Fate/destruction   作:ニーガタの英霊

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宝具情報を一部改訂、付け足ししました。


第21話

「ふむ・・・・・・」

 

 足場の悪い森林の中を木々の上を跳び移りながら、駆けるアーチャー。

 攻撃の意思はない、一定の距離を保ちつつ、アーチャーは戦場を俯瞰する。

 

 吹きすさぶ風、木々を薙ぎ倒す偉丈夫と、最少の動きでそれを交わし続ける騎士。

 類まれなる武錬の極地と水準以上の能力を持ってるがゆえにできることであり、ランサーの技能の高さを思い知らされる。

 そもそもランサーの強みは戦闘技能に特化したスキル群に加え、敵と相対するときに発揮される野生のごとき感、そして幾多の戦場を駆け抜けた経験だ。

 白兵戦最強のサーヴァントの名は伊達ではない、このような手合い、アーチャーが知る戦士の中でもほんの一握りもいないであろうほどであった。

 

(ランサーは手合いとしては中々、だがその分決め手には欠けるか・・・・・・。けど相手に宝具を出す隙を与えないとすれば、戦略の幅は広がる。現にセイバーを技量で完全に圧倒している)

 

 だが、それだけではないのだろうとアーチャーは頭を巡らす。

 

(やはり、セイバーがああいった手合いに慣れていないというのもあるだろう。おそらく、技量は二の次で圧倒的な力で相手を叩き潰してきた。そんな風に感じるな)

 

 黙々と観察を続けるアーチャー、彼にしてみれば敵はバーサーカーだけではない。

 晴彦を利用するようで心苦しいが、彼の目的は聖杯ただ一つ。

 勿論、そのためだからと言って、無辜の民を危険に晒すわけには彼自身の方針としても合致している。

 

 あの病室でのやり取り、それはアーチャーにとって本心であることは変わりないのだから。

 

(それにしても、どうも不自然だ・・・・・・)

 

 不意にそんなことを感じるアーチャー。

 言葉にすると難しいが、彼ら、特にランサーからは戦場独特の肌を刺すような感覚を感じられない。

 かつてのあの自然公園での戦いと比べ、どうにも違和感がぬぐえない。

 

 そして、ちょうどそんな時であった。

 

 後方の森林にて、大きく爆ぜるような音が聞こえたのは。

 

 

 

 

 

 

 

「―――ッ!」

 

 巻き上がる土煙、燃え盛る森林の中、七海は、じわりと冷や汗を流していた。

 

 早瀬七海は未だ未熟とはいえ、その実力はすでに一流と呼べるほどの水準を誇っている。

 純粋な才能だけを見れば、七海はこの聖杯戦争でもトップクラスの実力の持ち主だ。

 

 しかし、それは真っ当な場合の話である。

 

 『(タオ)』、古代中国における古い思想であり、五行思想を基とした大陸の魔術体系である。

 これを扱う者は導師と呼ばれ、極めれば自然の理と合致し、やがては仙人と至ることもある。

 同時に屍人使いなど、外道の法も豊富であり、一概にそうとは言えないが。

 

「――相生、木生火」

 

 しかし、たった一工程(シングルアクション)の魔術でこれ程の威力を出せるものなのか。

 現代の魔術師としてはあまりに常識外れな桁違いな性能。

 伝説の導師か、はたまた神仙がごとき術の冴え。

 

 ―――格が違う。

 

「―――っ!」

 

 いつになく弱気な自分を奮い立たせる。

 覚悟してきたはずだ、場合によっては命すらないことも承知のこと。

 

「gnosis」

 

 痛みとともに、魔術回路を起動させる。

 震える体をねじ伏せ、一身に敵を目視する。

 

Καθαρίστε Harae, Βαρούνα μου(清め祓え、我が水天)

 

(考えろ、早瀬七海。お前は知っているはずだ、相手の魔術が何であるかを)

 

 心の内で自分を焚き付ける。

 

 五行思想とは火、土、金、水、木の五つの元素から成り立つ万物の自然思想を基とする。

 単純明快かつ強力な術であるが、理論を知っていればある程度の対処は可能だ。

 相手が火を使うなら、水を以て打ち消せばいい。

 しかし、ことはそう単純にはいかない。

 

「―――相侮、火侮水」

 

 瞬間、勢いを増す炎、赤い赫炎は煌めく白へ変わり、水は一気に蒸発する。

 

「―――嘘でしょ・・・・・・っ!?」

 

 結香がやったことは簡単だ。

 火に強い水の攻撃をさらに強い炎を以て打消し、粉砕した、ただそれだけ。

 いうのは簡単だが、そんな簡単なものではない、七海の実力は未熟な面があるといえど一流の魔術師といっても差支えない。

 ならば、その一流の魔術師を容易に踏破するこれは何だ。

 

