Fate/destruction   作:ニーガタの英霊

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 次回作タイトル『Fate/Giant killing』主人公によくわからない英霊を与えて、周りに大正義英霊を配置するインフレ聖杯戦争の予定。なお主人公は女性で才能は凡人レベルの模様。


第41話

 

「羅刹王ラーヴァナ・・・・・・」

 

「ああ、それが、僕が焦がれた王の名だ」

 

 羅刹王ラーヴァナ。

 ラークシャサの一族に生まれしランカー島の王であり、アーチャーの終生の大敵であった羅刹の王である。

 

「忌むべき大敵、恐るべき大敵。彼は悪であり、だからこそ打ち倒すべき敵であった。それに間違いはない」

 

 だからこそ、彼は戦ったのだ。

 死力を尽くした戦いの末に彼は勝利し、インド屈指の大英雄となったのだ。

 

「けれど、その生き方には惹かれるものがあったのは確かだ」

 

 それは憧憬、遠い視線の先にステンドグラスに映ったイエスを見つめながらも、彼はそれ以上に遠くを見つめていた。

 

「最初は、単純に許せなかった。愛すべき妻を奪った彼に心底怒った。どうにかしてこの手に取り戻すと誓い、そして彼の王に会ったんだ」

 

 恐るべき羅刹の王、十の顔を持つ異形のアスラ。

 天に浮かぶ黄金の戦車に乗り、あらゆる幻術を駆使し、その怪力は地を割る。

 神にもアスラにも魔獣にもあらゆる存在に対する不死の権能を持つ強大なる魔王。

 

「彼は強かった、傲岸不遜の羅刹王。誰よりも強くあろうとし、誰よりもひたむきであり、誰よりもまっすぐだった彼の王。だからこそ、悪であれども僕はその生き方を尊いと思った」

 

 敵味方入り乱れる戦場において、誰よりも鮮烈に誰よりも輝かんばかりに戦い続けた魔王と英雄の戦いは伝説となった。

 

「『―――嗚呼、見事なり人の子よ。余は人というのを見誤っていたようだ。この羅刹王を殺し切るその武勇を誇れ、貴様という人間(英雄)に殺されたことは、余は生涯の誇りだ』・・・・・・彼はそう言いながら死んでいったよ、とても満足そうに。―――だから」

 

 アーチャーはそういうと拳を強く握りしめ、眉を顰めた。

 

「羅刹王を殺したのは英雄(人間)だ、英雄(ヴィシュヌ)じゃない、ただの人間なんだ! そうじゃなきゃ、そうじゃなきゃ、本当にあの戦いは意味のないものになってしまう。それだけは、僕は認められない、認めるわけにはいかないんだ・・・・・・!」

 

 そう、ラーマと言う英霊はどこまで言っても人間だ。

 父や母に神を持つような半神ではない人間としての英雄

 

「だから僕は神を否定する。この身は人なりと、そう証明する。それが僕の人生の軌跡だからだ」

 

 自らの歩んできた道程は否定しない、ただ、捻じ曲げさせられたそれを、否定すること。

 それがラーマの願い、ヴィシュヌの否定の本質であった。

 

「・・・・・・そうか、よくわかったよ。アーチャー、お前はラーヴァナの為に戦っているんだな」

 

「・・・・・・そうでもある、かな」

 

 アーチャーは少しだけ微笑みを浮かべながら答えた。

 それがすべてではないだろう、しかし、アーチャーが戦うのはひとえに宿敵の為でもあった。

 あの戦いを穢してはならない。

 

 死力を尽くし戦い、そして散っていったものたちがいたあの戦場で、敵であろうと味方であろうと、皆全霊を尽くして戦った。

 

 だからこそ、ラーヴァナの言葉は胸に響いた。

 

「謝罪もなく、恨み言もなく、そして何より悔いなく死んでいった。男なれば、嗚呼、この上なく憧れる死に方だ。少なくとも、僕はそんな風に死んでいきたかった」

 

