たった一つの願い事 わがまま少女あやの物語   作:まめた みか

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第十一話 騒がし乙女と少女A

 

「さて、理樹くんはどこにいったのかしら?」

 

 

笹瀬川さんと別れ、理樹くんを探す。

 

 

神北さんが行きそうな所といえば……真っ先に思い浮かぶのは南校舎の屋上。

 

 

理樹くんをフェンスごと突き落とそうとした事を思い出した。

 

 

でも、神北さんが向かった方向から考えると、

 

 

一番可能性が高いのは……中庭かしら

 

 

中庭へ向かう

 

 

この学校の中庭は、ベンチが設置されている場所があったり、芝生が敷かれている場所があったりして、案外広い。

 

 

ベンチが設置してある辺りにやってくる。

 

 

物陰からそっと覗くと、理樹くんと神北さんが座ってお菓子を食べていた。

 

 

「今出ていったら、なんかあたし空気読めない可哀想な子みたいよね……」

 

 

 

神北さんの勧誘はとりあえず理樹くんに任せるか、どうせ上手くやるだろうし

 

 

 

あたしはひとり南校舎へと向かう。

 

 

「あ、次は~、南校舎一階、南校舎一階~」

 

 

車掌風にみんなに連絡を入れ、職員室の前にやってきた。

 

 

誰かいないかしら

 

 

辺りを探してみる。

 

 

居ない。

 

 

二階を探してみる。

 

 

居ない。

 

 

三階

 

 

目を皿のようにして探していると(多分今あたしはかなり怖い顔をしていることだろう)教室から一人、見覚えのある女子生徒が現れた。

 

 

特徴的なツーテール

 

 

見間違える筈はない。あの子は三枝葉留佳さんだ。

 

 

樽(はた)から見ていて、彼女が一番頑張って練習していたのを覚えている。

 

 

みんなが野球の練習を終えた後も夜遅くまで黙々と素振りと走り込みをしていた。

 

 

意外にも彼女は頑張り屋なのだ

 

 

「こんにちは、三枝さん」

 

 

ゆっくりと歩み寄り、挨拶する。

 

 

「え、あ、どちらさまでしょうか」

 

驚いたように後ずさる三枝さん。

 

 

「朱鷺戸といいます。今ちょっといいかしら?」

 

 

あれ? 何故か怖がられているような気がする。

 

 

……そういえば怖い顔のままだった。

 

 

「良いですけど……」

 

 

「あなた、野球に興味ない?」

 

 

あたしの言葉に、え? という言葉が聞こえそうな程、驚いた表情を浮かべる三枝さん。

 

 

 

「野球ですか?」

 

 

「ええ、野球よ、身体を動かすのは嫌い?」

 

 

笑顔で問い掛ける

 

 

「いえいえ、身体を動かすのは好きですヨ」

 

 

三枝さんの表情が変わった。

 

 

少しずつだけど、以前見たような快活さが戻ってきたように見える。

 

 

「あたしたち草野球のメンバーが足りなくて困ってるの、もし良かったら一緒に野球をやらない?」

 

 

勧誘の言葉を口にする。

 

 

 

「私で良ければ喜んで!」

 

 

三枝さんは満面の笑顔で答えてくれた。さっきまでの怯えっぷりがまるで嘘のようだ。

 

 

笑顔って大切なものなのね……

 

 

「ありがとう、じゃあ放課後に野球部の部室に来てもらえるかしら」

 

 

「はいっ!」

 

 

 

 

 

 

こうして、あたしはメンバーをひとり勧誘する事に成功した。

 

 

恭介にその旨を伝えておくと、

 

 

 

『よくやった、沙耶』

 

 

短いメールが届いた。

 

 

 

 

 

昼休みが終わり、また授業が始まる。

 

 

今日は昼から体育の授業だ。

 

 

体操服に着替え、テニスコートへ

 

この学校に、テニスコートなんてあったかしら?

 

 

そう思いながらも、とりあえず一緒に着替えた女子生徒達についていく

 

 

テニスコートは中庭にある自動販売機の近くにあった。

 

 

 

場所からわかるように、今日の種目はテニス。

 

 

 

あたしはそもそも、スポーツをあまりやったことがない。

 

 

やったことのあるものと言えばせいぜいサッカーくらいだ。

 

 

だから、今日の放課後からの野球が楽しみで仕方がない。

 

 

 

上手くできるだろうか?

 

 

みんなに迷惑かけたらどうしよう

 

 

いや、確か野球はチームワークが勝利への鍵だと誰かが言っていた。たとえ下手でも一生懸命やれば……

 

 

 

「おい沙耶、試合しようぜ」

 

 

 

期待に胸を膨らませるあたしの所へ何故か恭介がやってきた。

 

 

「はあ? あたしは初心者なのよ?」

 

 

運動神経は割と良い方だとは思うけど、いきなり恭介と戦って勝てるとは思えない。

 

 

 

「じゃあ、コーチングしてやるよ。それならいいだろ?」

 

 

『楽しいテニス』という本をどこかから取り出す恭介

 

 

テニスって面白いのかしら?

