Fate/destruction   作:ニーガタの英霊

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 実家帰省中の間だけは元は抜きます!


第43話

 

「はぁ・・・・・・、はぁ・・・・・・、はぁ・・・・・・」

 

 洞穴の最奥を目指し駆け行く少女がいた。

 濡れた白髪を靡かせ、衣服は布を一枚羽織った程度の軽装ながら懸命に走り続ける少女。

 

 体力が無いのか、或いは走り慣れてないのか、ぎこちない足取りながら一歩、また一歩と前へと進む赤目の少女、五号がいた。

 

「はぁ・・・、はぁ・・・・・・、っく、速く行かないと・・・・・・!」

 

 いったい何が彼女を駆り立てるのか、息を切らし、足を震わせながらも少女は歩みを止めない。

 裸足で歩く少女は痛みに耐えながらも懸命に行く。

 

 周囲に目を向ければ、そこには数々の人形たちが闊歩し、最奥へと門番をしていた。

 

「バーサーカーは戦闘中、侵入者によってキャスターのマスターも出ている。今がチャンス・・・・・・、だけど」

 

 それをするだけの力は五号は持ち合わせていなかった。

 彼女は魔力供給に特化したホムンクルス、多少の護身的な魔術は行えるが、戦闘能力は皆無だ。

 

「・・・・・・少しだけ、少しだけ待ちましょう。状況が変われば、きっと・・・・・・」

 

 彼女は待ち続ける、必ず好機は来ると信じて。

 

「今は、少しでもこいつらを減らしておきましょう」

 

 魔術回路を起動させ、五号の静かな戦いは始まりを告げた。

 

 

 

 

 

 

「さて、先程までの威勢はどうした?」

 

「そちらこそ、それで何体目だ魔術師」

 

 あふれ出る人人人、洞穴は一種の混戦模様と化していた。

 ヨーゼフが繰り出すはここまで創り上げた人形の数々、自立式に動く人形もあれば、ヨーゼフが肉体をひも状に伸ばして操るパペット等、その量と種類は暇がない。

 それを操り、動かし、そしてそれに対しアサシンとレイヴはいなしている。

 

「所詮は人型だ、どんな風に切れば動かなくなるか予測は簡単だ、精巧に作りすぎたなヨーゼフ・ウッド・アルビオン」

 

「なに、生憎それしか出来んのでな、しかしいささか埒が空かないな。適当に死んでは貰えないかアサシン」

 

「やなこった、ばーか!」

 

 軽口をたたきつつも、その腕に寸分の狂いなく次々と人形を解体していくアサシン。

 そして、その裏にはレイヴの支えもあった。

 

「軽口を叩くな暗殺者、支援術式を打ち切られたいか?」

 

 レイヴの得意とする魔術は何も錬金術やオーソドックスな元素変換だけではない。

 アサシンの肉体に浮かび上がる蒼い文様、ルーンや符術などの刻む術からインスピレーションを受けた特殊な術で編み込んだ刺青であった。

 勿論デメリットとしては文字通り文字を刻むために、塗り替えが出来ないことや、そもそも肉体を持っていなければ使用不可能であったり、対魔力持ちで会った時など目も当てられない状況になってしまうと問題も多く、レイヴですらまさか聖杯戦争で使わないだろうと思っていた術であった。

 

 かくいうレイヴも足にその術式を編んでいる為、品質は中々に良い。

 サーヴァントにしてみればおよそワンランクまでとはいかないがそれなりの強化を果たしている優れものであった。

 

「それは困る、非常に困るぞレイヴ・ロザン」

 

 そして何よりの問題として、魔力を持たないものに対しては本当にただの刺青でしかないことであった。

 背中と両腕と両足、完全定着とはいかないがそれでもかなりの効果が発揮されているこれを止められてはアサシン的にも非常に困ったことになる。

 即席で二時間ほど寝る間を惜しんでやってもらったのだ、かなり痛かったが、これも勝利の為を思えばやらざるを得なかった。

 

「全くだ、こんな小手先しか出来んがな」

 

 大けがの状態でのこと、それなりにレイヴも疲労していたが、弱音は吐かない、それが時計塔の貴族というものであるからだ。

 

「そして回り込んでいる人形諸君。残念だがそこは君たちの終着駅だ」

 

 アサシンを無視し、先にレイヴを仕留めようとした人形に対し、低く冷たく呟くと、人形は足元の爆発によって下半身を、或いは上半身を吹き飛ばされる。

 

「神父の礼装をいじらせてもらった。なぁに、時間があればこんなものよ。見えざる機雷(Invisible・Mine)の味はどうだね?」

 

 魔宝石を原料に各種礼装を組み合わせることで作り上げた即席礼装によってレイヴは身の安全を確保していた。

 特製器具もあればさらに高度なものも作り出せるが、彼にとってはこれが限界であり、このようなものが現状で最も効果的な礼装であった。

 

「流石は才能豊かな貴族だ。俺様も嫉妬してしまう、だが、その礼装がいくら持つかな?」

 

