Fate/destruction   作:ニーガタの英霊

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 リアルでやることが多くて下がる投稿頻度。早く完成に漕ぎつけたい
 兄弟子→弟弟子 に変更、普通に勘違いしていた。お前に兄弟子いねぇよ


第38話

 倉敷山中腹の奥深くに位置する洞窟奥深くへと帰還したキャスターとバーサーカー。

 帰還の最中、妙に落ち着きを払っていたバーサーカーの様子に訝しんだが、効率よく帰還できたのは幸いでもあった。

 

「遅いなキャスター、待ちくたびれたぞ」

 

「・・・・・・こっちは大変だったんだよ、ねぎらいの一つもなしかい?」

 

「不要だ、貴様は貴様の仕事をすればいい。して、これがわかるな」

 

「・・・・・・人だね」

 

 横たわる一人の少女、呼吸は浅く、意識はない。

 近衛結香、ランサーのマスターであり、今次聖杯戦争における小聖杯である。

 

「人? これが? キャスター、君の瞳は節穴なのだろうか、これが人とは片腹痛い。これは人形だよ、ただの作品だ」

 

「・・・・・・」

 

「全く、先が思いやられる。『小聖杯の調整は任せた』ぞ、そのために召喚したのだからな」

 

 なんの感慨もなく、令呪を使用するヨーゼフ・ウッド・アルビオン。

 まるでそのために召喚したとばかりの言葉だ。

 事実そうであろう、ヨーゼフの魔術師の腕は平々凡々、とてもじゃないが小聖杯の調整など不可能である。

 

 ああ、どうしてこいつは人の神経を逆なでするのがこんなにも得意なのだろう。

 キャスターもヨーゼフも相手のことなどちっとも信用していないだろう、だからこそここで令呪を使ったのだ。

 使いどころとしては間違いではない、キャスターも使われるであろうことは分かっていた。

 

 脱落したサーヴァントはセイバー、ランサー、ライダー。

 うち二騎は小聖杯である結香の中に。

 マスターは三騎と思っているが、そこが盲点だろう。

 しかし、それを補って余りある、別の魔力。

 

 成る程渾沌とは伊達ではない、先の二騎分の魔力が混じり合い、分離は不可能、加え、小聖杯自体が精巧な作りになっている。

 然りとした手順なら兎も角、これを解体することは不可能。

 

 今なら言える、これを創ったものはあのセッポ・イルマリネン勝るとも劣らない名工だ。

 少なくとも魔術において天才を凌駕するキャスターですら手を出すことは不可能だ。

 

(現代でこんなものを創ったというか・・・・・・、ぶっ飛んでるわね。そして・・・・・・)

 

 視線を逸らすと、結香の手の甲には令呪が未だ残っていた。

 

(まだ隠し玉はある。そう思ってもいいということかい)

 

 未だ残り続けるその聖痕、その存在に意識を傾けつつキャスターは聖杯を起動状態へと調整するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

「御早う、人形」

 

『ヨーゼフ・ウッド・アルビオン・・・・・・』

 

 洞窟の中につくられた一室に培養液に浮かぶ少女の姿があった。

 幾重にも繋がった管のその中央にて、五号は睨み付けるかのようにヨーゼフを見つめていた。

 

「全く、弟弟子にも困ったものだ。高々人形に感情を植え付けるからこうなるのだ。俺様を恨むとは筋違いも甚だしいだろう」

 

『・・・・・・』

 

「図星か、実に愚かしいな。愚痴愚昧愚蒙の愚物よ」

 

 あまりにも目の前の存在がくだらないのか嘲笑するヨーゼフ。

 

「まぁそれでも、この俺様の為に働いたのだ、それなりの礼はしよう。最もそれは俺様と利害が絡まない場合によるがな。理解したか? ホムンクルス」

 

『この期に及んで勝ち目はあると?』

 

「手駒を失ったのは痛かったが、それでも現状では不利とは言えない。既に聖杯は我が下にある、後はここで防衛体制を敷くのみだ。実に簡単なことであろう?」

 

