たった一つの願い事 わがまま少女あやの物語 作:まめた みか
恭介とふたりそろって教室に入る。
「遅刻しちまったな」
恭介は全く悪びれた様子もない。
一体、誰のせいであたしが飛ぶ羽目になったと思っているのだろうか。
一、二限目は英語だ
英語の授業を受ける。
あたしが黒板の内容をノートに書き込んでいる隣で、恭介は頬杖をついて窓の外を眺めていた。
続いて国語の授業
古典文学を学習する、あたしが特に好きなのはエジプトのピラミッドとか、ファラオとかの時代の歴史だけど、たまには日本の歴史を勉強するのも悪くない。
お昼休みになる。
恭介と連れ立って理樹くん達の教室へ
「ぐがー」
扉に手を伸ばした所で、誰かの大きないびきが聞こえた。
見ると、真人くんが爆睡しており、それを理樹くんが揺すって起こそうとしている所だった。
「全然起きないね」
「おい真人」
謙吾くんが声を掛けても効果はないようだ
「仕方ないわね、あたしが起こすわ」
机の横に回り込む。
「恭介と沙耶か、いつの間に」
驚く謙吾くんを尻目に、真人くんの耳元へと口を近付ける
「真人くん、理樹くんがあなたを置いて学食に行っちゃうわよ?」
耳元でそう呟くと、予想通り飛び起きた。
「うわぁっ理樹、俺を置いて行かないでくれよぅ!」
「よし、作戦成功ね」
「真人の弱点を知り尽くしてるな」
謙吾くんに感心されてしまった。
「まあ、真人も起きた事だし、さっさと食堂に行こうぜ」
恭介に連れられて、みんなで学食へ向かう
学食には既にかなりの人だかりが出来ていた
とりあえず席を確保し、食事を取りにいく事にした。
~~
「これ食ったら勧誘するからな」
お昼ご飯のお盆を前に、手を組んだ恭介が言う。
「ペアを組んで、メンバーを探すってのはどうだ? 一人より二人の方が成功率が上がるかもしれないぞ」
謙吾くんがそう提案する。
「悪くないわね」
「よーわからんが、いいんじゃないか?」
「そうだな」
「いいよ」
反対意見は無いようだ。
「どうやってペアを決める?」
恭介がそう問い掛ける。
ペアの決め方か……
「みんなでじゃんけんをして、出した手で分かれたらどうかな?」
理樹くんが、あたしが提案しようとしていた事を先に言ってくれた。
「よし、じゃあグー、チョキ、パーに分かれるぞ」
「せーの」
恭介の指示の元、一斉に拳を振り上げ、素早く振り下ろす。
真人くんはグー
その他のみんなはパー
「じゃあ、理樹チームと真人チームに分かれた所で……」
「ちょっと待ったあぁぁぁ!」
恭介の言葉を怒号が遮る。
「なんで俺一人だけ別チームなんだよっ!」
真人くんが叫んでいる。
「しょうがないだろ、そういう風に分かれちまったんだから」
恭介は悪びれた様子もない。
「二人ずつのペアに分かれるんだっただろうが!」
「え、そうだったか?」
更に、真人くんのツッコミに対してとぼけてみせている
「まったく、油断も隙もあったもんじゃねぇ」
「わかったわかった、今度はちゃんと分かれるまでやってやるよ」
再びみんな揃って手を振り上げる。
「じゃんけん」
「ぽい」
あたしの手はグー
真人くんの手はチョキ
謙吾くんの手はパー
恭介の手はパー
鈴ちゃんの手はチョキ
理樹くんの手はグー
見事に三等分された。
「よし、行くぜ鈴」
「こらっ、離せ馬鹿」
鈴ちゃんが真人くんに引きずられて食堂を出て行った。真人・鈴チームの担当は体育館、中庭、渡り廊下だ。
「さて、俺たちも行くか恭介」
「ああ、沙耶、理樹また後でな」
恭介・謙吾チームの担当は食堂と北校舎全域
「あたし達も行くわよ、理樹くん」
後ろの理樹くんに声を掛け、歩き出す。
「僕たちは裏庭と南校舎だね」
「ええ」
理樹くんの言うとおり、あたし達は南校舎全域と裏庭の担当だ。
早速裏庭へと向かう。
「次は~北校舎一階~、北校舎一階~」
途中、何故か車掌風にいう恭介の声が聞こえてきた。
その後に、謙吾くんが白線の内側までお下がり下さい、と冷静なトーンで付け加えている。
「次は、渡り廊下、渡り廊下ー、筋肉が通過しまーす、逞しい筋肉が通過しまーす。白線の内側までお下がり下さい」
続いて聞こえてきたのは、楽しそうな鈴ちゃんと真人くんの声
どうやら、車掌風に場所名を言うのが暗黙のルールらしい。
「次は裏庭ー、裏庭っー」
恥ずかしそうな理樹くん。
それでも律儀にルールを守る所が理樹くんらしい。
「なかなか見当たらないね」
「そうね」
そろそろ別の場所に移った方が良いだろうか?
「あっ」
理樹くんが誰か見つけたようだ。
「あそこ」
理樹くんの指差す方に意識を向けると、焼却炉の近くに見知った人影を見つけた。
あの特徴的なシルエットは……
「笹瀬川さんだね」
「何をしてるのかしら?」
「さあ……」
理樹くんと一緒に近付いていく。
どうやら笹瀬川さんは焼却炉の近くの地面をじっと見つめているようだ。
「……猫が居るわね」
よく見ると笹瀬川さんの視線の先には、一匹の黒猫が丸まっていた。
あの猫は……
そっとキャットフードの入った器を差し出す笹瀬川さん。
「にー」
黒猫はゆっくりと起き上がり、少し匂いを嗅ぐと、キャットフードに口をつけた。
「ふふっ…」
その様子を嬉しそうに眺める笹瀬川さん。
「……理樹くん、戻るわよ」
何となく邪魔してはいけないような気がして、小声で理樹くんに話し掛けた。
「……うん、分かった」
素直に頷き、踵を返す理樹くん。
あたしも姿勢を変えようとする。
と、急に吹いてきた風で髪の毛が一本鼻にかかった。
鼻がムズムズする
「……はっはっはっ」
理樹くんが慌ててあたしの口を塞ごうと手を伸ばすが、少し間に合わない。
「ふえっくしょっ!」
やっちまった!!
