たった一つの願い事 わがまま少女あやの物語 作:まめた みか
「野球って案外面白いですネ」
「うん、初めてだったけど私もちょっとは出来るようになったよ」
神北さんはちょっとどころじゃない気がする
「甘いなこまりん、四番サードははるちんのものだーっ」
神北さんの言葉に、三枝さんが脈絡のない答えを返す
「うん、はるちゃんならきっと出来るよー」
神北さんが大きく頷いた
「葉留佳も小毬さんもこれからビシバシ鍛えてあげるから、覚悟しなさい」
と、沙耶さん
「望む所ですヨ」
「うん、私頑張るよ」
三枝さんと神北さんの二人は結構やる気があるみたいだ。
勧誘して正解だった。
「じゃあ、私とはるちゃんはこっちだから」
「沙耶さん、理樹くんまた明日ねー」
「うん、また明日」
「二人とも今日はありがとう。またね」
僕達に手を振ると二人は女子寮の方へ歩いていった。
「あれ、沙耶さんは行かないの?」
横で腕組みする沙耶さんに尋ねてみると、
「何言ってるの、これからメンバー探しよ」
そんな答えが返ってきた
「今日二人も勧誘したのに、まだ続けるの?」
「当然よ、鉄は熱いうちに打てってね」
「そっか、頑張ってね」
離れようとした僕の肩がガシッと掴まれる。
「あなたもやるのよ」
「やっぱり……」
沙耶さんと並んで校舎内を歩く
「部活もしてないのに、こんな時間まで学校に残ってる生徒はあんまり居ないんじゃないかな」
「まあ確かにそうね」
とりあえず二手に別れ、校内を一通り見回ってみる事にした。
一人で校内を歩く
誰か居てくれるといいんだけど
~~~~~
「駄目だったな……」
二年生の教室をいくつか回ってみたが、勧誘出来そうな生徒は居なかった。
「うん?」
ポケットが震える
携帯電話を開いてみると、朱鷺戸と表示されていた。
「沙耶さんから?」
通話ボタンを押す
「はい、もしもし」
「あ、理樹くん、そっちはどう? 誰かいた?」
沙耶さんから電話がかかってきたのは初めてかもしれない、少し嬉しい。
「部活帰りの学生が何人か居たけど、勧誘は出来なかったよ」
「そう」
沙耶さんは、あまり落胆した様子もない
「今、そっちに行くわ」
「うん」
教えていないけれど沙耶さんならきっと僕の位置が分かっているのだろう
「じゃあ寮に戻りましょうか」
やっぱり
沙耶さんが目の前の角から姿を現した。
携帯を閉じる
「沙耶さんの方はどうだったの?」
「全然駄目ね、一人勧誘出来そうだったけど、風紀委員長に見つかりそうになったから、慌てて逃げて来たの」
風紀委員長?
