ただ違うこと、ヨーゼフさんはちょっとやそっとじゃ死なないことだ。
鴉の啼く逢魔時。
四谷市内をいまだに探索する少女、結香がいた。
わざとらしく人通りの少ない区面を歩きつつ、敵サーヴァントの探索にあたるが、様として当たりはない。
不気味なくらい、静か過ぎるのだ。
「・・・・・・いない」
ポツリと呟く結香、そんな結香の様子を見ていたランサーはひとつ提案する。
(気を取り直そう。とりあえず、このままじゃいろいろとジリ貧だ)
「・・・・・・」
結香は黙して語らない。
ただ、耳だけをこちらに傾けている状態だ。
そんな結香の状態は兎も角、ランサーは持論を展開する。
(現状、このまま周囲を徘徊する旨味はない。別の地区に場所を移すか、いっそ襲撃をかけるかだ)
「・・・・・・どこに」
(この地区を拠点としているのはセカンドオーナーだと聞いてるけど)
「そう・・・・・・」
無感動に、どうでも良いかのように結香は応える。
「じゃあそうしましょう」
そういって結香は早瀬邸に進路を向ける。
感情は読めなく、ひどく受動的なその態度。
まるで人形のようだとランサーは一人思うのだった。
「・・・・・・」
同じ頃、七海は悩みの中にいた。
理由は一通の手紙、差出人はヨーゼフ・ウッド・アルビオン。
曰く、戦いの準備が出来たのでぜひお越しくださいとのことだ。
ご丁寧に拠点の位置も丁寧に書かれている。
「・・・・・・なァ、早く行こうぜ」
「待ちなさいセイバー、どう見ても罠よ」
こうして招いているのだ、自信満々でもなければこういうことはしない。
「聖杯の顕現までの期間はおおよそ二週間程度。ここまで穴熊を決め込んだこと、陣地に突っ込むことから恐らくサーヴァントはキャスターね」
「なんだ最弱か・・・・・・」
セイバーはそんな単純なことを言うが、仮にもサーヴァント、敵もそんな単純なものではない。
むしろ一番時間を与えてはいけない相手である。
すでに一戦事構えていることから全く情報が伝わっていないなどということも無いだろう。
こちらのサーヴァントがセイバーということを承知してのことだ。
「いずれにしても、このままという訳にはいかないわね」
同盟を視野にいれるかと思いつつもすぐに棄却する。
セイバーの意志を尊重するならそのような仲良し小好しはもっての他だ。
「虎穴に入らずんば虎児を得ずって言うじゃねェか。いっそさっさと突撃するのも良いんじゃねェか?」
「黙りなさい単細胞」
無策で攻略できるほどキャスターは甘くはない。
敗北はないとしても手痛いダメージを与えられることぐらいは想像に難くない。
だが、セイバーの言うことにも一理ある、上策か下策かといえば下策ではあるが。
「マスター」
「・・・・・・そうね、後のことは後に考えましょう」
なんだかんだ考えている間に結界にかかった敵、いや、結界を解いたといったところか。
敵の魔術師は中々に優秀そうである。
「行きなさいセイバー、セカンドオーナーを甘く見たことを後悔させてあげるわ」
「おうッ! ナルト最強の意地、見せてやるよ・・・・・・!」
自信満々、不敵な面構えで敵の方向を見定めるセイバー。
騒がしい夜になりそうだと、七海は独りごちるのであった。
「晴彦、魔力の衝突が確認された」
「は?」
病床で晴彦はそんな突然の報告に目を見開いた。
「・・・・・・ってことは、近くで戦いが」
「あぁ、間違いないだろうね。僕はこのまま偵察に向かうが、晴彦はどうする?」
アーチャーは問いを晴彦に投げかける。
少しだけ晴彦は顔を強張らさせ、視線を反らす。
怯えている。
最初にアーチャーと会ったとき、アーチャーがいたから大丈夫だった。
