たった一つの願い事 わがまま少女あやの物語 作:まめた みか
沙耶ルートの理樹くんなら、きっとそれくらいしてくれたはずです。何回目のループでなのかは分かりませんが
目覚める
寝ぼけ眼(まなこ)を擦りながらシャワールームに向かう
「ふわあぁぁ」
温かい水に打たれ、感覚が次第に鋭くなっていくのがわかった。
「おはよう」
鏡の中に映る朱鷺戸沙耶に向かって、いつものように挨拶をした。
~~~
朝ご飯を口に運ぶ
あたしの隣の席には理樹くん、前の席には能美さんが座っている。
「今日は洋食か」
理樹くんがパンを口に運ぶ
「これぞまさにあめりかん・ぶれっくふぁーすとですー!」
能美さんは嬉しそうにスクランブルエッグを食べている。
うん、ウインナーも美味しい
「クドのルームメイト探しの事なんだけど」
食事が終わり、理樹くんが口を開く
「寮長さんに相談するのは昼休みがいいよね?」
「そうね、放課後でも良いけどこういうのは早い方がいいわ」
あたしが理樹くん達の教室に行った方が早いかな
「昼休みにそっちに行くわね」
「わかった」
「よろしくお願いします」
能美さんに頭を下げられた。
「じゃあ、少し寄るところがあるから」
理樹くん達と別れ、グラウンドに出る。
さて、どこに居るのだろうか
「よっ、ほっ、筋肉っ、筋肉っ!」
真人くんを見つけた。
タイヤを引きずりながらグラウンドを走っている
「真人くん」
手を挙げて呼び止めると、こちらに駆けてくる。
「はい、筋肉タクシーでございます」
「謙吾くんの所まで」
「よしきた!」
タイヤの上に乗るよう促された。結構真面目な話をしに来たんだけど。
結局、横倒しになっているタイヤの上に立ち、真人くんの肩に手をついて移動する事になる。
「真人くん、最近何か悩み事とかある?」
タイヤの上で揺られながら、真人くんに質問を投げかける。
「何だよ突然」
「何となくよ」
少し考え込む
「そうだな……」
「特に無えかな」
穏やかな声だ
「俺は今の日常に結構満足してんだ。賑やかだし、楽しいしよ」
「それに、新しい仲間も出来た事だしな」
真人くんが笑う
「そう」
やっぱり真人くんは良い人だ。
裏庭にやってくる
「謙吾の野郎、やっぱりここに居やがったか」
あれは……
謙吾くんと
あたしの知らない子だ
黒髪の可愛らしい女生徒だが、右目に眼帯をしている。
「ねぇ真人くん、あの子が誰か知ってる?」
「ああ」
「確か弓道部の古式って奴だ。腕の筋肉は大したもんだぜ」
「あの眼帯は?」
「うーんと、病気で目の筋力が弱くなっちまったって話を聞いたような気がするが、詳しいことは知らねぇな」
「そう、十分よ。ありがとう」
二人を遠巻きに観察する。
古式さんの言葉に謙吾くんが短く返す。
ポツリポツリと言葉を交わしているが、あまり楽しそうには見えない。
とりあえず、今は話し掛けない方がいいか
「よし真人くん、グラウンドに戻ってキャッチボールでもしましょう」
「よしきた!」
再び真人くんに運ばれる
謙吾くんとはまた後で話す事にしよう。
グラウンドに戻ると、何故か恭介が居た。
「よう、愉快な事してんな。俺も混ぜてくれよ」
「ちっ、しょーがねぇなぁ」
「じゃあ三人で軽く野球でもしましょうか」
「恭介がピッチャー、あたしがバッター、真人くんが守備ね」
「三球打ったら交代、もちろん守備の負担を増やさないように、バッターは上手く狙って打つこと、ピッチャーも少しは手加減しなさい」
「よっしゃー、燃えてきたぜ」
「腕の見せどころだな」
三人で野球をして、始業までの時間を潰した
~~~
一、二限目の授業が終わる
休み時間になったけど、恭介は授業中と同じように眠ったままだった。仕方なく鞄の中から薄い上着を取り出し、恭介の肩に掛けておく
