「ちょっと待ってアサシン!」
「どう・・・・・・っした!」
セイバーとの合流のために林間をかけるアサシンと七海。
結香による攻撃を躱し、いなしつつであるが、どうにか拮抗状態へと持っている。
そのような状況で七海は途端に声を荒げる。
「セイバーが宝具を使うわ・・・・・・! 気をつけなさい!」
セイバーの宝具『荒れ狂う溶鉄の剣』はA++の対城宝具。
その威力は言うに及ばず、山岳の噴火の如き一撃を以て敵を焼き尽くす、文字通りの必殺である。
七海が危険視するのも道理だ。
ただし、彼女の忠告は少し遅かったといえる。
距離にして数百メートル先の林にて全森林を包み込む閃光と直後に巻き起こる火柱を彼らは確認したからだ。
「あのバカ・・・・・・、まさか自分ごと焼いたんじゃ!」
「・・・・・・女史、見とれてる場合じゃないぞ!」
突然の威力に度肝を抜かれ半笑いとなったセイバーだが、彼らにとってはそれどころではない。
何せあのランサーのマスターが迫っている状況だ、隙を見せるわけにもいかなかった。
だがしかし、一向にランサーのマスターである結香が訪れる様子はない。
「どういうことだ? まさか退却したとでも言うのか・・・・・・?」
今までの状況とは様変わりし、森林は不思議な沈黙を保つ。
否、それは違った。
最初は違和感であった。
セカンドオーナーとしてはここは彼女の庭も同然であり、だからこそもっともはやく気づくことができた。
「・・・・・・どういうことなの」
「どうした女史」
マスターにとって基本的な術として使い魔との視覚の共有化がある。だからこそ、彼女はその異常性に気づくことができた。
「・・・・・・アサシン! すぐに脱出するわよ!」
「どういう・・・・・・」
「早く!」
アサシンは七海に言われるがままに森林からの脱出を試みる。
思えば、結香が真っ先に逃げたのはこの効果を知っていたからこそ他ならない。
それはとても強力かつ凶悪な切り札だ。
いや、切り札というには多少語弊がある。
なにせ、最悪、この市一帯に止まらず、最悪は関東圏一帯を包み込む悪意の塊だ。
認めよう、認めざるを得ない。
今次最強かつ最恐の主従、それはランサー陣営他ならなかったことを。
「―――大地が死んでいくわ。このままじゃ、並の人間はみんなすぐに死んでいくわよ!」
林の木々が枯れ逝く音を耳にして、七海は頭を抱える。
この厄災が広がれば、柊市の被害はたまったものじゃなくなる。
最悪、市民全員が荒れ果てた荒野の上で枯れ死ぬ、そんな最悪の想像が頭をよぎる。
「―――仕方ないわね、令呪を以て我が従僕に命ずる。『全力でランサーを仕留めなさい』!」
七海その手に宿る奇跡の一端を切る。
ランサーはここで仕留めざるを得ない、いかに聖杯戦争といえど、被害を抑えることは出来ない。
しかし、それをどうにかできるのにそれをしないのは貴人としての矜持に反することであった。
「頼むわよ、セイバー。私の英雄・・・・・・」
彼女にできることは祈ることしかできないのだから。
「―――ガッ、ハァ・・・・・・!」
爆発の瞬間、弾き飛ばせられるように数十メートルほど飛ばされたランサーはひしゃげた木々を背にもたれかかる。
「ハァ・・・・・・、ハァ・・・・・・はは、ふふ・・・・・・ははは」
半ば笑いながらランサーは自らの目を覆う。
その光景はランサーには目を覆いたくなる惨状であるからだ。
大地は固くひび割れ、木々は枯れ落ち荒野へと様変わりしている。
崩れ落ちて瓦礫となった城壁がないだけましだったが、その光景を再び見るのは彼には堪えた。
「・・・・・・だから、言ったじゃないか」
光を失った瞳はぼんやりと膝をつき、死に体の偉丈夫を見つめる。
「抜きたくはないって・・・・・・」
少なくないダメージを負ってしまった、今後の為にも治療に専念しなければならないがそれでも最優を落とせたことは大きな戦果だった。
ランサーは体を引きずるように立ち上がり、セイバーの近くの地面に突き刺さる大剣を手に取る。
かなり重い、彼でも両腕を使わなければ振るのもやっとの重量だ。
しかし、いい剣には変わりない、ランサーでも十分に扱える。
そうランサーが思うと、黒い刀身はさらにどす黒く染まっていく。
『