 出来の悪い生徒に教えるように懇切丁寧に教えるヨーゼフ・ウッド・アルビオン。

 故意か無意識か、相手の感情を逆撫でしているのも知らずに淡々と告げる。

 

『あの子をどうするの?』

 

「・・・・・・? 嗚呼、小聖杯のことか。知れたことよ、そうあれと生み出されたのならそうするだけだ。それともなんだ? 今更になって不安だとでもいうのか? この戦争に参加している時点で貴様も俺様も同じ穴の狢だろう」

 

 心底理解できないと嘆息する声から少しだけ喜悦を混じらせたのを五号は読み取る、そしてその後の言葉は五号にとっては衝撃的な言葉でもあった。

 

「・・・・・・今更になって同族意識とは片腹痛い、アレも貴様も失敗作ということか。まったく弟弟子は何がしたいのやら」

 

『・・・・・・どういう』

 

「知らんのか? 我が弟弟子ゲッツ・ゲプハルト・フォン・ローゼンシュタインのつくりあげたホムンクルスの中でもあの小聖杯は傑作と名高い代物だぞ? 生体精製において紛れもない機才と呼ばれたあの男だからこそ完成出来たのだからな。アレからしたら貴様などただのデチューン版でしかあるまいて」

 

『・・・・・・えっ―――』

 

 それは五号にとっても初耳であった。

 あの小聖杯である近衛結香は彼女にとっての姉妹であるということに驚きが隠せなかった。

 

「ククク、無知か。これはこれはあまりに無様で仕方ない、しかし不肖の弟弟子が人形を送っての参戦となれば彼奴にとって本命は別か。頭の出来は俺様以上ゆえ仕方あるまいが、組織をここまで翻弄するとは中々に―――」

 

 嘲るヨーゼフ・ウッド・アルビオンの声を聞きながらも、その内容は頭に入ってこない。

 ショック、或いは羨望といった感情がごちゃ混ぜとなって五号の胸を貫く。

 

「まぁ雑談もこのくらいとしよう、バーサーカーは陣地の雪原に配置しておけ。狂戦士としてはお誂え向きだろう?」

 

『―――ッ貴方は!』

 

 知っていたのかと、言葉を続けることは出来なかった。

 言っても意味はない、彼にとってはそれは関係ないことだからだ。

 あの時もそうだった、同盟を組んだはいいものの、相手のこちらを見る目は駒にしか過ぎなかった。

 あの時において、こちらの勝筋は同盟、しかも敵対状態にない相手に限られる。

 

 いくら潤沢な魔力があろうと、魂食い上等の斥候はあまりに博打すぎた。

 八号は戦闘特化、五号は魔力供給特化型のホムンクルス。

 使い魔の生成や、暗示などの搦め手はめっぽう不得意であった弊害でもあったのだろう。

 

 故にこそ、あれが彼らにとっての最善、まさか巻き込まれた一般人がマスターになるなど想像すらつかなかっただろう。

 すべてはあの日のイレギュラーから始まったといっても過言ではなかろう。

 

「・・・・・・何か問題でも?」

 

『―――いいえ、なんでもありません』

 

 恨むべきは自らの無能、それ以上でもそれ以下でもない。

 思い起こすは一人の青年の姿、共に戦い、自由を誓いあった姉弟。

 

 部屋を後にするヨーゼフ・ウッド・アルビオンの後ろ姿を視界に入れながら、彼女は考える。

 選択の時は、すぐそこまで迫っているということに。

 

 

 

 

 

 

 

「さぁ、選びたまえ早瀬七海」

 

 部屋に入り、開口早々アサシンは机にナイフを突き立て七海に問う。

 

「君が死ぬか、それとも私に殺されるさを・・・・・・」

 

 喜悦を混じらせつり上がる口角、背筋に寒いものを感じさせる狂喜に七海は体を重くさせる。

 

「・・・・・・いったいどういう―――」

 