「くー」
ぐっすりと眠る恭介を見ていたら、こっちまで眠くなってきた。
眠気覚ましにアップルサイダーでも飲もうかしら
教室を出て、自動販売機へと向かう。
「あ」
アップルサイダーの欄には売り切れ、と表示されている。
「仕方ないか」
隣の自動販売機でコーヒーでも買おう
……コーヒーも売り切れてる
「まったく、業者さんは何やってるのかしら」
ため息を一つ
「帰るか……」
トボトボと歩き出した時だった。
「沙耶さん」
理樹くんが渡り廊下の辺りから声を掛けてきた。
「あら、理樹くんじゃない」
理樹くんは小走りでこちらに近づいて来る
「沙耶さん、こんな所で何してるの?」
立ち止まり、笑顔で尋ねられる。
「アップルサイダーでも飲もうかと思ったんだけど、売り切れててね。今から教室に戻る所よ」
「理樹くんも何か買いに来たの?」
「僕はコーヒーでも飲もうかと思ってさ」
理樹くんはコーヒー派なんだ。少し意外
「それは残念だったわね。コーヒーも売り切れてたわよ」
自動販売機を指差す
「じゃあ何か別のを飲むことにするよ」
「それがいいでしょうね」
沙耶さんはいいの? と訊かれたが、ちょうど眠気も覚めてきたので、ええ、と首を縦に振っておいた。
「そこのふたり、こっちだ」
理樹くんが自動販売機に向き直り、お金を入れようとした所で女子生徒の声が聞こえてきた。
「え、誰?」
見つけられないみたいで、理樹くんはキョロキョロしている。
……あたしの耳が確かなら、右斜め後ろ方向から声がしている。
多分
「コーヒーが売り切れなら、私がご馳走しよう」
あたしと視線を合わせるように颯爽と現れたのは、黒髪の少女。
彼女には見覚えがある。
前の世界で、リトルバスターズのメンバーからは『来ヶ谷さん』とか『姉御』とか呼ばれていた。下の名前は確か、唯湖さんだったと思う。
「面白い事が無くてな、一人でいるのに飽き飽きしていたところだ」
「でも、もう次の授業が始まるわよ?」
「そうだね」
理樹くんも同意する。
さすがに授業をさぼるわけにはいかないわよね
「そうか、残念だ。アップルサイダーも用意してあったのだがな」
中庭の奥の方を指差す
「行きましょう、理樹くん」
「ええっ!」
前言を撤回しよう
「アップルサイダーの為なら授業をさぼる事なんて、屁みたいなもんよ」
「女の子が屁なんて言っちゃ駄目だよ」
理樹くんに注意されてしまう。
「はっはっはっ、やはり君たちは面白いな」
そんなあたし達のやり取りを見て、来ヶ谷さんは一つ笑い声をあげる
そのまま踵を返し、言葉を発した。
「ついてきたまえ」
理樹くんと一度顔を見合わせ、無言のまま来ヶ谷さんについて歩く
「ここだ」
来ヶ谷さんが歩みを止めたのは、中庭の奥の方にある小さなスペースだった。木製のテーブルと椅子が設置されており、テーブルの上にはコーヒーが二つとアップルサイダーが一つ置いてある。
「まあちょっとしたカフェテラスだ」
理樹くんに奥の席を勧め、あたしは向かって左側の席に座る。来ヶ谷さんは右側に足を組んで座った。
「キムチを食え」
キムチを差し出される。
『激辛本格派、にんにく未使用で、臭いが残りません。新発売の臭わなキムチ』
ラベルにはそんな文句が書いてあった
「いただくわ」
辛いものは嫌いじゃない。
「僕は遠慮しとくよ」
缶の蓋を開け、理樹くんと来ヶ谷さんがコーヒーを、あたしはアップルサイダーを飲む
「美味しい」
あたしががむしゃらにリプレイを繰り返しているとき、一度理樹くんがあたしにジュースをおごってくれた事があった。
それがアップルサイダー