「沙耶さん何か悪い事でもしたの?」
「ええ、昔ちょっとね」
よく意味が分からないが、一度ピラミッドを建ててる所を見つかったらしい
「少し寄り道をしましょうか」
沙耶さんに連れられて、とある部屋の前にやってくる。
「え、ここに何か用があるの?」
何故、放送室なのだろうか。
「まあね」
何気ない様子で沙耶さんが放送室の扉をノックする
しばらく待つも
返事はない
「居ない……か」
「行きましょう、理樹くん」
沙耶さんの行動に疑問を覚えながらも、後について歩く
「夕食でも食べましょうか」
「そうだね、恭介達も居るだろうし」
そんな話をしながら渡り廊下に出る
「うんしょ、うんしょ」
歩いている最中に誰かの声が聞こえてきた。
「段ボール箱が動いてる」
僕が言うと
「どこかの潜入工作員かしら」
真顔でそんな事を言われてしまった。
「違うと思うよ」
立ち止まり、二人して段ボール箱を見守る
「ようし、頑張るぞ」
声の主は一度立ち止まり、気合いを入れると、ゴミ箱がある方へヨタヨタと歩き出した。
「頑張るのはいいけど、そのままだとぶつかるよ」
「え、うわぁっ」
僕の言葉とほぼ同時にゴミ箱にぶち当たった
慌てて段ボール箱を支える
「大丈夫? ごめん、ごめん」
段ボール箱の向こうから、小柄な女の子の顔が覗いた。
「いえいえ、こちらこそ前方不注意です。ごめんなさいです」
この春転校してきた、帰国子女の能美クドリャフカさん。僕が校内の案内役を任されたので、印象に残っている。
僕らを見て、クドの目が輝いた。
「はろーえぶりわん、はぶあないすでー」
クド流の英語で話しかけられる
なんて答えたらいいのだろう
「どきどき」
クドは僕達の反応を待っている
「ハブア・ナイスデー、シーユーアゲイン」
歩み去ろうとしてみる
「さよならされました?!」
「ごめん、冗談だよ冗談」
向き直ると、クドは段ボールに手をついて座り込んでいた。
「どうせ私なんか、私なんか……」
「英語のミニテストで、『次はもっと頑張りましょう、グッバイガール』と書かれた人なんですー、ですー、すー」
一人ドップラー効果!?
沙耶さんが手を差し伸べる
「あなた、お名前は?」
私は三年の朱鷺戸よ、と前置きしてクドを引っ張り起こした。
「ときどさんというのですか。私は能美クドリャフカといいます。ないすとぅみーとゆーなのです」
クドがニコニコと笑みを浮かべた。
『ガシッ』
突然、沙耶さんがクドに抱きつく。
「わ、わふー?」
クドがくぐもった声をあげた
「沙耶さん?」
何をしているのだろうか
「はっ、しまった、つい」
沙耶さんがクドから離れる
「ごめんなさい、能美さん」
「いえいえ。ときどさんからはいい匂いがしますねー」
突然抱きつかれたというのに、クドは相変わらずニコニコしている
「うん、それには同意するよ」
僕が言うと、沙耶さんが睨みつけてきた。
「理樹くん、いつあたしの匂いを嗅いだのよ?」
「え、僕の部屋に来た時とか?」
「変態、あなた変態なのね!?」
「いやいや、あんなに密着されてたら嫌でも香りますから」
「そんなに密着してないわよ」
「いやいや、耳元で、ここの答えはCよとか呟かれてましたから」
「あなたが嗅がないようにすればいいだけでしょう」
「いいや、嗅ぐとも」
「はぁ?」
「いや、きっと誰だって嗅がずにはいられないよ。もしも沙耶さんが横に居たら」
「そんな事無いから」
「あるんだってば」
「わふー!」
僕らのやり取りを見て、クドが両手を合わせる
「お二人は仲がよろしいのですね」
「うん、とってもね」
「……まあまあね」
「仲が良いのは、とっても良いことなのです」
「ぜひぜひ、私とも仲良くして下さいー」
クドが笑顔で言い終えた瞬間
『ガシッ』
沙耶さんがまた抱き付いた。
「ああ、どうしよう理樹くん、この子すごくかわいいわ」
沙耶さんがクドを優しく抱きしめながら、僕に向かって言葉を発する。
「部屋に連れて帰りたいくらいよ」
「わーふー」
クドも満更でもなさそうだ
「リュックに入らないかしら」
片手でクドを抱きながら、どこかから折り畳まれたリュックを取り出す
「入らないから」
ツッコミを入れる
「ほら沙耶さん、クドが困ってるからさ」
クドが顔を上げた。
「下のお名前は沙耶さんというのですか」
「可愛らしいお名前ですね」
沙耶さんが顔を赤らめた。
「くっ……やっぱりかわいい。じゃあ私がこの子の部屋に持ち帰られるわ。それで文句ないでしょう?」
「いやいやいや」
どうやらクドの事が気に入ったらしく、沙耶さんのテンションがおかしな事になっている。
「ときどさん、あの……」
クドがついて来られていない
「ほら、クドの荷物運ぶの手伝ってあげようよ」
「そうね」
沙耶さんが離れる
「……あ」
クドが名残惜しそうな声をあげた。
あれ?