 

 

「まず、持ち方は……」

 

 

 

 

 

 

 

~~30分後~~

 

 

 

 

 

 

「恭介、あなたまだまだね」

 

 

 

「こんな筈では……」

 

 

 

「ゲームカウント6ー4、ウォンバイ朱鷺戸」

 

 

いつの間にか出来ていた審判が高らかに宣言する。

 

 

 

「いやーっ」

 

 

周りの女子生徒たちが悲鳴をあげている

 

 

 

「沙耶、完敗だ」

 

恭介が右手を出す

 

 

「すごく楽しかったわ」

 

 

あたしも右手を出し、恭介の手を強く握りしめた。

 

 

 

うん、初めてにしては上出来だったのではないだろうか。

 

 

恭介も手加減してくれていたのか、途中から動きが遅くなっているようにみえた。

 

 

 

初心者のあたしに花を持たせてくれたのだから、お礼をしなくてはいけないだろう。

 

 

 

「さて、今度はダブルスといきましょうか」

 

 

「は?」

 

 

呆気にとられる恭介。

 

 

「テニス部キャプテンとソフトテニス部のキャプテンが同じクラスに居るんですもの、戦わなくちゃ。勝ちにいくわよ!」

 

 

 

「……」

 

恭介は少しの間驚いた顔をした後

 

 

「ははははっ」

 

 

突然笑い出した。

 

 

「よし、やってやろうぜ沙耶っ」

 

 

あたしも自然と笑顔になる。恭介の笑顔は何というか……人を楽しい気持ちにさせてくれるような、不思議な暖かみがあった。

 

