アサシン、理想子安キャスター(GO)、現実ジキル先生。
圧倒的ミス、読者は作者をけなしても仕方ないレベル。
「―――僕らの勝利だ」
そして、紛れもなくセイバーの敗北であった。
苦く、冷たく、然れど迷いなく。
セイバーは満ちたれた、それこそが彼の願いであるがゆえに。
(アァ、そうか・・・・・・。これが・・・・・・敗北か―――)
つり上がる口角に喜悦も狂喜もなく、ただほっとしたような、そんな柔らかな微笑みがあった。
噛み締め、そして甘受する敗北の味。
ああ、なるほど。
確かにこれはちときつい。
滲む悔しさ、そして新たに胸に宿る勝利への渇望、セイバーの胸中はそれに支配された。
「かはは、けけけけけっ! アァ、可笑しいなァ、可笑しくて笑いが止まらねェ」
神妙な目でこちらを見つめるアーチャー、こちらに弓を構えずとも直ぐ様マスターの前に立ち、視線を話さないのはどこか英雄然としている。
「そう睨むなアーチャー。アァ、俺の敗北だ。指一本たりとも動きやしねェ」
既に、セイバーは消滅を迎えている。
肉体を構成するエーテル体は霧散し、戦闘続行ももう機能しない。
「この俺を倒したんだ、胸を張れ戦士。故に、これは俺からの手土産だ」
最期の力を振り絞るよう、セイバーの胸から黄金の杯が形をなす。
「受け継ぐといい。このナルト最強の戦士バトラズを打ち破った者よ、汝が新たな杯の守護者たると認めよう・・・・・・」
バトラズが杯の譲度を宣言すると、杯は新たな守護者の下へと飛来する。
浮遊する杯は、とある人物よ口元へと降り立った。
「えっ!?」
新たな守護者、葛西晴彦のもとへ。
「・・・・・・いやいやいや、何で俺? 倒したのはアーチャーだし、アーチャーの下へといくのが普通なんじゃ・・・・・・」
「そんなことはない、晴彦の力がなければ、この場で地に伏していたのは僕だ。あの作戦も晴彦あってのものじゃないか」
セイバーの性格、宝具、能力を完全に見切り、ほぼ最高の手順で倒すための道筋を示唆したのは紛れもなく晴彦である。
そして、バトラズはまさに晴彦の手のひらで踊っていたことになる。
「・・・・・・いいや違いねェよ、アーチャーのマスター。この杯は、いつだって正しい選択をする、コイツがテメェを選んだなら、それに間違いはねェさ。それに、コイツを受け入れれば、アーチャーの魔力供給も大分楽になるだろうさ」
「だが、それは神代の遺物。現代の一般人である晴彦が到底受け入れられるモノじゃない。莫大な神秘は今の人間にとっては猛毒も同じだ」
しかし、そこに口を挟んだのはレイヴだった。
近衛結香が紛いなりにも小聖杯として機能できていたのはそれなりの調整と神代へ至らんとする血族あってのものだ。
しかし、晴彦はただの一般人、それも魔術をようやく扱えるようになっただけの毛の生えた一般人である。
「私はおススメしないな。それに、キャスターも動き出している。もはや一刻の猶予もない」
レイヴの一番の懸念はそれだ。
暁ごろの寺社からアサシンが行動した後、自身の移動と同じくして
行動を見せたのがセイバーがランサーの宝具を受けた際のことだったのだから、最早猶予もない。
空中に浮かぶ舟の大船団、漕ぎ手を司る人形兵、その他の魔獣幻獣を引き連れた魔女の総軍、そういっても差支えない。
早くここから離れなくては、そうでなくとも大勢を整える必要がある。
それにレイヴにとって晴彦は相棒だ、心の贅肉だとしても、彼を失うことは惜しかった。
「―――いや、俺は受け取るよ」
「晴彦ッ!」
しかし、レイヴの思いは届かない。
しかし、晴彦はどこか決断したかのように正面からレイヴに対峙する。
「大勢を整えるといって、どこでどうする。このままアーチャーが消耗した状況で、どうやってあの船団に対処する。タロス一体じゃ、おそらく叶わない。俺の予想が正しければ、あの魔女はメディアに匹敵、劣らない大魔女のはずだ・・・・・・」
猟犬から送られてきた視覚的情報と、レイヴの持つ魔術的な情報を基に組み上げたキャスターの真名情報。
それらを総合すれば、おそらくタロスの天敵であることは想像に難くない。
クレタ島の守護者タロスはアルゴウナウタイの船員たちである英雄をことごとく打ち倒したとされる神代の超兵器である。
しかし、そんな存在も万能ではない。
神話に語られるタロスの弱点は踵であり、踵に刺された釘を抜くことでタロスの内部を駆け巡る
メディアはこのタロスを呪文で眠らし、足の釘を抜いたともされている。
「・・・・・・レイヴ先生、これは俺の問題だ、俺の宿題だ。俺はもう、逃げることは出来ない。だから、ここから進むんだ。毒を食らえば皿までだ。レイヴさん、一つ聞くが、令呪を自分に使うことは可能か?」
「可能不可能で言ったら可能だろう。仕方ない、調整する時間も惜しい。私の令呪を使う。もはやサーヴァントもいない身、タロスや猟犬にパスをつないだように、君にも私のパスをつなぐ」