……まあいいか。
「これ、どこに運ぶの?」
クドの抱えていた段ボール(何故かケロケロ便)を我に返った沙耶さんと半分ずつ持つ
「女子寮のお部屋に……あ、でも、そんな、ご迷惑です」
裾をパタパタしているクドを放り、沙耶さんと共に女子寮に入る。
「クドの部屋は何号室?」
「ああ、二階の突き当たりの部屋よ」
クドへの問い掛けに何故か沙耶さんが答えた
「何で初対面のクドの部屋を沙耶さんが知ってるのさ?」
「部屋割りは全て記憶済みよ」
三年生だけでなく、二年生のものまで記憶しているなんて
「わふー、記憶力抜群なのです」
クドが感心したように手を挙げる
クドは帰国子女だからなのか、いちいちリアクションがオーバーだ。
「そのくらい楽勝よ」
得意げだ
「ですが……」
クドが言いよどむ
「私の部屋は二階の突き当たりじゃないんです」
「二階の突き当たりは、別のクラスの『能美せりか』さんのお部屋なのです」
「え……」
沙耶さんは絶句
「そうなんだ」
結局、クドに案内してもらう事になる
「重くないですか?」
「大丈夫、思ったより軽いね」
「中は服と、小物なんです」
クドとそんな話をしている間も、沙耶さんは恥ずかしそうに俯いていた。
「そんなに落ち込まないでよ」
「そうです、部屋割りを全部暗記するなんてすごいです。私にはそんな事とても出来ません」
クドも沙耶さんを慰めるが
「まさか同じ苗字の人が他に居ただなんて……滑稽ね」
「ぶつぶつ……」
沙耶さんの耳には届かないようで、失態だわ、間抜けね、なんていう自分を卑下する言葉を呟いている。
「ここがクドの部屋か」
自虐モード(さっき命名した)に入ってしまった沙耶さんを放り、部屋の中に入る
「物があんまり無いね」
備え付けのベッド、机と椅子が二つずつ
それくらいしか見当たらなかった。
「補修工事がついこの間終わったらしくて、この部屋に荷物を運んでる最中なんです」
「あー、あの雨か」
始業式の日にものすごい雨が降った。その雨の中、恭介や真人達と水鉄砲を撃ち合ったのを覚えている。
その雨で女子寮の旧館が被害を受けてしまい、つい最近までクドは鈴の部屋で生活していたらしい。
「そのまま鈴の部屋に居られれば良いのにね」
「そうできたら、良かったんですけど」
残念そうだ。
「新しいお部屋は一人なので、少し寂しいです」
沙耶さんが思案顔になる。
「誰かルームメイトになってくれそうな人を探してみましょうか」
「うん、確か相部屋の募集とか出来たはずだよね」
聞いたことがある。
「今日はもう遅いから、明日にでも寮長に頼んでみましょう」
どうやら手続きは寮長に頼む必要があるらしい。こういう時、沙耶さんは頼りになる。
「じゃあ、明日聞いてみよう。クドもそれでいい?」
「はい。直枝さん、ときどさん、ありがとうございます」
クドがぺこりとお辞儀をした。
「大したことじゃないよ、それにお礼はルームメイトが見つかってからだよ」
僕の言葉に沙耶さんもうんうんと頷く。
「そうですね……でも、ありがとうございます」
沙耶さんと顔を見合わせ、苦笑する。
「あら、もう大分遅い時間ね」
沙耶さんに言われ、窓の外を見てみる。目に見えて暗くなってきているのが確認できた。
「じゃあ、そろそろ退散することにするよ」
風紀委員にでも見つかったら大事になりそうだ。
「では、玄関までお見送りします」