 白炎は巻き上がり、森林一帯を業火を以て包み込む。

 

「―――令呪を以て・・・・・・」

 

「相侮、水虚火侮」

 

 早瀬七海の敗因は彼我の実力の差を見誤ったこと、ただそれに尽きる。

 白炎のみならず、周囲には莫大な熱量が巻き起こし、周囲一帯の水分すら乾いてゆく。

 多大な熱風は水を求めるがごとく周囲に拡散し、大きな爆発を巻き起こす。

 

 もはや彼女の力でどうにかなるものでない。

 例えセイバーを呼んだところで彼はどの程度状況を理解できるか。

 彼女の敏捷性ではこの状況を切り抜けられることすら不可、吸った空気は乾き切り、のどを焼き尽くすかのような錯覚に襲われ、炎は彼女を完全に包み込んだ―――

 

 

 ―――はずであった。

 

「―――っ!」

 

 側面からの攻撃、投擲によるナイフの一刀は寸分違わず、結香の首筋を狙う。

 

「相剋、火剋金」

 

 一瞬にして白炎はナイフを包み込み、瞬時に熔かしきる。

 ベトリと溶鉄は地面に垂れて、徐々に固まりを見せるが、結香の興味はすでに別のところにあった。

 

「―――まったく、とんでもないお嬢さんだ。そのナイフはお気に入りだったんだがね」

 

 焦げ付いた白衣を纏った暗殺者は不敵に口角を吊り上げ、セイバーのマスターである少女をその手に抱えていた。

 

「とりあえず、死んでくれないかな?」

 

「・・・・・・」

 

 そんな状況であるが故に、七海は茫然する他なかった。

 

「まさか、貴方は・・・・・・」

 

「静かにしたまえ、舌を噛むぞ」

 

 七海が困惑するのも束の間、アサシンと七海に対し、結香の連撃は止まらない。

 

「相乗、金虚火乗」

 

 襲い掛かる莫大な炎、しかし相手は最弱の一角であってもサーヴァント、アサシンは後ろに大きく跳躍し、林を駆け抜ける。

 

「ちょ、貴方サーヴァントでしょ、なんで逃げるのよ・・・・・・!」

 

「ははは。なに、私も両腕が塞がれた状態でアレと戦うのは流石に分が悪い。不満かもしれないが逃げさせてもらう」

 

 そういってアサシンは林間を七海を抱えた状態で駆け抜ける。

 特に七海が傷つかないようにお姫様抱っこの状態でだ。

 

「時に早瀬七海女史、セイバーの位置は把握してるかね」

 

「・・・・・・えぇ、パスを辿れば簡単なことよ。それより、私を攫ってどうするのかしら、アサシン」

 

 白衣を纏った受肉した英霊、先にレイヴ・ロザンからの情報から把握した通りの姿で現れた英霊。

 レイヴからは特に危険といわれ、激しくヘイトを買っている敵だ。

 そんな敵が私を助けてどうするというのか、助けるということから彼は七海自体に何かの価値を見出しているということしか彼女は今は把握出来なかった。

 

「なに、単純に君と協力したい。まぁ、理由は兎も角、今は私の行動でそれを信じてもらうほかないがな・・・・・・っと、もう来たのかおい。早すぎワロタ・・・・・・」

 

 アサシンの敏捷値はDランクであり、それこそ並みの人間では追いつくこともできない速度である。

 そんな英霊である彼に、近衛結香は堂々と追い縋る・・・・・・!

 

「・・・・・・現代の人間ってすごいなぁ。あ、いや。人間じゃなかったっけ?」

 

 軽口をたたきつつも、そんなマスターの少女から逃げ切るアサシン。

 そんな様子をアサシンは注視するが、突如、結香の姿が一瞬にしてぶれる。

 

「―――ッ!」

 

「―――噴ッ!」

 

 間一髪、アサシンは持ち前の機転を生かし、打ち出された掌波に対し足を使い、手首を蹴り上げることで防ぐ。

 

(―――震脚に発勁!? 太極拳か! なんてものを教えたんだあの爺!?)

 

 しかもただの拳法ではない、数ある中国武術の中でも極めて実践的であり、道術と相性がいいものをわざわざ選んでいる。

 いくら愛弟子だからと言ってガチすぎやしないかとアサシンは冷や汗を流す。

 

(―――しかも!)

 

 結香の様子を見ると、ただの拳術ではなく、肉体を強化させ、さらには火の術式を使ってさらにブーストを効かせている。

 魔力切れが怖くないのだろうか、いいや、もともとそういったものは弱点とは思っていないのだろう。

 圧倒的かつ莫大な魔力の保持、それが何よりもの彼女の武器だ。

 

(これが―――!)

