唖然、まったくの数瞬の出来事。
固有結界内での戦いは呆気なく決着が着いた。
その結果は、アーチャーの圧勝という結末である。
時は数時間前に遡る。
ナルタモンガの起動、それにより莫大な魔力を投下された晴彦の肉体は通常では考えられない変化を遂げていた。
度重なる魔力は晴彦を覆い、肉体に多大な圧を加える。
筋繊維が弾け、血流が沸騰し、内蔵がぐちゃぐちゃに回る、とてもじゃないが意識を保つのも儘ならない状況に際しながらも、晴彦は単純な意思を以てそれを封じ込める。
「―――ガハッ!!」
口からはおどろおどろしいほどの血と肉を吐き出し、片目からは血涙を流す。
一度目の起動でもかなりの無茶であり、それが二度目となれば、それは一度目の比ではない。
まさしく、命を削ってこの戦場に立っているのだ。
そして、その鬼気迫る状況をもっとも把握しているのは相棒のアーチャーであることは言うまでもない。
「悪いな、キャスター。どうやらあまり時間はかけられそうにはない。全力で仕留めさせてもらう・・・・・・」
駆ける健脚、射手は素早く矢筒から矢を取り出し装填、晴彦の魔力は飽和寸前、これをどうにかするためには手っ取り早く魔力を使いまくればいい。
「―――射抜け、『
降りしきる矢雨、炎を纏いし矢の散弾は固有結界の主であるキャスターばかりだけではなく、その軍勢にも向けられる。
「―――ッ、甘いよ!」
しかし、キャスターとて史跡に名を刻んだ大魔女、肉体を鷲に変化させ、矢雨をなんとか回避する。
「―――そうだな、甘い攻撃だ」
アーチャーはポツリと口を漏らす、僅かな余裕からアーチャーの姿を視認したキャスターはアーチャーの手に持つそれに真っ先に気づいた。
彼女の軍団は先の攻撃で死にはしない、しかし、それをよけるのはあまりにも困難だ。
そして、肝心のアーチャーには、あのセイバーのスキルをもっている。
「―――本番はここからだ。『
輝く閃光、収縮する極光の一矢、それを、何の溜めもなく穿ちぬく。
嗚呼、何と恐ろしいことだろう、彼女の誇りである領地、その門番たる多くの私兵がまるで紙切れのように壊され、塵と化す。
これを悪夢と言わず何という。
あのロナウド・ハーペンですら、唖然の表情だ。
こんなものが戦争と言えるのか? あまりにも一方的な虐殺ではないか。
「さぁ―――上げていこうか」
これがラーマ、インド叙事詩ラーマーヤナの主人公である英雄の完全な姿だとでも言うのか。
「力技にも程がある・・・・・・!」
キャスターは引き攣った笑みを浮かべながら、アーチャーの攻撃をいなす。
自身を有利な状況へとする固有結界だが、これではアーチャーの攻撃を躱し続けるチキンレースそのものだ。
周囲の状況を気にせずとも良いというのはアーチャーにとっても晴彦にとっても好都合であるということをキャスターは失念していた。
もはや、彼らを止めるものはいない。
そして止まる気も、留まることも許されない。
「「―――往くぞ、キャスター」」
血反吐を吐きながら胸を強く押える晴彦、その眼は敵であるキャスターを見つめ、アーチャーもまたキャスターを狙い、弓を番える。
「「これが、俺(僕)たちの力だ―――!」」
再度番える極光の一撃。
対国宝具の連続射出などまさに悪夢に等しい。
しかし、その悪夢がまさに目の前で現実として起こり得ているのだ。
わからない、すぐさま思考を放棄したくなるほどの頭の悪い展開だ、それでもなお諦めを見せないとは英雄としての矜持故か、キャスターはすぐさま切れる札から最善の手を選択する。
「そう、何度もやらせないよ―――!」
呪歌をする暇もない、キャスターはアーチャーの世話で手いっぱいの状況だ。
必然、漏れ出た軍勢の相手は神父となるが―――