ランク:A++ 種別:対人宝具 レンジ:― 最大捕捉:1人
本来の担い手でないにも関わらず、選定の剣を引き抜き、我が物とした逸話の具現。
手にした武器に自らの宝具としての属性を与え、駆使する。
どんな武器・兵器であろうともランサーが手にした時点でDランク相当の宝具となり、
元からそれ以上のランクに位置する宝具であれば、従来のランクのままランサーの支配下に置かれる。
ただし、宝具としての属性と共に“魔”の属性も与え、聖剣や聖槍であっても魔剣や魔槍として振るわれる。
また、元から何らかの呪詛が宿っていた場合はその呪詛を強化し、ランクアップさせてしまう。
「さよなら、セイバー」
振り上がる大剣はまるで断頭台、最上位に冠する魔剣であれば流石のセイバーでも攻撃を無効化は不可能。
セイバーを殺す武器が限られている以上、彼を殺す手立てはこの方法しかなかった。
ほおっておいても死ぬだろうが、ランサーには少なからず、騎士の誇りというものだあった。
大剣は吸い込まれるようにセイバーの首筋を狙い、その首を刎ねる―――
「勝手に、勝ち誇ってんじゃねェよ・・・・・・!」
はずだった。
セイバーはなおも不敵な笑みを浮かべ、片腕を以て大剣を受け止める。
その手には血が滲むが彼にとっては些細なことであった。
「なっ!?」
「返してもらおうか、俺の剣を―――!」
大剣を握りしめたまま、セイバーは拳を振り上げる。
如何に傷付こうとも、それは英雄の拳、当たればひとたまりもない。
ランサーは柄を離し、後ろへ大きく後退する。
対し、セイバーは改めて大剣を握りしめ、ランサーと相対する。
「驚いた、そんな状態でまだ動けるのか・・・・・・」
「ケッ、余裕ぶっこきやがって。これぐれェはいいハンデだ・・・・・・」
そうは言うものの、セイバーの声には覇気を感じられない。
最早彼は瀕死の重症だ、それこそ、立ち上がれるのは奇跡にも等しい。
「―――評価規格外か・・・・・・。アァ、確かにソイツは防げねェな・・・・・・。しかも、的確に弱点を狙いやがって」
セイバーの唯一の弱点、それはセイバーの体内である腸、しかし、如何に弱点であろうとも、その肉体の守りを抜くことが出来なければ意味はない。
しかし、ランサーはそれを可能にする武器があった。
『
ランク:EX 種別:対国宝具 レンジ:1~99 最大捕捉:1000人
神の子を刺した事により、魔槍と聖槍の属性を併せ持った槍。
かつて、ランサーはこの槍を振るったことで三国を滅ぼしたといわれている。
この槍の呪いで傷つけられた肉体はこの呪いを背負わされ、神への贖罪のために傷は癒されなくなる。
槍に帯びていた呪いが波紋のように周囲を侵蝕、広域を汚染し、汚染された地域の周囲を汚染・侵食し、広範囲に“滅び”をもたらす。
神の子を殺した逸話より、強力な『対神』の属性を持つ。
「還剣に付随する伝承は一通り知っている、君のことも調べたさ。特に我が王との共通点も多い。怒ったかい?」
「いいや、寧ろ絶頂モンだ・・・・・・!」
そう笑うセイバーは何処か喜悦の混じった感情を表面に出していた。
腹部からは夥しい程の血を流し、ポッカリと穴の空いた腹部を晒しながら、セイバーの戦意は全く挫けていない。
これが英雄、これがセイバーという戦闘狂の意地と覚悟なのだ。
「・・・・・・三国を滅ぼし、強力な対神性能をもつ槍を受けて尚も立つか。君にとっては弱点そのもののはずなのにね」
おそらく令呪によるサポートも勿論入っているだろう。
いかに戦闘続行のスキルがあろうとも、これを受けて立てる英雄などそうはいない。
加え、セイバーの神性はA+、最高峰にして神霊一歩手前の大英雄だ。
それでもなお果敢に挑むセイバーにランサーは一種の感動を覚える。
「ゲアハハハハ! 当たり前だ! サァ、二回戦を始めよう! お前になら―――俺の本気をみせてやるよォ!」
意気揚々と血を噴き出しながら、ぐらつく足を懸命に支え、前を向き続ける。
躍動する鼓動、轟く魔震。
そして、セイバーが魔力を高めたその時だった。
はるか後方より発する巨大な魔力に曝されたのは。
「『
それは創造神より与えられた最大の秘術、自身と同等か、格上のみの戦いだけ赦される、破壊の極光。
天地を焼き尽くす、最強の一矢―――!