そういったアーチャーという圧倒的かつ信頼のおける盾があったから危険を犯せたのだ。
しかし、今やそんな安全神話は崩されてしまった。
アーチャーの側にいれば安全だということはない、寧ろ足を引っ張っているぐらいだ。
「―――なぁ、アーチャー。正直に答えてくれ、俺はお前の足手まといか・・・・・・」
「・・・・・・晴彦」
晴彦は今、精神的に大分参っている。
そりゃそうだ、つい最近まで戦いとは縁の無かった人生を歩んできたのだ、そうなってしまうのも仕方の無いことかもしれない。
「なぁ、晴彦。僕はね、感謝してるんだ」
「・・・・・・」
晴彦は頭を上げる。
窓枠に佇むアーチャーが月の光に照らされ、その表情を伺うことはできない。
「君がいなければ、僕は聖杯戦争すら参戦することはなかった。そして、あのときの言葉から君は真摯に向き合ったじゃないか」
「・・・・・・口だけとは思わないのか」
「君の腕の傷が、その証明だ。なんにせよ、君は生きることを放棄しなかった。戦い続けることを決めたじゃないか。どうしても逃げたかったら、君は令呪を使って僕を自害させているはずだろう」
ちらりと右手の令呪を見る。
そこには欠けのない令呪が三画刻まれていた。
「晴彦、臆病なことは罪じゃない。道に悩むのは罪じゃない。間違えることが罪なんかじゃない。人は、そうやって成長していくんだ。だから晴彦―――」
生まれながら完璧な人間などいない。
アーチャーですら全てが全て出来た訳じゃない。
失敗が無かった訳じゃない。
人は神様じゃない。
失敗も、苦難も、迷いも、全部ひっくるめて人生だ。
「―――君は、僕の・・・・・・最高のマスターだ。僕は、そう信じている」
その言葉に嘘はないのだから。
晴彦は再度、窓を見る。
すでにアーチャーの姿は無く、開かれた窓からは夜風が通り過ぎるだけだった。
乾いた風は頬を打ち、シーツには真新しい水滴の跡がひとつ、またひとつとシミを広げる。
(―――俺は、)
心に募るのはどうしようもない葛藤、傍観者と断じた後悔。
思い出したくない過去、忘れ去ろうとして、風化してしまえば良いと願った過去。
人として生きている以上、『自己』を確立しないことは死を意味するのではないか。
だから、人はいつだって特別を求める。
(そんな高尚な人間じゃないよ。アーチャー)
他人から見たら小さな問題かも知れない。
自分が世界で一番不幸だとか、そんな能書きを垂れる筋合いなんてない。
前に進まなきゃいけない事だって理解はしている。
ただ、行動に移せないだけの臆病者、それだけのことであるのに。
それだけのことなのに、その一歩が何よりも遠い。
葛西晴彦は英雄も無ければ精神的超人ではない、どこまで行っても彼は巻き込まれただけの一般人である。
本来ならばモブキャラも当然の人間であると、彼は熟知している。
諦めている、良い言い方をすれば、身の程をわきまえているといったところであろう。
目を瞑れば、思い出すのは過去の情景。
赤い部屋、べったりと濡れた部屋にこと切れた二つの人形。
中央には良く分からない魔法陣。
ギラギラと目を輝かし、こちらを見つめる二つの瞳。
あぁ、だめだ。
これ以上思い出してはいけない。
脳が拒否反応を起こし、動悸が激しくなり心の臓が鼓動を打つ。
息も絶え絶え、過剰なほどに晴彦は息を吸い込む。
朦朧とする意識の中、頭上のナースコールに手を伸ばす。
視界は暗く沈んでいく。
猛々しく、坂から転がり落ちる物音を聴きながら、晴彦の意識は遠のいていった。
「・・・・・・どうした? 姿を現さないか、猟犬」
神社の境内で、アサシンは呟く。
その言葉に観念したのか、境内の鬱そうとした林から一匹の犬が姿を現す。