「!?」
笹瀬川さんが驚いて振り返った。
「こ、こんにちは……」
仕方なく、小さく右手を上げて挨拶した。理樹くんはあちゃー、というように顔を覆っている
「ご、ご、ご機嫌よう」
思いっ切り動揺している笹瀬川さん。口をパクパクさせている
「あなたは確か、朱鷺戸さんで宜しいのよね…、わたくしに何か御用かしら?」
昨日の一件のお陰か、名前を覚えてくれていたみたいだ。
少し嬉しい。
「いや、用って程のことじゃないんだけど」
あたしに代わって理樹くんが答える。
「笹瀬川さんってもしかして猫好きなの?」
理樹くん、その話題は多分……
「なっ、好きじゃありませんわ!」
激しく否定されてしまった。さっきよりも笹瀬川さんの顔が赤くなっている。
「あなたは確か直枝理樹でしたわね、なんて失礼な」
「でも、さっき黒猫に餌をやってたよね」
「なっ! あ、あれは違いますわ。たまたまキャットフードの余りを寮長に貰いましたから、捨てるのも勿体ないのでそこに置いただけですわ」
照れ隠しなのが見え見えだ。
「そうなの?」
「ええ、わたくしが猫のために餌をわざわざ持ってくるなんて、あり得ませんわ」
おーっほっほっほと高笑いする笹瀬川さん。
そこに
「さーちゃん、頼まれてた猫さんのおやつ持ってきたよ~」
一人の女子生徒がやってきた。
「か、神北さん! ちょっと待ってなさい。今取り込み中ですの」
「ほえ?」
小さな段ボールを抱えた小柄な少女
神北小毬さん。
あたしの知る限り、最初に理樹くん達リトルバスターズのメンバーになる少女。
「ふぇぇ、ごめんねさーちゃん。また後で出直すよ」
慌てて走り去っていく。
勧誘するには絶好の機会だ。
理樹くんに指示を出す。
「理樹くん、神北さんを追いかけて! 勧誘しなさい」
「え、何で?」
不思議そうに聞き返されてしまった。
「いいから行きなさい!」
一喝する。
よくわかっていないようだったが、理樹くんは小毬さんを追いかけて走り出した。
裏庭にはあたしと笹瀬川さんだけが残された。
「みー」
……訂正しよう。あたしと笹瀬川さんと黒猫だけが残された。
「……」
「……」
互いに口を開かず、気まずい雰囲気が漂う。
「かわいいわね、その猫」
とりあえず当たり障りのない話題から切り込んで、会話を広げる事にする。
「そうかしら? わたくしは猫が嫌いですから……よくわかりませんわね」
笹瀬川さんの足下にまとわり付く黒猫
「にぃー」
「こら、離れなさい」
嫌がっているような口振りだが、乱暴に引き剥がしたりはしないし、どう考えても猫が嫌いなようには見えない。
「随分と懐かれてるみたいに見えるけれど?」
「そ、それは……」
「この猫だけ特別ですの」
開き直ったように笹瀬川さんが胸を張った。
「何故かこの子だけわたくしに寄って来るんですの、追い払っても、追い払っても」
しゃがみ込み、黒猫を撫でる。
「猫は嫌いって言ってるのに……わかってるんですの?」
そう言いながら手を動かし、続いて首の付け根を撫でる。ゴロゴロという嬉しそうな鳴き声がした。
「あたしも触ってみていいかしら?」
笹瀬川さんの横まで近付く。
「わたくしの猫ではありませんし、好きになさったら」
そっぽを向かれてしまった。
猫も同じようにそっぽを向く。
それが何だか似たもの同士に見えて、思わず笑ってしまう。
「なんかこの猫、あなたに似てるわね」
「はあーっ!? わたくしが猫に似てるですって?」
睨まれてしまった。
「いいえ」
首を横に振る。
「この猫が、笹瀬川さんに似てるって言ってるのよ」
「同じ事じゃありませんの」
またそっぽを向かれてしまった。
「ペットは飼い主に似るって話を聞いたことがあるでしょう?」
「ええ、まあ」
「あれはその飼い主と長く一緒に居ることによって、仕草や癖みたいなものをペットが学習して、飼い主に合わせた行動をとるようになることから、そう言われるようになったの」
「……」
無言の笹瀬川さん。
「それに、動物がその人に懐くのには、必ず何らかの理由があるものよ」
「何が言いたいんですの?」
例えば…………
「これからも、その猫の世話をしてあげたらどうかしら?」
「……」
「きっと喜ぶと思うわよ」
「にー」
猫が返事をするようにひとつ鳴き声をあげた。
朝の一コマ
教師「井ノ原」
鈴「筋肉が俺を呼んでいると言って旅に出ました」
教師「直枝」
鈴「はいっ」
教師「棗」
鈴「はい」
教師「宮沢」
鈴「マーンっ!」
教師「よし、全員いるな」
鈴「なんだこいつ、鬼怖い」
教師「聞こえてるぞ、棗」
鈴「これは聞こえるのか……謎は深まるばかりだな」
『ミッション・コンプリート』