「憧れは理解から最も遠い行為だぞ」

 

「それでも、だよ。別段、彼の王のすべてを理解しようとは思わないさ、僕と彼の王はどこまで行っても平行線、彼は悪で僕は善。そうでなくてはならないからね。それに僕と彼の王に言葉はいらない、射抜く矢と術の応戦が僕らの対話さ」

 

「そりゃ随分と物騒なコミュニケーションだ」

 

「違いない」

 

 くつくつと笑い声をあげる主従。

 単純にただおかしそうに笑う主従、なんの含みもないその笑みは彼らの絆の深さを感じさせるようである。

 

「―――戦いは決して肯定できるものじゃない。多くを殺し、殺され、そんな悲惨なものを肯定する気はない。だけど、それを全部神の自作自演なんて結末だけはあっちゃいけない。僕らは戦ったんだ、譲れない一線を抱えながら、懸命に戦った。

―――あったことを、なかったことにしちゃいけない。あの戦いは僕の、僕らの戦争だ。僕らの英雄譚なんだ」

 

「・・・・・・」

 

 ヴィシュヌの否定、それによる英雄譚の再構築。

 否、再構築ではない、アーチャーの英雄譚ではヴィシュヌは端役だ、正常化といった方が正しいのだろう。

 願うことなら叶えてやりたい気持ちもある、だがしかし、聖杯が願いの志向性を『破滅』へ向かわせるならそれは不可能と言っていいだろう。

 

「―――青年は、とある夜に一人の男と出会った」

 

 言い訳かもしれない、妥協かもしれない。

 それでも、この男に何かを残してやりたくて、気がついたら口を出していた。

 

「―――薔薇色の瞳を持つ英霊と出会い、数々の敵と戦い、そして、日常を守るために戦う物語だ」

 

「晴彦・・・・・・」

 

「アーチャー、人間の人生ってのは、一つの広大な物語だ。失敗も、経験も、挫折も、成長も、全部その人生に詰め込まれている」

 

「・・・・・・」

 

「ハッピーエンドで終わる人生(物語)もあれば、残酷なバットエンドの人生(物語)で終わる結末もある。それでも、積み重ねてきたモノは本物だ。・・・・・・だからアーチャー」

 

 振り向く瞳は薔薇色、少しだけの疑問と、一字一句聞き逃さんとする意志のある瞳がそこにあった。

 いつだって、彼は本気だった、だからこそ、晴彦もこの夢想を本気で信じよう。

 

「これは、俺たちの物語だ。勧善懲悪なんて言えないかもしれない。敵にも何かしらの想いがあって、人生があって、踏みつぶして、砕いて、乗り越えて。綺麗なものじゃないけど、つまらないかも知れないけど、それでも俺はこの人生を―――物語を決して後悔しない」

 

 真正面から交差する瞳、恐れることなく、晴彦は言葉を以てアーチャーとぶつかり合う。

 背筋を流れる冷や汗は、全身に抱える辛さか、それとも別の要因か。

 

「だからアーチャー、俺たちの英雄譚(人生)についてきてくれるか? 妥協かもしれない、役者不足も重々承知だ。それでも、お前がついてきてくれるなら、俺はうれしい・・・・・・」

 

 アーチャーは暫しの逡巡の後、少しだけ笑うと優しげな笑みを浮かべた。

 

「・・・・・・成る程、確かにこれが僕らの英雄譚でもあるか。単純な絆だけではない、互いに利用し合い、最初は敵同士だったり、それでも最終的に皆心を同じくして敵に立ち向かうか。成る程、確かに英雄譚だ」

 

「登場人物の数だけ主人公だ、勿論アーチャーも主人公さ」

 

「それはすごい、二作続けて主人公なんて中々出来ることじゃないね。しかも未来世界なんてSFだね」

 

 うまいことでも言ったつもりなのか、くつくつと笑い声をあげる。

 聖堂内に木霊する笑い声、ほんの数秒の和やかな空間、嵐の前の静けさといったところだろう。

 