 だが、いうなれば使い捨ての礼装、持ち運べる量はそれほど多くは筈と、ヨーゼフは人形を突貫させるが、レイヴはやや嘲笑しながらそれをぼんやりと見つめていた。

 

「そうだな、確かに弾数に限りはある。作るのは手間で作るのに五時間もかかってしまった」

 

 数多くの人形に囲まれるレイヴ、しかし、それを意にも返さずに手を合わせると、途端に礼装は発光し周囲を閃光で埋め尽くした。

 

「この礼装には特別な作用があってな、連鎖爆発と言って連鎖させればさせるほど威力が上がる。今のでおよそ百個だ。なに安心したまえ、後その十倍は持っているからな」

 

 光が収まればそこにはばらばらに砕け散った人形の姿、当のレイヴはピンピンしていた。

 

「一個作るのは大変だ、何せ完成すれば一つの大きな塊になるからな、それを分解すれば千個なんてすぐのことだ。

―――わかるか? 私はこれ一つ作るために一睡もしてないんだぞ」

 

 これによって人形のほとんどが崩壊、数の差で見れば優勢であるが、ヨーゼフは劣勢へと立たされたのである。

 

「子供たちの前では大見得切った手前だ、私のストレスのはけ口にさせてもらう」

 

 これが、時計塔の貴族。

 これが名門の意地。

 気高い血筋にそれに恥じない努力と才能を併せ持った本当の強者である。

 それに加え、この聖杯戦争で得た、教訓を加えれば、彼に勝てる者はそうはいないだろう。

 

「時計塔の貴族が一角、元素変換科副学部長、ルーン魔術、元素変換、錬金術、鉱石学一級講師、その他諸々二級講師。『典位(プライド)』ロード・ステュアート七代目当主とはこのレイヴ・ロザンのことだ・・・・・・! 無礼るなよ、スライム野郎!」

 

 これこそが、レイヴ・ロザンの本気。

 まさしく本領発揮と言ったいいだろう。

 

「ふん、だが俺様を殺すことは―――ッ!」

 

 そして、その時は訪れた。

 

 ヨーゼフは違和感に後方を振り向くと、己の人形とのパスを確認する。

 

「ネズミか? あるいは別口からの侵入、あり得ない。ならば・・・・・・そうか、貴様かホムンクルス」

 

 後方からもたらされたその情報に対し、ヨーゼフは雰囲気を一変させる。

 

「・・・・・・どうやらお遊びはここまでだ。俺様も忙しい身でな、所用が出来た。故にここからは仕留めさせに行かせて貰おう」

 

 今までとは違う、異質な魔力の奔流を身に受け、レイヴは真っ先に危険を感じ取る。

 

「アサシン、来るぞ! おそらくアレが奴の切り札だ!」

 

「ああ、だが・・・・・・」

 

 逃げるわけにはいかない、そもそもそうさせてはくれないだろう。

 何せ、このまま逃がしては間違いなくレイヴとアサシンはヨーゼフにとっての不確定要素になり得る。

 今まさに不確定要素によって背後を脅かされている状況だ、おそらく、逃がしては貰えないだろう。

 

「孤独な愚者は異邦人。嗚呼、海神(わだつみ)よ、なぜそれほどに雄大なのか」

 

 平坦と告げられる魔術詠唱、それはまさしく魔術という者からは剥離している。

 

「遠き海の彼方よ、我が声が聞こえるだろうか」

 

 周囲を塗り替えるほどの魔力、アサシンが駆け出し、十、二十と切り刻むが意味はなく魔力は洞穴全体を包み込む。

 

「父母の遺灰よ、どうかこの白き丘(アルビオン)の先で、我が御霊を育んでほしい」

 

 それは彼の願い、彼の想い。

 

「我は魔術師、矮小な魔術師」

 

 ヨーゼフ・ウッド・アルビオンという男の生涯を体現する大魔術。

 

「この命は海の稚児なれば、千里を廻る永久の水よ。どうか我が御霊を遠き水底へ連れ去ってくれ」

 

 括目せよ、これが彼の世界、彼の心象風景。

 

「永遠に廻る不滅の生命、それこそ我が望みゆえに」

 

 空間が歪み、世界は変容し、再構築され、そして生み出した世界。

 

創成(create)―――『回帰せし水底(Tír na nÓg)生命の海(Manannan Mac Lir)』」

 

 人呼んでそれを、固有結界と言う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「悲しむ聖母がたたずみ、十字架の下で涙にむせばれていた。御子が十字架にかかっていたからです。嘆かれ、悲しまれ、苦しまれる聖母の魂を剣が刺し貫いていたからです」

 

 雪原を舞うように縦横無尽に駆ける老いた男の姿があった。

 

「おお、なんという悲しみと傷つき方だろう、祝福され、神のひとり子の母だというのに」

 

 男は歌う、愛の歌を。

 神を慈しみ礼賛する讃美歌を。

 

「聖母は悲しみ、苦しまれていた。あわれみ深い母はずっと見ておられた。御子の救いのわざをだれも知らぬ人はいない」

 

