それにしても、全然状況が進まない。
早く、サーヴァントを殺さなきゃ・・・・・・!
「・・・・・・」
暗闇の中、一人の男が歩く。
ボサボサの髪に白衣をたなびかせて、悠々と歩く。
「―――一つ、噺をしようと思う」
どこの誰も聞いておらずとも、彼は独り言を続ける。
「私は人を殺した。アレを人と言っていいのかは判らないが、彼女を彼の目の前で殺した」
一歩づつ、淡々と乱すことなく、男は歩く、何処へとなく、ただ刻々と歩く。
「彼は、私を恨んでいるだろうか? それとも、憎むだろうか。そう考えるだけでも、とても愉快なことではないだろうか。
―――そうであろう、キャスター?」
「―――なんだ、気づいてたのかい」
暗く静まり返った闇のそこで、一羽のフクロウが佇む。
フクロウは流暢な女の声発し、アサシンに声をかける。
「相変わらず、趣味の悪い奴だね。どうにかならんのかい?」
「人格否定か、それは中々難しい。なにせ、いろいろ混ざっているからな」
「そうかい。そりゃ、難儀なモンだ」
それはひどく単調な会話で、彼、彼女が互いに知ってるが故であった。
「君のマスターは何処だ? 漸く私に殺される気になったのかい?」
「残念、気に入らないけど奴はピンピンしてるよ。最近はちょっとしたイレギュラーがあったみたいでね。ふふふ、慌てた姿は実に可笑しかったもんさ」
「そうか・・・・・・」
くるりとアサシンはフクロウに振り向き、ニヒルな笑みを浮かべる。
「アレは殺す。絶対に殺す。かまわんだろうキャスター」
「そこで肯定しちゃ、あたしの立つ瀬がないよ。アレでもあたしのマスターだ」
「謙遜するな、殺せるならば貴様は殺しているはずだ」
「・・・・・・」
フクロウは沈黙を決め込む、そんな彼女の様子に、アサシンはこらえきれなくなったかのように嘲笑する。
「あぁ・・・・・・こんなとき、なんと言えばいいのか。そうだ、
両手を水平に掲げながら、フクロウをおちょくるアサシン。
控えめに言って、可笑しい人であった。
「聖杯の知識じゃないね、何処でそういうのを仕入れてくるんだか・・・・・・」
「昨今のネットというのは素晴らしくてな、特に2chは素晴らしい。あれぞネットスラングの極地よ」
「はいはい。そりゃ良かったね」
興味なさ気に話を切り上げるフクロウ。
「まぁ、アンタが元気そうで何よりさ、すでに一騎仕留めたんだって? やるじゃないか」
「令呪一角の犠牲込みでだ。あまりほめられたものじゃあない。だが、これで盤面は加速する。私は私の好きなようにさせてもらおう。せっかくの現世だ。大いに楽しみたい」
「そうかい、あたしはこれで失礼するよ」
「見送りはよろしいのか? レディ」
「レディって歳じゃないさ。何より、見送りする奴が一番危険ってどういうことだい?」
「ははは、これは振られてしまったな」
「あたしを口説きたきゃ、もっといい男になって出直して来な」
「さもありなん。では、さようならだ」
月明りのまぶしい夜半、羽ばたくフクロウ。
闇から闇に深く沈んでいくアサシン。
聖杯戦争の渦はゆっくりと動き始める・・・・・・。
「葛西・・・・・・、貴様を殺す・・・・・・!」
「暴力はいけない」
「うるせー!」
大学の食堂にて、男が二人。
晴彦はそこでうどんを食べつつ、激情に身を委ねる友人を見ていた。
「俺、言ったよな! ノート書いてくれって! 言ったよな!」
「やっぱり勉強は自分でしなきゃね。だめだよ、だめ」
「ふざけんなこの野郎・・・・・・」
男は握りこぶしに血管を浮き出させながら、歯を食いしばる。
オウ、コラ。殴ったろか? あ?