「―――晴彦、ありがとう」

 

「・・・・・・」

 

「キャスターのような軍勢召喚能力があれば、それもよかったんだろうね。それでも、僕は、僕だけじゃなく、皆にも共有して欲しいんだ。我が儘だな、僕は」

 

 顔をあげたアーチャーの顔はどことなく嬉しそうで、同じくらい悲しそうだった。

 

「それでも、この戦いだけは、ヴィシュヌのものじゃない。そう思うだけで、僕はとても嬉しいんだ」

 

「・・・・・・それは」

 

 晴彦が二の次の言葉を出す前に、アーチャーは後ろに振り返ると、徐々に霊体化する。

 

「なんでもないさ。ただ、ちょっとだけざまぁ見ろって感じだからね」

 

 アーチャーは数瞬で聖堂から表に出ると、教会の屋根に飛び乗った。

 

「―――だって、この英雄譚の物語の主人公は英霊じゃなく、君たちだからね。そして、僕にとっての主人公が晴彦か。人間の物語だ、どうだヴィシュヌ、どうだラーヴァナ、これが人間の力だぞ」

 

 悠々と昇る月を見つめながら、優しげな笑みを浮かべて。

 ひどく満足そうに眼を細める。

 

「晴彦も晴彦だ、死んだ人間の心配なんてもういいのにな。嗚呼、だからこそ、僕なりの死力を尽くそう。

―――この身は解き放たれた一矢故に・・・・・・!」

 

 征こう、これが我らの英雄譚。

 胸に秘める熱い意志を以て我らが大敵を打ち破らん。

 誓いを胸に弓兵は征く、これが最期の戦いになると信じて。

 

 

 

 

 

 

 

「まったく、手の早い奴だ」

 

 一人聖堂内に取り残された晴彦は嘆息しつつ、己が相棒に想いを馳せる。

 

「弱いな俺は・・・・・・いや、言い訳か」

 

 弱いからなどとは言い訳だ、少なくとも弱くても何も出来ないわけではない、何かしらできることはあるはずだと、そんなことは言い訳だと晴彦は背もたれにもたれ掛かり、思考を巡らす。

 

 レイヴ・ロザンを動かすことは出来なかった、だかそれがなんだ。

 その策がだめなら次善の策を以って敵を倒せばいい、最小限の動きで最大限の効率をだ。

 

「キャスター、聞こえているかな」

 

(勿論だとも)

 

 晴彦は不意に念波を繋いだ。

 

「作戦開始は明朝、それまでに覚悟を決めてくれ」

 

(あいよ、こっちもそれなりに準備がいるからね。最も、今はあの男に従うしかないけどね)

 

「分かっている、今はヨーゼフ・ウッド・アルビオンに従え、時が来れば協力してもらう。それが契約だ」

 

(あぁ、そうさね)

 

 淡々と話を詰めていく晴彦とキャスター。

 最終決戦は近い、目の前に迫る勝利を目指し、晴彦たちは戦う、それが彼の選択したことだからだ。

 

(けど、無理はするんじゃないよ。アンタ、そのままじゃ年は越せないだろうからね)

 

「・・・・・・」

 

(わかってるんだろう、自分の体のことだ。やせ我慢ばかりして周囲に迷惑をかけないようにしてもわかる奴にはわかんのさ)

 

「・・・・・・流石はキャスターだ。慧眼だな」

 

 流石に一定の力を持つ魔術師の腕はごまかせない、キャスターも気づいているのだ、晴彦の体のことを。

 

(はっ、そうでもないさ。大方アーチャーも気づいているだろうさ、それでも言わないのは奴なりのやさしさだろうね)

 

「そうだな、俺はいいサーヴァントを引いた」

 

(全くだ、自分の幸運に感謝するんだよ)

 

 呆れ混じりに語るキャスター、しかし談笑もそこまで、咳払いをするとキャスターは神妙に語りだす。

 