紛れも無く、その姿はレイヴが晴彦を中心として市内に放っていた『ラエラプス』である。
「ふふふ、やっぱり君か・・・・・・いやはや予想以上に早い再会じゃあないか、レイヴ・ロザン君?」
『・・・・・・』
猟犬、もといレイヴは黙して語らず。
ただ、燃える様な憎しみの視線をアサシンに投げかけるだけだ。
「ククク、クハハハハ、ハッハッハッハッハ!」
『何が可笑しい・・・・・・!』
「いやおかしいでしょ。なにこれ、キチガイの所業じゃん」
悪役らしい三段笑いをしたかと思えば、途端に素に戻るアサシン。
脱力し切った表情にはわずかに諦めの表情が伺える。
「何これ、なんなのこれ? 明らかに胃痛ポジと化してきてるよ・・・・・・。あー、レイヴ・ロザン。なんというか正直私やってらられないわ・・・・・・」
マジありえんてぃ~、チョベリバ・・・・・・、などとわけの分からないことを呟きながらアサシンはぶつぶつと闇堕ちしていくが、こちらはただの猟犬、油断しているとしてもアサシンを殺しきることなど出来ない。
レイヴは苦虫を噛む思いだが、令呪の使用を検討するときのこと、別の使い魔から同地区での魔力衝突を確認する。
「ほんと、やってられないよ。巻き込まれたか、突っ込んだか・・・・・・。まったく困ったお姫様とは思わないか」
『彼女の位置を把握していたか。それで、どうするというのだ』
「さて、どうするかね。正直考えあぐねているよ」
神社の石段に腰掛けながら、手慰みに愛用のナイフを弄繰り回す。
「正直、こうして召喚され、受肉化が叶った手前私の願いはほぼ完遂したといっても良い。後は好きなだけ殺して、好きなように生きていればそれで良い。最悪、聖杯が消滅してしまったとしても魂食いをすれば生きるのに事足りない。定期的にという問題はあるがね」
アサシンという存在は根っからの破綻者だ。
どうしてそうなったかは問うまい、先天的にせよ後天的にせよ、日々細々と暮らしている人間からしたらどちらも同じような災害だからだ。
レイヴはつくづく柊の市民に同情する。
「どうするかね、私としてはあれは好まない」
『ほぅ・・・・・・、人の死肉をいたぶる殺人鬼がいまさら偽善ぶるのかね』
「心外だ、美学だよびーがーく! 私は殺人は好きだが、虐殺は好まない。こういうのはいつだってスリルの有る方が最高だからね。Okey-dokey?」
『どちらにせよ、胸糞悪いのには変わりあるまい』
すっかり気分を害したかのように冷淡に対応するレイヴに対し、そう、これがもともとの自分のキャラなんだとテンションを上げるアサシン。
今まですっかりシリアスが板についてきてしまったのとは逆に心の中で電波受信を強化する。
「まぁ、なるようになれだ。私は殺したい相手がいる以上おめおめ逃げるつもりはないよ。私は行くが、君もそろそろ行動すべきだろう、冬眠しているわけじゃないんだから」
いつだって、ディスりと煽りを忘れない、それがアサシンだった。
「今夜は
少なくとも、レイヴも同意見であった。
鍵を握るのは彼女以外にいないと、彼女の立ち位置で聖杯戦争の戦況は劇的に変化するであろうと。
アサシンは戦況に関与しない。
しかし、唯一分かることは彼にとって有利不利関係なく、一瞬の刹那の快楽を求めて戦況を引っ掻き回すことであろうということだけだ。
『解せんよ、尽く貴様は解せん』
基本的にアサシンは嘘をつく事はしない。
レイヴが分からないだけかもしれないが、おどけたり、本心を隠したりはするが、そう言ったものをすることは無かったと記憶する。
レイヴはこの男を嫌っているが、嫌っているからこそ、アサシンという人物を誰よりもよく知っている。