 

~~~

 

 

 

体育が終わり、待ちに待った放課後、

 

 

 

「先に行ってて、理樹くん達を呼んでくるから」

 

 

「おう」

 

あたしの言葉に、レノンの尻尾に紙切れを結び付けながら返事をする恭介。

 

 

 

「……なにしてんの?」

 

 

どうみても怪しい

 

 

「理樹と鈴に課題を出している」

 

結び終え、満足げな恭介。

 

 

「にゃー」

 

 

白い猫はこちらを一度振り返り、尻尾を振ると去っていった。

 

 

 

「課題?」

 

 

「ああ、課題だ。ふたりが苦戦しているようだったら、お前も手伝ってやってくれ」

 

 

何のために、そんな事を

 

 

「もしかして……」

 

 

「……」

 

 

恭介がそれ以上言うな、というように右手であたしを制した。

 

 

「わかったわ、手こずってるようだったらそれとなく助ける」

 

 

……あたしの目的の為になら、恭介の企みだって利用してやる。

 

 

「じゃあ、部室で会いましょう」

 

 

とりあえず理樹くん達の教室へ向かうことにした。

 

 

 

 

 

 

「おー沙耶じゃねぇか、今日は終わるの早かったんだな」

 

 

「さっさと野球するぞ」

 

 

廊下で真人くんと謙吾くんに遭遇する。

 

 

「あら、案外乗り気ね、謙吾くん」

 

 

肩に担ぐのは、マイバットだろうか

 

 

「やるからには、本気だ」

 

 

そう言って子供のような笑みを浮かべる。

 

 

 

 

「理樹くんと鈴ちゃんは?」

 

 

二人にそう尋ねると、

 

 

「あー、猫の世話しにいったぜ。たぶん中庭だ」

 

 

「まったく、リトルバスターズの初練習だというのに……すまないが呼んできてくれないか?」

 

 

そう答えられた。

 

 

「わかったわ」

 

 

真人くん達と別れてひとり中庭へ向かう

 

 

渡り廊下の扉を開けると、理樹くんと鈴ちゃんが見えた。

 

 

足元にはレノン

 

 

鈴ちゃんが手に持っているのは恭介の言っていた課題だろう。

 

 

「あ、沙耶さん」

 

 

気配に気付いたのか顔を上げる理樹くん。

 

 

「なんだ、沙耶か」

 

 

 

なんだ、とぶっきらぼうに言いながらも、鈴ちゃんは嬉しそうだ。彼女の顔が一瞬輝いたのをあたしは見逃さなかった。

 

 

 

「ふたりとも、こんな所で何をしているの?」

 

 

「鈴が猫のブラッシングをしてたんだ」

 

「そしたら、レノンの尻尾にこれが巻き付けられてた」

 

 

折り目のついた紙を渡される。

 

 

 

『最初の課題を与える、男子寮物置の衛生問題を解決せよ』

 

 

さっき結んでいたのはこれか……

 

 

「もう一枚あるぞ」

 

 

鈴ちゃんからレノンの左足に結びつけられていたという紙を受け取る。

 

 

『この世界には秘密がある、それを知りたいなら、これから与えるすべての課題をクリアしろ』

 

 

うわぁ……

 

 

 

「沙耶さんもいたずらだと思うよね」

 

 

顔に出てしまっていたらしく、理樹くんが同意を求めてきた。

 

 

 

「……い、いいえ、ひょっとしたら何か本当に秘密が隠されてるのかもしれないわヨー」

 

 

その棒読みはなんなのさ、と理樹くんに呆れ顔で突っ込まれてしまった。

 

 

 

「でも、あたしは確かめたい。この人が伝えたいこと」

 

 

鈴ちゃんが両拳を握る。

 

 

 

やっぱり恭介の妹なのね。

 

 

 

 

「いいわ、やってやりましょう。あたしも手伝うわ」

 

 

「助かる」

 

 

偉そうに胸をはる鈴ちゃん。

 

 

 

「でも、三人じゃ少し心もとないわね。部室に行って、みんなにも手伝ってもらったらどうかしら?」

 

 

あたしがそう提案すると、

 

 

 

「そうだね、恭介達に相談してみようか」

 

「うむ」

 

ふたりとも賛同してくれた。

 

 

~~

 

 

 

理樹くん達を連れて部室へ

 

 

「あら?」

 

 

 

部室の手前にある木に寄りかかって、ぼーっと空を眺めている女子生徒が目に入った。

 

 

 

三枝さんだ。

 

 

 

「ごめんなさい三枝さん、待たせちゃったかしら」

 

 

 

まだ放課後になったばかりだと言うのに、ずいぶんと早くから待っていてくれたものだ。

 

 

 

「いえいえ、今来たとこですヨ、全然大ジョブ、大ジョブ」

 

 

両手と首を振る三枝さん。

 

 

ツーテールも一緒に揺れる。

 

 

「あ、三枝さん」

 

 

「…………」

 

 

「あはは……やっはー、理樹くんに鈴ちゃん」

 

 

ふたりにも手を振る。

 

 

 

鈴ちゃんは理樹くんの後ろに隠れていた。

 

 

「ほら鈴、ちゃんと挨拶して」

 

理樹くんが肩を揺する

 

 

「うみゅ……」

 

 

恐る恐る、といった様子でこちらを伺っている

 

 

「三枝さん、猫は好き?」

 

 

助け舟を出そう。

 

 

 

「ええ、動物は好きですヨ。特に猫とかうさぎとか」

 

 

三枝さんがそう答えると、ゆっくりと鈴ちゃんが前に出てきた。

 

 

「あ、あの、その、こ、こんにちは」

 

 

顔が赤い

 

 

それを聞いて、理樹くんは驚いたように、三枝さんはとても嬉しそうに笑っていた

 

 

四人連れ立って部室に入る。

 

 

 

「遅かったな」

 

 

「早く練習始めるぞ」

 

 

 

恭介と謙吾くんが立ち上がるが、

 

 

「新メンバーよ」

 

 

 

あたしの言葉と、後ろから入ってきた三枝さんを見て、成る程というように腕を組んだ

 

「そいつは野球出来るのか? どうみても筋力があるようには見えねーが」

 

 

ロッカーに両手をついて腕立て伏せをしながら真人くんが言う。

 

 

「あら、こう見えてこの子は頑張り屋よ、足りない分は努力で補うわ」

 

 

謙吾くんが眉をひそめる。

 

 

「沙耶、本当か?」

 

 

「ええ、あたしの見立てに間違いは無いわ」

 

 

一つウインクしておく。

 

 

「ならば、入団テストだ!」

 

 

恭介がグローブとボールを抱えて、ついて来いと促した。

 

 

「おい、待て馬鹿兄貴」

 

 

 

そんな恭介を鈴ちゃんが引き止める。

 

 

「なんだ、鈴?」

 

 

不思議そうな恭介。

 

 

あなたの出した課題の事なんだけどなぁ……

 

 

 

「男子寮倉庫の衛生問題を解決するぞ」

 

 

そう言われ、ちらりとこちらを見る恭介。

 

 

「……ふぅ」

 

 

あたしが軽く頷いてみせると、ため息を一つ吐き出した。

 

 

 

「じゃあ三枝の入団テストは男子寮倉庫の掃除が終わってからだな」

 

 

 

「よし、お前らついてこい」

 

 

「えー」

 

「……まあ付き合ってやるか」

 

 

不満そうな真人くん達を連れて、あたし達は男子寮に向かったのであった。

 

 





沙耶「ねえ恭介、この前食堂で和風、和風いってる小さな子がいたんだけど、和風ドレッシングの場所教えてあげるべきだったかしら?」


恭介「それは能美です」


恭介「ちなみに好きな食べ物は昆布の煮染めらしい」



沙耶「へー、変わってるわね」


恭介「まあ、好みは人それぞれって事だな」


真人「へっ、俺は理樹と一緒なら何でも美味く感じるがな」



謙吾「鈴が言うには、俺は讃岐うどんのイメージらしい」


理樹「好きなものか……」


理樹「肉じゃが、かな。なんか家庭の味って感じがして憧れるよね」


沙耶「!」


恭介「どうした? 沙耶」


沙耶「な、何でもない」


理樹「あと、お弁当のご飯に海苔が載ってて、底にはおかかが敷いてあったりしたら最高かな」


沙耶「…………」


バターン


理樹「うわぁ、沙耶さんが気絶した!」



真人「青春だねぇー」


謙吾「ああ」


恭介「何か色々と間違ってる気がするんだが」



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