その時は、照れくさくて『凄腕のスパイが真っ昼間からりんごジュースなんて飲んで、ゆっくりするわけないじゃない』なんて言って、一息に飲み干してしまったから味がよく分からなかった。
あれからどのくらい経ったのか、何度繰り返したのかは忘れてしまったけれど、理樹くんとの思い出は忘れていない。
アップルサイダーは今では大好物だ。
「そういえば」
キムチをポリポリとかじり、何事か思案していた来ヶ谷さんが口を開く
「君たちは仲間と風変わりな道楽を始めたそうだな」
「道楽……リトルバスターズのこと?」
コーヒーを飲み干した理樹くんが缶をテーブルに置く
「それは面白いのか?」
意外な質問だ。
「うん、とってもね」
「例えて言うと、どのように?」
「そうだな……そこが自分の居場所っていうか。仲間といる一番心地良い居場所なんだ」
理樹くんの言葉に追従する
「あったかい所よ、すごく」
あたしと理樹くんの言葉に考え込む来ヶ谷さん
「なるほど、君たちはよっぽど暇らしい」
柔らかい表情になる
「そういう来ヶ谷さんこそ、こんな所で毎日ダラダラと……」
理樹くんが来ヶ谷さんの言葉に反論しようとするが、手で制される
「まあ聞け、少年」
授業終わりのチャイムが鳴った。
「心安らぐ響きだとは思わないか? ここで聴くチャイムは」
「チャ、チャイムっ!?」
椅子を倒し、理樹くんが慌てて走っていった。
「理樹くんったら、真面目ねぇ」
「ジュース美味しかったわ。どうもごちそうさま」
お礼を言ってあたしも立ち上がるが、
「待ちたまえ」
来ヶ谷さんに呼び止められた
「うん? どうしたの?」
まだ何か用があるのだろうか
「不躾なのは重々承知だが、君の目的を教えてくれないか」
「朱鷺戸沙耶くん。いや、この場合はイレギュラーくんと呼んだ方が良いかな」
来ヶ谷さんの雰囲気が変わった。突然あたりが暗くなり、嫌な風が吹き始める。
「あら、やっぱり知ってたのね」
あたしも臨戦態勢をとる
「君はこれから何をするつもりなんだ?」
「素直に答えるとでも?」
「ふふふ……」
緊張が高まっていく。
謙吾くんや真人くん、恭介以外の他のみんなはループする度に記憶をリセットされていると思っていたけど、来ヶ谷さんは別格だったみたいだ。
完全に記憶している。
一触即発のピリピリした空気の中、
「はっはっは」
突然来ヶ谷さんが笑い出した。
「冗談だ、君は少年と同じで、からかい甲斐があるな」
一気に空気が弛緩し、穏やかな日差しが戻ってくる。
「非礼は詫びよう」
「私は来ヶ谷唯湖という。悪いが、君の名前を教えてくれないか?」
真っ直ぐあたしを見据えた彼女は、何故かとても嬉しそうな笑顔を浮かべていた。
「あたしの名前は……」
「朱鷺戸沙耶、では無いのだろう?」
見抜かれている。
「……『あや』よ」
名字は思い出せないの。と付け加える
「『あや』君か」
「良い名だ」
「君のような美少女に出会えて、私は嬉しいよ」
「はあ…」
「君とは仲良くしたいものだな」
来ヶ谷さんはまた、はっはっはと快活に笑った。
〜〜〜
「おう沙耶、上着サンキューな」
教室に戻ると恭介にお礼を言われた。
「いいのよ、クリーニングに出してアイロン掛けて返してくれれば」
「少しの間掛けてもらっただけで!?」
「あ、ちょっと下の教室に行ってくるわ」
恭介のツッコミをスルーして、ロープを用意する
「おう」
「あらよっと」
ロープを伝い、二年生の教室に下りる
「うわっ!」
「あら、理樹くん」
ちょうど開いた窓から中へ飛び込んだ
「さささ、沙耶さん」
「何よ」
「スカートが」
まさか……
「見た?」
「みみ、見てないよ」
理樹くんがすごい勢いで首を振る
「本当に?」
軽く睨んでみる
「も、勿論だよ」
あからさまに目をそらされた。よし、後で覚えておきなさいよ