 黒鍵を握りしめ、切り裂き、投擲し、そして口ずさみながら、魍魎との攻防を続ける神父。

 その瞳はどこか憐れみを浮かべながら、静かに魍魎に立ち向かう、一端の戦士である。

 

「涙しない者がいるだろうか? かくも大きな苦しみのキリストの母を目にして。悲しまない者があろうか? 御子と共に苦しまれたあわれみ深い聖母のことを思い浮かべ」

 

 救われぬ者に救いの手を、報われぬ者に報いを。

 愛を知らぬ者には、愛を。

 そう信じて疑わなかった聖母の祈りを歌にして、彼らに捧げよう。

 

「ご自分の民の罪のためにイエスが責められ、鞭打たれるのを聖母は見ておられた。愛する御子が苦しみに打ちすてられ、息絶えるのを見ておられた」

 

 救わなければなるまい。

 魔女に囚われた哀れな御霊を解放せしめんと聖職者としての本意故に彼は祈る。

 

「ああ、愛の泉である御母よ、わたしにもあなたと同じ悲しみを感じさせ、あなたと共に苦しませてください」

 

 嗚呼、まるでそれは歌劇のように美しく、儚く、そして切ない。

 

「わたしの心を燃え立たせてください、神であるキリストを愛せるように。み旨にかなう者としてください」

 

 動きを鈍らせた魑魅魍魎は一つ、また一つと切り裂かれ、やがては満足そうに消えて逝く。

 

「聖母よ、お願いします。十字架の傷をわたしのささえとして心に刻み込んでください」

 

 すぐそばで行われる質量と質量のぶつかり合いなどなかったかのように、淡々と行われるその舞踏。

 

「あなたの御子が傷つけられたのは、わたしのためでした。わたしにもその苦しみを分け与えてください」

 

 この戦いに観戦者がいるならば、その美しさと神聖さに目を奪われるであろう光景。

 

「あなたと共に真実の涙を流し、十字架の苦難を味合わせてください。わたしが生きている限り」

 

 それは鍛え上げた鋼の肉体と、讃美歌が織り成す秘蹟の融合。

 

「十字架の下であなたと共に立ち、進んであなたと苦しみを共有したいのです」

 

 消え去れ、それこそ汝の救いなり。

 

「おとめの中でもすぐれたおとめよ、どうかわたしを退けずに一緒に嘆かせてください」

 

 神代より苦しみ続け、魔女に囚われた哀れな御霊よ、もう苦しむな、君らは眠るといい。

 

「キリストの死と受難の道をわたしに歩ませてください。イエスの傷をわたしにも負わせてください」

 

 喩えその身が煉獄に落ちようと、必ず救いの手は現れると、その為ならば何度でも祈りを捧げよう。

 

「わたしに傷を負わせてください。十字架を味合わせてください。御子の血で酔わせてください」

 

 その罪をその悲しみも、すべて私が背負ってやろう、私の荷物は軽いから。

 

「地獄の火で焼かれないように、おとめよ、わたしをお守りください、裁きの日に、わたしを十字架によって守護し、キリストの死によって守り、わたしを恵みで満たしてください」

 

 見渡せば、哀れな御霊はそこにはなかった。

 神父は魔力を徐々に鎮めると、ただ一人、雪原の上でこぶしを握りしめ、祈りを捧げた。

 

「この体が死を迎える時、わたしの魂に天国の栄光を与えてくださいますように。―――Amen.」

 

 ただ一言、その言葉を以て周囲に漂う邪気を払い、一種の聖域を作り出した。

 もはや、神父に対し手を出せる下級霊はもはやここにはなかった。

 

 最終決戦の始まりから数刻、今まさに、最初の戦いが決着した。

 

「・・・・・・さて」

 

 相性が良かった、そもそも退魔師という側面がある以上こういった悪霊とは比較相性がいい。

 神父が安堵したのは束の間、さてこれからどうしようと考えたが、どうにも思考が鈍く、気がつけば膝を着いていた。

 

「いかんな、無理をし過ぎた。てんで歩けないな」

 

 神父はなんとか這うようにして、門の内側までたどり着くと、漸く一息着いた。

 

「バーサーカーとタロスは互角、だが、直に決着が着くだろう。それまで、この老骨は暫し休ませて貰おうか」

 

 先程とは違う鋭い刃のような姿から年相応の老人のように背中を丸め、胡座をかいて座り込む。

 

「信じて待つか・・・・・・、私には祈ることしか出来なさそうではあるがね」

 

 神父は苦笑を浮かべつつ、暴風のような巨体と怪物のぶつかり合いを肴にし、神父の戦いは暫し幕引きとなったのだった。

 




 レイヴさんはね、天才なんだよ。七海だってケイオスマジック使ってるんだ、手先が重要なモノならレイヴさんは大体得意だよ。
 なおレイヴさんの表の名義は古典学者、おかげで浅く広くいろんなことを教えられるらしい。
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