Fate/destruction   作:ニーガタの英霊

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 いつの間にやら四十話達成。
 この小説もよくこんな続いたもんだ。


第40話

 まばゆい月明かりが差し込む教会の一室でレイヴ・ロザンは目を覚ます。

 起きるとともに感じる両手の鈍い痛み、息を大きく吐き出し、新鮮な空気をこれでもかと吸い込む。

 

「・・・・・・生きているか」

 

 鈍い頭を覚醒させるために魔術回路に魔力を通し、自身に解析の魔術をかける。

 

 数か所に裂傷、火傷、しかし処置済み。

 業腹だがどうやらあの殺人鬼に借りを作ってしまったらしいと思うと中々に癪であった。

 

「・・・・・・この手では霊薬も作れん、予備の家財も一切あの男にやられただろうし、やはり感謝はせん」

 

 あの日、ホテルに残しておいた道具があればそれなりの霊薬も作れていただろうにと思うと、今更ながらレイヴは頭を痛めた。

 

「先生、起きていたのか」

 

 扉が開かれる音がしたと思えば、そこには少々驚いた晴彦の姿があった。

 

「ノックが無いとは少々不作法ではないかな」

 

「すいません、てっきりお休みかと思っていたので。神父も来てください」

 

「失礼致します」

 

 晴彦の後に現われたのは監督役であるロナウド・ハーペン神父だった。

 神父の傍らには大きめのカバンがあり、レイヴのすぐそばまで近づくと、おもむろに傷の様子を見始めた。

 

「・・・・・・処置は完璧ですな、となると火傷跡を見た方がよろしいでしょう。とりあえずこれを呑んでください」

 

 神父は丸薬をレイヴに飲ませると、更に瓶を取り出し、その中身を振りかける。

 

「彼の者の傷を癒し給え『栄光(Hod)』」

 

 神父は静かに詠唱を告げると、レイヴの手は蒸気をあげ、燃えるような痛みを発す。

 

「―――ぐっ・・・・・・!?」

 

 顔をしかめながら耐えると、やがて蒸気は消え、神父が包帯を取ると、そこには火傷の跡を残しながらも完治したといってもいい手があった。

 

「何分急を要する為、跡が残りましたが、一応完治となります、それからよっぽど無理があったのでしょう、体内環境もある程度正常に戻しておきました」

 

「・・・・・・とんでもないな神父、これほどの技を一工程で行うとは」

 

「それでも何分制約を重ねた結果で―――ゴフッ!?」

 

 にこやかに対応した神父であったが、急に咳き込み口を手で押さえる。

 

「―――この通り、何分老い先短い身。術を使うだけでこういった後遺症がありまする。そして先では私も無理をしてしまいました」

 

「そうか」

 

 皆どこか無理をしている。

 レイヴはもとより、神父は長年のブランクと老いによって体がついてこなくなり、晴彦に至っては神代の宝具を肉体に宿している状態だ、平静を装っているが、時期にそれは毒となって晴彦を蝕むだろう。

 いや、もうすでに蝕んでいるのかもしれない。

 だとすれば時間が足りない。

 

「次が、最終決戦となろう」

 

「はい」

 

「長引かせるつもりはない、心情的には今すぐにでも行きたい、だが・・・・・・」

 

 あまりにも彼らは消耗している、相手もそれ相応に消耗しているが、それでも万全の陣地を整えていることだろう。

 幸いにも教会は霊地、消耗した魔力を整えるべき状況でもある。

 

「出陣するのは明朝とする、現在の魔力量と消耗からすればおそらくこれがベストのはずだ。相手にも時間はかけたくはない。・・・・・・どうだろうか?」

 

「俺はそれで構わないと思います。いや、もう少しずらしても構わないとも思っています」

 

「なに?」

 

 レイヴは訝しげに晴彦に視線を向けると、晴彦は驚くべき答えを口にした。

 

「現在、キャスターはこちらに内通する味方です」

 

「・・・・・・信じられるのか?」

 

 晴彦はゆっくりと頷くと、理路整然と説明を始めた。

 

「現に、俺には現在アーチャーのほかにキャスターとも魔力のパスを通しています。こちらから魔力を吸い上げることはありませんが、それでも半契約状態であると言っても過言ではないでしょう」

 

「だとすれば・・・・・・」

 

「まず間違いなく令呪による命令すら通る状態です。アーチャーにも確認してもらいました、加え、並の魔術師ならその存在にも気づかない代物だそうです」

 

 流石は神代の魔術師、呪歌以外にも魔女術にしてもキャスターを超えるものはそうはいない。

 だからこそレイヴは危険視する、魔女がただの善意だけで行動するのではないことを彼は良く知っているからだ。

 

「信用できるのか?」

 

「さぁ、ただキャスターとヨーゼフは不仲と言われています。そこを突く、つかなければ勝機は万に一つもありません。取り逃がせば、ヨーゼフ・ウッド・アルビオンを仕留めることは不可能となります」

 

「そうか・・・・・・」

 