「ま、いいわ。行きましょう」
「うん」
能美さんを呼び、三人で歩き出す。
向かう先は生徒会室の隣の寮長が使用している部屋だ。
「失礼します」
「はいはーい」
「あら、直枝くんと朱鷺戸さん、それと能美さん」
「何の用かしら?」
寮長さんが明るく迎えてくれた。
「実は、ルームメイトさんの募集をしたくて」
能美さんが言う
「あー、ちょうど工事の影響を受けたのよね」
「はい、昨日ようやく荷物運びが終わったんです」
「そっか」
寮長さんが腕を組む
「わかったわ。相手探しと相手の部屋移動を許可しましょう」
「掲示板の使用も許可するから、募集の貼り紙でも作ってみる? まあ、別にわたしが作ってもいいんだけど」
掲示物は作成後、寮長に見せ、承認の判を押してもらえば掲示板に貼り付けて良いらしい
「そうですね、自分で作ってみます」
能美さんは自分で募集の紙を書くつもりらしい。
「そう、わかったわ」
「あと、この書類を書いてもらえるかしら?」
「これはなんですか?」
能美さんが首を傾げる
「寮内のメーリングリストへの掲載依頼書よ。登録されている生徒の携帯にニュースが届くわ」
「なるほど」
能美さんが書類を書く間、寮長さんと名刺交換や肩こりの解消法とかの世間話をしながら過ごした。
「高校生らしからぬ事を!」
もちろん理樹くんからツッコミを受けたのは言うまでもない。
恭介「困った」
真人「どうしたってんだよ」
恭介「アイデアが無い」
恭介「このままでは次回予告どころか」
沙耶「あたしの夢を叶えるコーナー」
恭介「どこぞのオーディオコメンタリーのような、訳の分からんコーナーになりかねん」
理樹「確かにね」
沙耶「ショートコント、コンビニ」
恭介「おい、誰か止めろ」
真人「っちくしょう、ならどうすりゃいいんだよ」
鈴「作るんだ」
理樹「え?」
鈴「ちゃんとした次回予告を!」
鈴「あたしたちで、後書きを救うんだ!」
~~閑話 後書きを救え~~
真人「まずは何をすればいいんだ?」
鈴「そうだな……まず、キャラを動かせ!」
謙吾「プロットを考えるのが先じゃないか?」
鈴「そういうものか?」
理樹「多分ね」
恭介「プロットか……」
謙吾「まず、次話のアイデアはあるのか?」
理樹「あるよ」
沙耶「へー、どんな話?」
理樹「じゃあ、大筋だけ教えるよ」
『第十六話』
沙耶「なかなかいいじゃない」
恭介「本編に出てるのに、出番の少ないキャラクターが読むって形にすれば出番的な意味では公平になるし、盛り上がるんじゃないか?」
鈴「よし、それでやってみよう」
恭介「次回、あんまり出番がないのは……」
恭介「謙吾だな」
謙吾「うおお……」
恭介「まあそう落ち込むなって、後書きで頑張ればいいんだ」
謙吾「そうか……よし!」
~~~
『第十六話あらすじ』
謙吾「ゴッサム、その一言から争いが始まった」
謙吾「沙耶に迫る魔の手」
謙吾「そして、正々堂々と戦った二人の間には友情が」
謙吾「『第十六話 切り札は○○』、刮目して待て」
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鈴「案外呆気なく終わったな」
恭介「ああ、いい次回予告だったぜ」
真人「地味ーだな」
クド「あの、私は何でここに居るんでしょうか?」
沙耶「あなたはマスコット兼後書きでの主人公のサポート役よ」
沙耶「必要不可欠な存在だわ。まあ今回は出番が無かったけれど」
謙吾「なら、不可欠では無いな」
沙耶「居てくれるだけで意味があるのよ」
謙吾「そうか」
恭介「と言うわけで」
真人「どういう訳だよ」
恭介「これにて閉幕だ。みんな、あー、もちろん読者様も、また次回もよろしくな」
『予告は変更になる可能性があります』