三人並んで廊下を歩く
「じゃあまた後で荷物を運ぶのを手伝いに行くから。知り合いのみんなも呼ぶから早く終わると思うわ」
「重ね重ね、ありがとうございます」
どうやらまだ荷物の運び込みが終わっていないらしく、人手が要るらしい。
「いざとなったら、また連絡してね。謙吾や真人達と手伝いにいくから」
ちゃんとした理由があれば、女子寮に入っても大丈夫、だと思う。
「はい」
「わかったわ」
「お二人とも、ありがとでしたー」
クドに見送られて外に出る。
「それにしても、素直で可愛い子ね」
見えなくなるまで手を振り返した後、沙耶さんがしみじみと言う。
「そうだね……」
ふと思い付いた。
「クドもリトルバスターズに勧誘してみたらどうかな。ああ見えて、案外運動出来るかもしれないよ?」
「能美さんを?」
「うん」
「……確かにメンバーになってもらえたら嬉しいわね」
「でも、そのためには能美さんともう少し仲良くならないと駄目かしら」
「……」
僕には、もう十分仲が良さそうに見えたけど
「よし、明日は気合い入れていくわよ」
こうして今夜も更けていく
沙耶「沙耶っぺの一問一答」
沙耶「はい拍手!」
真人「また妙なコーナーを」
恭介「まあそう言うな、俺は好きだぜ、こういうの」
沙耶「さあ、何でも質問していいわよ」
理樹「世界の秘密ってなんなのさ?」
沙耶「すいません、そういうのは無しで」
理樹「リトルバスターズってなんなのさ?」
謙吾「理樹は何だと思う?」
理樹「友情の……」
沙耶「すいません、そういうのも無しで」
沙耶「もっと明るい話題でお願いします」
恭介「恐ろしくテンションが低くなったな」
真人「青ひげで模造刀に勝つ方法を教えてくれ」
沙耶「赤ひげを隠し持ちなさい」
真人「よっしゃー、分かったぜ」
謙吾「あれで良いのか?」
恭介「良いんじゃないか」
理樹「沙耶さんの好きな食べ物は?」
沙耶「甘いものかな」
謙吾「逆に嫌いな食べ物は?」
理樹「ふなずし」
恭介「ほう……」
恭介「好きなマンガは?」
沙耶・恭介「学園革命スクレボ!」
謙吾「茶番だな」
鈴「ゼリーは好きか?」
沙耶「好きよ」
理樹「趣味は?」
沙耶「射撃とUFOキャッチャー。スパイの嗜みってやつね」
理樹「いやいや」
恭介「好きな男のタイプを教えてくれ」
沙耶「タイプ? なにそれ? あたしが男に興味があるとでも?」
理樹「でも、まったく無いって訳じゃないでしょう?」
沙耶「まあ確かに、まったくないってわけじゃないわね」
恭介「どんな奴がタイプなんだ? ほら吐いちまえよ」
真人「ひょっとして、筋肉質なマッチョマンか?」
理樹「……すぅ」(深呼吸)
沙耶「そうねぇ……、背がすらっと高くて、包容力があり、逞しい年上の男の子かな」
理樹「ことごとく該当しないっ!?」
恭介「ははっ、まあそんなに落ち込むな、理樹」
鈴「具体的にはどんな奴なんだ?」
沙耶「具体的に……か」
沙耶「うーん」
沙耶「ソリッドスネーク」
恭介「……は?」
沙耶「すらっと背が高くて、包容力があり、逞しい年上の男の子よ」
沙耶「しかも、射撃も潜入もお手のもの。最強のスパイを名乗る以上、彼とはいずれ戦う事になるでしょうね」
沙耶「ただ、彼を倒せるかどうか……近距離だとCQC、遠距離だと純粋な射撃戦に……」
真人「もはや予告とは一ミリも関係ないな」
続く