『路地での青年行方不明事件の犯人は貴様だろう。教会に目をつけられてはいないが、かといって犯行を辞めるわけではない。そんな貴様が世界のために働く? ははははは・・・・・・、片腹痛いわ・・・・・・!!』
レイヴはアサシンを挑発する。
思い浮かべればこの男の行動は余りに支離滅裂だ。
人を殺すのが好きであるのに、大勢を殺すつもりはない。
罪悪感などない。そんなものがあったらそもそもの話、英雄にすらならなかっただろう。
『あぁ、理解できん。まったくもって理解できんよ。そもそも貴様は何処の英雄だ。生憎見当もつかないよ』
アサシンは歩みを止める。
図星だったのか、さぞや歪んだ表情をしていると思ったレイヴだが、その願いは容易く裏切られる。
振り返ったアサシンはとても穏やかな表情をしていた。
「・・・・・・そうだな、自分でも英雄だといわれて首を傾げる程度には思うさ」
アサシンはナイフを折り畳み、手を無造作に白衣のポケットに突っ込む。
「レイヴ・ロザン。貴様は実に素晴らしい。愛した女(ひと)が手にかかれても、その闘争の意思は変わらない、むしろたぎるほどの炎となって己もろとも包み込む・・・・・・! 素晴らしい。私はその熱意に経緯を表そう!」
アサシンは勢いよくポケットから手を出し、白衣を靡かせる。
するとアサシンはその状況から深く、仰々しく礼をする。
その作法はまるで騎士や貴族のように実に自然なものであった。
「改めて、名を申し上げます。サーヴァントアサシン。主人格たる私の名前はハンニバル・レクター。
―――所詮、名も無きただの殺人鬼であります」
『まさか・・・・・・』
現実にあり得ない訳ではない。
しかし、英霊としては極めて希なタイプの存在である。
その英霊は触媒を持たず、狙って召喚するなど不可能とされる存在だ。
『―――概念英霊か・・・・・・!』
【CLASS】アサシン
【マスター】無し
【真名】概念:殺人鬼
【性別】男性
【身長・体重】174cm・58kg
【属性】混沌・悪
【ステータス】筋力D 耐久D 敏捷D 魔力E 幸運B 宝具??
【クラス別スキル】
気配遮断:A
サーヴァントとしての気配を断つ。隠密行動に適している。
完全に気配を絶てば探知能力に優れたサーヴァントでも発見することは非常に難しい。
ただし自らが攻撃態勢に移ると気配遮断のランクは大きく落ちる。
【固有スキル】
専科百般:A
多数の殺人鬼の集合体としての能力と、ハンニバルの持つ技能。
剣術、暗殺術、殺人術、変装、心理学、語学、話術、記憶術、料理、美術など
その他の専業スキルについて、Cクラス以上の習熟度を発揮できる。
分割思考:C
思考中枢を仮想的に5つに分け、同時に運営する。
精神汚染:A+
精神が錯乱している為、他の精神干渉系魔術を完全にシャットアウトする。
常人との会話は可能だが、他人には絶対に理解できないズレがある。
彼の場合、幼い頃のトラウマからこのスキルが発現した。
医術:B
現代医学に基づいた治療法。
解剖学に基づき人体の構造を熟知しており、瀕死の重傷であろうと生還させることが可能。
薬学にも精通、催眠療法も得意とし、封じられた記憶を取り戻すことも可能。
また、本職は精神科医であり、メンタルケアや思考の誘導などその能力は多岐にわたる。
【weapon】
『C08 - Harpy 』
アサシン愛用のナイフ。
【宝具】
―――現在詳細不明―――
フランちゃんやジキル博士など文学作品からのサーヴァントです。
しかし、ハンニバルは物語として神秘が低いこと、著作権が切れてないことにより、概念英霊としての皮として出てきてもらいました。