レイヴは晴彦の手首を掴むと、魔力回路を起動する。
出来得る限り晴彦に同調することで、晴彦とレイヴという存在を曖昧にし、レイヴから晴彦までの令呪使用を可能としていた。
レイヴは頷くと晴彦も覚悟を決める。
「・・・・・・わかった、そうしよう」
「どうしたセイバー?」
「いいや、こっちの話さ」
セイバーはそういうと一瞬だけ赤い輝きを身に身にまとわせる。
そのエフェクトはまさに令呪を使用したことを如実に物語る。
「なに、悪いことじゃねェよ。むしろテメェらにとっても益があるさ。それと伝言だ、聖オルレアンで待つだとよ」
セイバーの肉体は下半身もなく、胸板から上の状態で非常に億劫そうだ。
そして、儀式は始まる。
ナルタモンガが晴彦の胸へと入るようになった瞬間、レイヴは令呪を起動、そして素早く手を放せば、令呪の効果は晴彦に効果を発揮する。
そして、杯が晴彦に取り込まれた瞬間、えも言われぬ痛みと重圧が晴彦を襲う。
「グッ―――ッガァァアアアアア!!!!」
血流が躍動し、骨が軋む。
臓物がのたうちまわるような気持ち悪さと、小人が脳から目玉を抉り出そうとする傷みに今にも気を失いそうだった。
だが、気を失う訳にはいかない。
それは即ち敗北を意味する、杯が囁くようにお前はこの傷みすら越えられないのかと反響する。
「さっさと移動するぞ! タロスッ! 出来るだけ丁重に運べ!!」
「晴彦、気をしっかり持て!」
「アアアアアァァァァアアッ―――!!!!」
レイヴの指示も、アーチャーの忠言も既に意識の彼方、晴彦はこの痛みに絶叫する他ない。
しかし、いくら叫んだところで痛みが一向に治まるわけではない、むしろ徐々に増している位だ。
暴走する魔力回路、体が熱く身を焦がし、焼かれる回路。
痛い、痛い、痛い、こんなの死んだ方がましじゃないかと、これまでの晴彦なら言っていたであろう、しかし、今の晴彦はそんなことを思うこともない。
ただ、ひたすらにこの痛みに打ち勝とうとしている。
そう誓ったから、出来るはずだと信じているから、晴彦はただ痛みに耐える。
それが晴彦の出来る唯一のこと、その想いを、誓いを『貫徹』することのみ―――!
それが、晴彦の生物としての志向性、或いは起源。
いつだってそうだった、ただ一つの事柄に向かい、逃げ続けた罪、そして立ち向かうことを決めた意思。
葛西晴彦はそんな一つのことしか出来ない不器用者だ。
そう、なんでもかんでも一人でなにかを成し遂げることなど不可能。
なにかを得るためには、なにかを犠牲にしなければならない。
他の可能性を捨て、取捨選択の末に手に残るのはたった一つのナニカ。
「ああ・・・・・・、そうだろうさ。ナルタモンガ、俺は所詮凡人だ、レイヴさんやアーチャーのような才能はない。俺の手のなかにはたった一つしか残らないだろう、だから、その上で言わせてもらう!」
歯を食い縛り、己の中にある杯に告げる。
「たった一つでも、その手に残るのなら! それはその一つは何よりの尊いはずだと!」
欠けた夢を見た、それはたった一人の男の英雄譚。
早送りのテレビ画面のように、男の人生を映す鏡は事細かに、その人生を映す。
誕生、祝福、修行、出会い、戦い、冒険、幸福、決戦、喜劇に悲劇。
そのすべてがありありと撮されていた。
故に問いを投げ掛ける、この物語は真実や否やと。
あぁ、なんて愚問だろう、そんなものは決まっている。
「本物だ、少なくとも、
ラーマの最後は、大地に呑まれたシータの姿を最後に幕を閉じる。
それは最高の幸せとは言えないだろう、だが、人生などそんなものだ。
苦悩し、悩み、時には壁にぶつかりながら、みんなの必死に生きている。
幸福な一生ではないかもしれない、それでも歩んだ道に嘘はない。
それを人は生き方という。
「だから、その
杯は何も答えない、ただ鎮まりゆく痛みだけを感じながら、晴彦の意識は埋没していった。
『―――そなたに栄光を』
そんな呟きとともに・・・・・・。
聖オルレアン学院、その中にある教会の門前にて、一人と一体のサーヴァントが居た。
「全くもって厄介ね」
「せやろ」
噛み合っているようで噛み合わない二人、早瀬七海とアサシンの姿がそこにあった。
「とりあえず、セイバーの魂はナルタモンガに移し換えたわ、これで聖杯が起動した場合でも、被害は軽減したと言えるでしょう?」
七海の使ったら最後の令呪、その最後の使い方は己が英雄の魂を葛西晴彦のもつナルタモンガに捧げることであった。
まがいなりにも、あれも聖杯として機能し得ることが何よりの幸運だった。
「まぁ、状況は以下の通りだ。サーヴァントがいなくなった以上、君は敗残の徒だ」
「確かに、で? それがどうしたのかしら」
傲岸不遜、お前は私に何を期待しているのか?