「やれやれ、私は雑魚の掃討か。老体にはきついことよ―――
軍勢に対し放たれた
放たれた途端に硬直し、動きを止める軍勢。
その呪文の効果は束縛、肉体の動きを止める妨害の効果である。
敵が多ければ多いほど効果を発揮するその呪文は、神父にとっては見逃せない隙であり好機である。
「晴彦君、アーチャー。こちらは心配せずキャスターを頼んだよ」
神父はそう言うと敵陣に突っ込む。
敵の隊列を無視し、縦横無尽に駆けるその姿はまるで豹やイタチの如く素早く、時にはおちょくる様に敵を斬り刻む。
しかし、その様な攻撃であっても隙らしい隙は見当たらないのは、彼の人生経験故だろう。
「さて魔女の手先、悪性の魍魎どもよ、全力でかかってくるといい。代行者『
両腕に持つは四対の黒鍵、今の彼を見て、誰が年老いた老人と蔑むことやら。
眼鏡の奥に光る眦、独特な呼吸法、隙の無い構え、信仰の為、秩序の為に多くを裁いてきた神の代行者。
「恐れることなかれ、われ汝とともにあり―――これぞ『神の真意』、
それを目視出来たものはどれ程居ただろうか、爆ぜる魍魎、閃光のように瞬く光により、ばらばらにそれらはあっさりと切り開かれた。
「『いと高きところには栄光、神にあれ。地には平和、御心に適う人にあれ』」
燃える黒鍵、触れた傍から組成ごと破壊される魍魎の死骸、重く重厚な言霊、身を包む光輝、周囲を包む光に絡めとられるかのように魍魎は動くことも出来ずにただ死を待つばかりだ。
度重なる攻撃を黒鍵を以て切り裂き、あるいは不可視の盾によって防がれる。
「―――『Amen』」
鎮魂への祈り、『王冠』を抱き、豊かな『知恵』を以て主を『理解』せよ、『慈悲』の名の下に慈しみ、悪を『峻厳』に裁く。それを『美』とすれば、必ずや『勝利』し『栄光』の名の下に祝福を得るであろう。すべての元たる『基礎』はやがて千年『王国』へと通ず。
嗚呼成る程、確かにこれは異端だ。
人たる者が、こんなものに耐えられるはずがない。
一体どれほどの負荷が彼にかかっているだろう、今にも狂いそうなほどの痛みが、体の内から爆ぜるほどの激痛が彼を襲っていることは想像に難くない。
まさしく、人の身で人を超えようとした大馬鹿者に相応しいと言えよう。
それでも彼は耐え続けている、痛みを堪え、ただただ信仰の為に従事する一人の信徒として。
炎を纏い、限定的な未来予知に加え、肉体の素養を強化し、触れたものを塵と化す。
言葉によって魔を祓い、跳ね返し、信仰の盾を以て悪意を打ち払い、咎人を捕縛する。
たった一言の言葉でこれをすべて同時並行でやってのけるのだ。
常人ならばとてもじゃないがもたない。
そして、敵は何もこれだけではない。
「『
煌めく創造神の一撃、キャスターの領国をいとも簡単に荒らす暴雨の一矢。
そんなものを何度も放つ阿呆をどうにかしなければならない。
「ふざけんじゃないよ―――!」
キャスターが動かしたのは、とある洞穴。
その昔、太陽を飲み込んだとする強大な封印のその洞窟を動かし、アーチャーの宝具に対抗する。
この時点、キャスターは何ら失策はない、それどころが最善を選び取っていただろう。
地響きとともに対国宝具を飲み込む。
荘厳なる轟音が響き、その音だけで気絶するものが出るほどの中であって彼らは意識を保っていた。
事実、アーチャーの宝具の中で最大範囲をもつ宝具をいとも簡単に飲み込んだのは驚嘆の一言だ。
並の英雄なら、彼女には敵わない。
そう、並の英雄であればだ。
「―――アーチャー、あれを壊すぞ」
「委細承知した。見せてやろうキャスター、これが僕の物語の幕を飾った終極の一矢だ」
奴らは何を言った、破壊する? この太陽を封じ込めた大いなる洞穴を?