(まぁ、冗談はこの辺にしておこうかね。いいかい、今回の小聖杯、ちょっとやそっとじゃいかなくなるだろうね)

 

「聞こうか」

 

(既に二騎分の英霊を取り込んでいる。だからこそ言うよ。これ以上サーヴァントを取り込めば何かしらの自浄作用が現れるだろうさ)

 

「と、言うと?」

 

「サーヴァントの再召喚。これが最もあり得るだろうさ」

 

 サーヴァントの再召喚。

 それがあるとすればこちらの数の有利というものが吹っ飛ぶ可能性もある。

 そして、キャスターはたしなめるようにこうも言った。

 

(そして、止める方法もないね。いいかいアンタの容量はどう足掻いたってあと二騎分だ)

 

 サーヴァント二騎分、それが晴彦が取り込めるサーヴァントの限界容量。

 

(それ以上取り込んだら、まず間違いなく死ぬだろうさ。体が崩壊して、取り込んだサーヴァントも小聖杯―――そして大聖杯に送られる。そうなったらどうしようもない、破滅に一直線さ)

 

「・・・・・・」

 

(だから、私はこう言う。―――決してアタシを取り込むな。アンタに必要になってくるのはアサシンとアーチャーだ。その二騎を取り込みな)

 

「なぜその二騎なので?」

 

 キャスターはためらいつつ、口を開く。

 

(終焉の一撃を持つアーチャー、そして疑似的な直死の魔眼を持つアサシン。そいつらだからこそ、聖杯を破壊できる。おそらくは最高の結末でね、だからそいつらは途中退場してもらう、絶対にね。勿論アタシも途中退場組だろうさ。だからこそアンタに託した)

 

 そう、これが残された勝ち筋。

 出来ることならサーヴァントが死ななければいいだろうがそうはいかない。

 

 まずもって、キャスターとアサシンは死なざるを得ないだろう、そこから先は分からない。

 バーサーカーもどう旗色を変えるかもわからない状況、出来ることなら倒しておきたい陣営だ。

 

(だから―――死ぬんじゃないよ、小僧。アンタには生きてもらわなきゃならないのさ。死んだ英雄なんてまっぴらごめんさ。生きてジジイになって死にな、それがアタシがアンタに言えることだろう)

 

「ふふっ、そうか。―――いや、なんだ。話してみると中々に良い人だな、キャスターは」

 

 そう晴彦が漏らすと、キャスターはややたしなめるように言葉を継ぐ。

 

(そうかね? 案外騙そうとしてるかも知んないよ)

 

 そういうことを言うやつは大体人をだまそうとはしないだろう。

 それに、晴彦はキャスターについての知識や対面しての感覚よりその人柄を熟知していた。

 

「だとしても、君は契約を破る人間じゃないだろうさ、魔女はそう言ったことには厳しいからね」

 

(ふん、妥協だよ、妥協。どうしようもなければ諦めも肝心なのさ。それに拾われた命だ、その分の仕事はするさ。何せあの馬鹿マスターに一発加えられるチャンスだ、ワクワクするよ)

 

「ま、そういうことにしておくよ」

 

(あぁ、そういうことにしてくれ)

 

 暫しの脱線と談話を含めつつ、晴彦はキャスターとの会話を楽しむ。

 明日にはそんな風には言ってられないから。

 

「さて、俺もそろそろ寝るよ、何せ明日に備えないといけないからな」

 

(そうだね、いい夢を。子守歌でも歌おうか?)

 

「いいよ、今日は、ぐっすり眠れそうだからね」

 

 おぼつかない足取りなれど、彼はゆっくりと部屋へと戻る。

 大丈夫、きっとどうにかなると彼は信じて行くのだ。

 

 明日にはいつも通りの日常が来ると信じて―――。

 




 主人公も大分図太くなってきたな、最初はアーチャーにいろいろ相談してきた晴彦くんが最終的にアーチャーの相談に乗るという逆の関係に。これが聖杯戦争効果か・・・・・・
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