「君の答えは聞いていない。さっさと選びたまえ、せめてもの私なりの慈悲だ。嬉しかろう?」

 

 まるで自身こそが正統であるかの様な態度に加え、多くを語らないその姿勢に七海は動くことすら不可能だった。

 

「・・・・・・わからないか? 度し難い無能だよ君は」

 

 それは失望、アサシンはため息を一つ吐くと、目一杯の殺意を七海に向けた。

 

「―――!?」

 

 息を呑むことすら出来ない重圧、体が芯から冷え、指先は小さく震えている。

 最早彼女はまな板の上の鯉、残酷に、そして冷徹に料理されるだけの存在にしか過ぎないということを理解した。

 

「どうした? 恐ろしいか小娘、その程度の覚悟でよくもまぁ戦おうとしたものだ」

 

 呼吸が荒くなり、心臓の音が最大限に稼働する。

 

「がっ・・・・・・!?」

 

「余裕があるから、駄目なのだ。極限状態におかれた人間と言うのは等しく弱い。だからこそ自身の本来の姿が見えるのだ」

 

 投擲されたナイフは左の肩口を抉り、椅子に固定化される。

 最早逃げることすら不可能、じんわりと広がる痛みに思考を鈍重する。

 

「・・・・・・愚かだな、あぁ、実に下らない女になった。

―――いや、それがお前か。早瀬七海・・・・・・」

 

 ゆっくりと七海に近づき、肩口に刺さったナイフをゆっくりと時計回りに回す。

 切開した傷口が広がり、骨を削り神経を撫でる感覚に、脳が警告を出し続ける。

 

「お前のそれはただの義務感だ。願いだの渇望だの、欠けてるんだよ、お前には決定的な情熱が欠けている。だから動けない、動こうとしない。なあなあにして、誰かがしてくれると傍観を決め込む。

―――私はそんな奴が大嫌いだ」

 

 その顔は冷たく、そして此方を侮蔑していた。

 膝の上で震えていた左手を持ち上げ、七海に向かって笑みを浮かべると、壇上のナイフをその手の甲へと押し当て、抉る。

 

「あっ、ああああぁぁぁっあああ!!」

 

 あまりの痛みに耐えかね、七海は下半身を濡らす。

 そんな七海の状況に、アサシンは高笑いをあげた。

 

「どうした? 小便を垂れ流すほど嬉しいか? まるで犬だな、犬畜生だ。高貴な面を被ろうと、所詮お前という人間はそんなもんだ、それがお前の本性だ! 小娘・・・・・・!」

 

 気づけば、七海は張り手を食らわされていた、ぼんやりしていた思考は無理矢理覚醒させられ、またもや痛みに向き合う時となった。

 

「少なくとも、奴等は選択した。逃避し続けた現実に本気で向き合い、命の危険があると知りながらも、多くの日常を守ることを選択した葛西晴彦! 愛しい人を殺されようと、憎き仇が前にいようと、それでも己の矜持と愛ゆえに狂うことなく最善を突き進もうと抗い続けるレイヴ・ロザン!

―――君は何をしている? 私欲と勝手な思い込みで怠惰を享受しているだけではないか!!」

 

「違っ・・・・・・!」

 

「違う? 何が違うと言う、答えてみろ。さあ、さあ、さあ! さあ! さあ! さあ!? 答えてみろ早瀬七海・・・・・・!!」

 

 余りの覇気に圧迫される七海、何か言わなければ、しかし何を? 喉元まで来ているはずの声が出ない。

 

「答えないならばこちらから言おう、早瀬七海。君のいうそれはただの強がり、強迫観念だ。こうしなければならない、ああすべきだという型張ったマニュアル思考のみで、君の意志など最初から介在しない」

 

「・・・・・・そんなっ、こと・・・・・・!」

 

「触媒を用意したのは? 場所を提供したのは? そしてお前をそう仕立てあげたのは? 全部、故早瀬九郎ではないか」

 

 父親にのせられるがまま、お前が参加したのはただセカンドオーナーであると言うだけの棚ぼたである。

 アサシンはそういっている。

 

