Fate/destruction   作:ニーガタの英霊

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第52話

壊れた幻想(ブロークンファンタズム)―――」

 

 煌めく極光は世界を包み込む。

 吹きすさぶ爆音と風が倉敷山を包み、極大の神秘の輝きを見せつける。

 超至近距離にて爆発したソレは対城宝具すら上回らんとするほどであり、そばに居たものを片っ端から破壊する。

 

 状況を顧み、そして理解した。

 あんなものを受けては人は容易に死んでしまうであろうことに。

 

 事実、爆散したタロスの部位は散弾のようにばら撒かれ、木々を薙ぎ倒す。

 

「・・・・・・」

 

 声も出ず、ただ茫然とその様相を見続ける七海。

 険しい表情を見せ、静かに黒鍵を手に、その爆心地を見る神父。

 おびただしいほどの煙が晴れ、その場所に立っていたのは四肢をぎりぎり繋がっている状態の渾沌の姿だった。

 

「やったか・・・・・・?」

 

 流石にあれほどの攻撃を受けて生きているはずがない。

 七海はそう思ったし、そう信じたかった。

 

「いや、まだだな」

 

 その言葉を、希望的観測を神父は否定する。

 虫が這うような音を響かせ、渾沌の肉体は再生していく。

 己が半身を吹き飛ばされようと尚も再生する生命力に七海は生理的嫌悪感を隠せない。

 

 しかし、その様相に対し何も対処しないなどと言うことはあり得ない。

 神父は黒鍵を投擲し、炎を纏わせる。

 

「―――王冠(Kether)ッ!」

 

 再生を少しでも遅らせようと遅延作戦を実行する神父。

 再生している状況であれば、渾沌はそれに注視する。

 なればその状況こそがチャンスに違いないとロナウド・ハーペンはこれまでの渾沌の様子を顧みて行う。 

 

「ちぃ―――ッ!」

 

 だが、所詮は付け焼き刃その程度ではかの怪物の脚すら止めることは叶わない。

 超至近距離での爆発によって渾沌の周りの溜まりは霧散したがそれもこの怪物が完全に再生しきればどうなるかは火を見るより明らかだ。

 タロスと言う現在最強の矛にして盾を失ったのなら、後は崩壊のみ。

 

「―――」

 

 その様子を見て、七海は詠唱に取り掛かる。

 ちっぽけな魔術であろうとも何もしないよりははるかにましだと信じ声を張り上げる。

 

「―――えっ・・・・・・!」

 

 そして、彼女はふと上空を見上げる。

 一瞬の思考、そして判断。

 茫然としていた表情は厳粛に引き締まり、刹那の間に覚悟を決める。

 

「ハーペン神父、肉体強化を!」

 

「―――」

 

 何をとは言わない、この後に及んで無駄な判断をするほど彼らはおちゃらけてはいない。

 何も言わず、神父はすぐさま術を中断し、肉体強化の詠唱を唱える。

 

「『縛れ』!!」

 

 四肢を魔術の鎖で縛り上げ、楔を打ち付ける。

 一瞬の間のうちに拘束した怪物は今よとばかりに肉体の修復に走る。

 

「甘いわ!」

 

 しかし、それは叶わない、再生部位を鎖でがんじがらめにして再生を少しでも鈍らせ、同時に時間を稼ぐ。

 腐食し、崩壊していく鎖を見ながら、七海は何度も何度も、鎖を生成する。

 

 ここが正念場、再生スピードは速く、到底七海の技では止めることは出来ない。

 どう足掻こうとも、渾沌は再生する。

 

「―――ッ!!」

 

 時間との勝負。

 鼻から血が垂れ、頭がズキズキと鈍い痛みが走る。

 それでも戦わなければならない、父が愛したこの場所を、この地を、七海は守る義務がある。

 

『―――よくやった』

 

 そして、脳に直接響く声が、リミットの終了を知らせる。

 

 目を覆うほどの炸裂音、それはレイヴ・ロザンの持つ改造魔力石である礼装。

 上空よりばら撒かれたそれはまさに今持っているモノのすべてを渾沌にぶつける。

 

 轟音と共に森に強風が巻き起こり、落ちていくレイヴを神父が回収する。

 

「無茶をしたな」

 

「生きるためだ、仕方なかろう―――」

 