 魔女は非常に狡猾で理知的だ、利用し、利用されることこそ魔女と付き合うための必修のようなものだ。

 その点でいえばヨーゼフを殺すことに関して晴彦たちとキャスターの利害は一致している。

 晴彦のやったことは褒められすれ、罵倒されるものでない、それでもレイヴにとってはそんな危険な行動をした晴彦に対して思うところはある。

 

「分かった、上出来だ。だが、あまり信頼しすぎるな。君とキャスターの為にもならんからな、君のサーヴァントはアーチャーだ、優先順位は間違えるな」

 

「はい」

 

 迷いなく、晴彦は肯定した。

 

「私も、覚悟を決めねばな・・・・・・」

 

 仇は取れなかった。

 それだけがレイヴの心残りだった。

 傷の癒えた手を強く握り締め、迷いを振り払う、そしてゆっくりと瞳を閉じた。

 

「少しだけ、一人にしてくれ」

 

「わかりました」

 

 ただならない雰囲気であると晴彦たちは感じたのだろう、丁寧に一礼をすると、ゆっくりと扉を閉め、それから遠ざかる靴の音を最期まで聞き届けると、レイヴ・ロザンは口を開いた。

 

「未練だな・・・・・・」

 

 それは何処か力の抜けた声で、自らを皮肉る様であった。

 

 例え、意味のないことだとしても、得るべきものがただの自己満足であろうとも、それでも彼は悔しかった。

 

「討って、やりたかった。この手で、私は・・・・・・」

 

 思い浮かぶは彼女の姿、どうしようもなく惹かれた、愛しき人の姿。

 

 レイヴは肩を震わせ、歯を食いしばる。

 堪えなくていい、もう、十分ため込んだだろう。

 

「くそッ・・・・・・くそッ、くそッ!! 私は、私は・・・・・・!!」

 

 ベットのシーツに顔を押し付け、彼は叫ぶ。

 慟哭、そして悔恨。

 チャンスはあった、幾らでも、それでも彼は手を下さなかった。

 

 一時的な感情でやれば、このような悔しさはなかったのかもしれない、そしてそれは同時に自身の勝利を投げ捨てることとなった。

 

 その結果がこれだ、大義の為に戦った彼はまさしく正しいだろう、その犠牲として、彼は自身の勝利と復讐を得ることが出来なくなった。

 二兎追うものは一兎も得ず。

 そう、彼の聖杯戦争はすでに終わっていた。

 勝つためには、守るためには、切り捨てなければならないから。

 

「取ってやりたかった・・・・・・、この手で、取りたかったんだ! あの男の命を! 君の仇だから・・・・・・、だが、だが・・・・・・!!」

 

 それが、これまでレイヴを支えてきた目的であり、信念、それが脆くも崩れ去った。

 

「できなかった、出来なかったんだ!! 私は、出来なかったんだ・・・・・・!! 私は、私はッ・・・・・・!!」

 

 どうしようもなく辛くて、どうしようもない虚無感が彼を包む。

 嗚呼、なんと無力なことか、これが限界、何かを為すには、何かを犠牲にしなければならない。

 

「・・・・・・くしょう・・・・・・」

 

 どうしようもないことに、打ちひしがれることもある、だが、それが人間なのだ。

 彼は英雄ではない、無茶や無謀を乗り越えるほど彼は強くない。

 

「ちくしょう・・・・・・!」

 

 だからこそ、今涙を流し、自身の無力に打ちひしがれる。

 

「―――うあああぁぁぁぁああああ・・・・・・!!」

 

 明日になれば、また戦いが始まる。

 だから、せめて今だけは泣こう、ありのままの自分でいよう。

 

 痛みを訴える傷を顧みず、涙でシーツが濡れる。

 彼の慟哭は自分の胸に押し込めて、そしてまた、明日も頑張ろう。

 

 それが、時計塔の貴族(ロード)レイヴ・ロザンなのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅ・・・・・・」

 

 礼拝堂の長椅子の一つに晴彦は腰かける。

 月明かりに照らされたステンドグラスが何とも神秘的な雰囲気を醸し出し、晴彦はしばしば時を忘れてそれを見つめていた。

 

「晴彦」

 

 ふと後方より晴彦を呼びかける声が聞こえる、間違いない、アーチャーだ。

 

「早瀬さんの様子は?」

 

「なんとか命は繋いだ様だ、少々アサシンがお痛しそうになったが問題はないだろう」

 

「そうか・・・・・・」

 

 最悪は回避された、それだけで何倍も心強い。

 味方は多ければ多いほどいい、ぼんやりとしていた思考から切り替え、冷静に物事に勤める晴彦。

 そしてその様子をアーチャーは複雑な面持ちで見ていた。

 

「晴彦、君は・・・・・・」

 

「―――大丈夫だ、俺は大丈夫だよ。アーチャー」

 

 そんな筈ないだろう。

 アーチャーは瞳を閉じ、暫し考えるように眉間にしわを寄せた。

 

「晴彦、君は今、痛いかな」

 

「・・・・・・」

 

 晴彦の状態はとてもまともじゃない、聖杯を取り込むという特性によって、晴彦の体は確実に蝕まれている。

 立っているのもつらい状況のはずだ、そしてアーチャーの見立てが正しければ―――

 