「泣けばいいのかしら? 悔しがればいいのかしら? それとも屈辱に顔でも歪めたら貴方は満足するのかしら? 大事な従者という最大戦力を失ったからという理由で? 下らない、そんなことをやってる暇があるなら次に向けて行動しなさい」
アサシンはそんな彼女の様子をただ見守る、なるほど、ただの虚言ではない、本心からの言葉だろう、アサシンは素直に敬服する。
「なるほど、実に合理的だ。ならばこそわかっているだろう」
「えぇ、神父の一人や二人ぐらい口説いて見せましょう。それこそが私が出来る次の一手」
「Exactly.実に素晴らしいな早瀬七海。実に好みだ」
「当たり前でしょう。私に惚れない奴は同性愛者か不能よ」
さも当然、そんな雰囲気がありありと見てとれる。
あぁ、こいつナルシストなんだなぁー、なんて考えていると不意にきつい視線を送られる。
「なにか?」
「いや、こいつナルシストなんだなぁーとしか思ってないが」
「殴るわよ」
「淑女がそんなことを言ってはいけない、誤って殺してしまいそうだ」
アサシンが言うと洒落にならないため、七海は遺憾ながらも怒気を押さえる。
冷静に沈着に、何処その魔術師のように常に余裕を持って優雅たれと自己暗示をかける。
「ま、それほどおっかなびっくりするな。少なくとも君を殺すつもりはないよ、何せ食指が動かない。それでなくとも君は世界に必要とされている。君という才能の輝きが消えてしまうなど、あまりに損失だ」
「お眼鏡にかなったということかしら」
「そゆこと。さぁ、未来に輝け少年少女、君らの可能性は無限大だ。がんばれ、がんばれ、出来る、出来る、絶対に。諦めなければ夢は叶うと信じているのだァ!」
がんばれ、がんばれとアサシンは無責任なエールを送る。
そんなアサシンを鼻で笑い侮蔑の視線を送りながら、七海は教会の扉を開いた。
礼拝堂には一人の神父が祭壇近くの長椅子に腰を掛けているのが見えた。
「こんばんわ、神父。少し私とお話ししませんか」
ゆっくりと振り向く、老境の聖職者。
眼鏡の奥の瞳は此方を見通すような深い深淵で此方を見つめていた。
「聖杯戦争脱落の申し出かね?」
神父はちらりと霊器盤に視線を投げ、七海を注視する。
つい先ほどレイヴによって騙された為であろうか、神父は何処か警戒心を強めつつ七海の出方を伺う。
「確かに私は敗残の身、ですが本題はそれではありません」
凛として七海は正面からぶつかる。
神父は疑問に思いつつも、七海の話を聞くのだった。
霊器盤に残るのは五体の英雄、内一体が例外としても既に聖杯に魂はくべられた。
それは七海も分かっていること、それなのに問わなければならない理由はそれなりに重大なことに他ならない。
「ハーペン神父、貴方の下知を以てヨーゼフ・ウッド・アルビオン並びに近衛結香の討伐令を出していただきたい・・・・・・!」
七海は語気を強めつつ、そう嘆願したのだった。
Q.これってとんな話?
A.一般人が鋼メンタル化するまでの話
普通に考えて一般人が聖杯戦争を切り抜けられるわけないよなって話です。さぁ頑張れ晴彦、ここからが本当の地獄だ(愉悦)