 壊れた幻想には指向性がある。

 一見して宝具破壊の技であり、半ば禁じ手ではあるが、それゆえに扱いには慎重にならざるを得ない。

 タロスはそれだけで一級線の兵器であるが、その中でも特級の神秘を持つ部位がある。

 それは胴体にある血管とその中を通る神の血(イーコール)だ。

 

「起爆させたのはタロスの内部にある血だ。それだけ爆発させれば、血の通っていない頭部はシェルターとして機能する」

 

 宝具を作り出す英雄がいたとして、作成した宝具すべてが壊れた幻想の一言ですべてなくなるわけではない。

 タロスの現在の持ち主はマスターであるレイヴ・ロザンである。

 成功するかは半々であったが、それも成功した様なら万々歳である。

 

「時計塔は数々の聖杯戦争における記述は残しておいてある。先人の知恵とはいざというときに役にたつモノだな」

 

 所々傷を負い、傷口が再出血しながらも、レイヴ・ロザンは何とか一命を取り留めた。

 魔力回路はまだ余裕がある、しかし、どうにも肉体の限界が近い。

 朦朧とする意識の中、レイヴは荒い息を吐きながら懸命に意識だけは切らさないようにいた。

 

「―――どうだ、渾沌」

 

 そして、ニヒルな笑みを浮かべて渾沌を見据える。

 指を指し、ボロボロになりながら、レイヴ・ロザンは宣言した。

 

「私たちの、勝利だ―――」

 

 瞬間、木々の間から飛び出してきた黒い影が、渾沌へ迫り来る。

 

「術を解除しろ! 早瀬七海ッ!!」

 

 強き声に導かれ、七海は術を解く。

 拘束が弱まった瞬間、渾沌の肉体はすぐさま再生し、その容貌は元通りとなる。

 

 復活を遂げた、神威の怪物、しかしその姿こそ渾沌の弱点そのもの。

 

「―――済まない」

 

 裸の上半身に、ズボンは所々泥と血に染まり、黒き短髪は風に煽られる。

 そしてその身に纏う膨大な魔力はやや減少しつつも、その瞳は爛々と輝いていた。

 

「―――待たせた」

 

 片手に小枝を持ち出でて、正面に立つその男―――葛西晴彦は確かにそこに立ち出でた。

 

「さあ、終わりにしよう。俺たちの聖杯戦争を―――」

 

 そう呟いた青年は、手にした小枝を握りしめ、渾沌の正面に立つ。

 

 脆弱な人間、今にも死にかけのはずなのに、それでも彼は前に立つ、それでも彼は戦い続ける。

 誰も彼もが不可能と、そう言って憚らないそれを前にして、葛西晴彦は笑みを浮かべて嗤う。

 

 正面に立つその存在に渾沌はありったけの溜まりをぶつける。

 覆うものすべてを溶かし、腐食させるその毒に、何人たりとも抗えないと、そう信じて、四凶渾沌はその悪意をぶつける。

 

 防御不可能の攻撃はどう足掻こうとも防げ得ない。

 

 ―――ただ一つの例外を除いては。

 

「嗚呼―――、やっぱりそうか・・・・・・」

 

 晴彦がやったことはただ小枝を横に振るっただけ、それだけの動作に対し、溜まりは一刀両断され霧散する。

 

「あれは―――」

 

 そんな非現実的な状況に、目を見開いたのは時計塔の貴族の一人であるレイヴである。

 防御不可能の攻撃をいとも簡単に切り裂く、そんな情景はそう多くはない。

 複数ある中の選択肢の中導き出された結果、レイヴはこう予測した。

 

「―――直死の魔眼」

 

「見えるんだよ、如何なぞればいいか。どうやれば討てるか、見えるんだ」

 

 防がれた七孔のその点線が彼の眼には見えている。

 

「取りに行かせてもらう、お前で全部終わらせて、最高の結末で終わらせてやる―――!」

 

 瞬間、地面が爆ぜる。

 人間を超えたその速さはまさに英霊かくやという速さで晴彦は渾沌の足元を通り過ぎる。

 

「―――っずァッ!!」

 

 ブチっと自分の体がちぎれる音を響かせて、葛西晴彦は渾沌の機動力を奪った。

 狂化と医術、専科百般を組み合わせ、渾沌の足の健を切り裂く。

 目にも止まらぬ早業に直死の魔眼の効果も加われば、それは治癒不可能な機動力を奪ったにも等しい。

 

