たった一つの願い事 わがまま少女あやの物語 作:まめた みか
一つ言っておくと、全て等しく沙耶ルートです。
地下迷宮、八階。
理樹くんとあたしは、襲い来る闇の執行部を打ち倒しながら、エレベーターの前までやってきた。
「何か光ってるね」
「こんなのまやかしよ」
あたしは理樹くんに確認される前にフロア表示のパネルを銃で一掃した。
「え、何なのっ」
理樹くんが驚いた声をあげる。
「最終決戦よ」
「最終? ここが最下層なの?」
「最下層は、そうね……多分無いのよ。ただ、この先に黒幕が居る。それだけよ」
「黒幕、お前に言われたくはないな」
前方の闇の中からくぐもった声が聞こえた。
「そうね」
銃を構える
「誰っ!? 誰と会話してるの!?」
理樹くんの問い掛けに答えるように、そいつは現れた。
ごく普通の学生服。そこだけを見ると一般生徒と変わらないように見えるが、仮面に帽子という出で立ちが、それを見事に否定していた。
「闇の執行部部長、時風瞬」
「執行部の部長だって……!?」
理樹くんも銃を構える。
「ほう、様になってきたじゃないか」
時風が笑う。
理樹くんの手は、小さく震えていた。
「理樹くん、いいのよ。ひとりで大丈夫」
あたしは虚勢を張る。
「ふん……」
時風は誘うように、奥の暗闇へと溶け込んでいった。
ひとりで来いってことね
上等。
「理樹くん……」
あたしは理樹くんに向けて、小さく言葉を発する。
「いつか連れていくからね……デート。だから待ってて」
「うん、待ってるよ」
理樹くんは笑みを浮かべ、自然な調子でそう答えてくれた。
あたしは眼前の闇を睨み付ける。ひとつ、深呼吸
そして
「消えやがれ、うおらああぁぁぁーーーーっ!」
風のように
一層濃い暗闇へ、時風の下へと駆け出した。
ーーー
「さあ、ゲームを始めよう」
余裕の表情を崩さない時風
その余裕が命取りになると、すぐに教えてやる。
~~~~
と、息巻いてみたはいいものの
「当たらない!?」
まるで弾の方が自分から逸れるかのように、時風は全ての弾丸を避けていく
弾丸が迫る。
紙一重で回避出来たと思ったが、左腕を浅く抉られた。
「っ痛」
「諦めろ、お前に俺は倒せない」
冷たい声でゲームマスターがそう宣言する。
「まだ、負けたわけじゃないわよ」
銃を構え、放つ。
虚勢を張るが、どう考えてもこのままでは不味い。
あたしの弾は相変わらず時風にかすりもしない。何度かナイフを投擲してみたが、虚しい音を立てて床に転がるだけだった。逆に奴の放つ弾丸は私の左腕と右脇腹にそれぞれ痕を残している。
最も、直撃ではないだけマシと割り切る事にする。
こちらは荒い息を吐き出しているというのに、奴は未だに涼しい顔(仮面だが)だ。
互いに相手の隙を見つけては、撃つ、避けるの繰り返し
「はぁ、はぁ……」
汗が入ったのか、左目がかすんできた。
「負けるもんか!」
自分を叱咤する。
「おまえ、何をそんなに頑張ってるんだい」
時風が動きを止めた。
「それはっ、頑張るでしょっ!」
「だって」
「恋もっ、初恋もまだで……、何も知らないままでっ……、死んじゃったんだから!」
時風はじっとこちらを見据えたまま動かない。
「こんな所にあたしが駆け抜けたかった青春が在ったからっ……」
荒い呼吸をしながらも、目の前のゲームマスターの問いかけに必死に答える。
「だったら、身を寄せるじゃないっ!!」
「こんな優しい世界があったらっ!」
思いの内を吐露する。
「知っていたのか」
時風が一つ溜め息をつく。
「だが、お前にとってはずっと辛い場所だったはずだ」
いいえ。
「違う、わかってるわ。みんな優しいことを……」
あれ……何故だろう……
勝手に涙が出て来た。
「あなただって、あたしを消そうと思えばいつでも消せたはずなのに……」
「そうだな……失敗したと思ってる」
時風が語り始めた。
「朱鷺戸沙耶とは、俺の愛読書の登場キャラクター。その存在は他ならぬ俺が生み出したものだと勘違いをしていた。しばらく遊ばせておけば、俺の欲求は満たされ、消えてなくなると思い込んでいた」