「気持ち悪い、辛い、だるい。

―――だが不思議と痛みが感じないんだ・・・・・・」

 

「・・・・・・そうか」

 

 晴彦は今、痛覚が完全に遮断している。

 聖杯を取り込んだことによる後遺症か、或いはあまりの痛みによって感覚器官が麻痺しているのか。

 どちらにしてもとてもじゃないがまともな状況ではない。

 

「アーチャー、俺はねようやく前に進めそうなんだ、だから、これから退くことはない」

 

「たとえその身が滅びるとしてもか」

 

「あぁ、きっとそれが俺が本当に目指したかったもののはずだから」

 

 怯えも震えもない晴彦の平坦な晴彦の声、その表情を窺い知ることは出来ないが、少なくとも彼はすでに覚悟を決めている。

 晴彦はそれを背中で語っていた。

 

「こっちの世界は表面でしか俺は知らない。けれど、思ったんだ。日常も、非日常も、境界なんてものは曖昧で、俺の知らない魔術の世界を生きる人たちもそれなりの日常を送っているんだって」

 

 一般人とは異なる超常の力を持っているとしても彼らも人間なのだ、それだけは変えられない事実である。

 彼らもまた人並みの情はある、苦悩する早瀬七海や愛に対してひたむきであったレイヴ・ロザン。

 

「正直、情報を秘匿して過ごしていることに一物はある、そして、それによって平穏に過ごしていた誰かが犠牲になるのは許容は出来ない。けどさ、アーチャー」

 

 嗚呼、なんて眩しい。

 強い子だった、最初は後ろ向きで、出来ることだけをやっていた。

 それが、いつの間にかこれ程までに成長した。

 手の届く範囲で、多くを救おうとしている。

 恐怖に打ち克ち、強大な敵に怯まず、多大な苦痛を乗り越えながら、彼はここまで来たのだ。

 

「守りたいものが出来たんだ、救いたい日々があるんだ。もう迷わないから・・・・・・、後悔だけはしたくないから。だから俺は進むよ、例え偽物だとしても、この気持ちは本物だと信じて」

 

「晴彦・・・・・・」

 

「アーチャーはさ、どうして英雄になったんだ?」

 

 それは、晴彦のラーマという英雄に対する問い。

 英雄という存在に対しての根本的な問いであった。

 

「・・・・・・そうだね、きっとただがむしゃらだったんだ。次代の王として、強く、清く、正しくあろうとして。滑稽な話だけど、僕は他の人間とは違うと思っていた。才能はあったと迷いなく言えるし、何せ身分が身分だったからね」

 

 眉目秀麗、文武両道、公明正大にして一騎当千の英雄はこうして形成された。

 

「王になれなかったことを悔やんだことは無いんだ、バラタは僕から見ても優秀だった、きっといい王になるだろうと、信じて疑わなかったから。・・・・・・けどまさか、僕の靴を王に見立てるとは思いもしなかったけどね」

 

 懐かしそうに、笑みを浮かべながらアーチャーは語る。

 英雄譚の主人公らしからぬ穏やかな笑みを浮かべて。

 

「幸せでもあったんだ、身分も何もなくなっても、弟と妻がいてくれて、そのままの平穏が続いてもよかったんだ。改めて修行して僧正のような聖仙にでもなろうかと思ったりね」

 

 ラーマという英雄は清廉だった、およそ欠点たる欠点もない完璧たる理想の英雄は最初は王であったのだろう、しかし、生まれもっての宿命が彼を英雄へと押し上げた。

 

「難儀な話だな」

 

「ははっ、確かに難儀な話だよ・・・・・・」

 

 望んで英雄になった訳じゃない、ただ必要だったから、妻を取り戻したかったから、何より悪逆たるアスラの王を止めなければならないと、そういった義憤に駆られて戦いだった。

 

「笑ってくれ晴彦、僕は最初妻を取り戻したかったんだ。そんな私欲で、僕は戦い。そして多くを殺した。ちょうどいい大義名分を掲げて、魔王を討ち滅ぼすとね」

 

「笑いはしないさ、正しいことだと信じてるだろう。なら胸を張るべきだ」

 

「・・・・・・そうだね、今なら思うさ。あれは間違いじゃなかったって。

―――だからこそ、僕はヴィシュヌが許せない」

 

 強い嫌悪をもつ声色、荒く、そして冷たい声だった。

 アーチャーは暫しの沈黙の後、落ち着き払った声で、晴彦に問いを投げた。

 

「・・・・・・晴彦、僕にはね憧れた王がいたんだ。わかるかな?」

 

 わからない、そう答えると、いつの間にか晴彦の前方まで歩みを進めたアーチャーは口元に人差し指を添え、洒落っぽく片目を閉じた様子から一転し、笑みを浮かべると、件の人物を答えたのだ。

 

「羅刹王ラーヴァナ。それが僕が焦がれた王だ」

 




 七海、レイヴと来て主人公かと思った? 残念、アーチャーなんだなぁ。
 終盤になると主人公が覚悟完了しててなんもいうことがない件について。
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