「さぁ、姿を表せ『千里眼』―――」

 

 アーチャーの持つ千里眼はBランク相当であり、このランクでは透視すら可能とする。

 

 いる筈だと、必ずそこにある筈だと、晴彦は目を凝らし、そしてようやく見つける。

 渾沌の中にある大聖杯と少女の姿を。

 

「『幻想殺し』『専科百般』『医術』『天性の肉体』『戦闘続行』―――ッ!!」

 

 怪物特攻、弱点看破、肉体強化、死に難く、弱点を見つけ、そのすべてを補完する。

 今まで彼らを支え、そして時には猛威を振るったその力を、晴彦は余すことなくぶつける。

 

 骨が軋み、臓物が捻れ、吐き気を堪えながら、たった一本の小枝を振るい、ただただ邁進する。

 血反吐吐いて、血肉をまき散らし、それでも前に進み咆哮する。

 嗚呼まさに、生きているのならきっと神様だって殺して見せるとでも言うように。

 

 背を切り落とし、無造作でありながら、何かをなぞるかの様に腕を衝き動かす。

 無造作に肉の中に突き込まれた手から引っ張り上げたのは血にまみれた一人の少女。

 

「貰っていくぞ大聖杯ッ!!」

 

 繊維の引きちぎる音と共に引き上げ、それを奪い返さんと迫る渾沌。

 

「ああああああぁぁぁぁぁああああああ■■■■■■―――ッ!!!!」

 

 狂乱の叫び声をあげる晴彦、血管が浮き出しその瞳は理性と言う光を失っている。

 その狂乱の中、晴彦は、その怪物を掴み、小枝を振りかぶる。

 

「■■■ガッ・・・・・・ああ■あああぁぁぁ■■ああ■あああッッ!!!!」

 

 狂乱に呑まれながらも、突き上げ振りかぶり、顔に浮かび上がる七孔を穿つ。

 一撃一撃を加える度、溜まりが噴き出し、晴彦を黒く染め上げる。

 肉体の現界などとうに越えている、意識があることすら奇跡に近い。

 それでも彼は立っている、砂漠の中から砂金を見つけるが如き確率から、彼は今その不可能を可能にするために戦っている。

 

 これで終わっても構わない、その想いが彼を衝き動かし、やがて渾沌は地に伏す。

 

「があああああぁっぁあぁぁぁアアアアッ!!!!」

 

 それは鬨の声、勝利を誇る戦士の、英雄の叫び。

 英雄とは困難に打ち勝つ者でなく、困難に立ち向かう者を指す。

 一厘もない勝利への道を確かに開くために、彼は立つ。

 

「―――ガハッ・・・・・・糞ッ、意識が持ったかれた! だが―――」

 

 大敵たる渾沌を倒したのもつかの間、彼にはまだやるべきことが残っている。

 目を凝らし、数瞬の時の中で晴彦は探る。

 そう、きっと見える筈だ、この眼があるなら、きっと出来る筈。

 

 人の殺し方を知っているということは、人の生かし方を知っていると同義なのだから、それはまさしく、あの殺人鬼が示した生き方でもあるのだから。

 

 倒れ伏す一人の少女、近衛結香をそっと抱き留めると、晴彦は少女のその姿を視る。

 ただの人より死の線があまりに多い少女、この多さは最初に見た五号と同等の様にも思えるほどの多さだった。

 

 死なせないと、決意した。

 戦争に無理やり参加させられたただの少女、無関係な人間を死に追いやりたくないと決意し、進んできたこの戦い。

 一人の人間を殺した、その事実は晴彦に重く積み重なっている。

 だからこそ、多くの人間を目の前で倒れている人間くらいは救わなきゃならない。

 

 目の前の人を救えずして、何が人か、何が英雄か、そんなものは糞くらえだ―――。

 

「視えた―――」

 

 幾重にも重なる線や点を掻い潜り、見つけたそれに晴彦指を突き刺す。

 胸にあるその点を貫き通し、近衛結香はかすかに震え、そして鏡面を割ったかのような音と共に、やがてすべての元凶たる小聖杯を破壊した。

 

 まばゆい光の極光の中、葛西晴彦はその意識を手放した―――。

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