「―――
『
ランク:A++ 種別:対国宝具 レンジ:2~99 最大捕捉:600人
アーチャーがバラモンのパラシュラーマより授かった対軍、対国宝具。
クラスがアーチャーなら弓、他のクラスなら別の飛び道具として顕現する。
ブラフマー神の名を唱えることで敵を追尾して絶対に命中する。
しかし天上の諸神達により、弱者への使用は固く禁じられている。
セイバーの対城宝具に勝るとも劣らない巨大な炎熱の塊は、死に行く大地を包み込み、もろともに破壊し尽くす。
「―――アーチャーだとォ!」
アウトレンジからの超遠距離攻撃、こんなことが出来るのは、恐らくは未だ見ぬアーチャーしかあり得なかった。
喜悦が滲み、顔はつり上がり、歓喜で顔が歪むほど、セイバーは絶頂の中にいた。
ランサーの宝具は余りにも強力だった、最早この身は永くはない。
死出の旅路か、それでもセイバーはこの世のあらゆることに感謝したいくらいだった。
(アァ、そうだ。これだ、これが俺がなによりも待ち望んだものじゃねェか・・・・・・!)
血が湧き立ち、肉躍るほどの感動、この絶体絶命の瞬間こそセイバーの望んだ死地そのものである。
宝具による一矢の着弾まであと数瞬。
だが、セイバーにとっては十分な時間だった。
(マスター・・・・・・)
セイバーは自らのマスターに念波を送る。
若すぎるのが傷だが、もうちょい歳をとれば食っちまうほどに、若いながらも気持ちのいい女だった、
(セイバー! 今どうなってるのよ)
心配そうな声色を乗せ、マスターたる少女はセイバーに説明を求める。
だが、そんなことは二の次だ。
すでに長くないことは知ってるが、セイバーは断然、この戦いを勝つつもりでいる。
(アレを解放する、死なねェように、出来るだけ逃げときな。決して、振り返るんじゃねェぞ)
(バトラズ、あんたまさ―――)
(そういうこった、安心しろ。お前の英雄は最強だ・・・・・・!)
セイバーは尊大な態度で、言い放つ。
腹の傷など気にもしていない態度で。
もはや彼の目には敵と評した二人の英霊しかいないのだろう。
(・・・・・・わかったわよ。えぇ、わかってますよ。けどね『絶対に戻って来なさい』)
一拍程度の沈黙の後、その身に魔力が充満する。
一度ついさっき経験したからわかる、あの女郎簡単に令呪を切りやがった。
(おう、俄然、やる気が出て来た。最高だぜマスター!)
彼は孤独だった。
生まれながらにして英雄であったセイバーは父母の為に更なる強さを得ようとした。
強くなれば、きっと素晴らしい生を歩めると信じて。
だが、何百という竜種を屠ろうとも、同じナルトの戦士を打倒しても、彼を満たすものはなかった。
やがて狂気の果てに進んだ戦場でも、彼には倒すべき強敵も共に高め合った戦友も彼の下にはついぞ現れなかった。
自らの腸を打ち抜いた天の使いすら、それだけしか出来なかった。
彼は最強。
彼は無敵。
彼は英雄。
なれど並び立つものは無し、彼という英雄はあまりにも強すぎたが故に・・・・・・。
だが、今回ばかりは毛色が違った。
自身に勝る技量を修めた騎士と出会えた、そして、未だ見ぬアーチャーにも彼は強い興味を惹かれる。
そういえばあのライダーの騎兵とも戦ってみたかった。
「アァ、参った、こりゃ参った・・・・・・」
どうして、どうしてお前らはそんなに強いんだ。
どうして俺の相棒はこんなに優秀なんだ。
「あんなに死にたかったって言うのに、簡単に死ねないじゃねェか」
もっと、愉しみたい、こんなにも幸せなことはほかにない。
そして、ただの少女との約束を反故にする気もない。
着弾までのほんの刹那、それは発動した。
真の戦士にのみ許され、所持し守護し続けるナルト最強たる誇りにして証。
「――――」
その声を聴いたのは誰か、無慈悲にもアーチャーの一矢は着弾し、死せる大地を諸共に壊しつくすのだった。