 

 冷たいまなざし。

 その眼に見えるのはただ単純な使命、感情という余計なものを排し、目的達成のためにつくられた少女。

 

(今回の小聖杯というわけか―――!)

 

 それが今次小聖杯、近衛結香である。

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・」

 

「どうした、セイバー。まさか己のマスターが心配なのかい?」

 

 あの大きな爆発音から数分後のこと、セイバーとランサーの対峙は互いに剣を向けるまま、動くことはなかった。

 

「ケッ、下らねェ。俺のマスターがあの程度でどうにかなる訳ねェよ。心配ならテメェのマスターにでも言うんだな」

 

「そうか・・・・・・」

 

「それに、体も大分温まってきた、そろそろこんなつまんねェ戦いに終止符をつけようじゃねェか・・・・・・!」

 

 セイバーは大剣を正道に構えると、魔力を集束させる。

 

「抜け、お前の宝具を・・・・・・!」

 

「・・・・・・できることなら抜きたくはないが、そうも言ってられん。あぁ、そうだ。私は聖杯がほしい。セイバー、私にこの槍を抜かせる以上、必ず受け止めて見せろ―――」

 

 ランサーは双剣を鞘に収めると一本の槍を顕現させる。

 それは神々しく、それでありながらまがまがしい。

 

 ―――ロンギヌス。

 

 かの神の子、イエス・キリストの処刑の際に使われた神殺しの槍。

 数多く残る聖遺物の中でも聖槍というカテゴリの中では頂点に立つ宝具である。

 

 これぞ神話の再現。

 宝具と宝具による打ち合い合戦、周囲に魔震が轟き、重厚な魔力によって酔わんばかりの空間。

 

「―――ッツ!」

 

「―――!」

 

 ほぼ同時、セイバーは大剣を振り上げ、ランサーは持ち前の敏捷力から弾き出される瞬発力よりセイバーへ肉薄する。

 

「―――『荒れ狂う(サファ)

 

 セイバーは己が愛剣の真名を発す、彼こそが大英雄、叙事詩に語られた最強の英雄。

 その魔剣は黒海を赤く染め上げるほどの莫大な熱を持つ溶鉄の剣、防げる道理などありはしない―――!

 

 だが、そんなことはランサーは百も承知の上だ。

 まともにくらえば自身の消滅すら免れないであろう究極の暴力、故に忌々しくも聖槍を使わざるを得ない。

 

 距離は残り五メートルその勢いのまま、ランサーセイバーに聖槍を穿つ。

 並の人間ですら見ることもできない神速の一撃は見事にセイバーの腹部を狙う。

 

(セイバー、お前は確かに強い)

 

 今までの対峙でそれは十分に把握した。

 およそAランクの攻撃を無効化し、A+ランクの宝具を持ってしても、かすり傷程度。

 加え自己修復能力によってそれすら意にも返さない。

 

 

 

 

『鍛えられし無敵の神鋼(クルダレゴン)』

 ランク:A+ 種別:対人宝具 レンジ:― 最大捕捉:1人

 鍛冶神に鍛えられたセイバーの肉体。

 セイバーの肉体はそれ自体がA+ランク宝具として扱われ、その強靭さは神造の剣に匹敵する。

 あらゆる『武器』の因子を鍛冶神に込められた為、Aランク以下の『武器』による攻撃をキャンセルする。

 また、肉体を炎や風に変え、同属性に耐性を持ち、自己修復を可能とする。

 ―――以下、詳細不明―――

 

 

 

(だが、この槍の前ではそれは悪手だ—――!)

 

 その槍の刃は、セイバーの、固く閉ざされた、最強の鎧を、見事に刺し穿つ―――!

 

「『嘆きの聖槍(ロンギヌス)―――ッ!』」

 

 歯を食いしばり、ランサーは真名を告げる。

 苦々しく、奥歯の一部が欠けるほどに強く強く、力を込める。

 

 だが、セイバーは止まらない。

 腹部を穿たれたに関わらず、セイバーは大剣を叩き付けるかのように振り下ろす。

 

溶鉄の剣(アキナケス)―――!!』」

 

 宝具と宝具、莫大な魔力と魔力のぶつかり合いは輝かしい閃光と森林から発する強大な火柱を撃ちたて、数瞬の後、轟かんばかりの轟音を周囲に響かせた。

 




宝具紹介は次回に延期です。
というわけで、今次の小聖杯はランサーのマスターでした。今回で聖杯戦争も中盤へ差し掛かることとなります。
そしてアーチャーはこの爆心の中生き残ることが出来るのか。次回もお楽しみに
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