「馬鹿を言うな、出来るはずがない、不可能だ―――!」
「出来る筈がないか。そんなものは関係ない! いいことを教えてあげよう
―――その不可能に立ち向かう者が英雄だ!」
集束する光輝、それは今までの比ではなく、赫から白に、そしてその白がすべて矢じりの先端へと集束する。
それを見た途端に、キャスターに今までにない悪寒が走る。
なんだあれは、あんなものは知らない。
それは畏れ、憚ることなく泣き出してしまいそうで、それでいて感動で咽び泣きそうになる。
「―――これを使うのはラーヴァナ以来だ。征くぞ、天生たる煌めきよ。この一矢にて、総てを終わらせん―――!」
鈍く輝きを見せる一矢、強く強く、果てまで届くその光に、人々は魅せられてきた。
有り余る程の悲劇は見てきた、さぁ、幕を閉じよう。
悲劇の舞台はもう終わる、涙はこれ以上流させない。
「『
神話の終わり、物語の終局。
この一撃はまさしく、彼の旅路の終わりを飾った終焉の一撃。
「―――
煌めく一矢、音速を超え、光の速さで到達する協力無比なる一撃。
あらゆるモノを破壊し、終わらせる終焉の一撃。
最早、有象無象と比べることこそおこがましい神威の一撃。
これぞまさしく至高、これぞまさしく究極―――。
『
ランク:EX 種別:対人宝具 レンジ:1~99 最大捕捉:1人
アーチャーの持つ奥の手。
聖仙アガスティヤから譲り受けたパラシュラーマの『梵天よ、地を覆え(ブラフマーストラ)』と同名の名を関す矢の宝具。
矢の内部に神山に匹敵する重量が封入され、マントラとともに放たれる究極の一撃。
『毘紐天よ、天を翔け(サルンガ)』の力も加わるが、破壊規模は対人レベルに収縮される。
この一撃を受けたものは如何なる存在であろうと必ず殺す『対不死・対無敵』の概念が篭められ、いかなる距離、概念の守りであろうと視認している限り攻撃を届かせる。
アーチャーの英雄譚の最後を飾った終わりの一撃。
激震、矢を飲み込んだ瞬間脆くも崩れ去る洞穴。
太陽すら飲み込むそれをいとも簡単に封殺したアーチャー。
そして、こうなってはキャスターもどうしようもないこともまた事実であった。
「―――ガハッ!?」
嗚呼、今にも倒れそうになる青年、最早肉体は限界を超えているだろうに、それでもなお膝をつくことなく抗い続ける。
その瞳には熱い闘志、なぜに折れない。
いや、折れる筈がないのだ、そんなちっぽけなすぐに折れるようなら、その杯に耐えることすら不可能であろうから。
(―――英雄か)
ふと瞼の裏に浮かぶのは一人の枯れた老人。
黄金の剣を背負い、カンテラを奏でる吟遊詩人の賢者。
ひどく調子者で、いつまでも子供のように無邪気で可愛げのない悪戯坊主。
彼女はそんな彼が嫌いだった、嫌いだったからこそ全力で戦ったのだ。
しかし結果は悲惨なもの、彼女が後生大事にしていた魔法の臼窯は見事に砕け散った。
(―――未練だね、嗚呼そうさ、未練だとも。でも仕方ないじゃないか、何が何でも手放したくなかったんだからさ・・・・・・)
アレ一つで何でも出来た、そもそも生活そのものが変わったのだ。
大地には恵みを、人には幸福を、世界に繁栄を約束されたのだ。
現代の人間が電気を奪われ、それをのうのうと無視するなど不可能だ、アレには戦争たる理由があった。
恨みつらみ、最終的に勝利したのは敵の国、我らは奪われ元の生活、悲惨な北の国でのさもしい生活に逆戻り。
そんな中で以前以上に繁栄している彼の英雄の地を見れば何も思わないなんてことはないはずだ。
「―――成る程」
番えるは純然たるただの矢、宝具級の一品ではないが、それでもキャスターを倒すには十分である。
流石に評価規格外の攻撃はそうそう連発は出来ないと分かったが、その破格たる攻勢に対し、キャスターは純粋に尊敬の念を抱いた。
「こりゃ勝てんわ、嗚呼、アタシの負けだね・・・・・・」
不思議と悔しくはない、敗北というのはもっと後味の悪いものであったはずなのに、今はそんなことはない。
それどころか、身を包むのは一種の爽快感でもあった、被虐趣味はなかったはずなのに、どうもスッキリしている。
見事にぼこぼこにされた、不思議と笑いが出てくる。
「降参だ、射ちたきゃ射ちな。もうなんもしないさ」
両手を上げると同時に、キャスターは魔術を使うのを止め、軍勢はまるで眠っているかのように静まり返る。
アーチャーはこのような事態で尚冷静に敵を見据え、晴彦もふらつく身体に対して地面に足をしっかりと踏み、胸を押さえながらなおも耐え続ける。
常在戦場、油断も隙もあったもんじゃない。
わずかな慢心もなく肝心の霊核を弓で狙われたキャスターはこうして敗北を宣言したのだった。
宝具は三つ、されど掛け合わせれば第四の宝具と化す。兄貴の槍も一本なのに二通りの使い方があるからこれも十分ありかなとは思っている。
ラーマの最終宝具のコンセプトは最強の対人宝具。弱点としては、範囲宝具と打ち合った場合は完全に打ち消すことはできない(英雄王のエヌマ・エリシュと打ち合った場合、英雄王を普通に殺せるが、自身もエヌマ・エリシュの余波で死ぬ)ものの、あらゆる守りや概念、無敵などといった概念を打ち破る即死攻撃が可能であり、基本的に回避不可能。
ラーマ、EX宝具持ちのチート英霊としての本領発揮、アヴァロンを打ち破ることが可能
神父、マリオの無敵状態になって中堅程度の英霊なら打倒できるスペック。なお本人も死に掛ける模様
晴彦、チートなラーマをさらにチートにする一般人。
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キャスター、こいつらを数分程度足止めできるぐう有能なサーヴァント
キャスターは相手が悪かった。