晴彦はなぜかそんな幻聴が聞こえるかのような、見事な怒りっぷりだった。
「まぁ、あれだ。なんか奢るよ、一杯だけな」
「俺が物でつられると・・・・・・」
「ヒレカツ丼でいいよな、垣田」
「ハルヒコ、ボクノトモダチ!」
「おう、そいつはよかった」
手早くうどんを胃に流し込み、晴彦は食券を買いに、席を立つ。
どうやら友人は気を治してくれたようだ。
(大丈夫かい? 晴彦)
(あぁ、何とか。いや、なんとも交渉ってのは難しい。虚勢張るので精一杯だった)
思い出すたびに苦笑いが出そうになる。
晴彦の対人スキルはそれほど良くはない。
ぶっつけ本番でボロを出さなかっただけ十分だろう。
(ベイリンか・・・・・・)
(確か、円卓の騎士の一人だったかな)
教会に送る道すがら、レイヴとの情報交換をしていた晴彦はほぼ全サーヴァントの真名の特定を完了していた。
無論、レイヴが嘘をついていなければの話だが、今はそれを考えても仕方ない。
(それだけじゃない、ライダーはエウロペ、アーチャーはラーマ、アサシンは正体不明の医者。セイバーにいたっては・・・・・・)
なんだこのスーパー英雄大戦。
しかも、神話のオンパレード。
厄介なことに首を突っ込んだと思いつつも、もう後戻りは出来ない。
「ほら、番号札。17番だ」
「マジかよ・・・・・・、ラッキー!」
興奮冷めやらぬ友人とは対照的に、晴彦はどこか浮いていた。
「葛西、俺のいない間なんかあったのか?」
「はぁ?」
晴彦は首を傾げる、いったいどうしたのかと。
「いや。なんか、雰囲気変わったなーってさ。ただそんだけなんだけど・・・・・・」
「・・・・・・よくそんな風に思うな、ストーカーかよ」
「ちげーよ! 人が心配してるってのに・・・・・・」
「―――ありがとな」
「―――えっ?」
晴彦の感謝の言葉、垣田にはそれが新鮮に感じられた。
「じゃ、先いくわ。午後からの講義は無いからな」
席を立って離れていく晴彦を垣田はただ呆然と見つめていた。
「やぁ、元気かい? ミス早瀬」
「・・・・・・なんで貴方が此処にいるのかしら」
早瀬七海は頭を抱えそうになった。
なぜ、昨日見逃した彼が此処にいるのだろう。
「ははは、実は昨日アサシンに襲撃されてね、此処で保護されているのだよ」
「呆れた、あんなに大見得切った手前がこれなの? むしろ哀れだわ」
「返す言葉もない」
優雅に、余裕をもって礼をするレイヴだが、今の彼は敗北者。
当然、セイバーに対する有効な策など、今はない。
(おそらく、いや、確実についているだろう。セイバー、いや、大英雄バトラズ・・・・・・!)
【CLASS】セイバー
【マスター】早瀬七海
【真名】バトラズ
【性別】男性
【身長・体重】250cm・500kg
【属性】混沌・中庸
【ステータス】筋力A+ 耐久A+ 敏捷B 魔力B 幸運C 宝具A++
【クラス別スキル】
対魔力:A
A以下の魔術は全てキャンセル。
事実上、現代の魔術師ではセイバーに傷をつけられない。
騎乗:C
騎乗の才能。大抵の乗り物、動物なら人並み以上に乗りこなせるが、
野獣ランクの獣は乗りこなせない。
【固有スキル】
神性:A+
神霊適性を持つかどうか。高いほどより物質的な神霊との混血とされる。
父方の祖母と母が神であるセイバーは最大の神霊適性を持つ。
天性の肉体:A
生まれながらに生物として完全な肉体を持つ。
このスキルの所有者は、常に筋力と耐久がランクアップしているものとして扱われる。
セイバーは生まれながらにして鋼鉄の肉体を持っている。
戦闘続行:A+
往生際が悪い。
霊核が破壊された後でも、最大5ターンは戦闘行為を可能とする。
唯一の弱点を打ち抜かれながらも戦い続けたセイバーの能力。
幻想殺し:EX
数々の天使、精霊、竜種を殺したセイバーの能力。
天使、精霊、竜種などの幻想種に対して優位な判定を行うことが出来る。
【宝具】
『
ランク:A+ 種別:対人宝具 レンジ:― 最大捕捉:1人
鍛冶神に鍛えられたセイバーの肉体。
セイバーの肉体はそれ自体がA+ランク宝具として扱われ、その強靭さは神造の剣に匹敵する。
あらゆる『武器』の因子を鍛冶神に込められた為、A+ランク以下の『武器』による攻撃をキャンセルする。
また、肉体を炎や風に変え、同属性に耐性を持ち、自己修復を可能とする。
『
ランク:A++ 種別:対城宝具 レンジ:3~99 最大捕捉:1000人
鍛冶神によって鍛えられ、父の仇を殺すときに使われたセイバーの剣。
膨大な質量の灼熱した熔鉄を刀身の中に収めているため、
攻撃の際にその強大な熱量による追加ダメージを敵に与える。
また真名開放によって、刀身に収められている灼熱した鉄を散弾のように解き放つ。
熔鉄の雨が広範囲に飛び散ることで被害を拡大させ、対城規模の破壊を行うことが可能。
かつて海を赤く染めたという灼熱の剣。
ナルト叙事詩、最大にして最強の英雄。
勇壮なるナルトの戦士を筆頭に、あらゆる幻想種、天使を虐殺した無類の無頼漢。
その身は鍛冶神に鍛え上げられた神造宝具。
その剣は鍛冶神によって鍛え上げられた魔法の剣。
並み居る英雄を押し退け、最強の証たる魔法の杯、「ナルタモンガ」の守護者となった英雄の中の英雄。
(私はもしかして、出る聖杯戦争を間違えたのではないだろうか?)
