマスターが何か得体の知れないものに一瞬見えてしまう。
何か秘密がある。
しかし、それ以外に特にこれといった兆候はない。
かすかな不安を残し、時は過ぎていった。
日は傾き夕暮れ時。
ランサーと別れた廖は悠々と柊の町並みを進む。
立ち止まったのはとある寺社の一角、境内の砂利の上で一人佇む。
「・・・・・・わしになにか用かのぉ」
廖は鳥居に向かって訊ねる。
数秒の沈黙の後、鳥居の死角からその男は姿を現す。
「・・・・・・いや、こんなところで老人が一人きりとはね。大丈夫かなおじいちゃん? ぼけちゃったのかい」
白衣を身に纏ったその男、アサシンは取り繕うように廖に近寄る。
背中に刃を隠し、いつでも抜けるようにしつつ、どうやって口を封じようかとアサシンは愚考する。
「やめておけ。お主の考えなど手に取るようにわかるわい。・・・・・・それとも、なんじゃ。わしの力量すらわからんとは耄碌したのはそちらか?」
「・・・・・・」
アサシンは廖を観察する。
これでも武道に関してはそれなりにかじっている、いや、それだけではない。
医術:B
現代医学に基づいた治療法。
解剖学に基づき人体の構造を熟知しており、瀕死の重傷であろうと生還させることが可能。
薬学にも精通、催眠療法も得意とし、封じられた記憶を取り戻すことも可能。
また、本職は精神科医であり、メンタルケアや思考の誘導などその能力は多岐にわたる。
こう見えて、アサシンの本職は医者である。
背中は冷や汗によって鳥肌が立つ。
廖の肉体は完成させられていた。
何年もの歳月をかけた鍛錬によって無駄を省き、こと戦闘に適した肉体である。
自身の持つ経験を持ってしても、このような人間にはあったことはない。
いたとしても、そのものはまさしく達人、または英雄と呼ばれるもののはずだ。
「降参だ、降参。やれやれ、反則じゃないか」
「話が分かるようで嬉しく思うよ。それで、わしに何の用かのぉ」
「・・・・・・とぼけるのはどうかと思うがね、なぁ・・・・・・そうだろう。化け物」
「―――」
化け物とアサシンはそう告げる。
キャスターすら化け物と言い放ったヨーゼフ・ウッド・アルビオンを人間と称した彼がなぜそのような言葉を扱ったのか。
「・・・・・・心外じゃな。わしのどこを見てそう思ったのかのぉ。よければ後学のために教えてはくれんかのぉ」
「―――分からないとでも思ったのか。お前はもう死んでいる」
アサシンの言葉に廖は言葉を継ぐことが出来なかった。
沈黙は肯定、アサシンは自身の見解を堂々と述べる。
「目だよ、目を見れば分かる。まず瞳孔散大の気がある。いや、日中にしては開きすぎだ。本職としては基本中の基本だ。大まかなのはそこだが、あと二、三教授しようか? リビングデッド君」
「結構。・・・・・・で? それがどうしたというのかのぉ。わしを打ち倒すか・・・・・・」
肉体の保存方法やなぜ動いているかはさておき、死体が生きているというというのはさすがに人間とはいえないということだろうか。
廖はアサシンの鋭さに感心しつつも警戒は解かない。
いくら痛みを感じない肉体といえど、損傷のしすぎは厳禁だからだ。
「さすがに私でも死人を殺すことなど出来んよ。それに理由もない」
「おや、理由有る無しで人を殺す御仁かのぉ。貴方は」
「失敬な。私にも美学はあるさ」
無論、話すつもりはないだろうが。
趣味、嗜好も真名に繋がるヒントになりうる戦場、この老人が全くの無関係ということもない故の判断である。
「だが今はそんなことはどうでも良い、重要なことじゃない」
いいたいことは山ほどあるが、最重要事項はそれではない。
「お前は何者だ。この聖杯戦争の何を知っている・・・・・・!」
アサシンは知っている。
現在召喚されたサーヴァントは七体、セイバーを除いてもおおよその確認は済んでいる。
廖は今現在サーヴァントはいない、ランサーのマスターと親しかったことより同盟関係かと思われたが、どうもそういうわけでもない。
加え、ランサーのマスターの情報など全くの不所持であること。
推察するに、彼は聖杯戦争に関わりがあるだけでなく、おそらくは仕掛け人に近い立場であろう。
「・・・・・・ひとつ、これは独り言でのぉ、わしはお主に気がつかなかった。仕方ないのぉ。だってアサシンじゃ、気づかなくても仕方がない」
勝手な自己解釈で廖は言葉を紡ぐ。
もったいぶった言い方からおそらくは何かしらの組織に属しているであろう事をアサシンは感じた。
それほどの権力も持ち合わせてはいないのだろう、何かしら行動を縛られている、そう推察するのが妥当だろう。
「・・・・・・」
「始まりは遠い昔、わしが生まれる前のこと。既に計画は始動していた」
廖は懐かしむかのように語り出す。
古くからより告げられていた真実、とある男はそれをどうにかしようとしたかった。
始まりはまさしくソレだ。
「わしらはある目標に向かい、それに邁進してきた。この聖杯戦争はまさしくその一環よ」
「・・・・・・それは、この聖杯戦争自体がとある目標の踏み台であると」
アサシンの問いに返答は無い。
あくまでも独り言だと、廖は態度で示す。
しかし魔術師の悲願、根源の到達をその程度と断じる廖、魔術師が聞いたら卒倒しそうなものである。
「―――だが、それとこれとは話は別じゃ。この聖杯戦争はあくまでも一環。実地演習の様なもの、わしらの悲願には直接は関係ない。もとい、こうして聖杯戦争が進行されていることから実験の大部分は成功といえるだろうのぉ・・・・・・」
(既に組織としてはこの聖杯戦争はあまり意味の無いものと化している。ということか・・・・・・)
与えられた情報を読み取り頭を回転させるアサシン。
(・・・・・・あの男、ヨーゼフ・ウッド・アルビオンはこの聖杯戦争の主宰。十中八九、こいつらとは繋がりがある。あの男に対する飴か尻尾切りかどうかは兎も角、奴にとってこの聖杯戦争に関与する理由は何だ・・・・・・)
廖にとって、既にこの聖杯は価値の無いもの。
それならば関与する理由はない、むしろ知らぬ存ぜぬを決めた方が余程利口だ。
「しかし、聖杯・・・・・・いや、その器といってもよかろう。
―――あれは非常に危険な産物じゃ」
途端、廖は苦虫を噛んだかのように顔をしかめる。
まるで科学者が予想だにしなかった兵器を開発してしまったかのような、そんな自責の念を抱えている姿であった。
廖はしばらく口を閉じ、目を閉じ、覚悟したかのように、はっきりとアサシンに告げる。
「聖杯、それは―――」
アサシンはそれを耳にした。
聖杯戦争の裏側、聖杯の正体、そしておおよそ与えられる被害。
それはまさしく聖杯戦争に関するブラックボックスであり、同時にとてつもない危険性を秘めているものであった。
アサシンさんの活躍
・令呪一画を犠牲にライダーを倒す。
・キャスターとの顔の繋ぎ。
・パソコンを使って全陣営を把握。
・晴彦に手傷を負わせる(本来なら治らないはず)
・聖杯戦争の裏側を知る(NEW)
なんかバーサーカーいじめしている主人公より主人公してるなこいつ(一部から目を逸らしつつ)