「―――君は体のいいあやつり人形だ」

 

「ちがう―――!」

 

 声を荒げた七海、ここに至って漸く感情的になった瞬間でもあった。

 だからこそ、アサシンは嘲笑し、侮蔑し、その覚悟をズタズタに切り裂く。

 

「違う? それこそ噴飯物だよ。根源へと至るとは、本当に君の願いだったのかね? 君の道を整えたのは父親、貴族然として態度も、セカンドオーナーとしての職務も、魔術の種類も、全て父親の受け売り。お前は父親のイエスマンでしかない、いいや亡霊もいいところだ」

 

 アサシンは細長い針を取り出すと、ダンッと勢いよく七海の指の間接に突き刺した。

 

「ガッ・・・・・・!?」

 

 痛い、ただひたすら痛い。

 ナイフで抉られたような熱はなく、ただひたすらに痛かった。

 

「お前は自分で何かを考えたのか? 自分で何を行動した? やること為すこと、全て父親の模倣、上意下達式に下された命令をするだけのロボットに過ぎない」

 

「違うっ・・・・・・私はッ・・・・・・!!」

 

「愛されていたとでも? そういうのか。問いの意味を呈してないぞ」

 

 まただ、こうやって男は七海の言おうとした言葉を先読みする。

 お前の思考をすべて読んでいるぞと、冷笑を浮かべて、二本目の針を打ち付ける。

 

「アガッ・・・・・・ひぃッ・・・・・・!!」

 

「愛されただろう、愛されていただろう。だからこそ最悪に備えた準備をしていた。逃げてもよかった、誰も責めはしない。ただ一人、父の期待を裏切るのが怖かった。

―――それが君の参戦動機だ、早瀬七海」

 

 三本目の針を打ち付ける、これで七海の小指の関節はすべて机に打ち付けられた。

 肉体を、精神を抉られ、涙と汗で七海は何も見えない。

 

「それもまた愛だ、応える愛。意志を継ぐというのは大層な覚悟が必要だ。だが、君のそれは違う。憧れた背中を追いかける、憧憬ではなく。そうなくてはならないという矜持でもなく。ただ、それしか生き方を知らない! それ以外の道を歩もうとしなかった怠惰だ・・・・・・」

 

 無様だなアサシン、どの口で言う。

 ほかの生き方が出来なかった殺人鬼がいって言い言葉ではないだろうに。

 七海を嘲り、そして自身をも嘲る、こんな滑稽なことがあろうか。

 

「何かを願うわけでもなく、ただ惰性的に戦争に参加した。その甘さがこの結果だよ、早瀬七海。まだあのホムンクルスの方がましだった。ただの外道だとしても、未だ彼には信念があった。その点君は何だ? なんだその様は、泣きわめき、痛みに震え、何も為すことが出来ない。そんなだから何も選択できないのだよ」

 

「―――」

 

「君のような存在で、ああだこうだ言われたくはない。君の代わりはレイヴ・ロザンを連れていく。神父でも構わない。だから足手まといだ、戦う意思がないなら死んでしまえ」

 

 ただ、苦しかった。

 全身の至る所が痛かった、辛かった。

 役立たずと、不要と切り捨てられ、恥ずかしくて、情けなくて、何も出来なくて、もう死んでしまいたかった。

 

「さて、早瀬七海」

 

 優しい声色、今までと態度が違う表情が、雰囲気が、七海には救いに感じられた。

 アサシンは七海の右手を掴むと、ナイフを握らせた。

 

「君には右手が開いている、そしてナイフがある。もうこれ以上辛いのは嫌だろう、嬲られたくないだろう。大丈夫だ、それを君自身に突き刺せば、すぐに楽になる」

 

 針を回しつつ、アサシンは耳元で七海にそうささやいた。

 

「さあ、選択の時だ―――」

 




 拷問カウンセラーアサシン、趣味と実益を兼ね備えた名医ですね、精神科医としては最悪ですけど。
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