ふと、そんな思考が頭をよぎるが、それを振りほどく。
そんなことを言う時間はとうに過ぎた。
「それは兎も角、授業はよろしいのかい? 君はまだ学生だろう?」
「お構い無く、こうみえても優等生で通っているので」
「そうか、それは失礼なことを言った。許してくれ」
現段階に於いて、レイヴはアーチャー陣営との共闘関係を結んでいる。
ライダーが消滅したことは事実。
されど、それでたかをくくってタロスで突撃させてはいくら自分が安全圏に居ようとすれば、他陣営の謗りを受けかねん。
神父はいろんな意味で平等だ。
そんなことをすれば、叩き出されるのは必定。
故に、レイヴは潜伏し、機を伺っていた。
外部の情報収集は猟犬に任せ、内部からはレイヴが行う。
情報の交換に関しては実に対等な関係だった。
「折角だ、紅茶をご馳走しよう。なに、安心したまえ、こうみえても、とある高貴な女王のお墨付きだ」
「そう、折角の誘いですしね。無下にするわけにもいかないでしょう。但し、私を満足させられるならばの話ですけれどね」
「無論だとも」
目をつぶれば、思い返すは祖国イギリスでの日々。
短くも、幸せなあの時間を共有した彼女はもういないというのに。
なぜだか彼は、それが無性に悲しくてならなかった。
薄暗い古びた洋館。
今では幽霊屋敷としてちょっとしたオカルトマニアが来たり来なかったりする柊市でもちょっとしたオカルトスポットに一人の少女がいた。
軋む廊下を通り、階段を上がり、洋館の中でもまともな一室のベットにうつぶせに倒れこむ。
「・・・・・・」
「大丈夫かい? マスター」
霊体化を解いて、そばに控える槍兵。
「少し、疲れた・・・・・・」
「なら、眠るといい。今日は疲れただろう。大丈夫、君は私が守る」
「・・・・・・うん」
そして彼女は瞳を閉じる。
一人の部屋、チクタクと動き続ける秒針の音だけが鳴るそんな沈黙に包まれて、彼女は夢に埋没する。
『実に素晴らしい。実によろしい』
お父様はそういった。
柊に来る前、私はこんな薄暗い部屋にいた。
『君は実に才能豊かで、そして従順だ。そしてその血統は単なる名門程度の魔術師など比較にすらならんだろう。流石は近衛公と言っておこう』
薄暗い部屋の中で会ったお父様は、軍帽に茶色の軍服、眼鏡を掛けた若い男性だった。
私にとってお父様は育ててくれた人で、生活を便宜してくれた人であった。
『結香、君に師を与えよう。これでも私はそれほど術が得意というわけでないのでね。伯爵に頼むのが一番だが、人間、適正というものがある。あぁ、だから彼に頼もう。何、心配することはない。彼は君と同じだのだから』
そして、私はお父様の勧めで先生と出会った。
先生はひどく年老いた老人で、今にも折れてしまいそうな風貌でありながら、全くそれを感じさせない不思議な老人だった。
先生は本当に私に似ているのであろうか?
どちらかというと先生はお父様と似た雰囲気を私は感じていた。
先生は寡黙な人で、多くを語らなかった。
ただ、私を見るその目はどこか悲しそうであったのを覚えている。
『結香、君は■■で、■■じゃない。だから、私はそんな―――たい。しかし私―――抜ける―――ない。あの男のように・・・・・・。彼は―――だ。』
視界が、聴覚が異変を抱える。
すさまじいノイズが私を包む。
分からない。
先生が何を言ってるか、私は分からない。
『君の記―――だろう。ほかでも―――、君がお父様―――、■■■に。だからこれは―――だ。このことを君の―――封じる。一騎―――、君―――憶を、そして、真実を―――』
分からない、分からない―――。
『今はまだ、時―――。私は君を犠牲―――はない。だからこれを。この■■の欠片を、君に』
―――分からない、分からない、分からない、分からない、分からない、分からない、分からない、分からない、分からない、分からない、分からない、分からない、分からない、分からない、分からない、分からない、分からない、分からない、分からない、分からない、分からない、分からない、分からない、分からない、分からない、分からない、分からない、分からない、分からない、分からない、分からない、分からない、分からない、分からない、分からない、分からない、分からない、分からない、分からない、分からない、分からない、分からない、分からない、分からない、分からない、分からない、分からない、分からない、分からない、分からない、分からない、分からない、分からない、分からない、分からない、分からない、分からない、分からない、分からない、分からない、分からない、分からない、分からない、分からない、分からない。
『理解してはならない。思い出してはならない。それは世界を混沌に、破滅に追いやる行為だからだ』
不意に、世界が鮮明に映える。
『―――新生する世界を、新たな『太平』のための世界を、その犠牲はこの老兵で十分だ。虐げられる者の気持ちは、誰よりも分かる』
頬に触れたしわがれた手の冷たさを感じながら、私は先生の言葉に引き込まれていた。
その目は私のすべてを見抜いているようで、恐ろしくも、どこか懐かしい感じがした。
『いずれ、すべてを思い出すだろう。それまでに、行動しなさい。君は救いの手を払ってはいけない・・・・・・!』
その決意に私はどう答えるべきだったのか。
思考は沈む、埋没する。
ゆっくり、ゆっくりと深海に沈む。
その問いの答えを、私は見つけることが出来るだろうか―――。
私の願いは―――。
ランサー陣営から感じるこの地雷臭。
どうしてこうなった。