「だが、違った。お前はイレギュラーな存在として、この世界に居たんだ」
ゲームマスターが言葉を続ける。
「お前が朱鷺戸沙耶というキャラクターを選んだのが、偶然だったとしても」
「気付いてしまったら、放ってはおけない。悪いが…お前には消えてもらう」
再び銃口が向けられた。
「非情だろうともな」
左手の袖で涙を拭う。
「…ねぇ、時風」
何故か、目の前にいる圧倒的な強さを持ったゲームマスターは、私に語り掛けながら、どうにもならない何かを思い出して泣いている……ように思えた。
だから、思わず声を掛けていた。
「……なんだ? 大人しく消える気になったのか?」
「どうして泣いてるの?」
「妙な事を言う。俺は泣いてなんかいない」
私は銃口を下げた。
「あたしには分かるのよ、忘れたの? あたしは第六感が働くんだから」
「原作にはそのような描写は無かったが…な」
軽口を叩きながらも、時風が僅かに動揺したように見えた。
「時風、あなた何をひとりで頑張っているの?」
先ほど言われた言葉を今度はあたしが言い返す。
「何を……」
「あなたは何かに潰されそうになって焦っている。抗いようの無いほど大きな何かに……」
「お前には関係の無いことだ」
「関係ならあるわ」
あたしの言葉に時風が身じろぎを一つした。
「あなた達はあたしに掛け替えのない時間をくれた。あたしは楽しそうにみんなで野球をしているあなた達を見ていて、とても幸せな気持ちになったの」
「多分、理樹くんと同じくらい、この世界の事も好きになっちゃったのよ」
目を閉じて言葉を続ける。
「この世界に恩返しがしたいって思ったの」
本心からの言葉。
「最初はあなたを倒して、ゲームマスターの地位を手に入れたいって思ってた」
「でも、何度も繰り返す内に気が付いたの。少しずつだけど、この世界がすり減っていく事に」
時風が口を開く。
「……マテリアルのないものは創造できない、この世界は俺たちが命の灯火を燃やして必死に作り上げた世界だ。 ……理樹と鈴の為にな」
「やっぱりそうだったのね」
何となく悟ってしまった。おそらく本当の世界で、彼らが…リトルバスターズという仲間たちが、あんな風に笑っている光景を見ることは……もう出来ないのだろう。
この世界は、いわば夢だ
幸せだった時間を永遠に繰り返す、終わりの時が訪れるまでの、ほんの数瞬の間の幸せな夢。
閉ざしておく為の世界。
時計の針は永遠に進まない。
そんな止まった世界で…目の前の彼は何を成し遂げようとしているのだろう?
「喋り過ぎたな」
時風の銃を握る手に力が入った。
「もう一度聞く、大人しく消える気になったか?」
「ええ」
あたしは銃口を下げたままだ
「ただ、最後に一つ頼みがあるの」
「何だ?」
「あたしがあなたに勝ったら、この迷宮の秘宝を手に入れさせて」
「それは、もう一度トライさせろ。という事か」
私は返事をせず、ただじっと時風の目を見つめる。
「オーケー、良いだろう。お前の気が済むまで付き合ってやる」
しばらく見つめ合うと、時風が根負けしたようにそう言った
「秘宝を手に入れさせてくれるの?」
「ああ……いいだろう。だが、秘宝の正体は原作でもまだ明かされていない」
「それは考えてあるわ」
「そうか、お前の探し求める秘宝……それは何だ?」
私は願いを口にする。
「 」
しばしの沈黙。
「……別に構わない、だがそんなものを一体何に使うつもりだ」
「試してみたい事が有るの」
時風が頷いた。
「いいだろう。もし俺に勝つことが出来たなら、望み通りの秘宝を手に入れさせてやる」
「……ありがとう」
「さて、今回はもう休め。次回また会おう、朱鷺戸沙耶」
思わず銃を握りしめる。
「ゲーム…オーバーね」
全ての光を飲み込んでしまいそうな暗闇に…乾いた銃声が2つ響いた。
秘宝の正体はCMの後で。
2週間に1話更新を目標に頑張りたいと思っています。